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第37位 古い地図

• 危険度:★★★☆☆

• 推定死者数:なし(戦前、これは罠ではありませんでした)

• 戦後の推定死者数:年に六十五名前後(ギルド報告書から著者推定)

• よく見かける場所:酒場、市場の露店、ギルドの掲示板の脇


 これは、私たちが作った罠ではありません。誰も設計していません。それでも、死んだ人の数で並べると、ここに入ります。


 戦前、よく調べた地図は、冒険者の命綱でした。迷宮は、私たちが毎日調整して、いつも同じ状態に保っていたからです。


 振り子の拍子も、格子が落ちるまでの呼吸も、網の張り具合も、昨日と今日で変わらない。一度正しく書きとめれば、その地図は何年でも正しいままでした。


 いまは違います。第五十位からここまで書いてきたとおり、迷宮は七年かけて、少しずつ変わりました。地図だけが、変わっていません。


 古い地図には、だいたい次のような特徴があります。


• 隅に書かれた日付が、七年より前。

• 道順だけでなく、仕掛けの中身まで書きこんである。「振り子:とん、とん、とん」「格子は六十呼吸」「橋:落ちても網あり」。

• 「この迷宮の罠は、落ち着けば必ず抜けられる」というような一行が、余白に添えてある。


 二つ目と三つ目は、戦前なら、よい地図の印でした。いまは逆です。よく調べた地図ほど、詳しく間違っています。


 死者の数え方を書いておきます。ギルドの報告書には、遺品の一覧がついています。私は戦後の報告書から、遺品に地図があった人を拾い、その地図が「安全」と書いていた場所で死んだ人を数えました。それが、上の数字です。

対処法

1. 地図の日付を見る。七年より前の地図は、道順だけを信じる。通路は七年では動きません。変わったのは、通路の上にあるものです。

2. 仕掛けについての書きこみは、すべて疑う。拍子、呼吸の数、網の有無。

3. 「落ち着けば必ず抜けられる」と書いてあったら、その一行に線を引いて消す。

4. この本を読んだら、手元の地図に書きこみ直す。この本は、そのために書いています。



余談


 隣町の酒場で、古い地図を一枚買いました。私の迷宮の地図です。


 開いてすぐに、誰が描いたものか分かりました。


 振り子の通路の脇に、等間隔の点が打ってある。とん、とん、とん。落とし穴の印の横には「底で十数えて、壁をなぞる」。吊り天井の部屋には、小さな字で「止まる」。水の部屋には「胸の高さの溝」。沈む空気の部屋には「火を床まで下げる」。


 その地図に書いてあることを、私は全部、彼女が見つける瞬間に見ていました。


 地図係の地図でした。


 日付は、戦争が終わる前の年。それを刷り直したものが、いまも酒場で売られているのです。


 余白には、彼女の字で一行だけ、こう書いてありました。


「この迷宮の罠は、落ち着けば必ず抜けられる」


 第四十七位で書いたとおり、彼女は落とし穴の横穴の中で、ここを作った人は人を殺したくないんだと思う、とつぶやきました。その考えを、彼女はちゃんと地図に書いて、人に渡していたのです。正しかったことを、正しいまま。


 迷宮のほうが、それを正しくなくしてしまいました。


 地図の隅には、作り手の名前と、彼女の住む町の名が刷ってありました。名前は、ここには書きません。この本を、彼女が読むかもしれないので。


 この本ができたら、送り先はもう二つ決まっています。北の漁村と、あの地図の隅に刷ってあった町です。

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