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第十九話 ダイエット

 ねこさんの体重を増やすことに躍起になっていた一方で、裏では実に由々しき問題が勃発していた。この頃、ねこさんは本当に食べ物を口にする量が少なくて、食べられるだけの量を見積もって作っているはずなのに残してしまうという現象が毎回起こっていた。


「くぅ~ん」


 この残り物を欲しがる方がうちにはいたのだ。そう、ひなさんである。ひなさんは十四歳。食欲旺盛。若干、認知症ではないかと思うほど、食に対しての欲望が半端ない。さらにだ。ねこ用の食べ物はいぬ用の物に比べて、匂いがはるかに強いのである。お魚系のウェットタイプのフードは特に匂いが強いので、ひなさんの鼻を刺激しまくるのである。さらにここに四つの要因が重なり、問題はより加速することになる。


 一つ。ぼくが根っからの貧乏性であること。そのせいで、ぼくは残す、特に食べ物に対して強い抵抗感がある。小さいころから、出されたものは米一粒とて残すなという教育の元に育ったのも、食べ物を残すことへの抵抗感を強くしていたのだが、とにかく残すということに対しての嫌悪感が非常に強い。よって、外でごはんを食べるにしても、キャパ以上だとわかっていながら、目の前に置かれたものは残さず頂く。机の上の皿をきれいにせずにはおけないのだ。食べた後、気持ち悪くなって吐きそうになる場合、極限状態まで吐けない。しかし、元々のキャパが小さいため、一度ドカ食いすると、その後すっぱり食べなくなるので、一日のカロリー量は変わらず、やせた体型を維持しているが、食べ物貧乏症のせいで、ねこさんが残すことにも抵抗があった。


 二つ目。ねこさんの食べる回数である。とにかく太らせよう大作戦では、量よりも数で勝負をしていた。日に五回も六回も食事チャレンジをしていたのであるから、残る割合は少ないにしても、数が多ければ、それなりの量になってしまう。


 三つ目。ひなさんは老犬である。そう、お年寄りなのである。運動量も若い頃に比べて激減している。実際、彼女のフードも十三歳以上のローカロリーフードであり、それをきちんと守って、五キロをキープしている状態だった。体重を増やしすぎると胴長のダックスは椎間板ヘルニアになりやすくなる。このため、彼女の体重管理は今まで、非常にシビアにやってきていた。ここで増やすわけにはいかないのである。


 四つ目。ねこさんのフードは子猫用の高カロリーフードである。運動量が豊富かつ、成長期であるねこさんのフードはとにかく栄養価が高かった。さらに、この後、彼は回復用のもっとカロリーの高いフードを食べることになり、これが非常に厄介な代物だった。


 以上をすべて踏まえてみよう。ぼくは残すことが嫌いな貧乏性で、ひなさんは異常な食欲を持ったお年寄り犬。さらにフードは高カロリーで、一日に何回も残されることになる。この残り物処理をしていたのがひなさんだったのだ。


 ねこさんの体重が増えないのに、ひなさんの体重がめきめき増える。身体を触ると、ねこさんはあばらがわかりそうなくらいにガリガリ、骨と皮っぽいのに対し、ひなさんと言えば、みっちりと密度の濃いボディーに変化していったのである。


 違う! おまえが太っちゃいかんのだ、ひな!


 彼女の身体に触れ、その変化に恐れおののいたぼくは、ねこさんの体重増加を計る一方で、ひなさんのダイエットを頭に入れなければいけない状態に陥ったのである。言われなくてもわかる。ぼくが悪い。ぼくがあまりにも悪いのだが、どうしても、食べ物を捨てられないのだ。こればかりは親のしつけで、ぼくの隅々までしみこんでしまっているので、もはや、変えられるようなものでもない。


 ねこさんの残り物を食べるのなら、彼女自身のごはんはできるだけ少なくせねばならないと、ぼくは通常、半カップ与えていたところを、さらに半分に減らして、彼女の体重を元に戻す作戦を展開する。一応、増え続けることはなく、五キロを過ぎたくらいを維持できているのでいいにしても、気づくのが遅かったら、デブ犬まっしぐらであった。


 とにもかくにも、いろんな方面で一進一退を繰り返す、ぼくのかわいい同居人たちとの船旅は、小舟で嵐に突っ込んでいくように、日々、波に煽られ、大波にさらわれ、進んでいくのであった。


挿絵(By みてみん)


※嫌なことをされたり、言われたりすると、彼女は必ず大きく欠伸をするのです。


(余談)


挿絵(By みてみん)




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