↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
修学旅行は異世界で。The Summoned Students  作者: 霜月立冬


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
27/29

第二十七話 風前の灯火

 王都陥落。その凶事が俺、愛洲龍寿(アイス・リュウス)の耳に入った瞬間、


「「「「「はっ?」」」」」


 俺も、俺の右隣にいた湊本水雲(ミナモト・ミナモ)も、周りの騎士達も、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして固まっていた。


 エドモン王国の王都は、王国の最奥、アトリン大陸の最東端に位置している。この世界の中で最も安全といえる場所だ。

 そもそも、敵対している魔物はアダムス砦で抑え切っている。


 何故、王都が陥落したのか? 考えたところで「これか」と納得できる理由は閃かない。そもそも、王国最東端にいる俺達に分かるはずもない。分からなければ、分かる者に尋ねるまで。


「どうして?」

「…………」


 俺は凶事を知らせた白いローブをまとった二十代後半の女性に尋ねた。

 その女性、巫女長代理のクラウディア・クラウディウス様は、俺の質問には直ぐには答えなかった。

 クラウディア様は、無言で震える両手を掲げて、右手に握り締めていた紙片を広げた。


 その紙片は、伝書鳩の便箋(びんせん)だった。クラウディア様は便箋の内容を見詰めながら震える声を上げた。


「詳しい内容は分かりかねますが――」


 クラウディア様は、彼女の憶測を交えながら凶事の内容を語り出した。その内容を要約すると、以下の通り。


 エヴァンス辺境伯令嬢達が王都に旅立った後、彼女達の父、アダムス・エヴァンス辺境伯爵様は毎日のように王都に向けて伝書鳩を放っていた。

 最初の頃は、王都からも返事が有った。しかし、「二人の令嬢が王都に着いた」という報告を最後に、返事がパッタリ届かなくなっている。

 アダムス様は王都の異変を想像して、保有している全ての鳩を王都に向けて放った。しかし、その行為は徒労に終わった。

 鳩達は、アダムス様が書いた便箋を持っても取ってきた。


「鳩が駄目なら人間で」


 アダムス様は王都に向けて使者を送った。

 王国の西端から東端までは、それなりに距離が有る。飛行できる鳩と違い、地形の影響も、それなりに受ける。昼夜問わず早馬を走らせ続けても、それなりに時間が掛かった。

 伯爵令嬢達が王都に旅立ってから、凡そ一か月経った。それだけの時間が経過して、漸く彼女達の父親は娘達の状況を知ることができた。


「王都は焼け野原になっておりましたっ。魔物しかおりませんっ!」


 エリカ様、エミリア様、エヴァンス辺境伯爵令嬢達の安否は確認できなかった。城門に魔物が張り付いていて近付けなかった――とのこと。

 ここまでが、現時点で分かっている、いや、憶測できる王都の状況だ。

 

 クラウディア様の話を聞き終わったとき、俺や水雲を含めた全員の顔が土気色になっていた。その表情の意味が、俺の口を衝いて出た。


「最悪だ」


 王都が陥落したとなれば王国の敗北は確定的。しかし、俺には敗北よりも気になることが有った。


 三年A組の皆は無事なのか?


 俺の脳内に、クラスメイト達の顔が次々閃いていた。それら一つひとつを意識する度、俺は確認したい衝動に駆られた。俺の脚が勝手に動こうとする。

 しかし、俺は堪えた。俺の視界の端には、今もなお押し寄せ続けている魔物の大群が映っている。流石に、()()を放置して王都に向かうことは躊躇(ためら)われた。その代わり、周りの騎士達に向かって現況に於ける最善策を提案した。


「あの魔物を倒してから、直ぐに王都に向かいましょうっ!」

「「「「「応っ」」」」」


 騎士達が大声で応えてくれた。その反応を目の当たりにして、俺達は再び弓を構えて、矢を番えて放つ――つもりだった。ところが、その行為は途中で止められた。


 俺達が攻撃を再開しようとした矢先、歩廊の途中に聳える城塔から白い鎧をまとった大柄な壮年男性が飛び込んできた。


 騎士団長代理、ヴォルフ・オルフ様。彼は一人ではなかった。その傍らには軽装の若年男性の姿が有った。


 若年男性は――知らない顔だ。その事実を直感した瞬間、俺の額に冷汗が滴った。嫌な予感がした。それは、ヴォルフ様の言葉で具現化した。


「たった今、エヴァンス(伯爵領の首都)から使者殿が参られた」


 エヴァンスの使者。恐らく、ヴォルフ様の傍らに立つ男性のことだろう。その可能性を直感したところに、ヴォルフ様の硬質な声が響き渡った。


「皆、心して聞いてくれ」


 ヴォルフ様は、俺達に隣の男を紹介しなかった。そんな精神的余裕は、今の彼には無かった。その理由が、隣に立つ男の口から飛び出した。


「エヴァンスは、我らの都は――陥落しました」

「「「「「「!?」」」」」


 王都に続いてエヴァンスまで陥落。その報せを聞いた瞬間、場の空気が凍り付いた。


 領都エヴァンスは、アダムス砦から最寄りの城塞都市。ここが陥落したとなれば、他の都市が無事とは考え難い。最悪の可能性が、俺の脳内に閃いていた。


 エドモン王国が滅んだ。


 国の殆どを魔物に取られた。城塞一個残ったところで何の意味が有るだろう。だからと言って、魔物相手に白旗を振っても意味は無い。


 俺達は、どうすべきか?


 俺の疑問に、ヴォルフ様が答えてくれた。


「徹底抗戦だ」


 ヴォルフ様の言葉に、俺や水雲、騎士達は土気色の顔を上下に揺らして頷いた。


「エヴァンスを襲った魔物は、ここに押し寄せるだろう。非戦闘員は宮殿(第一ベイリーの要人館)に避難させる。お前達は眼前の敵を頼む」

「「「「「了解」」」」」


 異世界アトリンに於ける人類最後の抵抗が始まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。