#19_シャルロットの願いと魔獣使いの有効活用
ローレントの長い自慢話はようやく終わろうとしていた。
本来ならば外にいるエミリア達を呼びたいところだが、安全か判らない状況ではしょうがない。
「(…多くの功績を成した儂であったが、やはり死を克服する事は出来なかった。
あの娘は死の間際に生を望んだというのに…。
小僧にも視えたはず、今のシャルロットが如何なる種族かをな)」
鑑定して分かった事が幾つかあるが、爺さんは鑑定の最終スキル…全鑑定をもっていた。
つまり、こちらの設定ジョブやスキルを把握できるのだ…確実にこちらより熟練度は高いな。
鑑定で視えた彼女の種族…シャルロットの種族ジョブは機人族と魔鎧種だった。
彼の話が正しいのならば、人間の心臓部に魔鎧種の魔石を組み込んだ機巧…魔導機巧がある。機人族とは機巧で動く人間ということになるな。
手足が腐る病気だったので義手足を作る為に人形師の技術を学んだらしい。
「つまりだ。
なんとか蘇生したと思ったら孫の魂ではなく新しい魂が宿ってしまい、蘇生は失敗。
だが新しい魂に罪はないから、託せる奴を探していたら、十年の時が流れていたと…」
「…(あれだけの話を思いっきり省いたな、小僧。見も蓋もないが…その認識でも構わん)」
呆れたような表情をするが、年寄りの話は長い上に退屈だからしょうがない。
「つまり元人間の身体がメインユニット、この邸宅が外部ユニットか…」
「…(ほう、その言い分だとユニットとは部分、部品を指しておるな。
あながち愚者でもないか…屋敷に認められた者とはつまり、シャルロットを託くせる者だ。
だが一つ抜けているな…見せてやるがいい、シャルロット!)」
「はい、マスター」
爺さんの合図でメイド服のボタンを外していくシャルロット…何をやらせてるんだ、爺!
病弱の身のせいか薄い胸が見えるまで服を外すと、左胸部から腹部にかけて真っ直ぐ裂けた。
身体の奥から小さい何かが這い出てくる。
「初めまして、魔導機巧の…コアユニットのシャルロットです」
掌サイズの人形が無表情なのにドヤ顔しているのがムカつく…容姿はシャルロットそっくりだ。
人間の身体は瞼を閉じて人形のように立っている…鑑定には魔鎧種とだけ出た。
どうやら、この人形だけが魔石に汚染されているようだ。
「…(魔石を直接取り付ければ孫娘の身体までに影響が出てしまう。
そこで自己診断できるように機巧を人形の形で作成したのだが、気にいらぬか?)」
「もう、ねぇ…そろそろ成仏させていい?」
「…(小僧が屋敷を引き継ぐと云うなら、いつでも成仏しよう)」
気懸かりはシャルロットの事だけなのか、現世に執着する様子は無い。
だからといって、丸投げされてもどう対処したらよいのやら。
「…(シャルロットは人の神と魔の神の加護を受けている。
おいそれと迫害を受ける事もあるまい…それに、さすがの儂も疲れた。
だが、消えればシャルロットには死しかない…主の消滅が彼女の死なのだ)」
死んで別の人格が生まれた存在か…自分も彼女と一緒だな。
同族意識という訳じゃないが、見捨てるのも忍びない。
「…本当に屋敷や土地は爺さんの権利で賄われるんだろうな」
「…(現国王は生前に交代したばかりだが、権利の維持は約束させた…問題はない。
シャルロットを受け入れるのならば、コアに血を注ぐのだ…さすれば次の主となるであろう)」
「さあ、どうぞ。この小さな身体にどばっ! っと、貴方の熱い液体をお与えください」
「変な表現はよしてくれ! やる気がそがれる!!」
ナイフで掌を軽く切ると血が溢れてきた…コアユニットにそのまま注ぐ。
やった後で思い出したが、女神の力は大丈夫なんだろうか。
「おおおおおおお…なにやら凄いです、元マスター。きてます、もの凄いのがきてますよー!」
「…(見たことが無い反応だが、調査できないのが悔やまれる。…しかし、ここまでのようだ。
小僧よ、後はシャルロットに全て聞け! 我が魔法と魔導の知識と技は全て娘の中にある。
今頃は若造の所にある移譲書にも小僧の名が記されているだろう…さらばだ、我が娘よ…)」
「…お休みなさい、元マスター。…お父様」
なにかに急かされるようにローレントの爺さんは消えた…どうやら成仏したようだ。
もしかして魔剣で魔素を喰い尽くしたのがいけなかったのだろうか。
シャルロットが唸っている間に屋敷が一変している…古ぼけた感じが消えて、清潔な感じ。
しかし、調度品が全く無いのだが、全部処分したのだろうか。
「マスター、死が二人を別つまで貴方の従者となります、シャルロットでございます。
シャル、メイド、人形、性処理タンクと如何様にもお呼び下さい」
「最後のは絶対に呼ばないからな! 説明の前に、外で待っているメンバーを呼びたい」
「人数は何名でしょうか、机と椅子を用意いたします」
シャルロットに人数を告げてから外に出ると、すっかり日が落ちていた。
アベルやモバベスの口振りだと、悪霊を除霊すれば住んでよし、だと思っていた…ナニコレ。
家を持てば安息の日々が訪れるのではないか…そう思っていた時期が自分にもありました。
「…(なかなか面白い。連れてゆくか?)」
「どうかな。従魔は考えられんし、パーティとして連れて行けるか分からん」
愉快な感情を込めてシルファンが念を送ってくる。
正直、この三体以外を連れても活躍するとは思えんし、それよりも気になるのはエイミーだ。
「彼女には魔鎧種の魔石が使われているそうだが…気になるか?」
「…(特には。個体の数が減れば世界から生まれるだけです。
人間が魔物に成り、魔物が人間の一部に成る…その流れの一部分を見たに過ぎません)」
送られる念に憤怒の気配は無い。
ティアンが何の話か解らずに、エイミーにチョッカイをかけている。
死者の霊魂を見たせいか、後の事を考えてしまうな。
このオマケの人生がどこまで続くのだろうかと。
「うわーーー」
誰の言葉か解らんが、全員似たような反応をしていた。
シャルロットの事はすんなりと全員に納得された…事前の魔法使い&人形師の情報のおかげだ。何か起きた時の為に、机や椅子は玄関ホールに置いてもらった…逃げ易くするためだ。
「それでは、不肖私めが当家の説明をさせて頂きます。まず敷地面積は…」
説明が進むほどに、頭が痛くなる…どうしよう、平凡日本人の感覚では理解できないよ。
まず北ゲート…あれは、ゲート場であると同時に敷地の玄関口でもあったようだ。
つまり二キロ程登ってきた道は私道になる…反対側は山も含めた範囲で私有地。
邸宅は、本邸と四隅に繋がる離れが四つある。
全てシャルの外部ユニットなので内装や構造は自由だとか。
ただし大地から生じる大源の魔力が大量に必要となる…一度だけ蓄積した魔力で可能。
東には農地が、西には家畜用の牧草地、庭園は趣味ではないらしく、中庭に休憩場所がある程度。食材、鍛治、縫製、工芸など各作業場も、それなりに広い廊下で繋がった離れにあったとか。
地球のカントリー・ハウス規模には及ばないにしても、かなり広い。
珍しい鉱石や地下資源はなく、あるのは豊富な地下水、魔素だけ…魔法使いが選んだ場所だしな。話が一段落したところで、ちょっと確認しておくか。
「シャル…家のことよりも、幾つか聞いておきたい事がある」
「なんでしょう、マスター」
「まず魔鎧種の魔石は何を使っている?」
「核は『緑騎士』です。手に入ったのは欠片でした。かなり資産を動かしたと聞いております。
劣種の操形種から魔石を集めたところ、吸収、再活動を始めたと記録にあります」
「この机や椅子は緑騎士の力か…屋敷を弄れるのは別の力なのか?」
「はい、魔鎧種の研究をしている際に発見、術式を組みました。屋敷の材料は全て魔物製です」
緑か…白と黒以外は特定の物質しか扱えないから、おかしいと思った。
家具とか頼めるだろうか…屋敷を弄る時は全部を外に出さないと駄目なのだろうか。
「それじゃ、人としてはどうなっている。ここに住んでいるなら税金を払う必要があるが?」
「税金は支払っております。支払う時のみ稼動して、それ以外は休眠状態になっておりました」
屋敷から出て、税金の支払いに向かう事は可能か。
そうなると、敷地管理や掃除はモバベスが一人で管理していたのか?
そのことを別の者も思っていたようだ…恐る恐るエミリアが挙手をした。
「あ、あの。それでは今まで、モバベスさんが全ての敷地を管理していたのでしょうか?」
「彼が管理していたのは玄関口付近や私道くらいです。大半の場所は荒れ果てているでしょう。
屋敷はマスター登録の際に、全ての修復、清掃が完了しております…ご安心ください」
「では、これからもシャルロットさんの力で清潔な状態を維持すると?」
「いえ、さすがに生活される場合は力を使って維持は出来ません。
私も尽力するつもりですが、その事でマスターにお願いがあります。…おや、来客ですね」
その言葉を合図に玄関が強い力でやったのか、ドアノックの音が響いた。
ドアの隙間から訪問者を確認すると…モバベスが息を切らして立っていた。
「…ま、まさか…ゴホゴホ。失礼…」
「喋るのは息が整ってからでいいですよ」
深呼吸して落ち着いたのか、手に持っていた淡い光を放つ紙をこちらに差し出した。
「契約によって、この移譲書が反応したら何があっても屋敷に来なくてはならないんだ。
そして屋敷にいるメイドともに恙無く管理せよとあってね」
「メイドとは私の事ですね。…続きは後日にしたいと思います」
「ほ、本当にいたとは…すまないが、時間が掛かりそうなんだ。
この手紙を姉に見せてくれ、タダで宿に泊まれるよ。
明日の昼頃に玄関前のゲート場に来て様子を見に来て欲しい。それじゃ、頼んだよ」
モバベスに追い出されるような形で、屋敷の外に出された。
全員、呆気に取られていたが…一人だけ、素早く反応したようだ。
「な、なんなのよー! 追い出さなくてもいいじゃない!!」
こちらに言われても知らんよ、ミリアリア…まあ、いいや。
もう日も落ちたし、食事を摂るついでに宿代を返してもらおう。
「…はあー。あの幽霊屋敷をねー。
あそこは噂を聞きつけた何十人の冒険者が挑んだけど誰一人戻ってこなかったんだよ。
宿代だけじゃなく、夕食もサービスするよ…厨房が火を落とす前に食べた、食べた」
モバベスが言っていたゲートからフーリア亭に戻ってみると大層驚かれた。
どうやら死にに向かったと思われたようだ…夕食は高そうなメニューを選んでおく。
「…やっぱり、旦那様は凄いお方です」
「特になにかした訳じゃないんだが…相手が譲ってくれただけで、運がよかっただけだ」
夕食を終えて、本日のお供は姉妹にお願いした。
寝る時間だからか、小さな声で呟くエミリアに率直な答えを返した。
胸板に頬を擦りつけるエミリアの頭を撫でながら。
左胸にはエミリアが、右腕にはエルシアが身体を寄せていた。
「それでも運を引き寄せるのも実力の内と言われています」
「…エミリア。失望させるようで悪いが、早い段階で言っておく。
俺より力のある奴など大勢いるし、過度な期待は失望感も大きくなるぞ」
「も、申し訳ありません。ですが決して旦那様に失望する事など…」
慌てて起き上がろうとするエミリアを片手で引き止めてベッドに寝かせる。
「別に怒ったわけじゃない。
エミリアに期待されれば俺も頑張る気になるが、過度な期待は困る…それだけだ」
「…はい。やっぱり、お優しいのですね…」
「そんなに酷いのか…奴隷の扱いとは」
「…そうね。少なくとも私達が知っているのは、旦那様とは違うわね」
「ね、姉さん…起きていたの?」
先程と同じ行動をしていたエミリアが驚いていた…最初から寝てなかったぞ。
「力が強ければ何してもいいと思ってる馬鹿や、劣等感の塊のような馬鹿がいたわね。
そういえば、傍には殴られて快感を得るような女もいたわね…クスクス」
「人の趣味を言っては…それに好みは極悪人にみえて優し…イエ、イマセンネ、ソンナヒト」
「なんかカタコトになってないか、エミリア」
「いえいえ、それに明日は大市です。出遅れたら良い物が無くなってしまいますよ、旦那様」
なにやら誤魔化された…まあ、いいか。早めに起きる必要があるのは確かだ。
翌朝、目が覚めた原因は、町の大通りで準備を行う活気のいい人達の声だった。
「うわー、すごい人です、ご主人様」
元気のいい声のロミーナと逆に、部屋に帰りたくなった…人多すぎ。
トラブルにならないようにシルファン達を置いてきてよかった。
事前の情報通り、大通りは露天に埋め尽くされていた。
現在、外見に問題がある三名…自分、ミリアリア、ロミーナは外套とフードの出で立ち。
仲間外れは嫌だったのか、姉妹も一応、外套を着ていた…逆に怪しい集団になってる。
前回の買い物で忘れていた三名分の鉄のナイフを購入。
生活雑多を買い込んで、現在は私服選び中。
違うのは傍にエミリアが控えているくらいか。
「…一緒に見なくていいのか?」
「はい。小市の際に買って頂いたので、私は大丈夫です」
遠慮しているわけじゃなさそうだ。
ふと目に入ったのは、いつも一房纏めている髪紐…結構、痛んでいるようだ。
「…エミリア、ちょっとこっちに」
「はい、お供します」
洋服の露天で気付いたのはラッキーだ。
同じ色の髪紐を二つ…センスなど無いが、淡いピンクのリボンを選んだ。
確か女性陣全員が髪紐だったはず…同じ様に髪紐を買っておくか。
エルシアには緑がかった青…ターコイズブルーにした。
ロミーナは白、ミリアリアには黒のリボンを買おう。
まずはエミリアに渡してみるか。
「エミリアに買おうと思うが、どうだろうか。センスが無いから意見を聞きたい」
「よ、よろしいのですか? すごく嬉しいです…旦那様」
「そうか…喜んでくれてよかった。…それでこっちのリボンだがエルシア達には…」
「………ええ、分かっていましたとも。大丈夫です、皆さん喜びますよ、旦那様」
あれ? あれだけ喜んでくれたのに、なんか投げやりに!?
「ありがとうございます、大事にします」…ロミーナは素直に喜んでくれた。
「…あって困るものじゃないし、使わせてもらうわ」…ミリアリアは素直に喜んでくれなかった。
「どう…似合うかしら」…エルシアは一々、艶っぽい微笑を浮かべないでください。
今回の大市はダンジョン攻略が進んでいない事もあって、掘り出し物は中々見当たらなかった。
武具は揃っているし、露天で昼食を済ませて、シルファン達を連れて旧シュタイン邸へ向かうか。
「おお! お待ちしておりました!!」
玄関前のゲートから来るとモバベスが玄関から出てくるところだった。
近くには荷馬車があって、キングサイズのベッドマットと通常サイズのマットが四つある。
両方とも結構厚い…そういえば寝具だけは早めに用意してもらったんだ。
使う部屋は自分用の寝室と彼女達の寝室…一人一部屋を与える稼ぎが無いので二人部屋になる。ベッド本体はシャルロットが作ってくれた…経済的に助かります。
「話は纏まったのですか?」
「はい、全ての書類は彼女を通してあります。私の担当は町周囲を整える事だけになりました。
いやー、本当にヒデキ殿にはなんとお礼を申し上げればいいか。肩の荷が降りました。
そうそう、メイドのシャルロットさんと約束して、家具や食器の提供をさせてもらいますよ。
いえいえ、とりひ…感謝の証だと思って受けとってください。…それでは私はこれで」
こちらに有無も言わせぬまま、ベッドマットを玄関ホールに置いて、モバベスは帰っていった。
ジョブによる能力補正があるのでマットは簡単に持ち運べた。
二十畳の部屋にベッドが一つ。
窓際には縦長なガラス製の窓が等間隔であって室内は暗くはない。
天井には魔導灯が配置されていた…さすがは魔導の父の別荘。
「ここに居てもやる事はないか…」
ベッドを持ち込む前に邸宅の再構築をした。
全員の意見を聞こうとしたが、最終決定は自分がするならと念を押されて、再構築を頼んだ。
住居スペースは全部屋、二十畳にした。
壁の枚数が減るので、その分の材料は別の場所に使用したらしい。
ホールから階段を上り、右棟の廊下を通って、真ん中が自分の部屋だ。
廊下の手前がエルシア、エミリア姉妹の部屋、奥がロミーナ、ミリアリアの部屋になる。
手前に一つ、奥には多数の空き部屋が出来てしまった…将来の一人部屋用だ。
本来なら書斎などが近くにあるものだが、左棟に配置しようと思う。
一階には食堂、厨房、トイレ、浴室など水周りは集めて右棟の南から順に配置。
魔導技術のお陰で色々発展したが、未だ薪が主流。
しかし魔力で動く換気扇があるのは少し驚いた…モーター替わりに使用できそうだ。
左棟には念の為に応接室を用意しておいた…モバベスが書類とか言っていたのが気になる。
縫製場は南東の離れに、鍛治場は北東の離れに置く事にした。
離れには両開きドアが作られて、材料の運び入れにも適している…防犯用のシャッターも付けた。
トイレの技術は進歩しており、水洗トイレがあった。
少し離れた地下に発酵施設があって、取り出す時は浄化をかけないといけない。
シャルロットの支配下にあるので、魔力さえあれば詰まる心配もない。
浴槽は温泉魔法の術式をそのまま流用していた…全員が入ってもかなり余裕がある。
シャワーは水圧を利用した構造になっていて、ハンドル式…フーリア亭よりも進歩している。
全体で見れば空き部屋が多いが、本当に最後まで使う必要があるのか判断できる状態ではない。
「地下室の一番手前を道具部屋にして…整理でもするかな」
地下にも幾つか部屋がある…邸宅の持ち主だった魔法使いの研究施設だ。
土魔法を行使したのだろう、館全域に地下室があった…地球だと掘るのに幾ら掛かるんだか。
そんな事を考えていたら、ドアをノックする音が…そういえばシーツを持ってくると言っていた。
「旦那様、シーツをお持ちしました。整えますので、少々お待ちください」
「わかった、頼む」
こちらがやろうとしたが、先手を取られてしまった。
手馴れたようにキングサイズのベッドメイキングをしていく…そういえば、宿で手伝っていたな。
後姿を見ていて思い出した事がある…主人から最初に受けるのが、奴隷統括か。
「終わりまし…た。…だ、旦那様、これからダンジョンへ向かわれるのでは?」
「奴隷統括に、このベッドで最初に寵愛するのも主人の務めかなと思って」
「それは…今夜はここでロミーナ達と?」
「今日は、まだフーリア亭かな。…食事の準備とか忙しいだろう」
「では…続きはお時間がある時に。本日はこれだけでお願いします…んん」
そういえば、久々だな…なかなか室内で二人きりになる事などなかった。
押し倒したベッドで暫しの間、エミリアとキスの時間を過ごした。
「では、突然の来客により説明できなかった事をお知らせします。
皆様、私の後に続いて地下室に向かってください」
ダンジョンに向かう前に、シャルロットから話があると呼び止められた。
時間はとらないと言う彼女の言葉に従い、全員で地下に降りる。
全員といってもシルファン達は本邸の西にある納屋の前で日光浴をしている。
「…地下なのにカビ臭くないのね」
「はい、魔導技術で空気の流れを制御しております」
臭いを嗅ぐ事に強い姉妹は地下に降りる前から気付いていたのか、事前に指摘を受けた。
エルフも感覚が鋭い為、次に気付いたのはミリアリアである。
「この最初の部屋…何か使用してるのか?」
「かなり空いておりますが、道具置き場として使用しております。お使いになられますか?」
「俺も道具置き場として使うかな。…あとで区別できるよう整理しておいてもらえるか?」
「畏まりした、マスター。ですが、今は目的の場所へと参りましょう」
「ああ、案内を続けてくれ」
シャルロットは右の通路を進んでいく…階段を下りた時は南だから西方向か。
突き当たり、正面にはドア、左にはまた通路…どうやらドアが目的地のようだ。
「この先が私の父…空間魔法を極めた魔法使い――ローレントの集大成でございます」
ドアを開けた先には部屋などなかった…馴染みのある空気を感じる。
しかし目に映る光景は無骨な壁や均した土ではない。
辺り一面は草原になっていて、風が草花を揺らす。
遠くに目を向ければ森林が見えた、その先には岩場も見える山が見える。
「…一人の人間がダンジョン――異空間を創りあげたのか」
「ご推察の通りです。歪魔の力に魅せられ、ローレントはこの空間を創りあげました」
領域は半径二十キロと広いが、この一階層のみ…出入口は地下室と納屋の中の二箇所。
何十階層とあるダンジョンがいかに馬鹿げた物かよく解る光景だ。
シャルロットが先行して異空間に入っていくので続いて入る。
自分が入った後でエミリア達もついて来た…全員驚いているようだ。
「すごいです…まるで本物の草のようです」
「魔素が変化したものですが、性質的には本物ですよ」
物怖じせずにロミーナが生えている草を手で触れていた。
確かに凄いが、ここに連れてきた目的はなんだろうか。
「この空間がシャルの願いと関係しているのか?」
「はい。マスターの力…正確には魔獣使いのジョブの力をお借りしたいのです」
はて? 魔獣使いは確かにレアと聞いたが、ダンジョンのような場所で役に立つのか?
「どうやら、マスターは魔獣使いについてお詳しくはないご様子。もしや天然発現ですか?」
「まあ、学んだ訳じゃないし、シルファンと仲良くなってから発現したから…天然だな」
「それは無謀…いえ、大変珍しいケースですね。分かりました、では魔獣使いとは…」
魔獣使いとは魔獣に認められた者に発現するジョブである。
では、魔獣とは何か…それを説明する前に魔物とは何かを説明しなくてはならない。
魔物とは体内に魔石を有する存在、全ての総称である。
魔素の集まりから生まれたモノ、重度の魔力中毒によって魔石が生じたモノなど多岐にわたる。
単独だったり、繁殖するモノまでいて、有、無機物関係なく繁殖方法も様々だが卵から誕生する。
繁殖といった生物の側面を持った魔物を魔獣と呼ぶのだ。
そして魔獣を従魔とした、このジョブの固有スキル『リンク』は多くの性能がある。
体力回復量、精神力回復量、経験値取得など初期に発現する項目。
レベルが上がると腕力、脚力、魔力など共有項目が増えたり、同時リンク数が増えたり。
「これは三体の戦闘メンバーに選ばれた従魔に該当する事です。
補欠メンバーである私は経験値共有しか出来ません」
「それも初耳だ。三体以上従魔にしたのも初めてだし」
「実は各ジョブの増加項目条件はレベルだけではなく、知識レベルも影響するのです。
魔獣使いの増加項目の一つ…それがレギオン(軍団)」
レギオンとは…魔石を持つモノ同士が相手を屈服させて、支配する性質を利用した集団。
支配された魔物は人形のようになってしまうが、自我がないだけで行動に支障はない。
種族レベル五で一種類、一体、レベル十で三種類、一種類につき各三体。
レアジョブなので限界が調査できず、判っているのはここまで。
「これで私も含めた従魔全員に軍団長が追加されました。
同時リンク数とは関係ないので選べるはずです。また支配できる種類にも条件があり…」
魔石を支配する為には近しい種族である必要がある。
エイミーやシャルロットは物質系…ウッドパペットみたいな魔物。
シルファンは恒温動物系…多くのタイプがいる魔物。
ティアンは全系統の魔物…さすがはドラゴン型。
魔物の世界は弱肉強食か、もしかしたら魔物の王もいるかも。
なんかD○の世界を思い出してしまった。
「つまり、エイミーにパペット系を支配させて、シャルロットに譲渡。
そうすればシャルロットが屋敷の管理に使うと…こんな流れでいいのか?」
「はい。ご慧眼、痛み入ります」
今まで黙って聞いていたエミリアが挙手をした。
人手が増えても面倒事が多くなりそうだと感じたか?
「あの、意識を支配されて清掃など細かい作業ができるのでしょうか?」
「問題ありません…歴史の魔獣使い達は成功しております。
意思はなくとも愚者ではありませんが、最初は草刈りからですね」
とりあえず、全員の軍団長を指定しておくか。
現段階だとレベル十以上は即座に上がらないし、エミリア達は一階で戦ってもらおう。
その間に五階層を攻略して、シャルロットにはレベル十になってもらう。
ジョブ詳細
シャルロット
・機人 Lv1、魔鎧 Lv1
魔法使い Lv1、魔術師 Lv1、機巧師 Lv1、従者 Lv1




