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マリーアントワネットに転生したけど処刑されたくないので、お菓子はほどほどに  作者: てっぺい
第二章

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番外編⑦ 揚げるが勝ち! 黄金のコロッケ外交

私がベルサイユを「筋肉と健康の聖地」へと作り変え、サロペットやスニーカーが大流行してからというもの、宮殿内はかつてないほど活気に満ちていた。


しかし、その噂は国境を越える際に、ひどく歪んだ形で他国へと伝わってしまっていたらしい。


「フランスは度重なる戦争と浪費でついに財政破綻した」

「哀れな王妃は宝石を売り払い、貴族たちに泥まみれで『豚の餌』を掘らせて食い繋いでいるそうだ」


そんな悪意ある噂を真に受けたヨーロッパ各国の特命大使たちが、「哀れなフランス王室」を冷やかしに……もとい、視察にやって来たのだ。


「おお、マリー・アントワネット様。なんとお労しい。あの華やかだったベルサイユの庭園が、ただの芋畑になっているとは。我が国から、最高級の小麦と金塊を援助いたしましょうか?」


これ見よがしに豪華なビロードの服を着たスペインやロシアの大使たちが、扇子で口元を隠しながら嘲笑する。


彼らの目には、スニーカーを履いてシャベルを持つ私や、健康的に日焼けした貴族たちが「貧乏の極み」に映っているのだ。


(……カチン。私の可愛いジャガイモを馬鹿にするなんて、絶対に許さないわ! 貧乏臭い? いいえ、これは『最先端のオーガニック・ライフ』よ!)


私は優雅に(内心は怒り狂いながら)微笑み返した。

「大使の皆様、ご心配には及びませんわ。フランスの大地は今、黄金よりも価値のある『至高の宝』を産み出しておりますの。今夜の晩餐会で、その奇跡を味わっていただきますわ」


私は踵を返し、厨房へと猛ダッシュした。

狙うは、ジャガイモのポテンシャルを極限まで引き出し、暴力的なまでの旨味とカロリーで脳を支配する、最強のB級グルメ……「コロッケ」である!


「料理長! 茹でたジャガイモを完璧にマッシュして! そこに、飴色になるまで炒めた玉ねぎの微塵切りと、細かく叩いた牛肉(余り肉で十分よ)を混ぜ合わせるの!」


私の指示に厨房が戦場と化す。

下味に塩胡椒とナツメグを少々。小判型に丸めたタネに、小麦粉、卵をくぐらせ、ここで最大のポイントである「粗挽きのパン粉」をたっぷりと纏わせる。


「よし! あとはこれを高温の油で……」

「待ってくれ、アントワネット!」

厨房の奥から、ゴーグルをつけ、革の耐熱エプロンを身につけたルイ16世が現れた。


「ただの鍋で揚げるのはもったいない! 僕が設計した『多層構造ディープフライヤー(銅と鉄の合金鍋)』を使ってくれ! これなら大量の油を入れても温度が下がらず、食材の表面の水分を一瞬で飛ばして完璧なクリスピー食感を生み出せるはずだ!」


(ルイ、あなたって人は……揚げ物専用の鍋まで開発していたの!? 最高よ!)


「さあ、いくわよ!」

私は、たっぷりのラードが熱されたオタク王特製の鍋に、コロッケのタネを静かに投入した。


ジュワァァァァァァッ!!!


けたたましくも美しい油の爆ぜる音とともに、厨房中を「揚がるパン粉と肉の脂、そして玉ねぎの甘さ」が混ざり合った、悪魔的な香りが支配した。

きつね色……いや、まさに黄金色に揚がった『ベルサイユ・クロケット(コロッケ)』の誕生である。


その夜の晩餐会。

重々しい銀のドーム型の蓋が開けられた瞬間、各国の大使たちは眉をひそめた。


「……なんですか、これは。茶色い、石ころのような……」

「フランスの宮廷料理は、ついにここまで落ちぶれたか」


「まあまあ、騙されたと思って、熱いうちにナイフを入れてみてくださいな」

私が自信満々に促すと、大使の一人が渋々ナイフを突き立てた。


サクッ……!


その信じられないほど軽やかな音に、大使の手が止まった。

切断面から、ホワァッと熱々の湯気が立ち昇り、肉汁のコクと玉ねぎの甘い香りが、彼らの鼻腔を直接殴りつけた。


「……な、なんだ、この香りは……!」

大使はたまらず、大きめの一口を口に放り込んだ。


「あふっ、はふっ! ……サクッ、トロォッ……!」

粗めのパン粉が奏でる極上の歯応え。その直後、口の中でホロホロと崩れるジャガイモの甘み。炒めた玉ねぎの旨味と、肉の塩気が完璧なオーケストラを奏でながら、舌の上で溶けていく。


「……美味しい! なんだこれは!? 外側はまるで金塊のように硬貨な音を立てるのに、中は雲のように柔らかく、そして……味が、味が深すぎる!」


「これが、豚の餌だと!? とんでもない! 私は今、天国の泥を食べているのか!?」


上品なマナーなどどこへやら。他国の大使たちは、火傷しそうになりながら「ハフハフ」と音を立てて、二個、三個と黄金の石ころ(コロッケ)を胃袋に詰め込んでいく。


「お代わりだ! 我が国にもこの『黄金のクロケット』の製法を教えてくれ! いくらでも金は払う!」


「いや、我が国が先だ! このサクサク感、軍隊の士気向上に絶対不可欠だ!」


(……勝ったわ。揚げ物のサクサク感と脂質に抗える人類なんて、この世に存在しないのよ!)


私は、冷たいミントウォーターを飲みながら、コロッケの熱さに悶絶しつつも食べる手を止められない大使たちを、慈母のような笑みで見つめた。

貧乏国と見下されていたフランスは、たった一晩で「ヨーロッパ全土がひれ伏す最強のグルメ・ポテト帝国」としての覇権を確立したのである。


「アントワネット、大成功だね。次は、このクロケットを挟んで手軽に食べられる『丸いパン』を開発しようか」


隣でルイが、早くも「コロッケパン」の構想を練り始めている。


マリー・アントワネット、20歳

ギロチンの刃を遠ざけるための質素倹約は、いつしか国境を越え、他国の外交官の胃袋をも完璧に掌握する「黄金の揚げ物外交」へと昇華した。


そしてベルサイユの季節は巡り、私はついに、夫と共に「新しい命」を迎える準備へと向かっていくこととなる──。

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