失意の光
次の日、遅くに起きた光は、食事もしないで、一日中、紫色の部屋に籠もっていた。
メイドの美保が暇を出されていなくなっていたので、光付きの麻美が、勝手が分からないとぼやいていた。
夕方、心配した松嶋執事が、何とかして欲しいと頼みに来た。
「俺なんか何を言っても、聞くような人じゃない。
松嶋さん、あなたが言ったら、聞くんじゃないですか?」
「私からも申し上げました。ですが、お聞き入れになってくださらないのです」
「俺なんか何の役にも立たないと思うけど……」
そう言いながら、紫の部屋へ入った。
部屋の隅で、光がゲームをしていた。
憑かれたように画面を見つめる。
画面では、弁慶さんが愛を囁いていた。
弁慶さんが美形に愛を囁く。ものすごくシュールな絵柄で、禁断の扉が開きそうだ。
危ねえっ。
「ボス、いつまで惚けてるんです?」
ぼんやりとした視線で振り向く。
「いい加減にしてくださいよ。今日のテレビの収録、取りあえず、近衛将人氏に代理を頼んだんですが、テレビ局だってそうそう甘くはない。そのうち、お払い箱にされてしまいますよ」
恨めしそうに俺を見る。
二枚目にこんな目で見られると、正直焦った。
「紫だって、テレビ見てるかも知れないんだ。
せいぜい頑張ってもらわないと」
「……こんなときに、仕事の話なんて。
もう少し、そっとしといてくれないか?」
「ダメです。
俺の人生は、ボス、あんたにかかってるんだ。
あんたが、しっかりしてくれないと、俺の行政手腕のふるいようがないじゃないですか」
そんなこと言われると思わなかったのだろう。光は、目を見張った。
「……君って人は」
深い息を吐いて言った。
「弁慶さんは、押しつけがましくないんだ。そっと、背中を支えるように愛を囁く。
私とは大違いだ」
「あの子は、メンタルなものを求めていたんでしょ?」
「惟光、君、知ってたのか?」
「いや、あの子を見てたら、何となくそう思えたんです。
あなたが葵さまと結婚しても、メンタルな意味で繋がっていられるなら、それで良いって。
そう思ってる節があるって。
でも、葵さまは、それさえ嫌がった。
それで、あの子、焦ったんです。
焦って、焦って、どうしようもないことだと悟って、そうして、諦めたんだと思います」
「私は諦めていなかった……」
「何で、あの子が、ああまで周りに譲るのか、よく分からないんです。
でも、結局のところ、あの子は、周りに一歩譲るんです」
しばらく沈黙があった。
「飲まないか?」と、光が言った。
「すみません。休肝日です。昨日、飲み過ぎた」
「じゃあ、お茶でも」
「いや、松嶋さんが気にしてました。食事にしましょう」
あっけにとられたような顔をした。
黙って、ダイニングへ歩き出す光の顔に、何かを決心したようなものが浮かんだ。
食事が終わって、リビングへ戻る。
光が言いにくそうに、言葉を探しあぐねているように見えた。
「……君に……頼みがある」
ようやく口を開いた。
「?」
「紫を捜して欲しい」
「あいにく、人捜しはやったことがないんです。
探偵事務所使ったらどうです?」
「それは、できない……」
「事態が飲み込めないんです。
何が起こったか教えてください。じゃないと、捜しようがない」
長い沈黙があった。
「君の言う通りだ。話をしないと、捜しようがない」
大きな深呼吸を一つして、ゆっくり話し始めた。
光は、茫然と弁慶さんのゲーム(恋愛シミュレーションゲーム)をします。超絶美形な光がそんなゲームをするのは、ものすごくシュールです。
惟光は、なんとなく光に親近感が湧きます。でも、こいつのせいで紫が消えたという思いもあるわけで、微妙な関係です。




