↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
修学旅行は異世界で。The Summoned Students  作者: 霜月立冬


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
8/29

第八話 砦内の騎士区画

 全ての遺体を運び出したところで、騎士団長のエリカ・エヴァンス様が解散を命じた。


「ご苦労であった。それぞれ、よく休んでおくように」


 よく休む。休めるときに休む。今の俺達に、仲間の死を(いた)んでいる余裕は無い。還らぬ者に固執する訳にはいかない。明日は我が身かもしれないのだから。その事実を噛み締めながら、俺、愛洲龍寿はグルリと周囲を見回した。


 天を衝く高壁が、東と西に(そび)え立っている。俺は今、城壁に挟まれた広場の上にいる。

 通称「中央広場」。今は仲間達の死体が並ぶ葬儀場だ。尤も、明日になれば訓練場になる。


 現在地はアダムス城塞の中腹、名称は「第二ベイリー」という。

 戦闘の有った第一城壁(外壁)と、その内側に聳える第二城壁(内壁)に囲まれた騎士達が住む区画だ。


 因みに、第二城壁の内側、城塞頂上付近は「第一ベイリー」という。エヴァンス辺境伯令嬢達が暮らす要人専用区画だ。勇者(俺達)と言えど、用も無く出入りできる場所ではない。


 俺達が自由に出入りできる区画は第二ベイリーと、城塞運営補助区画「第三ベイリー」。


 第三ベイリーは、第一城壁の外(東側)に設けられている。

 一応、城壁で囲まれているものの、他と比べて低く、薄い。そこでは農場や牧場などが運営されている。そこで生産される農作物や畜産物のお陰で、俺達は飢えずに済んでいる。逆に言えば、ここを破壊されると飢える。

 尤も、戦闘は第一城門の西側。第三ベイリーが戦場になった例は無い。今のところは。


 いつまで持ち堪えることができるのかね?


 先々のことを想像すると頭が重い。俺は「はぁ」と溜息吐きながら、中央広場の奥に視線を向けた。


 俺の視界に、様々な石製の建物が映り込んだ。それらは、どれも四角い重厚な石造り。俺の幼馴染が言うには「ロマネスク様式」なのだそうな。

 石製なのだから火事には強いだろう。しかし、地震のことを考えると、俺の首は斜めに傾ぐ。俺の脳内には、倒壊する建物群が閃いた。しかしながら、俺が覚えた不安は全くの杞憂だった。


 異世界アトリンには地震が無い。実際、俺が「地震は?」と尋ねると、「何それ?」と返されている。地震が無いとなれば、どれだけ高く石材を積み上げても良いだろう。

 実際、それぞれの建造物は三階建て、四階建てと、複数階層のものばかり。それらの殆どが武器や食料などの倉庫だ。後は――厩舎。

 それらの設備は「如何にも中世期の城塞」と言った印象を覚える。しかしながら、俺の知る中世とは全く異なる点も幾つか有った。


 アダムス砦には井戸、及び公衆トイレが無い。いや、「必要が無い」というべきか。何故ならば、異世界アトリンの都市は上下水道完備しているからだ。

 水道設備の構造や技術は、中世というより現代に近いようだ。水分補給も排泄も、それぞれの建物の中の設備を活用している。

 中世ヨーロッパの中に、現代の水道技術。流石に「オーパーツが過ぎる」とツッコミを入れたくなる。尤も、そのお陰で余計な苦労や気遣いをせずに済んでいる。有り難いことこの上なし。

 水道設備に件に関しては、俺だけでなく、他のアトリン学園中等部三年A組の生徒達も文句は言っていないと思う。その可能性を想像しながら、俺は建物群から視線を外して右隣を見た。すると、俺の視界に蘇芳(すおう)色の大鎧をまとった武者映り込んだ。


 アトリン学園中等部三年A組四十番、湊本水雲(ミナモト・ミナモ)。俺の幼馴染にして、今は無二の戦友だ。


 水雲は、俺と並んで立ち尽くしていた。時折手を合わせて念仏を唱えている。その様子を見て、俺も彼女に倣って手を合わせた。

 俺達が手を合わせていると、唐突に背後から掠れた声が上がった。


「御両人」「お疲れさん」


 俺達の背後に、白い金属鎧をまとった二人の騎士がいた。彼らは俺達に声を掛けた後、第二ベイリーの北奥へと歩いていく。

 ふと気になって、騎士達の進行方向を見た。すると、そこには四階建ての巨大建造物がそびえ立っていた。


 騎士達の寄宿舎、通称「騎士館」。


 騎士館は、城壁を除けば第二ベイリー最大の建造物だ。南北に一つずつ、ベイリー内を遮断するかの如くそびえ立っている。

 それぞれ、地上部分は四階建て。しかし、地下室が有る為、実質的には五階建てだ。それぞれの階層の用途は以下の通り。


 地下階層はシェルター、及び牢屋。第一階層は管理区画、及びメイド居住区画。第二階層から第四階層は騎士居住区画。


 因みに、居住区画は相部屋だ。騎士達は、相棒同士で一組ずつ、或いは二組ずつ住んでいる。

 他人と一緒に生活するとなれば、それなりに気まずい思いをすることも有るだろう。部屋の住民が変わる度、移動を嘆願する声が上がる。

 尤も、騎士館は飽くまで寄宿舎。騎士達には、それぞれ領地と本宅が有る。中には辺境伯領首都エヴァンスに屋敷を借りて、そこに家族を住まわせている者もいる。

 もし、長期休暇が頂けるのなら、殆どの騎士が帰省する。尤も、そんな機会は滅多に巡ってこない。少なくとも、俺と水雲が砦に就任して以降、帰省許可が出たことは一度も無い。


 アトリン砦は、毎週のように魔物の襲撃を受けている。騎士達が本宅に戻る機会が有るとすれば、物言わぬ状態になったときだけだ。その為、騎士間では「騎士館に居続けることが最高の幸運」と言われていた。


 ここ(最前線)にいる者にとって、生存自体が得難い幸運だ。


 俺の視界に、幸運な騎士達の背中が映っている。彼らを見ていると、俺の口角が勝手に吊り上がっていく。その変調に釣られるように、俺の脚が勝手に前に出た。

 俺もまた、騎士達を追ってきた奥へと歩き出した。すると、隣にいた水雲も一緒に歩き出している。一歩踏み出す毎に、北奥の巨大建造物(騎士館)との距離が詰まっていく。

 俺達の前を行く騎士達は、騎士館の中に吸い込まれた。その様子を視界に収めながら、俺達も騎士館の前までやってきた。


 騎士館の出入り口は、実は二階にある。そこに続く木製の階段を上った先に、外開きの木製扉が有った。

 後から来た騎士達が、俺達に声を掛けながら階段を上っていく。その様子を視界に収めながら、俺は水雲と一緒に階段を――素通りした。

 俺達は館の裏手の方に回った。


 騎士館の裏には、広大な菜園が有った。その奥に、ここ()では珍しい木造平屋の建物が有った。


 平屋を遠目に見ると、農具を収める納屋、或いは食糧庫。その可能性を想像すると、俺の口許が歪に吊り上がる。

 俺は顔に苦笑を張り付かせたまま、水雲と一緒に菜園の奥、平屋に向かって真っ直ぐ進んだ。そこに近付くほど外観がハッキリ見えてくる。

 平屋の外観は、俺に少なからず違和感を覚えさせた。


 大まかな形状は正方形。一応、中世風の建造物。しかし、建築様式はゴシックではない。全く別物だ。

 屋根は()に覆われている。壁は()()で、家の中には()()()()()()が有る。アトリンの人々には馴染みの無いものばかり。しかし、俺達日本人には馴染みのものだ。


 俺達が向かっている平屋は、中世日本の家、所謂「武家屋敷」。その事実を目の当たりにすると、未だに違和感を覚える。しかし、俺の首は傾かない。それどころか、口角を上げて頷いている。その反応が、俺の脳内に閃いていた。


 この家(武家屋敷)は、俺達が女神にリクエストしたものだもんな。


 武家屋敷は、俺達の装備(大鎧、和弓、櫂の木刀)と同じく、女神アトリリアからの贈り物(就任祝い)だ。他の生徒達も、それぞれの趣味に合わせた住処(すみか)が与えられているのだろう。

 尤も、互いの住処を確認する機会は巡って来ていない。その機会を得るときがあるとすれば、アトリンを救済した後になるだろう。

 果たして、それが叶うか否か? 現状維持が精一杯の状況では、望むべくもない訳だが。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。