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修学旅行は異世界で。The Summoned Students  作者: 霜月立冬


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第五話 アダムス砦攻防

 空に暗雲が立ち込めている。その曇天の下、高さ二十メートルも有る絶壁が伸びていた。

 絶壁は、石を積み上げた高壁、城壁だ。その一部、木製の大扉の前に黒山の人だかりができている。

 その集団は、全員人間ではなかった。


 小鬼、豚面の鬼、犬頭の鬼。ゴブリン、オーク、コボルト。

 ファンタジー界隈では知らぬ人がいないほど有名な人型の魔物達。


 魔物達は、閉じられた巨大木製の扉、城門を押し開けようとしている。しかしながら、それぞれの装備は石器時代を彷彿させるお粗末なもの。突破するには、それなりの時間が掛かる。その間、奴らの頭上に大量の矢が降り注いでいる。


 矢を放っている者は、城壁の上にいる白い金属鎧をまとった人間達。彼らは城砦を守る騎士だ。それぞれ同じ騎士団に所属している為、装備の意匠は同一。

 だからこそ、変わった衣装が混じれば目立つことこの上ない。


 城壁の歩廊の中に、異質な格好をした一組の男女がいた。

 男の方は濃紺の鎧、女の方は蘇芳色の鎧をまとっている。色の違いだけでも目を惹く。しかし、それ以上に異質な要素が有った。鎧の種類が全く異なっている。


 騎士達は、西欧風のコンポジットアーマー。

 その男女は、和風の大鎧。

 それぞれが手にした武器も、全く違う。


 騎士達の弓は長弓(ロングボウ)

 その男女の弓は和弓。当然ながら、弓の構え方も異なっている。

 騎士達は弓の中ほどを握っていた。武士然とした男女は弓の下方、三分の一ほどの箇所を握っている。事情を知らない者が見れば、首を傾げているだろう。


 一体、あの男女は何なのか? どこの所属の者か? 


 その疑問の答え、男女の正体は、この場にいる騎士達は全員知っている。当然ながら、当の本人(俺)も知っている。


 濃紺の武者の名は「愛洲龍寿(アイス・リュウス)」。即ち俺。

 蘇芳の武者の名は「湊本水雲(ミナモト・ミナモ)」。

 女神アトリリアが召喚した、救国の勇者達。俺達は今、城塞戦の真っ只中にいる。


 俺は、左手に握った和弓に矢を番え、弦を思い切り引き絞った。その際、右隣にいる水雲も、俺と同時に弓を引き絞っている。

 因みに、俺達に弓道の心得は無い。そもそも弓を握ったことすらなかった。それでも、俺達が放った矢は、狙い通りに魔物(ゴブリン)の頭を貫いている。その成果を直感する度、俺の全身の毛が逆立った。


 俺に、こんなことができるなんて。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。しかしながら、俺達の力だけで現況を覆すことは難しい。多勢に無勢。城門の周りは魔物でごった返している。

 一匹二匹と消えたところで、眼下の光景は代り映えしない。むしろ、魔物の数が増しているように錯覚する。


 これ、どうにかなるのかな?


 現況を鑑みる度、俺の首が傾ぐ。だからと言って、諦める気は更々無い。

 俺は魔物を射続けた。それを繰り返すことが、今の俺にできる最善策だ。しかし、この状態を維持できるほど、現実も相手も甘くは無かった。


 魔物の集団の後ろに、長大な梯子が現れた。合計で十本ほど。それぞれが城壁に立て掛けられている。

 魔物の梯子は城壁最上部に届いていた。その事実を直感したときには、既にゴブリンやコボルト達が超速で梯子を駆け上がっている。


 俺達は直ぐ様梯子の魔物を射た。矢が刺さった魔物達が転げ落ちていく。しかし、焼け石に水だ。

 魔物達は諦めない。次から次へと上ってくる。とても間に合わない。

 終に、一匹のコボルトが胸壁に手を掛けた。それを払おうと騎士が迫った。その直後、コボルトを飛び越えて、他の魔物が次々歩廊の中に飛び込んだ。


 歩廊は魔物で埋め尽くされた。俺達は魔物に取り囲まれた。この期に及んで弓を番える訳にはいかない。

 騎士達は長弓を床に置いて、腰に差した長剣を抜いた。その様子を見て、俺も、水雲も、和弓を床に置いた。続け様に、目の前に聳え立つ胸壁を見た。


 胸壁には、長大な木刀が二本立て掛けてあった。それが、俺達の近接武器だ。それそれ木刀に間違いない。しかし、奇妙な形をしている。


 二本とも、水雲どころか俺の身長さえ超えている。しかも、刀身の幅が異様に広い。俺の太腿ほどは有るだろうか。丸太――という訳ではない。平べったい。

 木刀の形状は、見る者に「舟の櫂」を彷彿させる。その想像は、実は正鵠を射ていた。


 櫂の木刀。江戸時代の剣豪、宮本武蔵が巌流島の決闘に用いた武器だ。佐々木小次郎の長大な刀(物干し竿)に勝る、長大な刀身を持っている。

 尤も、俺が手にしている木刀は、オリジナル(舟の櫂)とは形状が異なっている。木刀として開発されたもので、幅広の刀身は反り返っている。我ながら、マイナーな武器だと思わなくもない。少なくとも、宮本武蔵の名前ほど知られていない。

 そもそも、自分の格好(防具)を鑑みれば打刀、或いは槍が妥当だろう。しかし、俺も、水雲も、故有って櫂の木刀を選んだ。

 そもそものそもその、俺達は日本の中学三年生。刃物を使って生き物を切った経験は、殆ど無い。その為、肉を切る感触が手に伝わることに躊躇いを覚えて止まない。相手が生きているとなれば尚更だ。だからと言って、攻撃を躊躇う訳にはいかない。

 水雲と相談した結果、俺達は「近接武器は木刀」と決めた。その際、「大きな魔物を相手にするから」と、長大な木刀、即ち櫂の木刀を選択した。


 俺も、水雲も、自分達が選んだ櫂の木刀に持ち替えた。木製の柄の感触が、俺の右掌に伝わっている。それを直感した瞬間、俺は水雲に向かって声を上げていた。


「行こう」


 俺の視界に映った蘇芳色の兜が、微かに上下した。その反応を見るや否や、俺は木刀を八双に構えた。水雲も、同じ構えを取っている。その状態を維持したまま、歩廊に侵攻してきた魔物に突撃。間合いに入るや否や、思い切り木刀を振り下ろした。


 俺の木刀がコボルトの頭を割った。

 水雲の木刀がゴブリンの頭を割った。

 頭蓋骨を割った感触が、俺達の両手に伝わってくる。

 不気味だ。しかし、もう慣れた。この凄惨な状況が、今の俺達の日常なのだ。


 俺達がいる場所は最前線基地。この地を治めるアダムス・エヴァンス辺境伯爵様の名前に因んで「アダムス砦」という。今のところ、異世界アトリンに於ける唯一の戦場だ。その事実は、アトリンの造物主、女神アトリリアから聞かされている。それでも、いや、だからこそ、俺達は勇者の就任地として()()を選んだ。


「実戦で能力を発揮する為には、実戦で鍛えるべき」

「習うより、慣れろ」


 俺も、水雲も、敢えて火中の栗を拾った。これが俺達の考える最善手。しかし、他の生徒達から賛同は得られなかった。


 他の生徒達は、全員転送先にエドモン王国の王都を選択した。王都はエヴァンス辺境伯領とは真逆の最東端に在る。王国内で最も安全な場所と言える。


「実戦に出るのは、それなりに実力を付けてから」


 A組四十一番、学年主席の麦生孝雄(ムギオ・タカオ)の言葉に、大多数の生徒達が同意した。俺達の考えとは全く違う。

 しかし、俺も水雲も何も言わない。それどころか「そういうのも有るのか」と認めている。だからと言って、迎合はしない。

 麦生から「こっちにこいよ」と誘われたときも、俺達はキッパリ断った。


「それぞれが最善と思うことをすれば良い」


 俺達は当初の予定通りアダムス砦に着任した。

 果たして、どちらのやり方が正解なのか? その結論は未だ出ていない。今のところは。

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