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修学旅行は異世界で。The Summoned Students  作者: 霜月立冬


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第七話 職業選択の自由

 倒れた騎士達の体に、緑の光が幾つも灯っている。女神の巫女の回復魔法によって、騎士達の傷が消えていく。それに伴って、騎士達の顔に色が戻った。だからと言って、全回復という訳ではない。体力は空のままだ。

 それでも、回復した騎士達は働いた。


 騎士達は、二度と目覚めぬ仲間の鎧を剥ぎ、それぞれを分けて運んだ。余力の有るものは死体を担ぎ、無い者は鎧を担ぐ。

 肩に担いだ体は、昨日まで一緒に笑い合っていた仲間のもの。当時の出来事を想起して、話し掛ける者もいる。


 しかし、返事は無い。

 非情な現実を目の当たりにして、誰もが言葉を失った。


 皆、黙々と物言わぬ仲間の躯を運んだ。その様子は、宛ら死神の葬列だ。死者を担いで歩廊を歩く死神達。

 その中に、濃紺の鎧武者と蘇芳色の鎧武者の姿が有った。


 アトリン学園中等部三年A組、愛洲龍寿と湊本水雲。俺と、俺の幼馴染。


 日本の中学生の中に、死体運びの経験が有る者は少ないだろう。少なくとも、俺の知り合いの中にはいない。俺も、水雲も、ここ(異世界)に来るまで未経験者だった。

 尤も、「やったことがない」という言い訳は通じないだろう。俺も、水雲も、口にしたことは無い。


 共に戦った仲間の躯を放置する訳にはいかない。


 現況に於いて俺達が一番元気だ。できる奴がやる。それが、戦場で皆が生き残る為に為すべきこと。絶対的な不文律だ。

 俺達は、他の騎士達の三倍速で死体を運んだ。その際、俺と水雲も、死体を担ぎ上げる前に手を合わせている。


「「南無阿弥陀仏」」


 因みに、俺達の宗派は臨済宗(妙心寺派)。可能であれば線香の一本も供えたいところ。しかし、そんな気の利いたものはアトリン(異世界)には無い。

 尤も、女神アトリリア(造物主)に頼めば幾らでも出してくれるとは思う。俺達の装備も、俺達のリクエストに応えて創られている。


 濃紺の大鎧、蘇芳色の大鎧。それぞれの色に合わせた和弓。それから、櫂の木刀。全て俺達のリクエスト通り。しかも、女神の恩恵付き。

 自分達の装備を見ると、線香くらい余裕だろうと思わなくも無い。しかし、残念ながら現状では不可能だった。


 俺達は、既にアトリンに降臨している。女神と出会った場所(光の教室)と次元が異なっている。あちらが高位で、こちらが低位だ。

 あちらから俺達の姿が見えても、こちらから女神の姿は見えない。女神のいる位置は、俺達には分からない。

 尤も、例え俺達の声が女神に届いたとしても、彼女は「無視する」と断言している。何故なのか?


「大いなる上位神の意志です」


 女神達の造物主、上位神。その神様は、その名の通り更に高位の存在だ。性格も厳格で、女神の我が儘を聞いてくれるほど甘くは無い。「何でも有り」という訳にはいかないようだ。

 その話を聞いた際、俺達A組全員の眉間に深い皺が刻まれた。しかし、女神は全力で無視した。文句の言葉は、俺達の間では上がらなかった。皆、「言っても無駄だ」と諦めている。


 何れにせよ、郷に入っては郷に従う他無い。最初に与えられたものだけで何とかするしかない。その事実を思うと、肩に担いだ肢体の重みが増したように錯覚する。


「はあっ」


 俺の口から盛大な溜息が漏れた。だからと言って、作業を中断しない。当然ながら、今更配置換えを頼むことも無い。


 全部、自分で決めたこと。


 選択肢は、一応有った。アトリン救済を引き受けたとき、女神は俺達に二つの選択を提示した。


「職業と、就職先を選んでください」


 職業は魔物退治の戦闘職。就職先はエドモン王国内の各領地。前者、職業として提示されたものは以下の通り。


 戦士、狩人、魔術師。それから、騎士と武士。


 前者三つは所謂「専門職」。近接攻撃、長距離射撃、魔法に特化している。

 後者の二つは「複合職」。近接と魔法、近接と長距離射撃。それぞれに特殊能力を持っている。


 俺達三年A組の中で、最も人気が高かった職業は騎士だ。

 騎士を選んだ生徒は五十名中、二十五名。次点が魔術師で八名。戦士と狩人が七名ずつ。

 最も人気が無かった職は、何と武士。俺と水雲と、後一人。そいつは「皆と違うのは宜しくない」と、後から騎士に鞍替えしている。


 何故、武士は不人気だったのか? その理由は、生徒間の会話で窺い知ることができた。


「洋風の世界に和風は無い」「世界観ぶち壊しだよね」


 最初に言い出した生徒達が、それなりに影響力が大きかった。その為、他の生徒達は簡単に(なび)いてしまった。

 靡かなかった生徒は俺と水雲だけだ。この傾向は、就職先を選ぶ際にも反映されている。


 就職先に、殆どの生徒は「王都」を選択した。それ以外の場所(エヴァンス辺境伯領)を選択した者は、やはり俺と水雲だけ。しかし、俺達に後悔は無い。


 俺達にとっての第一義は「アトリン救済」。一秒でも早くレベルを上げて、一日でも早く魔物を駆逐する。その最善と思える方法を選択した。


 対して、他の生徒達は安全な方法を取った。道が分かれた。彼らは安全な街道側から、悪路を選んだ俺達を見て笑う。


「そんなんだから、ぼっちなんだよ」「協調性の欠片も無し」


 笑い声が起こる度、俺の眉が歪に吊り上がる。しかし、何も言わない。反論する気は当の昔に潰えている。

 俺も、水雲も、自分の意見を曲げず、武士としてアダムス砦に赴任した。その結果、俺達は死体を担いで血に塗れた歩廊を往復し続けている。

 死体と血で溢れた戦場が、今の俺達の居場所だ。「幸せ」とは言い難い。それでも、後悔は無い。


 俺達は、それぞれ自分の道を行く。今までも、これからも。

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