↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
修学旅行は異世界で。The Summoned Students  作者: 霜月立冬


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
24/29

第二十四話 嫉妬する者

 王都エドモンにドラゴンがやってきた。と、言っても死体なのだが。ともあれ、その事実を知らされて、僕、麦生孝雄(ムギオ・タカオ)他の勇者(クラスメイト)達と一緒に王都のメインストリートにやってきた。


 西洋風の町並みを貫く陸の大河。今は建国記念日(さなが)らの活気で満ちている。

 大道の両端に並んだ建物群は、王都中の人で溢れ返っていた。軒下は元より、窓も、屋根も人だらけだ。その状況を見て、僕は街全体が満員電車になったかと錯覚した。

 実際、軒下にいる僕らは鮨詰め状態。勇者(僕ら)に対して不敬だと思わなくも無い。実際、愚痴を零している同級生もいる。

 しかし、僕らの声に耳を傾ける者は、誰もいない。


 皆の視線と意識は王都の南、大城門に集中していた。そちらをジッと見詰めている内に、群衆から雪崩(なだれ)のような歓声が上がった。

 轟音が僕の耳を激しく叩く。とても痛い。平時であれば耳を抑えている。しかし、僕の両手は動かない。体も微動だにしていない。

 僕の意識は、大城門から現れた巨大な山に釘付けになっていた。


 煤けた赤黒い山――のような魔物(遺骸)。


 長大な荷車に乗った魔物の巨躯を目の当たりにした瞬間、僕は魔物の正体を直感した。


 あれがドラゴン。


 体長は五十メートルほど有るだろうか。今まで見た魔物の中でダントツの巨躯だ。その戦闘力を想像すると、僕の額に汗が滲んだ。その変調を意識した瞬間、僕は声を上げていた。

 僕が零した独り言は、僕が覚えた印象とは真逆の内容だった。


「僕一人でも倒せそうだな」


 自分の言葉が耳に入った瞬間、僕の眉根が歪んだ。しかし、口角は一層吊り上がった。いや、無理矢理釣り上げている。その言動は、他の勇者達の目や耳に入っていた。

 僕の言葉を皮切りに、他の勇者達が次々声を上げた。


「俺一人で余裕」

「だよね。あれくらいなら」

「生きているときに会いたかった」


 皆、強気な発言をしている。それを聞いていると、僕の口角が増々上がっていく。

 このとき、僕らの誰もがドラゴン討伐の可能性を信じていた。それなりの根拠も有る。()()が、街路を埋め尽くす人々の口から飛び出した。


「あれを倒した勇者は、たった二人なんだよな」

「あんな化けドラゴンを、たった二人で――なあ」

「アダムス砦の勇者なんだよな」


 ドラゴンを討伐した勇者。アダムス砦にいる愛洲龍寿(アイス・リュウス)湊本水雲(ミナモト・ミナモ)だ。


 どちらもクラス内カーストの底辺、所謂「ぼっち」。それぞれの能力も、飛び抜けて優秀という訳ではない。少なくとも、僕ほど(学年主席)ではない。

 運動能力も、特筆するものは無いだろう。どちらも帰宅部。表彰されるような成績は残していない。

 僕に言わせれば、どちらも「中の下」程度。あの二人より優秀な生徒は、僕を含めて何人もいる。


 あの二人にできることが、僕らにできない訳がない。


 国王アイオーン陛下が言うには「ドラゴンは伝説上最強の魔物」とのこと。あの二人でも倒せたのならば、既に僕らに敵う魔物はこの世界にいないだろう。


 何だ、楽勝じゃないか。


 終わらせようと思えば、いつでも戦争を終わらせることができる。だからと言って、実行する気にはなれない。王都での生活は余りに快適だ。


 異世界アトリンにいれば、授業を受けなくて良い。好きなことだけしていれば良い。誰にも注意されないし、文句も言われない。


 不自由の無い生活を捨てて、不自由する生活を選ぶ者は少ない。僕らの中ではアトリン砦の二人だけだろう。

 あの二人が得られなかったものを、僕らは存分に満喫している。

 しかし、あの二人だけしか得ていないものも有った。その事実が、今、僕らの視界の中に映っている。


 ドラゴン討伐の栄誉。それを得た二人には、アイオーン陛下から最高の称号が送られた。


 ドラゴンが王城の敷地内に運び込まれた後、僕らは謁見の間に集められた。その場にはエヴァンス辺境伯領から来た二人の特使の姿が有った。


 エヴァンス辺境伯の双子の姉妹。エリカ・エヴァンスと、エミリア・エヴァンス。


 二人とも、幻想的なまでに美しかった。しかし、僕らの誰も心を奪われなかった。それ以上に気になる言葉が、広間最奥の雛壇の最上部、玉座に座るアイオーン王から発せられた。


「愛洲龍寿、湊本水雲。この二名の勇者に『アトリンの騎士』の称号を与える」


 アトリンの騎士。アトリン全土を救った英雄に与えられる最高の称号だ。殆どの場合、戦死した際に送られているようだ。生きたまま叙勲(じょくん)した者は、二人が初めてとのこと。その事実は、王都中の人々を熱狂させた。


 王都中、どこにいても「愛洲龍寿」と「湊本水雲」の名前を聞いた。その度に、僕らは渋面を浮かべた。続け様に、互いの口から愚痴が零れた。


「あの二人にできることが」

「僕らにできない訳がない」

「ドラゴン、王都まで来い」


 僕らはドラゴンの来訪を念じていた。そのような言動を繰り返している。その言霊は、存外早くに具現化した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。