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修学旅行は異世界で。The Summoned Students  作者: 霜月立冬


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第二十話 藁にも縋って

 赤、赤、赤。城壁に囲まれた五ヘクタールの箱庭が真っ赤に染まっている。その色に塗れた個所は、その殆どが真っ黒に炭化した。

 石さえも炭に変える灼熱の炎。その凶悪な現象が、アダムス砦の頂上部、第一ベイリーを埋め尽くしている。ベイリー内にいる人間が無事で済むはずも無い。全身に金属鎧をまとっていても、炎の熱までは防げない。

 大火に巻かれた者は、漏れなく炭化した。しかしながら、生き残った人間もいる。


 咄嗟に建物の影に入った者は難を逃れていた。騎士団の半数が生き延びている。

 俺、愛洲龍寿(アイス・リュウス)の場合はどうか? 残念ながら、俺の状況は絶望的だ。

 

 俺の周囲に遮蔽物は無い。それどころか大火のど真ん中にいる。最悪だ。炎を防ぐ手立てがない。そのはずだった。

 ところが、俺は無事だった。何故か? その理由は、俺の前にいる蘇芳(すおう)色の鎧武者、湊本水雲(ミナモト・ミナモ)に有った。


 俺が炎に巻かれる直前、水雲は俺の前に出ていた。続け様に、両手に握った櫂の木刀を大上段に構えて――


虚空刃(コクウジン)っ!」


 武士の最終奥義を発動した。虚空刃は、あらゆるものを両断する。炎も例外では無かった。

 水雲の虚空刃によって、俺達に迫っていた炎は真っ二つに割けている。そのお陰で俺は助かった。しかしながら、状況は最悪のままだ。

 俺達の正面、ベイリー最東端には炎の源泉、全高二十メートルの赤い活火山がそびえ立っている。


 火を吐く魔物、ドラゴン。


 生き残りたければ、ドラゴンを倒す他ない。しかし、それなりに手強い。奴に通用する攻撃手段は、先ほど水雲が放った虚空系の必殺技だけだろう。

 だからと言って、虚空の技を連発することには躊躇いを覚える。「一日五回まで」という回数制限が有るからだ。


 俺と水雲は、最初の攻撃で虚空射(コクウシャ)を使った。それぞれの残数は、俺が四回、水雲が三回だ。

 合計七回。他の魔物であれば「十分過ぎる」と口角を上げているところだ。

 しかし、ドラゴン相手では笑えない。その理由が、俺の脳内に閃いていた。


 ドラゴンは回復魔法を使う。


 致命傷すら瞬時に回復する奇跡の技。単に攻撃を当てるだけでは、奴は倒せない。その事実に付いて考えると、俺の脳内に一つの可能性が閃いた。


 一撃必殺。


 一撃で倒してしまえば回復魔法を唱えることはできない。尤も、この方法を実行する為には、解決必須の問題が有った。


 一撃で倒すには、どこを攻撃すれば?


 最初の攻撃でドラゴンの頭を吹き飛ばした。しかし、奴は死ななかった。頭の上半分を失って尚、回復魔法を唱えて完全に修復している。

 当時の光景を想起すると、俺の全身から「ザザッ」と音を立てて血の気が引いた。全身から力が抜けていく。立っていられない。だからと言って、膝を着いている場合ではない。

 俺は眉間に皺をよせながら、攻撃箇所を求めてドラゴンに視線を巡らせた。


 頭、首、胸――と、視線を這わせている最中、俺の脳内に「上下逆様の鱗」が閃いた。


 もしかして、あれが弱点とか?


 ドラゴンの首元の有った、上下逆様の鱗。

 ドラゴンが回復魔法を使った際、鱗の奥から赤い光が溢れ出している。炎を吐いたときも同様だ。その現象の意味は、正直良く分からない。

 しかし、俺の脳内には鱗の正体を示唆する一つの可能性が閃いていた。


 あの奥に、魔力回路が有るかもしれない。


 魔力回路。勇者の必殺技、及び巫女の回復魔法の「源泉」と言える器官だ。それを破壊したならば、魔法を封じることができるかもしれない。その可能性を想像した瞬間、俺は声を上げていた。


「水雲」

「ん?」

「あいつの――えっと、弱点(仮)を狙う」


 弱点。口にしてみたものの、断言することには躊躇いを覚えた。しかし、相手は気の置けない幼馴染。

 水雲は、俺が言い淀んだ言葉の意味を理解していた。


「赤い光?」


 水雲の言葉に、俺はコクリと頷いた。しかし、俺の眉は僅かに歪んでいる。その微妙な表情の意味が脳内に閃いていた。


 水雲は、あの鱗を見ていないのか?


 上下逆様の鱗の存在。

 胸鎖関節辺りから発せられた赤光は、赤い巨躯を一層赤く染めている。その状態から一枚の鱗に注目した者は、存外に少ない。

 そもそも、ドラゴンの正面に立っていた者は俺と水雲だけ。水雲が見ていないのならば、該当者は俺だけだ。


 俺が、やるしかない。


 しくじれば、この場にいる全員の命運が尽きる。その可能性を思うと頭の重量が増していく。それに伴って、視界の明度が極端に下がった。息をするだけで生命力が失われていくように錯覚する。一年前の俺ならば、耐え切れずに膝を着いている。

 しかし、今の俺は勇者レベル百十二。それなりに修羅場を潜った。精神の方も、それなりに強化されている。


「俺が倒す」


 俺は水雲に向かって宣言した。俺の言葉は、水雲の耳にシッカリ届いている。

 水雲は、俺に背中を向けながら声を上げた。


「お願い」


 水雲の言葉に、俺はコクリと頷いた。続け様にドラゴンに視線を向け、その首元を凝視した。


 狙いは一枚の鱗。それを貫く手段は有る。後は実行するだけだ。

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