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第34位 祈りの届かない部屋

• 危険度:★★★★☆

• 推定死者数:年に二〜三名(設計局記録・戦前)

• 戦後の推定死者数:年に八十名前後(ギルド報告書より)

• よく見かける場所:中層の、何もない小部屋。壁に黒っぽい石がまだらに埋めこまれている


 部屋に入ったとたん、手に持った魔石の灯りが、すうっと暗くなる。仲間の傷に手をかざして祈っても、何も起きない。


 設計規格はこうです。


• 部屋の壁に、魔封じの石を埋めこむ。石は、部屋の中で使われた魔法や祈りの力を吸いこむ。

• 部屋の中では、治癒の祈りも、攻撃の魔法も働かない。魔石の灯りも、少しずつ吸われて暗くなる。

• 吸いこんだ力は、石の中に溜まる。月に一度、局の者が石から力を抜いて、空にしておく。

• 部屋そのものには、ほかの仕掛けは置かない。


 冒険者の多くは、どこかで魔法や祈りに頼っています。それがいきなり効かなくなる。灯りが暗くなり、傷が治らない。


 自分たちがどれほど祈りに寄りかかっていたかを、この部屋は思い知らせます。罠らしい罠が何もないのに、人はこの部屋で、いちばん心細い顔をしました。


 では、年に二、三人の死者は誰なのか。


 部屋に入る前から深い傷を負っていた人です。この部屋で傷を癒やそうとして、祈りが効かないことに気づくのが遅れた。部屋を一歩出れば祈りは届いたのに、その一歩を出る前に、血が足りなくなった人たちでした。


 戦後に変わったのは、石です。


 魔封じの石は、七年分の力を溜めこんで、もうほとんど吸いこめなくなっています。そこへさらに祈りや魔法を流しこむと、石が割れて、溜めていた力が一度に弾けます。


 弾けた力は部屋の中を埋めつくし、そこにいる人を残らず巻きこみます。部屋の壁は、それでも崩れません。


 壁には、魔封じの石が何十も埋めてあります。一度に割れるのは、そのうちいちばん満ちていた一つだけです。それでも、石ひとつ分の力で、部屋の中にいる人は助かりません。


 残りの石は、そのまま次の祈りを待っています。壁の石がすべて割れてしまうまで、この部屋は何度でも弾けます。


 引き金になるのは、たいてい治癒の祈りです。祈りの効かない部屋だと知らずに、傷ついた仲間のために祈る。その祈りが、最後のひとしずくになる。


 戦前、この部屋は祈りを黙って飲みこむだけでした。いまは、祈った人ごと吹き飛ばします。

対処法

1. 部屋に入って魔石の灯りが暗くなったら、すぐに灯りを袋にしまう。灯りの力も、石に吸われています。

2. この部屋の中では、祈らない。魔法を使わない。怪我人がいたら、部屋を出てから祈る。

3. 壁の石に、細く光るひびが走っていたら、部屋に入らない。

4. 手で巻ける包帯と、血止めの薬を持っていく。祈りのほかにも、人を助ける方法はあります。



余談


 この部屋の石から力を抜くのは、私の当番でした。月に一度、点検通路から壁の裏に回って、石をひとつずつ空にしていく。地味な仕事です。


 常連の四人がこの部屋に入ったのは、八度目の春でした。その日、赤マフラーは前の通路で脚を切っていました。浅い傷です。神官はいつものように手をかざして、祈りました。


 何も起きませんでした。


 神官はもう一度祈りました。三度目も祈りました。手が少し震えていました。盾役と地図係が顔を見合わせていました。赤マフラーは、平気だよ、と笑っていました。


 あの神官が祈って何も起きなかったのは、たぶん、それが初めてだったのだと思います。第四十六位の夜、盾役の痺れが抜けたのは自分の祈りのおかげだと、彼は信じていましたから。


 しばらく黙っていたあと、神官は荷物から布を出して、裂きはじめました。それで赤マフラーの脚を、手で縛りました。不器用な巻き方でした。


 縛り終えると、彼は言いました。「神さまにも、休みの日があるんだな」


 四人は笑って、部屋を出ていきました。


 部屋を出たところで、神官はもう一度だけ、赤マフラーの脚に手をかざしました。今度は、ちゃんと届きました。彼はほっとした顔をして、それから、脚に巻いた布をほどきませんでした。


 その次の年から、神官の荷物には、いつも包帯が入るようになりました。


 あの人が、いまもどこかで祈っているのかどうか、私は知りません。ただ、もし迷宮へ降りることがあっても、あの部屋で祈る癖だけは、持っていないことを願っています。

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