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マリーアントワネットに転生したけど処刑されたくないので、お菓子はほどほどに  作者: てっぺい
第三章

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第69話 プレミアムパトロン制度

 チュイルリー宮殿の地下スパでどれだけ外貨を稼ごうと、複利で膨らむ利子には追いつかない。


 根本的に国庫を救うには、国内の富の大部分を握っている特権階級の貴族と聖職者から税金を取るしかない。しかし、彼らに「税」という言葉を使った瞬間、彼らは「我々を平民扱いする気か!」と激怒し、高等法院を盾に王室を孤立させてしまう。


「……ダメだ。強制的に徴収しようとすれば、彼らは内乱を起こす。かといって平民からこれ以上搾り取れば、今度こそ本当に革命が起きる」


 深夜の執務室。ルイが頭を抱え、絶望的なため息を漏らしていた。


(……強制するから反発するのよ。貴族の行動原理は、いつだって『他人にマウントを取りたい』という見栄とプライド……)


 私は、前世の記憶を猛烈な勢いで探っていた。

 現代日本で、富裕層から自発的に、しかも笑顔で何百万、何千万円という大金を払わせる魔法のシステム。


「……あるわ」


「え?」


「ルイ。彼らが『税金』という言葉を嫌うなら、呼ばなければいいのよ。……名付けて、『プレミアム・クラウドファンディング』よ!!」


 私はガタッと立ち上がり、ルイの前に一枚の紙を広げた。


「いい? 私の考えた画期的な集金システムよ! 貴族たちに『国を救うための寄付』を募るの。ただし、ただ寄付させるだじゃダメ。金額に応じて、彼らの自尊心を限界までくすぐる『圧倒的な見返り』と『称号』を与えるのよ!」


 そう、現代のソーシャルゲームにおける「VIPランク」や「課金」、そして「ふるさと納税」のハイブリッドである。


「例えば、寄付金が一万リーブルなら『シルバー・パトロン』。十万リーブルなら『ゴールド』。百万リーブルなら『プラチナ』! そして最上級の五百万リーブル寄付者には、『ダイヤモンド・パトロン』の称号を与えるわ!」


「……称号を与えたところで、彼らが金を出すだろうか?」


「出すわ! なぜなら、そのランキングを毎週『パリの新聞』の一面で大々的に発表するからよ!」


 私は不敵な笑みを浮かべた。


「貴族ってのはね、隣の領主より自分のドレスが安いことを何よりも嫌う生き物よ。全国民が見ている新聞で、『ポリニャック公爵:ブロンズランク』なんて書かれた日には、恥ずかしくて夜会にも出られないわ!」


 ルイの目が、みるみるうちに輝き始めた。


「なるほど……! 強制的な『税』ではなく、高貴なる義務を可視化するのか! しかも、競争心を煽って!」


「そう! さらにダメ押しよ。ルイ、あなたの技術力を貸して! 高額課金者……じゃなくて、高額寄付者には、絶対にお金では買えない『超限定・王室特製アイテム』をリターンとして用意するの!」


「任せてくれ!!」

 ルイは立ち上がり、羽ペンを握りしめた。


「十万リーブルのゴールドランクには、僕が設計した『王室紋章入り・超高反発スニーカー』を! そして百万リーブルのプラチナランクには……僕が一つ一つ手作業で組み上げた、世界に十個しかない『トゥールビヨン機構搭載・超精密懐中時計』を贈ろう! 文字盤には彼らの家紋を刻んでね!」


(……オタク王の限定生産グッズ! これで釣られない貴族はいないわ!)


 数日後。

 私はベルサイユ宮殿に出向き、広間にかつて王室への課税を頑なに拒否した大貴族たちを再び招集した。


「皆様。本日は税のお願いではございません。我がフランスの未来を共に創る、『プレミアム・パトロン』の栄えある第一期生募集の発表会ですわ!」


 私は、ルイが徹夜で作成した「豪華なカタログ」を彼らに配り、特大のプレゼンテーションをぶち上げた。


「プラチナランクの特典は『巨大サウナリゾートの終身VIPパス』! ダイヤモンドランクには『新設されるパリの巨大橋に、ご自身の名前を命名できる権利』を与えます! さらに、限定の懐中時計もご用意しましたわ!」


 私はドヤ顔で言い放った。これで彼らも目の色を変えて金庫の鍵を開けるはずだ。


 しかし――。


「……ふむ。橋に名前、ですか」


 ポリニャック公爵が、カタログをパタンと閉じて冷ややかに鼻を鳴らした。


「王妃様、我々を小僧っ子のように扱わないでいただきたい。名前が残ろうが、サウナに並ばずに入れようが、数百万リーブルという大金をポンと出す馬鹿がどこにおりますか。時計なら、スイスの職人に作らせれば済むことです」


「そうですな。いくら言葉を飾ろうと、これは結局『王室への寄付』という名の搾取です。我々の財産は、我々自身のために使わせていただきますよ」


 他の貴族たちも同調し、次々とカタログをテーブルに置き始めた。


 彼らは見栄っ張りだが、同時に自分の金を手放すことには極めて狡猾こうかつなのだ。実体のない「称号」や「ランキング」だけで、やすやすと大金を動かすほど単純ではなかった。


 結局、その日の発表会で集まった寄付金は、完全な「ゼロ」だった。


「……ダメだった。誰も見向きもしないじゃないか」


 その夜の執務室。ルイは頭を抱え、精巧に作り上げた懐中時計を見つめて深くため息をついた。


「やはり、人間の欲を刺激するなんて、甘い考えだったんだ……。このままじゃ、本当に国が破産してしまう」


 だが、私は全く諦めていなかった。

 むしろ、唇の端を吊り上げて不敵に笑った。


「甘いのは彼らの方よ、ルイ。……ソーシャルゲームの『ガチャ』が、どうやってユーザーの財布の紐をブチ壊すか、教えてあげる」


「ゲーム……? ガチャ……?」


「ええ。どんなに魅力的な報酬を用意しても、最初はみんな『そんなものに金を出すなんて馬鹿らしい』って冷静ぶるのよ。でもね……『自分より格下の奴が、最高レアを引いて見せびらかしている』のを目の当たりにした瞬間、その理性は木端微塵に吹き飛ぶの!!」


 私は、机の上の新聞の束をポンと叩いた。


着火剤サクラが必要なのよ。……ターゲットは、王弟であるプロヴァンス伯爵。彼はオルレアン公と対立していて、何より見栄っ張りで新しい物好きよ。彼をこっそり呼び出してちょうだい」


 数日後。

 ベルサイユで開かれた大夜会に私たちの姿があった。着飾った貴族たちが談笑する中、ひときわ大きな人だかりができている場所があった。


「おおっ! なんですかその時計は! まるで心臓のように歯車が動いている!」


 人だかりの中心で、プロヴァンス伯爵が、ルイ特製の『トゥールビヨン懐中時計』をこれ見よがしに懐から取り出し、ドヤ顔で見せびらかしていたのだ。


「ふふふ。これは国王陛下が、私のためだけに数ヶ月かけて手作りしてくださった『プラチナ・パトロン限定品』でね。文字盤には我が家の家紋がエナメルで刻まれている。スイスの職人でも絶対に作れない、まさに王室の至宝というわけさ!」


 さらに彼は、取り巻きたちに大声で自慢を続ける。


「おまけに、あの地下テルマエでも、私は一生『VIP専用のプラチナ・ラウンジ』が使えるらしい。……いやはや、国を救うためとはいえ、たった数百万リーブルでこれほどの特権と名誉が得られるとは、安い買い物だったよ!」


 その言葉を聞いた瞬間、遠巻きに見ていたポリニャック公爵らの顔色がサッと変わった。


「なんだと……? プロヴァンス伯爵が、プラチナ・パトロン……!?」


 そこにタイミングよく、パリの新聞の『号外』を持った給仕が広間に入ってきた。

 新聞の一面には、デカデカとこう書かれていた。


『愛国パトロン・ランキング発表! 第一位:プロヴァンス伯爵、三百万リーブル! 第二位以下は該当者なし! 栄光のプラチナの称号は、現在伯爵ただ一人!』


「くっ……!」

 ポリニャック公爵の額に、ピキリと青筋が浮かんだ。


「あいつだけが王室の特別待遇を受け、新聞で称賛され、あの美しい時計を見せびらかしているだと……? このままでは、我がポリニャック家は『ケチで国を思わぬ成り下がり』と笑い者にされるではないか!」


 貴族たちの間で、明らかに空気が変わった。

「馬鹿馬鹿しい」と思っていたものが、プロヴァンス伯爵という実例を見せつけられたことで、「持っていない自分が恥ずかしい」「あいつにだけは負けたくない」という、ドロドロとした強烈な『自己承認欲求』へと反転したのだ。


 その空気を察し、私は扇子で口元を隠しながら、ポリニャック公爵の横をわざとらしく通り過ぎた。


「あら、ポリニャック公爵。こんばんは」


「お、王妃様……」


「プロヴァンス伯爵の時計、素敵でしょう? ……そういえば公爵、あなたは先日の会議で『我々の財産を守る』と声高に仰っていましたが、今週のランキングはお名前がありませんでしたわね。まさか、ブロンズランクにすら届かないほど、お家が傾いておいででお茶を濁すおつもりではありませんわよね? オホホホ」


 私がダメ押しの煽りをブチ込むと、ポリニャック公爵の顔が、怒りと屈辱、そして強烈な見栄で真っ赤に爆発した。


「ぶ、ブロンズだと!? 馬鹿にするな! このポリニャック家が、あんな時計一つでふんぞり返っているプロヴァンス伯爵の下に置かれるなど、あってはならん!!」


 公爵は、持っていたワイングラスを乱暴にテーブルに置き、悲鳴を上げるように叫んだ。


「おい、執事! 今すぐ領地の金庫から三百万……いや、四百万リーブルを用意しろ! 私はプラチナの上を行く! 橋に我が家の名前を刻む、ダイヤモンド・パトロンの枠を寄越せ!!」


「四百万だと!? おのれポリニャックめ、抜け駆けは許さん! 私は五百万リーブルだ!! パリの王立図書館に我が家の名前を刻めぇ!!」


「私は六百万だ!! 最高ランクの枠を寄越せぇぇぇっ!!」


 ――決壊した。


 長年、王室がどれだけ頼み込んでも1リーブルすら払わなかった貴族たちが、「他人にマウントを取りたい」「限定アイテムが欲しい」「自分だけが新聞でチヤホヤされたい」という強烈な自己承認欲求を刺激された瞬間、自ら進んで金庫の底をひっくり返し、札束と金貨の殴り合いを始めたのだ。


「す、すごいよアントワネット……! たった数時間で、利子の支払い分を遥かに超える額が、次々と予約されていく……!」


 殺気立って寄付の契約書に群がる貴族たちを見ながら、ルイが帳簿を抱えてガクガクと震えている。


「ふふふ。言ったでしょう、ルイ。税金は払いたくないけど、娯楽とマウントなら家を売ってでもするのが人間の業なのよ」


 私は、次々と積み上げられる金貨と小切手の山を前に、優雅に微笑んだ。


 かくして、フランスを崩壊の危機に陥れていた「二十億リーブルの負債」は、貴族たちの底なしの見栄と、マリーの「ソシャゲ式集金システム」、そしてルイの「限定グッズ」という最強の錬金術によって、驚異的なスピードで返済へと向かい始めたのである。


 マリー・アントワネット、23歳。

 強制徴収という血なまぐさい内乱の危機を、「マウント」という人間の業を利用した最高に平和なエンターテインメントへと昇華させ、フランスの国庫を死の淵から引きずり上げたのであった。

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