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#22_ポータルの町探索とダンジョン攻略


日の高さで時間を計ると十時くらいだろうか。

現在、我々は買い物の為にポータルの町、北ゲートに来ていた。

午後からダンジョンに向かうので全員が冒険者服と剣で軽装備だ。


「マスター達も空間魔法を使用されていますが、荷物持ちはお任せください」


全員、ジョブやら独自行使した魔法でアイテムボックスは使い放題。

シャルロットの本業は屋敷の管理なので、頻繁にはダンジョンに同行しない。

それ故に、食材の管理も自身で行いたいのかもしれない。


とはいえ、今日は初のダンジョン見学をするので無表情ながらも浮かれている。

一年に一度しか外に出なかったシャルロットには、この町は十日間しか記憶にない。

見るモノの全てが真新しい記憶と云える。


「…旦那様。あそこの路地を右に行けば、食べ物の匂いが多く集まっているわ」

「そうか。助かる、エルシア」


五十メートルほど前方に大きな路地が見えた…どうやら、あそこが食材市場のようだ。

移動魔法は全員が使えるし、北ゲートからの距離を考えても移動距離は問題ないな。


「パン屋に肉屋、調味料屋…も確認です」

「調味料やワインは…壷やビンを用意しないといけませんね。…購入項目追加」


路地の左右に所狭しと店が入っている建物が建っていた。

絵と文字で店の看板にしているのが殆どだ…絵は文字を習っていない人向けらしい。


店の状況をチェックしていく、ロミーナとエミリア。

この町で一番多く利用する事になるであろう店ばかりだ。


新鮮な食材は朝から販売していて、今は小康状態…のはずだが、好奇の視線が。

港町だから色々な物や人が多くて気にしないと思ったが、魔獣使いは受け入れにくいか。

幽霊屋敷に住んでいるなんて、さすがに一日では伝わらないだろうし。


「魚は港のほうが多いの?」

「珍しい奴以外なら、入荷は管理されているな。ここにくれば大抵は手に入るさ」


魚屋の店主から情報を聞き出している、ミリアリア。


「…この果物は幾らかしら」

「アンタみたいな美人にはサービスするよぉー!」


青果屋の兄ちゃんからサービスを受けている、エルシア。


「…ものの見事に馴染んでいるな」


浮いているのは自分だけだろうか。

まぁ、店員がよってこないのはいい事なので気にしないが。

それに各自が買い物を楽しんでいる間に、ある物を手に入れた…米ぬかだ。

かなり外れ…雑貨店の集まりでも更に外れの方にあった。


翻訳の魔導指輪のおかげで殆どの商品名が日本語だ。

魚の種類、肉の種類…さすがにワインの銘柄は独自なものだが。


「これなら…料理も通用するかもしれないな」


別に料理が好きなわけじゃないが、一度やり出すとネットで情報を探しまくるのが癖だった。

そのおかげで色々な雑学ばかりが脳内に残り、学校の授業はあまり興味が無かったな。

理系は好きだったが、文系は赤点取らないよう気をつける程度だった。


北ゲートから南下する大きな通りを右に向かえば食材市場。

左には服飾関係の店が集まっている、市場の後に寸法を取ってもらいに行く場所だ。

シャルロットのメイド服もそこで作られたらしい。

正確には生前の食事や屋敷の清掃をしていたメイド用の服だが。


「…はい、これで大丈夫ですよ」


熟練の雰囲気を出す、女性縫製師が女性陣の寸法を取っていた。

地球にいた、なんちゃってメイド服…まあ、あれはあれでよかったが。

そのメイド服ではなく、シャルロットと同じような本格的なメイド服を作りに来ていた。

見ないように気を付けていたが、周りには大層な時間凝視していると思われていたらしい。


メイド服、特に美少女メイドは好きだが彼女達に着せるつもりはなかった。

そんな思いとは裏腹に、エミリア達は予備のメイド服を着てみたようだ。


胸で着ることが出来ない姉妹、ロミーナでギリギリ…ミリアリアは小さかったと誇張した。

この時、シャルロットの胸中に初めて負の感情が芽生えたと云う。


そんな光景を見てしまったら、男なら作るしかないじゃないか。

デザインを新調したシャルロットのと予備も含めて全部で十着…金貨二枚が飛んだ。

その代わりに、近所の職人も集めて十日で仕上げてくれる。


新居祝いに私服二着を後日に買うと伝えて軽く選んでもらう。

何故、後日なのか…買わない上に軽くと言ったのに一時間も悩んでいるのだ。

買おうとしたら時間が幾らあっても足りない。


今回は種類の少ないネグリジェ…ワンピース型の寝間着とバスローブだけにしておいた。

それでも時間がかかるのだ…次回の買い物は店から離れていよう。


その後は調理道具一式、大人数でも大丈夫な鍋、大中小なフライパン、実験用の鍋。

調味料用の壷多数、飲食用のワイン用ビン…etc。


昼食は港町らしく魚料理にした…焼く、煮込むが調理の基本のようだ。

魔獣は入店不可と言われたのは腹が立つが仕方がない。


冒険者ギルドにはドロップアイテムや回復などアイテム販売所がある。

薬草、精神回復薬、傷薬、毒消し、麻痺消し、解石液…etc。

魔晶石や霊晶石も売っている…付いている色は黒だ。


精神回復薬は魔力疲労、または霊力疲労による精神の過剰負担を軽減させる。

回復手段ではないので魔力や霊力が欲しければ晶石を使うしかない。


「ボックスに入れておけば劣化しないし。

 探索時は一人、二個くらいもっておくか…エミリアも霊力を補充できるだろう」

「はい、全ては旦那様のお力あってのことですが。

 各種の回復アイテムによる備えは、必要かと思われます」


最後の方を小声で伝えると、同じようにして返してくれた。

受付のお姉さんには聞こえてないようだ。


薬を分けて収納できるポーチを人数分。

傷薬は自分で出来るので、薬草を人数分×2。

解石液は一つあれば、緊急対処用になるだろう…他にも薬品や魔晶石、霊晶石を揃えた。

四階層で稼いだ魔石が消滅してしまった…ついでに五階層の魔石を換金してもらう。


「こんにちわ、キキ、ゲンロイスさん」

「…いらっしゃい、菓子くれた人」

「…生きてまた会うとは思わんかった。どうやら噂の張本人が登場か」


なんて失礼な人達ばかりなんだ、この世界は。


「そんなに失敗してたんだ…あの幽霊退治。それよりも噂とは?」

「今まで、ぐうたらしていたモバベスの奴が、昨日は慌てて家具を買い漁っていたからな。

 ついに幽霊屋敷を手に入れた人物が現れたのかと、町のあちらこちらで噂話が飛んでおる」


北ゲートから玄関まで歩かないようにしよう…そう心に決めた。

ダンジョンも直接向かおう…北側は住宅街だし、食材の買出しは誤魔化せるかも知れない。


「それで…店で買った商品に不備でもあったのか?」

「いえ…魔法使いの装備品を探そうかと。…金髪の、彼女の装備品です」


屋敷の地下には多くの魔法関係の資料や道具、武具等があった。

その中にローレントが使っていた装備品を見つけたのだが…身の丈に合わないレベルの装備品。

たまにしかダンジョンに入らないシャルロットでも、装備の妥協はしない。

屋敷に関わりのある人物と紹介したら、納得してくれた。


「…あの屋敷の関係者か。確かに魔法使いの資質を持った奴が多かったな」

「…当時の関係者を知っているのですか?」


や、やばい…シャルロットの事がバレたら面倒な事に。


「この町に店を持って十三年になる。

 件の孫娘は知らんが、財産目当ての連中は魔法使いが多かった」

「そ、そうでしたか。…それで魔法使いの武具は?」


よかった…。シャルロットの事は顔バレせずに済みそうだ。


「魔法使いが着る、ローブ系とズボンならある。

 防具は革製なら問題あるまい。

 武器はスタッフやロッド、ワンドだ。

 ロミーナが居るのだ、ウッドパペットが残す棒があるなら魔石五個と錬成せい。

 ワンドなら棒は一つ…三十cmぐらいの細い棒だ。

 ロッドなら棒は三つ…八十cmぐらいの短棍だ。

 スタッフは棒が五つ…百八十cmぐらいの長柄物になる…あとは好きにせい」


せっかく槍術士のジョブが発現しているのだ…スタッフでいいか。

換金に出したのは二百個の魔石だ…十分、余っている。


「ありがとうございます、ゲンロイスさん。

 鱗革の装備一式とローブを選んでくれ、シャル。

 ロミーナ、後でスタッフを頼んでいいか?」

「はいです、頑張ります」

「ありがとうございます、マスター。期待しています、ロミーナ」


ローブの置き場にシャル、ミリアリア、エミリアが向かって縫製の仕上がりを確認している。

ロミーナは鱗革の一式を品質チェックしていた。次の防具の参考か、エルシアは物色中。

今回はさほど時間はかからなかった。


「…ありがとうございました」

「毎度あり。…前も言ったが、武具製作の件は考えておいてくれ」


本気でロミーナに武具を作って欲しいんだな、この人。

杖系統の情報も貰っているし、ロミーナ自身も鍛治に関われる…よし、覚悟は決まった。


「落ちついた時に話を伺いに来ます。今は手入れや準備で忙しいので」

「うむ。そちらに損のない話になるよう、考えを纏めておく」


西ゲートに到着するまで色々と店はあったが、似たような感じの店が多い…釣具専門店もあった。

町の守衛にギルド証を見せて、門の外に出ると…南側一面が砂浜と海だ。

東ゲート付近は船が多かったので見当たらなかったが、こちらは整備してないのか。


「………これが砂浜」

「ずっと内陸と町中だったから…初めてね、自然な海を見るのは」

「町に居た時とは違った風に感じるです」

「…私の生まれた場所からだと…何十日かかるのかしら」

「…遠目で見ていましたが、近くだと心動かされるものがあります」


そういえば、インドの内陸にいる人は一生海を見ない人もいるとテレビでやっていたな。

この世界なら移動魔法があるが、手にしてもレベルを上げるのは時間がかかる。

自然と自分が生まれた周辺で一生を送る人もいるのだろう。


「…全員、しばらく休憩していてくれ。ゲートを確認したら一度屋敷に戻るから。

 三十mほどいった小高い丘がゲート場所のようだ」


答えを確認するまでもなく、足を進める。

あのメンバーなら、よほどの事がない限り大丈夫と思うけどね。


ゲートの中に入ると昼休憩を取っている多くの冒険者達がいる。

仲間達との雑談や、黙々と食事を取る人…こちらに関心を向ける人はいないな。


一階層だからだろうか、皮の装備一式を防具にしている人が多い。

ざっと鑑定してみてもレベルは一桁が大半を占める…若い人が多いのは納得。

さて、ゲートも確認できたし…帰るか。


「…おい、おい。アンタ…来た早々、帰るのかい?」

「…外にパーティがいるから戻るだけですよ」


ニヤニヤと笑いながら近寄ってきた男が一人…身長は自分より少し高いな。

髪は短髪でチョビ髭のオッサンがギルドの紋章入りの鎧を着ている。

ギルドが雇った探索者か。


「そうかい…。一人で突っ込んで死ににいく初心者かと思っちまったよ」

「あなたは、ギルドから依頼された探索者でしょうか。

 確か、魔物が完全回復しないように定期的に狩りする人ですよね」


年は30か…わざわざ鑑定するまでもない、人物だ。

一階層をクリアしたら、会うことはあるまい。


「ああ。あとは初心者の救助なんかもしてるぜ。優先的に助けて欲しけりゃ…」

「その辺にしておきなよ。…それよりも君、ギルド証を見せてくれないか。

 最近は腕試しと勘違いして入ってくる者が多いんだ。一応、罰金刑もあるからね」


後ろから同じように紋章が入った二十代後半の男がゲートから現れた。

こちらは耳が隠れるくらいの長髪で身なりを整えていた。

おそらく複数の階層を担当している人だろう…目の前にいる男よりレベルが高い。


ちぃ、とこちらまで聞こえる舌打ちをして三十路男が下がる。

親指と人差し指で円を作っていた手はズボンのポケットに収まっていた。


「はい…ギルド証です。氏名はヒデキ・ナルカミ、ランクはIです」

「…うん。確かに本人で…ヒデキ・ナルカミ?…せ、殲滅の魔獣使いが何故、ここに!?」

「…え?」


なんだ、その中二臭いネーミングは…そんな事を考えていたら周りが騒がしくなった。


「…殲滅の魔獣使いってなんだ?」

「お前知らねぇのか…数日で一から五階層までの魔物を全滅させたルーキーだよ」

「冗談だろ…三千体以上いるじゃねぇか」

「奴等が現れた後のダンジョンには草一本生えてないって噂だ」

「俺、今日のノルマ達成してないんだぜ…勘弁してくれよ」


ワイワイ、ガヤガヤ…中央広場にいた探索者達が騒がしくなる。

アザリーさんにダンジョンの情報を持っていたのは拙かった。

こんなに大袈裟な状況に陥るとは…勘弁してもらいたい。


「確かに、ダンジョン攻略は探索者なら何処でも自由だが…上層に行かない?」

「いえ、マップを埋めたいので階層主を倒して進みます」


金銭を求めていた三十路男は青い顔をして離れていく。

長髪男は少し表情が引き攣っていた。


「そ、そうか…これから始めるのか?」

「準備がありますので…三十分くらい後からですね」

「三十分後だそうだ! 稼ぎたい奴は今のうちに頑張れ!!」


どうせ三時間経ったら追加されるのだから、競う必要はないだろうに…。

と思ったら、何人か立ち上がって行ってしまった。


「…それでは、俺はこれで…」

「ああ。出来れば早めに上層で動くようにしてくれ」


畏怖の視線や、邪魔者を見るような視線から逃げるべく…ゲートを移動する。

人のある所、競争が起きて色々な火種が生まれるものだが、戦いの世界は露骨だ。

波打ち際で遊ぶ彼女達の姿を見ると余計にそう思う…平和が恋しいなー。


「さて…これより、ダンジョンにおけるチーム編成を伝える」


応接室兼、団欒室兼、会議室となった部屋に装備完了したメンバーが集結していた。

加えて、ローブの上に皮鎧を着るなんてRPGの世界ならありえない格好のシャルロット。

棒術にも使え、邪魔にならない配置に魔石を埋め込んだスタッフを手に持つ。

ロミーナ製で品質がAの代物である。


「俺やシルファン達は五階層を攻略まで進める。

 とはいえ、フーリアと違って攻略する者が大勢いるダンジョンだ。

 今までのように時間はかからないと思う」


あれ? なんだか女性陣全員が微妙な表情をしている。

「エルシア、ミリアリアは階層主戦のダンジョンを経験してもらう。

 二階層までは強制、三階層以降は判断をエルシアに任せる」

「ええ。任せて、旦那様」

「了解。昨日ので動けるようになったし…大丈夫よ」


この二人は自信満々な表情だ…本来なら上の階層でも戦えるのだろう。


「エミリア、ロミーナ、シャルロットは一階層のゲート近くを探索。

 階層主撃破後でも体力が余っている場合は二階層に来てくれ」

「はい、了解しました」

「頑張ります」

「今日一日ですが、よろしくお願いします」


下っ端扱いにも拘らず、表情に不満の様子はない。

昨日の話でも二人は適度な緊張で戦いに臨んでいたと云うし…大丈夫だろう。

今日も多くの稼ぎを消費してしまった、頑張ろう…と思っていたら、待ったがかかった。


「…しばらく待って欲しい…か」


ゲートを通って到着すると、待っていたのか先程の長髪男が待ち構えていた。

可能ならば、魔物を減らしてから階層主と対峙して欲しいとの事だ。

頼まれた内容も理解できる…しょうがないので、簡単な実験をする事にした。


「…ショット」


実験その一。

海岸から丸い小石を幾つか拾ってきて、親指で弾いて放つ…所謂、指弾だ。

強度を得るため、小石に気力を施す…物質的な強度なので魔力壁は抜けないだろう。

それでも威力は分厚い鉄板でも抜けるはずだ…試したら岩を打ち抜いた後で木々も倒した。

銃弾並の速度が出るように、右手により強力な魔装を施す。


闘士の体術スキルは、こちらの武術に関する情報を読んで実現可能としてくれる。

以前、中国拳法に暗器術があるって情報を思い出したら…使えてしまった。

ジョブ発現祭の際の出来事である。


小石は旋回運動こそしないが、ゴブリンに命中した…というよりも魔力壁で崩壊した。

こちらに気付いたゴブリンが襲い掛かってくる。


次は先程手に入れたレベル1の魔石を指弾で飛ばす。

魔石はゴブリンの眉間に当たり、頭部の中枢で止まったようだ。


一瞬だけゴブリンが仰け反ったが、また走る…同じ威力で魔石を弾く。

今度は最初の一撃と同じように魔力壁で砕けた…やはり魔物にも学習能力がある。

魔力を視認すれば分かるが、背面の魔力壁が薄くなって前面が厚くなっていた。


また魔素から発生した魔物は、全ての行動が魔石によって支配されている。

脳に該当する部分や肉体に異物が入り込もうと、関係ないのだ。


「『ライトニング』」


ゴブリンの頭部にある魔石に電光が発生した途端、魔石が爆発した。

ライトニング…コモン魔術の一つ、任意の場所に一瞬だけ電光を発生させる魔術。


実験その二。

同レベルの魔石を体内で爆発させればどうなるのか。

一瞬だけグラついたが、すぐに持ち直した…魔力的な爆発でもこの程度か。


「この世界だと経済的じゃないな…銃弾も炸裂弾も」


ナイフを突き出したゴブリンを避けて、首を落とす。

ダメージが限界値に達して、体が魔素まで解体して魔石を落ちる。


「…ご主人様は何をされていたですか?」

「…分かりませんが、お考えのあっての事ですよ、きっと」

「…おそらくですが、遠距離攻撃の実験かと。

 古来より最終的な攻撃方法は安全な場所からが基本ですから」


初心者+ダンジョン見学組が後ろの方でヒソヒソと喋っていた。

解りきった事でも、やった事で見えてくることもある。

しかしレベル1くらいは倒したかった…ヒト同士の戦いなら芽はあるが、いらんな。

魔力や霊力で壁を作れない相手…この世界では弱い側を殺す武器が増えるだけだ。


「そろそろ、いいか。一度、中央広場まで戻るぞ」

「は、はい。すぐに移動します、旦那様」


広場のゲート前には殆ど人がいない…ギルドの雇われ探索者もいないのか。


「これから階層主と戦ってくるが、離れていれば出現する魔物は少ない。

 ロミーナは初めて経験する事だが、ダンジョンにいる以上慣れるしかない」

「はい、頑張ります」

「身の危険を感じた場合は、すぐさまゲートから逃げる事…各自、覚えていてくれ」

「畏まりました、旦那様」


恭しく礼をする一同を信じて、シルファンに魔力で念を飛ばして探してもらう。

このダンジョンに出た魔物はゴブリンとホーンラビットだから、簡単に判るはずだ。



ヒデキの姿が見えなくなるまで見送っていた一同であったのだが、やる事がない。

マップを確認しても、周囲は表示される場所に魔物はいないので一同は途方にくれる。


「旦那様達が階層主に接触すれば、ダンジョンが活性化します。

 そうすれば魔物達も沸くので…しばらく待ってみましょう」

「ダンジョンの活性化ですか…どんな感じです?」

「そうですね…まずダンジョン全体が震えて、視界を覆うほどの…あっ、誰か来ました」


雑談を始めたエミリア達であったが、帰還用ゲートが発光を始めたので傍から離れる。

ゲートから出現したのは、まだ年端も行かぬ人間族の十三、四の少年であった。

一応、皮の装備一式を身に付けているが、エミリアが気にしたのは別の部分だった。


「あの…失礼ですが、武器を持っていないのですか?」

「え!?…うおー、こんな美少女、しかも獣耳に声を掛けられるなんて…キタコレ」


厄介な相手に声を掛けてしまったと、エミリアは激しく後悔した。

少年はそんな女性の機微を感じることも出来ず、一人で舞い上がっている。


「武器ですか? ふふん。実はですね、ちゃんと持っているんですよ!

 これです! ボクが考案、設計をした武器なんですよ!!」


少年が自慢げに取り出した物は、エミリア達は見覚えの無いものだった。

一見して思った事は、物体の下にあるのは手を握る場所。

上部の筒状の部分から吹き矢的な何かを放つ場所だろうか…と思った。


「はあ…そうなんですか」

「まあ、見ただけでは分かりませんよね。でもね、これは剣より強い武器なんです。

 名前もありますよ、S&W M36!…半世紀たった今でも…あっ、違った。

 ともかく、こいつの実力は確認済みです。頭部に一撃で魔物も地面に倒れたのですから!

 父様も剥製にして喜んでましたよ」


取り憑かれたかのように話をする少年に、完全に失敗したーとエミリアは感じていた。


「はあ…そうなんですか」

「ええ、では見つからないうちに、ちょっと魔物退治してきますね」

「お元気でー」


チラチラと何度も見てくる少年に、嫌気が差したエミリアは軽く返す。

そういえば男性とはこんな感じだったなと、思い出してエミリアは軽く嘆息した。


「…魔物って剥製になるのですね、初耳です」

「違います、ロミーナ。おそらく魔石も出来てない、魔素に汚染された獣でしょう。

 しかし、あれが武器ならば面白い形状をしています」

「だ、大丈夫なのかな…」


エミリアにとっては可能な限り、出会いたくない少年であった。

きちんと注意できなかったのは自分だと思い、少年が走っていた方向を見つめていた。

ダンジョン全体が振動を始めた、ほんの数分前の出来事である。


この時、ヒデキがいれば見せられた物に対して全く別の感想を述べただろう。

中学一年の際に嵌って、色々な種類を調べた過去を持つ彼ならば…。


別に詳しくない人でも誰もが知っている単語がある…拳銃、ハンドガン、リボルバー。

最も、そういった類の単語が口から出るのは地球の知識がある人物だけだろうが。


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