第49位 吊り天井
• 危険度:★☆☆☆☆
• 推定死者数:年に二〜三名(設計局記録・戦前)
• よく見かける場所:宝物庫の手前の小部屋。中層より下の迷宮に多い
扉が閉まる。鍵の落ちる音がする。そして頭上から、石の擦れる低い音。
見上げると、天井がゆっくり降りてきている。
これも有名な罠です。吟遊詩人が好んで歌うので、実物を見たことがない人でも、どういうものかは知っているでしょう。
先に結論を書きます。あの天井は、人を潰しません。
設計規格はこうです。
• 天井が降りきるまでの時間は、およそ百二十呼吸。焦れば短く、落ち着けば長く感じる長さです。
• 天井は、床から膝の高さで必ず止まる。部屋の四隅に石の止め柱があり、これは七年経っても朽ちません。
• 扉を開ける仕掛けは、部屋の中に必ずひとつある。たいていは壁の燭台か、床の模様の一枚。落ち着いて探せば、子どもでも見つけられる場所に置きます。
• 天井が降りきったあとも、仕掛けを動かせば扉は開く。膝の高さの隙間を這って出ればいい。
では、何のための罠なのか。
閉じ込められた人間は、迷宮でいちばん濃い恐怖を出します。逃げ場がなく、残り時間が目に見えていて、それが少しずつ減っていく。設計局の記録では、この部屋ひとつで、転がる大岩の十倍の魔力が採れました。
それなら、年に二、三人、誰が死んでいたのか。
天井は、誰も殺していません。殺したのは、隣にいた仲間です。
狭くなっていく部屋で、人は簡単に壊れます。仕掛けを探す者と、扉を叩く者と、天井を支えようとする者とで、言い争いが始まる。誰かが「お前があの扉を開けたからだ」と言う。剣が抜かれる。
記録に残る死者のほとんどは、刺し傷か、魔法の巻き添えでした。天井に潰された遺体は、私の知るかぎり一体もありません。
戦後、ここにひとつ変化がありました。罠の側ではなく、冒険者の側にです。
死者が増えたせいで、いま酒場では「吊り天井はもう止まらない」という噂が流れているそうです。
噂を信じた人たちは、天井が動き出した瞬間から、もう落ち着いて探そうとしません。ギルドの報告書を見るかぎり、この部屋での仲間割れの死者は、戦前の倍に増えています。
ですから、ここにはっきり書いておきます。
止まります。膝の高さで、必ず。私が保証します。
対処法
1. 天井が動き出したら、まず深く息を吐く。百二十呼吸あります。
2. 仕掛けを探すのは一人だけ。いちばん落ち着いている人に任せ、残りは壁際で黙って待つ。
3. 天井を支えようとしない。腕が折れるだけです。
4. 天井が近づいたら、床に伏せる。膝の高さまで降りても、伏せた人の上には隙間が残ります。
5. 仲間に剣を向けたくなったら、この頁を思い出してください。天井は止まります。
余談
この罠のことで、師匠のガルド老と、同期のヴェインが言い争ったことがあります。
ヴェインは、私と同じ年に設計局に入った男でした。図面を引かせれば局でいちばん速く、いちばん正確で、いちばん容赦がなかった。
ある日の設計会議で、彼は吊り天井の止め柱を外すべきだと言いました。
「止まると分かっている天井に、本気で怖がる奴がいますか。嘘の恐怖は、いつか見抜かれます。本物の恐怖は、本物の死からしか生まれない」
ガルド老は、図面から顔も上げずに答えました。
「見抜かれたら、別の嘘を作れ。それが設計士の仕事だ」
会議はそれで終わりました。私はどちらの側にも立ちませんでした。正直に書くと、ヴェインの言うことにも一理あると思っていたのです。
それから二年ほど経った秋、常連の四人が、私の迷宮の吊り天井に入りました。彼らはもう、中層まで降りてくるようになっていました。
赤マフラーは扉を叩いて叫び、大柄な盾役は両腕で天井を押し返そうとしていました。小柄な神官は、目を閉じて祈っていた。
地図係の少女だけが、天井を見上げていました。唇が動いていて、数を数えているのだと分かりました。それから羊皮紙に何かを書きつけ、部屋の四隅を順に指さしました。
「止まるよ、これ」と、彼女は言いました。
そして燭台を倒し、扉を開けました。
見抜かれた、と思いました。ヴェインの言ったとおりでした。
悔しかった。それなのに、少し嬉しかったのを覚えています。
その冬、私は初めて、自分から新しい罠の設計図を局に出しました。見抜かれた嘘の代わりになる、別の嘘です。
それについては、ずっと後のほうで書きます。ヴェインがその図面を見て、何と言ったかも。




