第45位 振り子の刃
• 危険度:★★☆☆☆
• 推定死者数:年に六〜七名(設計局記録・戦前)
• 戦後の推定死者数:年に二十五名前後(ギルド報告書より)
• よく見かける場所:谷にかかる石橋や、長い回廊。天井から大きな刃が何枚も下がっている
天井から吊られた巨大な刃が、通路を横切って左右に揺れている。一枚、二枚、五枚。
これも見栄えのする罠です。吟遊詩人の歌では、たいてい主人公がこの下を駆け抜けて、マントの端を切り落とされます。
設計規格はこうです。
• 刃は研がない。分厚い鉄の板です。当たれば骨は折れますが、斬れはしません。
• 刃は幅を広くとり、隣の刃とすき間なく吊る。通路のどこにも、立ち止まって安全な床は一歩分もない。
• 振り子は、すべて同じ拍子で揺れる。刃が向こうへ振れているあいだに、その下を一人が通り抜けられるだけの隙間の時間がある。
• 拍子は、数えれば覚えられる速さにする。人の心臓の拍と、ほぼ同じです。
この罠は、覚えさせるための罠です。
一度目は、足がすくむほど怖い。二度目は、少し怖い。三度目には、数を数えながら笑って抜けられる。その「覚えた」という手応えが、冒険者を次の階層へ連れていきます。そして次の階層には、まだ覚えていない恐怖が待っている。
では、年に六、七人の死者は誰なのか。
記録に残る死者のほとんどは、刃と刃の間で立ち止まった人です。隙間の時間は、立ち止まるためのものではありません。次へ飛び込むためのものです。
戦後に変わったのは、拍子です。
振り子を揺らしているのは、天井裏の歯車です。私たちは月に一度、油を差し、欠けた歯を替えていました。七年、誰も差していません。
いくつかの迷宮では、振り子がときどき一拍遅れます。あるいは、一拍早まります。
いま、この罠でいちばん死んでいるのは、初めての人ではありません。拍子を覚えている人です。
対処法
1. 渡る前に、少なくとも五十回は拍子を数える。途中で乱れないか確かめる。
2. 覚えているつもりの人ほど、数え直す。あなたが覚えている拍子は、七年前のものです。
3. 刃と刃の間で止まらない。止まるくらいなら、最初から渡らない。
4. 拍子が一度でも乱れたら、その通路は渡らない。迂回路を探す。どの迷宮にも、迂回路は必ずあります。私たちが、必ず作りましたから。
余談
常連の四人は、振り子の通路が好きでした。
赤マフラーが声に出して数え、「はい」の声で一人ずつ飛び込んでいく。地図係は、羊皮紙の隅に拍子を書きとめていました。とん、とん、とん、と、等間隔に点を打って。三度目には、あの盾役でさえ笑いながら渡っていました。
その様子を、ヴェインと二人で見ていたことがあります。彼が私の監視室に来ることは珍しかったので、よく覚えています。
しばらく黙って見ていたあと、彼は言いました。
「お前の罠は、優しすぎる」
私は、褒め言葉ではないことくらいは分かりました。
「覚えさせて、安心させて、慣れさせる。冒険者に借金をさせてるのと同じだ。いつか誰かが調整をやめたら、その借金は一度に取り立てられる」
私は言い返しました。調整をやめる日なんて来ない、と。
ヴェインは笑いもせず、監視室を出ていきました。
戦争が終わったのは、その三年後でした。
地図係の羊皮紙に打たれた点は、いまも同じ間隔で並んでいるはずです。迷宮のほうが、それを守らなくなりました。




