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#21_新居での役割を考えよう

「…ダンジョンは五階層を攻略と聞いておりましたが?」


普段から無表情のシャルロットだが、声には驚きの感じが含まれていた。

視線の先では牛と丸い羊が草を食べ、鶏が走り、狼二匹が丘の上で昼寝をしている。

そして木人形二体はシャルロットに譲渡したので、彼女の背後に控えていた。


現在、ローレント製異空間…これからは魔物牧場と名付けよう。

我が従魔全員と一緒に魔物牧場に来ていた。


モバベスが家具一式をホールに持って来てたので、女性陣は設置を行っている。

本来なら男手である自分も手伝うのだが…全員に追い出された。

たまには主人らしく、奴隷に任せてくださいとの事だ。


シャルロットを見るモバベスの態度は明らかに動揺している。

二人の間で何があったのだろうか、例えば…家具とか。

最初に来た時、この屋敷に調度品は一切なかったが…まあ、いいや。

想像は幾らでも可能だが、人間関係は続いているのだ…深く考えない。


「こちらの願いを叶えて頂き、ありがとうございます、マスター」

「どういたしまして。あまり堅苦しい喋りはしなくてもいいぞ」

「おや、そうですか。そのように致します、ハーレムマスター」

「…ある程度は気を付けてもらおうか、無表情メイド」


いや、確かに年端も行かぬ少女達を奴隷としているけど…この世界だと普通だよね!


「失礼しました。それでは魔物の餌を錬成致しましょう」


こちらが調理師のジョブを持っている事は既に伝えてある。

魔鎧種としてのレベルが上がった為か、シャルロットが魔物牧場に木造の小屋を用意した。

広さは十畳ほど、棚や机はあるが床は無く、下は土のまま…土魔法で均す。

ギルドで購入した餌の材料を、シャルロットが空間魔法を自在に操って机に置く。


ゴブリンの爪×3、兎の肉×2、ロックシェルの殻×5


これだけで最低、五回分の餌が出来上がる。

爪は調味料、肉がメイン、殻が排出される際の卵の殻か。

それほど殻は高くないらしく、高いのは兎の肉だった。

兎の肉は大量に所持しているので自前で用意、経費を抑える。


「…やってみたが、七個あるぞ」

「全鑑定スキルがない私にはスキルの判断は出来ません。

 恐らくですがレベルが高く、魔力が多い為と思われます」

「なるほど。品質はDか…材料はFやGだから、いい出来だと思う」

「確かに…品質はDになっています。もう少し安い材料でもよかったですね」

「技巧師ジョブにある道具鑑定だな。

 そういえば、全鑑定スキルは内緒にしてくれ。バレると何かと面倒だ」

「畏まりました、マスター」


技巧師の固有スキルって、どんなスキルなんだろうか。

五階層攻略前に見せてもらえばレベル上げが出来た。


だが…周りには皆がいたし、わざわざ使用してもらうのもおかしい。

今なら話の流れでやってもらえそうだ。


「そういえば、技巧師の固有スキルって何を作成するんだ?」

「技巧師は、最近になって発現が確認されたジョブです。

 主に魔導技術者に発現していて、精巧な部品を作るのに役立つスキルです。

 そうですね…なにか作ってみましょうか?」


願ってもない申し出だ…やはり機械の心臓でもあるモーターがいいだろう。


「そうだな、調理場にあった換気に使用している奴。あれを回している部品にしてくれ」

「あれは魔動機ですね。

 魔力を術式で導き、中の部品を回転させる事で連結部品を動かします」


シャルロットは空間魔法で魔力鉄板と魔力銅板を取り出した。

何気ない仕草で技巧師の固有スキルを使用した…危なかった、ギリギリだ。

アベルで視る事を鍛えていなければ、魔力の流れを掌握できなかった…あ、頭が痛い。


機巧師…固有スキル『精緻錬成』

巧みな装置や細かい仕組みに精通する者に発現するジョブ。

魔導の知識など支援スキル系、道具鑑定など鑑定スキルが備わっている。


術式は魔導の知識から取得できるようだが、レベルや熟練度が低くて数が少ない。

いや、もしかしたら知識が関係しているかもしれない。

念の為に見せてみらったが、シャルロットがいるから頼れるところは頼ろう。


このジョブは彼女に万が一の時が来た場合に役に立つ。

そんな機会は要らないが、備えあれば憂いなし。


機械に似た物を作れるかもしれない。

とはいえ、他者のアイデアを盗むのではなく発展系で済ませたいな。


「棒と外装に鉄を、内部に銅を使用しています。

 魔力が表面を覆っている為、錆びる事もありません。

 このように魔力を流すと…中心の棒が回転を始めます」


やはりモーターだな…これなら機械的な動きに対応できる。

小型ながらも勢いよく回転する鉄の棒…回転数を測る機械が欲しい。

ともあれ、生活を豊かにするスキルである事は間違いない。


「なるほど…ありがとう、珍しいモノを見せてもらった」


実際に、魔導具を作成する場面は初めてなので嘘ではない…物だけなら見慣れている。

近所の友人が機械工学の学校に入学したので、よく話を聞かされ、見せてもらった。

部品の加工、組立てくらいは手伝ったものだ。


「予想していた驚きではありませんでしたが、満足しました。

 では、これはボックスに入れておきましょう。

 屋敷の部品は常に魔力が通っているので故障することはありませんから」

「…以前も聞いたが、本当に住んでいる寝室や浴室等は監視対象から外れてるんだよな」

「肯定します。マスター達の情事や、用を足す行為を覗く趣味は持ち合わせてません」


屋敷がシャルロットの支配下と知った時、モバベスの来訪を逸早く察知した時に覚った。

プライベートな場所が全くない事に!…一応、神に誓約してもらったので大丈夫なはずだ。


「それはそれとして…驚愕の事実の判明&面白い事を聞きました、マスター」

「突然だな…何が判ったんだ?」


身を乗り出したシャルロットは無表情ながらも目を輝かせている。

肉体は二十歳だが、魂は十歳…いや、停止続けていたのなら一年も経っていないか。

何かに憧れる子供のように感じるのも無理はない。


「はい。

 実は、私が屋敷外を出歩くには魔晶石に魔力充填しなくてはなりません。

 しかし此度の変化で思うところがあり、屋敷外にて行動実験を試してみました。

 実験の結果に驚愕しました。なんと通常稼動でも行動が可能となったのです。

 最初は短時間が限度でした。しかし、レベルが上がる度に有効時間が増しているのです!」


なるほど…屋敷にいる時は非接触魔力伝送で稼動し、屋敷外だとバッテリー稼動か。

今回、レベルによる魔力出力の上昇が必要稼動量に到達して単独稼動が可能になったと。


「よかったじゃないか。外の世界を見るのもいいと思うぞ。折を見て休暇を取るか?」

「ありがとうございます、マスター。それで面白い事とは…」

「…うん?」

「エミリアから色々と聞きまして、私もお願いしていいでしょうか」

「…使う機会あるのか?」


その後、ポータルのギルド本部で探索・冒険者登録、いつもの場所でジョブ発現祭を行った。

違いがあったのは軍団レギオンを投入した事くらいか。


彼等…便宜上、そう呼ぶ事にした。

魔獣に性別はあるが、魔素から誕生した彼等には性別が無い。


彼等にも発現できるのは確認できたが、全ジョブを発現させる事はしなかった。

別の魔物を支配した場合、解放して魔石になってしまう事もあるからだ。

これからもジョブ設定を変更する事なく、追加していくだけだろう。


今日も色々あったが、最後に驚いたのは…。


「では、お見せしましょう…軍団長の真骨頂を! 『軍団召喚』!!」

「おおおおお!」


低コストの魔力で召喚魔法を使用した事だ。

他にも『個別召喚』、『部隊召喚』など魔力消費を抑える召喚方法がある。

個別召喚は文字通り、一体だけ呼び寄せる召喚で、部隊召喚は一種族を呼び寄せる。

元の場所に戻すには『軍団帰還』以下略を用いればよい。

今回に限っては部隊召喚でも良かったんじゃないだろうか。


「…といった事があったな。ロミーナ達はどうだった? 少しは魔物に慣れたか?」

「はいです。一階層で一対一なら単独で倒せるようになりました。

 エミリアは普通の鉄の槍なのに、簡単に魔物を倒せます…なぜでしょう?」


いつもの元気のある声とは違い、ロミーナの耳元に囁く感じがこそばゆい。

家具設置の目処が付いたところで、いつもの面子でフーリア亭までやってきた。

明日からは本格的に屋敷に住む事になるだろう。


寝るまでの少しの時間に、お互いの行動を話し合う。

ヤるだけヤって寝るのは違う気がした…眠そうになったら話を切り上げるか。


「…意識か無意識か知らないけど。あれは…武器の先端まで霊力が通ってるわね」

「戻ってきたか、ミリアリア」

「…はぁ~。私って淫乱なのかしら…ご主人様と閨を共にするのは、まだ二度目なのに」


膝を抱えて自問自答していたエルフ少女が会話に参加してきた。

いつものツインテールが解かれ、少し大人っぽくみえる。


「身体の相性がいいのかもな…そのうち慣れるさ」

「そういうモノなのね…まぁ別に嫌な感じはしないからいいけど…」


後の方は小声なので聞こえない振りをした。

実際にエミリアは魔力、特に霊力の反応が顕著に現れるようになった。


儀式の回数は六回…努力しなければ発現できない人間もいる力が、それだけで芽を出した。

霊力は種族特性、彼女自身の才能もあるが、逆に魔力は人間以上に使いにくいはずだ。


自分のと比較すれば、大人が歩く速度と赤ん坊が這う速度くらい差が開いてい。

だが、才能を封じていた蓋は剥がれ落ちた、あとは彼女が努力するだけだ。

儀式でも伸ばせるが、伸ばせる先がどこまであるか判らない。


身内になった相手に隠し事をしないようにしたので、全員に話は伝わっている。

エルシアも二回目…ロミーナは経過調査も含まれているのでやらない訳にはいかない。


ミリアリアには過去のエルフの魔法を確認できたが、弄ってはいない。

恐怖もあるが、『ハーフエルフ』である自分を徐々に受け入れようとしていた。


「五日間、御利用ありがとうございました。

 ここのダンジョンにはまだ入るんだろ。よかったら食堂を利用しておくれ」

「最初は十日間利用するつもりだったのに、すみません」

「なあに、冒険者の予定なんてコロコロ変わるもんさね」


翌朝…朝食を食べ終えてから宿を後にする事を伝える。

女将も事情は知っているので驚くことなく、期間短縮を受け入れてくれた。


「お世話になりました」


全員で別れの挨拶をして宿を出る。

エミリアは時折、女将と親しく話をしていたので別れ際に一人で挨拶をしていた。

戻ってきた彼女の手には人数分のクッキーとキャンディーが握られている。


「引っ越し祝いの餞別だそうです。全員分あるそうですよ」

「そうか。時折、昼食や夕食を摂るのもいいかもな」

「はい」


いつものように東門のゲートから屋敷に飛ぶ…まだまだ自宅とは呼べないなぁ。

屋敷の玄関ゲートから出ると、シャルロットが待機していた。


「ゲートの反応がありましたので、御迎えに参りました、マスター」

「ありがとう、シャル。

 全員、荷物を出すから、自室に持って行ってくれ。

 片付けたら食堂に集合な」


返事をした少女達は階段を上がり、それぞれの部屋に向かっていく。


「…(私は部隊の特訓をする。出かける時は念で呼んで欲しい)」

「…(それじゃ、私は日向ぼっこでもしてよー)」

「…(では、私は納屋の前で剣の素振りでもしています)」


それぞれ性格に合わせた行動を取っていく中、シルファンは教育熱心になっていた。

狼は群れを率いる動物だから本能に火が付いたのかもしれない。


「マスター、こちらは本日のアイテムです。ご確認ください」

「わかった。品質はFか…レベル1とはいえ、餌の効果があったのかな」

「左様ですね。あの後も多くの餌を錬成して頂いたので、数日は大丈夫です。

 在庫管理はこちらにお任せください」


シャルロットから渡されたアイテムは、ウッドパペットの木片二本。

グレイ、アッシュウルフから狼の牙、鉛色狼の毛皮…餌でも種類が変わるのか。

あとはモコシープの羊毛…二束?


「なんで羊毛が二束あるんだ?」

「勿論…刈りました」

「まだ肌寒かったような気がするのだが…」

「ご心配には及びません」


指を鋏のようにチョキチョキとしながら、平然と語るシャルロット。

どうやら魔素があれば二日で生えるらしく、魔物は風邪に抵抗があるらしい。


冷蔵庫…正確には魔導氷式冷蔵庫にはコッコの卵とミルモーの牛乳が保存されている。

コモン魔術の『フリーズ』と氷魔法『アイスブロック』によって低温保存する魔導具だ。


外壁を二重にして間の空間に『エアキューム』をかければ効率が上がりそうな気もする。

エアキュームとは風魔法の一つで指定した範囲を真空にする魔法だ…バキュームではない。


「あれ…どうした、エミリア」


人が集まりだしたらハーブティを入れるよう、シャルロットに頼んだ後、自室に足を向けた。

既に自分の荷物は片付けたのか、エミリアがドアの前で待っている。


「旦那様のお手伝いをしようと思いまして。お部屋に不在でしたので待機してました。

 あとはお任せください」

「そうか、助かる。…じゃあ、これが俺の衣服類が入ったリュックだ」

「いえ、当然の事です。確かに…お預かりしました」


荷物を預かったエミリアが自室に入るのを確認した後、食堂に向かおうとして気付いた。

そういえば、荷物を整理していた時に一番安い旅人服が見当たらなかったのだ。


「…エミリア、実は…「ひゃあー!?」…あれ? リュックに入っていたのか?」


驚いたエミリアにはすまない事をした。

彼女がクローゼットに仕舞おうとしていたのは探していた旅人服だ。


「ど、どうかしましたか?」

「いや、見当たらなかった服があったが、リュックに紛れ込んでいたようだ」

「そ、そうでしたか…大丈夫です、衣服は全てあるようです」

「驚かせてすまなかった。…あとは頼むぞ」

「お任せください、旦那様」


再び廊下に出ると、エルシアも片付けが終わったのか部屋から出てきた。


「お? エルシアも片付けが済んだのか?」

「ええ、滞りなく。旦那様は…エミリアが片付けているのかしら」

「そうだな、任せてきた…な、なんだ?」


二人で並んで廊下を歩いていたら、いきなり匂いを嗅がれた。


「いえ。…私も旦那様の匂いに安心するようになったのね…と思ったの」

「…俺は未だにドキドキするよ」

「あら。旦那様の感情が刺激されるなら、私は嬉しいわ」

「…ほどほどにな」


近付かれて腕をからめるエルシアにドキドキしながら、食堂に到着した。

全員が揃ったところで、ハーブティーの香りを楽しみながら、これからの予定を立てる。


縦長な机ではなく、円状の机に座るのは男一人に、女五人。

圧倒的に不利な状況…アウェーな感じだが、主の役割を果たさないと。


「さて…午前中は必要な雑貨、食料買い出しを行いたい。

 これからの生活は、此処を自分達の住処とする訳だが…なにしろ広い」


ここで言葉を切ったが、誰も反応しない…全ては主人に一任するのが奴隷か。

学生時代はリーダーシップのある人が進めてくれたから楽だった。


「住まいとするなら、ポータルの町にも慣れておきたい。

 シャルは屋敷と納税の為、領主の納税場所しか町を知らない。

 よって効率は悪いが、全員で買い出しをして場所の確認をする。

 帰りは午後のダンジョンの為に西ゲートから玄関まで戻ってこようと思う。

 できれば、気付いた事や何か意見がある時は言って欲しい…以上だ」


一通り言い終わると、エミリアが挙手をした。


「別に許可はいらないぞ。言いたい事がある時は言ってくれ」

「ありがとうございます、旦那様。

 シャルさんも含めて料理や掃除など、家事全般について話し合ったのですが…。

 だ、旦那様も参加なさるとお聞きしました。

 お任せくださることは出来ませんでしょうか?」


主人はドンっと構えているのが当たり前だとエミリアは言うが…。


「…やれる、やれないを確認するくらいだ。

 最初から全てを任せるのは性格的に合わなくてな…それで料理が出来るのは?」

「一般家庭レベルでよろしければ、私やミリアリアがいます」

「…といっても、最後の方は野営の料理ばっかりだったけどね」


一般家庭といっても味付けの仕方は様々…それでも二人は料理が出来てよかった。

徐々に皆の口に合うように変えていく必要があるだろう。


「姉さん、ロミーナ、シャルさんは料理をした事がありません。

 なので、手伝いで慣れてもらおうと思います」

「この手の事は興味なかったのだけど…奴隷である以上、しょうがないわね」

「すみませんです。一度も台所には立たせてもらえませんでした」

「申し訳ありません。私の生命維持は魔素があれば容易でしたので…」


コンビニやスーパーも無い時代だ、全員ができると思っていたのは間違いだった。

自分自身も二年間の自宅警備員時代にネットを駆使して料理のメニューを漁った程度だ。


「幸いにも厨房は広いし、経験者もいる。これから皆には慣れてもらう。

 別に客をとれる腕を持てと云う訳じゃない…全員が慣れ親しむ味になればいいんだ」


まだまだ、始まったばかりの生活だ。

過ごしていく間に色々な事が見えてくるだろう。

今までの人生で過ごしてきた事が役に立つ場面もあれば、突然、予想外な事も起こりえる。


「…一つ、言い忘れました。

 一日の魔力蓄積量と使用量を試算したところ…余裕がないと判明しました。

 よってお風呂は全員で入って、節約をしたいと思います」


そう…思いがけない言葉を聴く事だっていつも突然だ。

シャルロットの発言で、顔を赤くしているのがチラホラといるじゃんよ。


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