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天降るお伽噺〜国一番の魔法使いは超絶美形の侯爵様に溺愛されています〜  作者: 鳥縞つぐみ


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19 ユリウスの婚約者

 これで、ホワイエ侯爵家の相続問題は片付いた……と、ヴェーヌは安堵した。


 豚騒動が一段落し、みんなは、ホワイエ侯爵邸に付けた二台の馬車に乗り込もうとしていた。

 一台はユリウスが乗って来た馬車で、一台はルゼとアイズ・パーリッシュ卿が乗って来た馬車だ。

 アイズの乗って来た馬車には、アイズと共にサッシャとチェルシーが乗り込んだ。ユリウスの乗って来た馬車には、ルゼが乗り込んだ。


「ヴェーヌも一緒に行こう」


 ユリウスが、見送ろうとしていたヴェーヌに手を差し伸べた。


「わたしは、北の館に帰る」


 ヴェーヌは、憮然としてユリウスの誘いを断った。朝早くアリタ村から馬車に乗り込み、ジール王と北の館に飛び、扉を繋いでホワイエ侯爵家に行き、馬車で王城に行って、サッシャと北の館に飛び、再び扉をくぐってホワイエ侯爵邸に来た。もう夕方だ。お腹が空いたし、クタクタだ。昼飯も食べていない。


 ところが、先に馬車に乗り込んだルゼが窓から顔を出してヴェーヌに声を掛けた。


「ヴェーヌ様、王城で陛下がヴェーヌ様をお待ちです。わたしは、ヴェーヌ様を城へ連れ帰ってくるように言使って来ています」


「ジール王がわたしに何の用だ」


「一つは、ルディウス殿下に保護魔法を掛けて欲しいとおっしゃっていました。もう一つは、北の館と王城を扉で繋いで欲しいということでした」


 保護魔法は分かるが、扉は何故必要なんだ?ヴェーヌは警戒する。


「わたしは、暫く王城に世話になることにしたんだ。北の館と王城が扉一枚で繋がっていると、いつでもヴェーヌに会えて便利だろう?」


「扉はユリウスの依頼なのか?」


「わたしだけでなく、陛下も希望されているよ」


「……」


 ジール王と顔見知りになったせいで、これから国に便利に使われてしまうのか。やだな。わたしの魔法は、そのためにあるんじゃない。ヴェーヌは、いささかうんざりした。


 ヴェーヌの憂鬱な気持ちを見透かしたかのようにユリウスが付け加えた。


「ヴェーヌは今、お腹が空いているだろう?わたしもだよ。お城では、陛下がご馳走を用意して待っている。深く考えるのは後回しにして、今はご馳走のことだけ考えればいいよ」


 ご馳走とユリウスと、二つ揃えばヴェーヌも断れない。何しろ、昨夜ヴェーヌは、ユリウスの家で魚料理を堪能する人々に悔し涙を流したのだから。


 ヴェーヌは、恥ずかしいので「分かった。行く」とは、言えない。黙ってユリウスの後について馬車に乗り込むだけだ。

 ユリウスは、小さな子どもにするように、ヴェーヌを抱き上げて馬車に乗せようと手を伸ばした。


「一人で乗れる。もう、大人だからな」


 自分を「大人だ」と強調すればするほど、子どもっぽさが際立つのは分かっているが、ヴェーヌは言わずにはいられない。

 背が低くく、華奢で、年齢より若く見られるが、それは見た目だけの問題だ。年齢でいえば二十五歳は間違いなく大人だ。わたしはもう、八歳じゃない。もしかしたら、ユリウスには、自分は永遠の八歳児かもしれないが…。苦々しい気持ちがヴェーヌを包む。


「では、レディにはエスコートが必要だね」


 ユリウスは、微笑んで手を差し出した。これは、断る理由がない。ヴェーヌは、どんな顔をしていいか分からない。ユリウスは自分を本当にレディとして扱おうとしているのか。それとも、小さなヴェーヌを甘やかしたいだけなのか…。ユリウスから視線を外しながら、小さな声で「ありがとう」と呟いて、ヴェーヌは、ユリウスの手の上に自分の手を置いて、ぶっきらぼうに馬車に乗り込んだ。



「ヴェーヌ様は、父をいつからご存知なのですか?」


 静かな馬車の中で、気を遣ったルゼがヴェーヌに話し掛ける。ヴェーヌは、ユリウスにちらりと視線を送る。

 ヴェーヌの視線を受け取って、代わりにユリウスが応える。


「わたしが初めてヴェーヌに出会ったのは、わたしが十歳、ヴェーヌが一歳の時だった」


 それで?という風に興味津々にルゼが父ユリウスを見つめる。


「今から話すこと、ルゼは誰にも言わないでおけるかな?」


 ルゼは、こくりと頷いた。


「じゃあ、内緒の話しだ」


 ユリウスは、念には念を入れてゆっくりと話し出した。


「ヴェーヌは、母の友人だったモニカ・ルーウィツ婦人の娘なんだ」


「ルーウィツ婦人⁈公爵家の方ではありませんか」


「そう、よく覚えているね、ルゼ」


 ルゼは、アリタ村にいる間に、ユリウスから礼儀作法やアウフ王国の歴史、地理、政治に関すること等、あらゆる知識を教え込まれた。もちろん、貴族名鑑も丸々一冊頭の中に蓄えている。


「ルーウィツ婦人は、世間的には未婚で他国の王子に嫁いだ。まぁ、王子妃として娶るからには、向こうの王様はヴェーヌの存在をご存知に違いないと思うけれど。

 ルーウィツ婦人は、わたしの母、ルゼのお祖母様であるホワイエ夫人より大分歳下だったけれど、お互い信心深くて教会には週末毎に通っていたから、随分と仲が良かったんだ」


「それで、父さんがヴェーヌ様の遊び相手になったの?」


「いや、母がわたしを連れていたときに、教会でルーウィツ公爵令嬢に会ったんだ。そのとき、ルーウィツ公爵令嬢はまだ十七歳だった。でも、ヴェーヌを身籠っていたんだ。父親のことは分からない。ルーウィツ公爵令嬢は、誰にもヴェーヌの父親について明かさなかった。多分ね。

 それで、二人が教会でお祈りしていた最中に、母と公爵令嬢は同時に神様の啓示を受けた。『生まれてくる子どもをユリウスの婚約者にするように』ってね」


「えっ⁈」


 いつも動じないルゼが珍しく驚く。ヴェーヌは何度も聞かされた話だ。


「それで、わたしはお告げのあったすぐ後に婚約を申し込まれた。いや、わたしが申し込んだんだ。それで、ヴェーヌが一歳になったときに、婚約者として初めて対面したんだよ」


 ルゼは気まずい気持ちで目を伏せた。何しろ、ユリウスは、ルゼの母が身籠ったから駆け落ちしたのだ。父に婚約者がいたとは…。婚約者のヴェーヌを裏切り、十七年間隠れて暮らしたのは、どう考えても自分のせいだ。ルゼは無言で、父が話を続けるのを待った。


「ルーウィツ公爵令嬢の相手は分からないまま、生まれたばかりのヴェーヌは、母方の祖父母に養子に出されたんだ」


 ユリウスは、ヴェーヌの生い立ちを、ゆっくりと話し出した。まるで、自分のことのように。

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