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第46位 毒矢の壁

• 危険度:★★☆☆☆

• 推定死者数:年に五〜六名(設計局記録・戦前)

• 戦後の推定死者数:年に二十名前後(ギルド報告書より)

• よく見かける場所:中層の長い直線通路。壁に小さな穴が等間隔に並んでいる


 この項目から、戦後の数字も併記します。ここから先は、戦後に順位を上げてきた罠です。


 踏んだ床石が、かすかに沈む。次の瞬間、壁の穴から細い矢が飛んでくる。


 設計規格はこうです。


• 矢は床の踏み板で放たれる。狙う高さは、膝から下。

• 矢じりは、返しのない細い針。刺さっても浅い。

• 壁の中には毒壺があり、矢じりには薬が染みている。薬は痺れ薬で、半日ほど体が動かなくなる。命には関わらない。

• 薬は、解毒の祈りが効かないように調合する。


 最後のひとつが、この罠の要です。


 動けない体のまま、仲間に守られて半日を過ごす。祈っても治らない。自分では何もできない恐怖は、走って逃げる恐怖より、ずっと長く続きます。迷宮にとっては、半日分の魔力です。


 では、年に五、六人の死者は誰なのか。


 記録に残る死者の多くは、倒れた場所が悪かった人です。水たまりに顔から倒れた人。階段の途中で倒れ、転げ落ちた人。そして、仲間に置いていかれた人。


 戦後に変わったのは、毒壺です。


 七年のあいだに、壺の中の水は少しずつ蒸発しました。多くの壺はすっかり乾いて、いまでは矢だけが飛んできます。


 けれど湿気の多い迷宮では、壺は乾ききらず、中身が煮詰まったようになっています。半日で抜けるはずだった痺れが、抜けません。手足だけでなく、やがて胸の動きまで止まります。

対処法

1. 踏み板を見分ける。目地の幅が、まわりの床石よりわずかに広い石は踏まない。

2. 膝から下を守る。脛当てを着けているだけで、死者はずいぶん減ったはずです。

3. 当たったら、すぐに矢を抜く。針は浅いので、抜くのは難しくありません。

4. 痺れた人は、顔を上にして体を横向きに寝かせる。息の通り道をふさがないために。

5. 戦後の毒矢で息が浅くなったら、祈るより先に、交代で口から息を吹き込み続ける。そのまま迷宮の外へ運び出してください。毒は時間で抜けます。息さえ続けば、助かります。



余談


 ガルド老は、毒の調合を誰にも任せませんでした。


 新しい薬ができるたびに、彼は自分の腕に針を刺し、痺れが抜けるまでの時間を砂時計で計っていました。理由を聞くと、あの人は面倒くさそうに言いました。


「冒険者に刺す前に、自分に刺せ。刺せない毒は使うな」


 常連の盾役が毒矢を受けたのは、五度目の夏でした。踏み板を踏んだのは赤マフラーでしたが、矢を受けたのは、とっさに前へ出た盾役の脛でした。


 大男は膝から崩れました。神官が祈っても、痺れは抜けませんでした。抜けないように、作ってあるからです。


 神官は一晩じゅう、彼の横に座って祈り続けました。赤マフラーと地図係は、通路の両端で寝ずの番をしました。誰も、彼を置いていこうとは言いませんでした。


 ガルド老は私の隣で監視水晶を見ながら、砂時計をひっくり返し、「あと二刻だ」と言いました。そのとおり、夜明け前に盾役は指を動かしました。


 神官は、自分の祈りが届いたのだと思ったようでした。泣きながら、神に感謝していました。私は、それを訂正したいとは思いませんでした。


 ガルド老は、戦争が終わる二年前に亡くなりました。


 晩年の彼の手は、ずっと震えていました。何十年も、自分の腕に毒を刺し続けたせいです。最後のほうは、図面の線もまっすぐ引けませんでした。冒険者を一人も殺さないために作った毒で、彼は少しずつ死んでいきました。


 私の手元には、彼の調合帳が残っています。どの壺に、どの濃さの薬を、どれだけ入れたか。全部書いてあります。


 この帳面から計算すると、湿った迷宮の壺の中身は、いまでは当時の四倍ほどの濃さになっています。半日で抜けた痺れが、二日続く計算です。


 あの夜、神官が泣きながら感謝した相手は、本当は、震える手の老人でした。それを知っているのは、私と、この頁を読んだあなただけです。

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