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#18_ポータルの町と幽霊屋敷

ポータルの町


王国内でも有数の港町として発展した大規模都市だが、面している海は外海ではなく、内海である。魔人族の爆裂魔法、土魔法が使用された魔霊大戦の爪痕…規模は日本の面積の十倍に匹敵。正確な面積じゃないから確実じゃないが、地中海より広いのかもしれない。


内海の名は『グラン・ヴァルガ』


大陸にある多くの河から流入しているが、塩分濃度は外海と変わらない部分が多い。

これは西の深部で魔人種が、侵攻の為に用意した大空洞によるものだ。


戦闘による損害で外海と繋がってしまい、大量の海水が地下から流れ込んでくるので蒸発もしない。最深が千五百mの内海で、多くの島も存在するし、普通の海水魚も魔獣の海竜も入り乱れる。昔から流出する河も無いので、水魔法使いが内海のあちらこちらで活躍しているとか。深海の海流は回遊している海竜が起こしているとかなどの俗説もある。


「港の周辺は魔法によって深度がありますが、浅瀬が大半なので貝拾いも出来るそうです」


エミリアが自身の知識とパンフレットの内容で説明してくれた。

物珍しそうに辺りを見ているロミーナとミリアリア、そんな二人を視姦して楽しむエルシア。

シルファン達は先程までダンジョンで暴れまくったので大人しい。


南が先程説明のあった内海、東西に大きな街道が続いているが、北は手付かずか…森や山がある。『ゲート』は東西南北の四箇所…開発していないのは魔素が山から海方向に流れているからか。ダンジョンの入口は近くの海側にあるらしく、西ゲートに冒険者ギルド支部があった。


港周囲には、商人ギルドの倉庫街や、海棲魔物用のギルド支部がある。

海の男をもて成す為なのか、酒場など歓楽街も港周辺に集まっていた。

住宅街もあるが、住んでいるのは海関係の人達だ。


潮風から建物を守るために、この町の住人が住む住宅街は北にあった。

住居の区画管理はフーリアの町に似ている。


商業施設は町の中心部に集中して、日用食品関係は住宅街に近い、逆にギルド本部は港に近いな。町のギルド本部近くには武器屋、防具屋が密集していた。大規模都市になると店は常時営業しているようだ。


「…いらっしゃい」


武具屋に入ると、首輪をしたショートカットの少女が売り子をしていた。

最初は虐待でもされて元気がないのか、と思ったが肌艶は酷くない。

やる気がないのか、そういった性格かもしれない。

他人の奴隷には口を出せない、これもまた法である。


武器と防具を置いている店で、規模は同じような店舗からすると若干小さめだ。

だが、整理整頓や商品の置き方が優れているのか、広く見える。

衣服や鎧の種類も多いし、ぱっと見た値段も他の店と変わらない…ここでいいか、客もいないし。


「男一人と女四人の装備を見繕いたいが、大丈夫か」

「…店には私、奥には一人しかいないけど、大丈夫。スキルも使えます」

「わかった。ところで何度か来るかもしれないし、名前を聞いてもいいか?」

「…キキ」


少女――キキの名前を聞いてから鑑定を実施する…うん、本名だ。

キキ、女、10歳、小人族、メインが武器商人Lv5、防具商人Lv5、サブが農人Lv2


「ありがとう、それじゃあ…キキ。店内を見させてもらうな」

「…ごゆっくり、どうぞ」

「みんな、この店で自分の装備品を確認してくれ。

 エミリア、あの時と同じ条件でみんなが武具を選ぶようにしてくれ。

 俺は一度、ギルドに行って換金してくる。…金貨三枚だ、戻る前に決まったら支払いに使え」

「はい、畏まりました旦那様。確かにお預かりします」


アイテムボックスから出した金貨をエミリアに渡すと、しっかりと握りしめた。


「それじゃ…旦那様のお言葉に甘えさせてもらうわね」

「武器や鎧は品質の高いのが揃っています。あ、これも良いです」

「服は…まあまあね。…でもこれなら…」


女が三人寄れば姦しいというが、わいわい、がやがやと盛り上がっている。

戦闘用だが買い物は楽しいらしい…時間も掛かりそうだし、ギルドに行くのは正解だな。


「…キキ。なんじゃい、この騒ぎは」

「…ゲン爺。お客さんだよ」


先程、キキが言っていた奥にいる一人が騒ぎに誘われてやってきた…髭達磨だ。

間違えた、ドヴェルグ族の男性だ。


黒紫の髪に、同じ色の長い髭、ドワーフよりも長い耳に背丈も低い。

鑑定、鑑定と…。

ゲンロイス、男、68歳、ドヴェルグ族、剛戦士Lv56、鍛冶師Lv52、サブが剛斧師Lv48か。


「すみません、こちらの連れがお騒がせしました」

「ふん…。この時間に冒険者が来るのが珍しいだけだ。…全員、お前さんが買い主か」

「…ええ、まあ、運で購入する金が転がり込んできただけですが」

「…変わった男じゃ。………あの『ダブル』が作った武具は持っておるか?」

「ありますが、貴方はここの店主さんですか?」

「うむ。キキの買い主で店主のゲンロイスだ」


やはり、最初の言葉はロミーナやミリアリアの件か。

しかし、なんで固有スキルの結果を気にするんだ?


ゲンロイスの視線の先にはロミーナがいた。

同じ武器を持って比較し、良い方をエルシアに渡している。

格好から察するに職人のようだ…何か思うところがあるのだろう。


「…この魔力銅の短槍しかありませんが、どうぞ」

「…ふん。あの歳でこれほどの品質か…精霊の神も酷な運命を授けたものだ」


眼光の鋭い視線を更に鋭くして、ロミーナ作の武器を見定めていた…無詠唱で武器鑑定している。レベルが高いだけじゃない、スキルの扱いも手馴れている。


「失礼ながら…ダブルは忌み嫌われているのでは?」

「忌み嫌われておるのは、奴らの目を見れば引きずり込まれ魔力や霊力が安定しなくなるからよ。 どんな手段を使ったかは知らんが、あの娘は安定しておる…ならば気にする必要もあるまい」


そうなのか、知らなかった…しかし俗説かもしれない。

自己催眠に掛かって、自分で安定できない状態にした可能性もある。


「エルフの方は有名だが、黒髪のドワーフもおる。儂ら以外なら気にするまい」


こちらの沈黙を面倒事が起きる事を危惧したと思ったようだ。

どちらにしても奴隷を主の許可なく迫害したら、盗賊行きだ…死して銀貨になってもらおう。

満足したのか、短槍をこちらに返却してくれた…仕舞っておこ。


「良いモノを見せてもらった…感謝する」

「いえ、そういってもらえて彼女も嬉しいと思いますよ」


思案顔のゲンロイスに若干の不安が起きる…また面倒事が起きるのではないか?

そんな事を考えていたら、口を開いて驚きの言葉を漏らす。


「怪訝な表情一つ見せず、こちらの我侭を聞いてくれて感謝する。お主達は流れの冒険者か?」

「この町には、家が売りに出されていると聞きまして、フーリアから紹介状を貰ってきました」


頑固親父そうな人があっさりと感謝の言葉を述べて驚いた…ドヴェルグは顔じゃないと云う事か。

ついつい素直に答えてしまったよ。


「フーリアから…あの幽霊屋敷か。ますます変わった男じゃな。

 この町に住むようなら、これからも贔屓してくれ。

 時間をとった詫びだ…キキ、値の方は少し抑えておけ!」

「…わかった」


売り子に声を掛ける老人の背を見ながら、ある一つの仮説が頭の中に浮かぶ。

68歳なら考える時期なのだろう…生きている限り、訪れる運命だ。

とはいえ本人から直接聞いたわけじゃないし…この思考は放棄。


「…失礼ついでじゃが、あの娘はなんという名だ?」

「…ロミーナですが」

「では、ロミーナの時間を少し貰いたい。訳あって腕の立つ鍛冶師を探しているのだ」


うーん、ますます仮説が現実味を帯びてきたのだが…まあ、いいか。

実家にいる時は鍛治仕事を手伝っていたらしいし…本人もやりたがるかもしれない。


「本人に確認して、護衛もつけますが…それでもよろしいか?」

「かまわぬ。精霊の神に誓い、この身に疚しい事などないと宣言しよう」

「ロミーナ、ちょっとこっちに! エイミー入ってきてくれ」

「はい! わかりました!!」


店先で待っていたエイミーとロミーナがこちらにやって来たのは同時。

ゲンロイスとキキは魔鎧種に驚いていたが、従魔特有の雰囲気に気付いて警戒を解いた。


「魔獣使いとはな…ロミーナ、儂はゲンロイスと云う。

 不躾で申し訳ないが、鉱物を使ったお主の腕を知りたいのだ。

 先に固有スキルの成果は見せてもらった。

 一作品だけじゃが見事な物だった…どうだ、打ってみてくれぬか」

「ええと…その…ご主人様…」


いきなりの事に困惑したロミーナはこちらを見て助けを求めている。

しかし鍛治に興味はあるようだ。


「長時間は無理だが、やってみたいなら、やってみるといい。鍛冶場なんて入る機会はないしな」

「…はい! ありがとうございます、ご主人様!!」


エイミーに護衛役を頼むと念を送ると、承諾する念が帰ってきた。


「…(心配性ですね。ですが、承りましょう)」

「…任せた」


エイミーの肩を軽く叩いて店を出ると、ふと店名が目に入った。

『フレスベルグ』…なにやら鷹に縁でもあるのだろうか。


この町のギルド本部は店を出てから五分の距離だった。

ゲンロイスが言っていた通り、この時間は探索・冒険者達は滅多にいないようだ。

待たされる事なく受付に到着した…目線をフードで隠している事を訝しむが気にしない…男だし。


「ようこそ、探索・冒険者ギルドへ。今日はどういった御用でしょうか」


金髪糸目のハイエルフが受付とは珍しいが、ダンジョンに行けば支部を使う。

滅多に来ないな、ここは。


「魔石とドロップアイテムの換金をお願いしたい」

「はい、ではトレイの上にギルドカードと換金したい物を置いてください」


アイテムボックスから品質の悪いゴブリン、コボルトの牙や爪、魚の鱗、三階層の魔石六百個。

エルフ男の口元が引き攣っていたので、アザリーさんに出さなくて良かった。

だが、一時間も待たされた。


「ヒデキさん、ヒデキ・ナルカミさん。お待たせしました、受付までお越しください」

「はい。換金作業、ありがとうございます」


隣接していた酒場で果汁酒をチビチビ飲んでいて、ようやくかと思い、小走りで駆け寄る。

受付のトレイには金貨二枚と銀貨四十枚…おお、いい感じで稼げるようになっている。

そろそろ待ち合わせ時間も迫っているな、急がないと。


「では、これで失礼します」

「はい、お疲れ様でした。貴方の探索・冒険者としての人生が明るいものでありますように」


やはり、どこのギルドでもお決まりの挨拶のようだ。

武具店『フレスベルグ』に戻ってきたが、女性陣全員で冒険服の良し悪しをチェックしていた。

いや、ミリアリアは遠巻きから見ているだけのようだ。


「えっと…ひょっとして、まだ決まらない?」

「おかえりなさい、ご主人様。あとは会計を済ますだけよ…あれはご主人様の分ね」

「俺の…そうか、せっかく選んでくれたのだ、買っておくか」


選んでくれた品は良い物のようだ、値段も六千セシル。

品質をチェックしてみるとCだった…ダグザの村で買ったのはD、フーリアのはF。


「私に任せれば、もっと良い物を作ってみせるわ」

「そうだな。拠点を持てて、ゆっくり出来る時間があったら頼む」

「…え、ええ! 任せて!!」


選んでくれた事を女性陣に感謝の言葉を述べて、全部の商品をカウンターに並べる。

俺は鉄の大剣を一本、鉄の盾を一つ、鱗革の装備一式、冒険者服を一つの計四点。

太刀もあったが…高すぎる。


エミリアには最初に買った旅人服はロミーナに一着譲ったので新規に購入させた。

鉄の槍、鱗革の盾、鱗革の装備一式、冒険者服の計四点。


戦闘経験ある二人組みは、俺たちが使用していた皮の装備一式でいいらしく、今回は見送り。

エルシアはチェニックのような上着とズボンの冒険者服を二着、外套を一着。


ミリアリア防具用の生地を買っていた…おそらく民族衣装や外套を固有スキルで作る気だ。

一人分ならそんなに精神力を使わないし、大丈夫だろう。

矢を九本一束で売っているやつを十一束、鉄の短剣を二本。

俺が魔装や霊装で短剣を使い切ったので新規に購入。


ロミーナは久々の鍛治で満足気な表情をしている。

鉄の盾、鱗革の装備一式、外套を一着、冒険者服の計四点…あれ、武器は。


「ロミーナ、武器はどうした…合う物がなかったのか?」

「ご主人様、実はですね…」

「この娘には我々の種族に合った武器を贈ろう。

 儂が現役時代に作った型じゃが、今でも通用するぞ」


店の奥から槍…いやハルバードか? しかも鉤爪ではなく、大きな鎚が付いている武器だ。

それを持ってゲンロイスがやってきた…鑑定には魔力鉄のハルバードと表示された。


「いいのですか? 随分と高そうですが…」

「魔力を使い切ればただの鉄のハルバードと変わらん。久々に天賦の才を見た…その礼だ」

「天賦の才…それじゃ、ロミーナに頼み事が?」


こちらが確認するように問うと、笑いながら首を横に振った。


「かっかっか…身請けをしようとしたら、きっぱり断られた。

 武具製作依頼は、お主がこの町に拠点を構えた時にでも改めて頼むとしよう」


こちらを選んでくれたのは嬉しい事だが、やりたい事をやれるチャンスを潰した事は心苦しい。

恐らくだが、こちらが言えばロミーナは従うだろう…それをしないのは、喪失を恐れているのか…。


「…えっと、全部で39965セシルから…」

「三万でいいぞ、キキよ」

「…三万セシルになる」


考え事をしていたら、キキが精算を済ませていた…エミリアに金貨は三枚渡している、問題ない。

四階層の魔石七百個を換金すれば黒字だが、いつになったら奴隷購入金まで届くのか。


武器、防具商人の固有スキルを掛けてもらい、全員に着替えてもらう。

今日はダンジョンに行かないが、新規装備は慣れてもらわないと。


「…ふぅ」


やはり五人分のスキル使用は堪えたのか、キキに疲れが見れる。

アイテムボックスにある自分用に買っておいたクッキーを渡したいが…。


「えっと、ゲンロイスさん…」

「…ふむ。キキ、貰える物は貰っておけ」

「…いいの?」

「ああ。精神的に疲れた時は菓子が美味く感じるぞ」

「…ありがとう、お客様」


笑顔で受けとるキキとゲンロイスに別れを告げて、店を後にする。

不動産をやっている男とは北のゲートで待ち合わせをしている。


「…新しい装備に慣れるために着てもらったが、問題ないか?」

「レベルや『力』が上がったお陰でしょうか、重く感じません、大丈夫です」

「この格好なら一日ダンジョンで過ごしていた時と変わらないわね」


先に反応したのはエミリア、エルシアの姉妹。

特にエミリアは倍の長さの得物を持っているが、扱いに困ってはいないようだ。


「武器が今までとは違うですが、直に慣れます」

「私は武器を久々に持ったから違和感があるけど…問題ないわ」


ロミーナは重そうなハルバードを軽々と上下に動かし、重さに慣れようとしている

もう普通に扱えている気がする。


腰の短剣が気になるのかミリアリアは時折、位置を調整している。

あっ、全員のナイフ買うの忘れた。

買い忘れを思い出した時には既に約束の場所まで来ていた。


「おや、貴方達はもしや…」


人通りが殆ど無い場所に人のよさそうな男が一人で佇んでいた。

商人の見掛けには騙されないぞ、絶対にな…女将から貰った紹介状を見せて商談開始。


「…確かに、姉の字ですな。

 初めまして、私、屋敷の全管理を任されております、モバベスと申します」

「初めまして、ヒデキ・ナルカミです。後ろの彼女達は…」

「いえいえ、他者様のをご紹介されなくても宜しいですよ…では、説明しながら参りましょうか」


緩やかな坂を上りながら、山の方へと向かうモバベス…足取りは慣れたものだ。

やはりと云うか、ゲンロイスが言っていた通り、件の屋敷は幽霊屋敷だった。


五十年ほど昔、とある魔法使いが王国から恩賞で、丘に屋敷の建築や土地開拓する権利を貰った。魔法使いの才は止まることを知らず、彼は魔導技術の根源を作った。

そして、今なお莫大な技術料を取得している…人形師としての趣味はこの町に来てかららしい。


魔法使いは子宝にも恵まれ、多くの孫がいたが、一人の病弱な孫娘が療養の為にやってきた。

療養とは名ばかりの厄介払いだったが、魔法使いは快く迎え入れた。


五年が過ぎたある日、魔法使いの様子が一変する…彼の孫娘が二十歳の若さで亡くなった。

彼は取り浸かれたように死者蘇生の魔法を探し求めたが、高齢の為に亡くなる。

だが、彼は亡くなる前に遺言を残しており、そのことが屋敷をめぐる騒動に発展した。


曰く、屋敷と土地を維持する以外の権利はくれてやるから屋敷の権利には絶対に手を出すな。

曰く、我が魔法と魔導の粋を集め、施した屋敷に認められた者に屋敷の権利をくれてやる。

曰く、権利を得た者に一切の交渉をする事を許さん。


血縁者は反対したり、屋敷に彼の技術があると信じて権利を得ようとしたが、悉く死亡した。

今では、興味のなかった血縁者だけが王都に暮らしているそうだ。


それから十年…家を持てないような冒険者が挑んでは消えて、挑んでは消えて。

今ではほとんど挑戦する者も無く、幽霊屋敷と呼ばれているそうだ。


「最初は私も金回りのいい仕事だと喜んだのです。

 ですが、今では昼間に急いで清掃をして、慌てて帰る日々。

 お願いします! 久々の挑戦者なんです! どうか、どうか彼の屋敷をぶっ壊してください!!」


強引に握手をして、それじゃ!っと言って、モバベスは慌てて帰っていた。

残された自分達は町から二キロほど、屋敷からは五百mほど離れた場所で呆然としていた。


「はっわわわ…。こ、怖いお話です…ほ、本当に行くのですか、ご主人様」

「皆はここに残っていてくれ…俺とシルファン達で行ってくる」


震えるロミーナの頭を撫でながらボックスにある魔導ランタンを取り出してエミリアに渡す。

逢魔が時が近付いているので帰り道は真っ暗だろう。


「何かあったら、フーリアに戻ってアベルを頼れ。まか「旦那様なら大丈夫です」って、早いよ」

「旦那様なら大丈夫ですので、ここで待ちます」


その後もエミリアを諭そうとしたが、聞く耳を持ってくれなかった。


「旦那様、この娘は一度こうなったら頑固なの。説得するより幽霊退治した方が早いわよ」

「それにご主人様が死んじゃうと、私も困るのよね」


クスクスと笑いながら、エミリアの後ろから抱きつくエルシアが、妹を援護する。

そんな妹は徹底抗戦の構えを崩していないし、ミリアリアはツンデレみたいだ。


「ロミーナ、ミリアリア…無理しないように、アイテムの錬成をしておいてくれ。

 エミリア、エルシアは今まで使っていた武器を手入れをよろしく。

 ランタンの灯が消える前には戻ってくる」


ドロップアイテムのリュックサックを残して、屋敷に向かう。

屋敷から流れてくる魔素の量は近付く程に濃くなっていく。


「「「「はい、行ってらっしゃいませ」」」」


送り出してくれた少女達の声を受けて、俄然とやる気が出てくる。

彼女達がいる場所には遮蔽物もない、よって魔素が流れ込んでくる事を防ぐ物はない。

アイテムボックスから漆黒の魔剣…ディアボロスを取り出す。

全員が等間隔で広がって流れる魔素を喰らう。


「周囲の魔素を喰らい尽くせ、ディアボロス」


魔力を得る事に震えた魔剣がシルファン達以上に魔素を喰っていく。

魔剣の影響が屋敷に及ばないようにしないといけない。

現状を知る事は出来ないし、もしかしたら問題が起こるかもしれない。

屋敷まで百mの所まで来ると、魔素が弱まった。


「…ご苦労さん、今日はここまでだ」


今回は素直にボックス内に戻る魔剣に声を掛けて、全身霊装で身体を守る。

一軒家とはいえ、日本育ちのサラリーマン家庭で過ごしていた自分には目の前の邸宅はデカイ。

これで別荘の中では小さいらしいが、部屋数も二十はありそう…ホント外国とか金持ちとか。

こちらの力を把握したのか、ドアを開いて歓迎してくれるようだ。


「…(居ますね、把握できるだけで二つの魂があります)」

「…(臭いにガス性のものは無し)」

「よし、ティアンは玄関前で待機…行くぞ!」

「…(行ってらっしゃーい)」


玄関を通ると玄関ホールがあった…どうやら典型的な洋館らしい。

すでにこちらは居場所を掴んでいる…かくれんぼの鬼をするつもりはない。


「さっさと出てきてはどうだ…そちらも気付いているのだろう」

「…(…どうやら、今までとは比べるまでもないようだな)」


シルファン達とは別の魔力による念か…広間に現れた半透明な奴が送ってきた。

腰にある霊式短刀を軽く握りながら、油断せずに霊体を睨んでいると、両手をあげた。


「…(儂とて魔法を扱う事で生きてきた者、そちらの霊力に敵う力など持ち合わせていない)」

「では、おとなしく認めるのか?」


こちらの言葉に頷く事は無く、ただ見定めようとしている。

どうやら、敵対関係は免れたようだ。


「…(条件に合わなければ、最後まで抵抗させてもらおう)」

「まあ、簡単に認めるなら十年は経たないか…いい加減、名前を聞いてもいいか?」

「…(むぅ…他国の人間とはいえ、空間魔法を使える者が我が名を知らぬとは…よかろう!)」


なにやら元気になった半透明の霊体が人の形をとってマントを形成する。

そして広間の奥からメイド服に包まれた二十歳ぐらいの女性が歩いてきた。

軽いウェーブが掛かった金髪が肩口辺りで整っている…美人だが、人間にしては生気は薄い。


「…(我が名はローレント・フィン・シュタイン!

 空間魔法を極め、空間魔術と魔導具の父と呼ばれし者よ!!)」


マントを翻し、ポーズを決める変なご老体に続き、メイドが恭しく礼をした。


「そして、私が…マスターの孫娘の身体に生み出された、マスターの娘。

 シャルロット…シャルとお呼び下さい、お客様」


どう転がっても問題しか起きないこの人生は…一体、なんなんだろうか、全く。

鑑定してみて分かった事実に頭が痛くなってきた。


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