第十四話 王都の勇者達
剣と魔法の世界、アトリン。僕、麦生孝雄は、アトリン学園中等部三年A組のクラスメイト達と一緒に異世界にいる。
現在、僕らはアトリン最大の陸地、アトリン大陸の東端在る城塞都市に住んでいる。
都市の名前は「エドモン」。大陸の東側を席巻するエドモン王国の王都。
魔物に世界の半分を奪われた状況にあって、王都は「最も安全な場所」と言える。その上、「最も豊かな場所」であった。
王都は、大陸東端の森林地帯を切り開いて築かれた。資源が豊富で、魔物の出現頻度も低い。少なくとも、都市内にいる限り魔物に襲われることは無い。その為、都市の住民達は労働に専心することができた。日々の糧食に困ることも無い。むしろ有り余っているくらいだ。
王都の住民は、誰も魔物のことなど忘れて生活している。だからと言って、僕ら女神の勇者を蔑ろにはしない。それどころか国を挙げて厚遇している。
僕らが王都に来た際、直ぐに国王陛下の前に召し出された。その席で、国王アイオーン・エドモン陛下は高らかに宣言した。
「勇者の方々は我らの希望にして宝。余は彼らを女神様と同様のものとして、丁重に扱うことを約束する」
アイオーン陛下の言葉は、発言した当人だけでなく、王都に住む人々が全力で具現化した。
僕らの棲み処として、王城と比肩するほど大きな建物を与えられた。
外観も城なら内装も城。僕らが知る高級ホテルを凌駕するほど豪華だ。僕らが宛がわれた部屋も言わずもがな。各個に身の回りの世話をする専属の侍従まで付けられている。
僕らは何もしなくて良かった。しかも、ここには口煩い大人達がいない。一日中寝て過ごしていたとしても、誰からも文句は言われない。だからと言って、寝たり、遊んだりしてばかりもいられない。
僕らは勇者だ。世界を救う使命がある。
僕らには、僕らにしかできない仕事が有った。
魔物退治。尤も、先述の通り王都に魔物は殆どやってこない。その滅多にない機会が、僕らに与えられた唯一の仕事だ。その内容は、ハッキリ言って「楽」だ。
王都に来る魔物は、どれも弱っていた。そいつらの姿を見る度、僕の脳内に「敗残兵」という言葉が閃いた。
魔物の侵攻は王国最前線基地、アダムス砦が防いでいる。あちらに出向した勇者、愛洲龍寿と湊本水雲は、それなりに頑張っているようだ。
王都に来る魔物達は、アトリン砦の戦闘から逃げ出してきた個体と思える。真面な武器すら持っていない。
実際、鼻で笑いたくなるほど弱い。いや、僕らが強いだけなのかもしれないが。
僕らは人数も多く、勇者の職種(戦士、魔術師、狩人、騎士、武士)も豊富だ。様々な事態に対応できる。
しかも、それぞれの職種は、僕ら本来の適正に合わせている。
僕のような成績上位者(因みに、僕は学年主席)は魔術師を選択した。
運動部に所属している生徒は戦士、或いは騎士だ。
成績が振るわず、運動にも自信が無い者は狩人。
凡庸、いや、平均的な生徒は全員騎士を選択している。
因みに、武士を選択した者は少ない。少なくとも王都にはいない。
そもそも、洋風の世界に和風の武士など場違いも甚だしい。その職種が有ること自体が意味不明だ。それを選ぶ者も、場の空気を読めない変わり者。
愛洲龍寿と湊本水雲。誰とも馴染まず、いつも一人で過ごしている。
僕が王都に誘ったときも、あいつらは「自分のやりたいようにする」と勝手なことを言って断っている。
その出来事を想起する度、僕の眉が歪んだ。しかし、口角は上がっている。
あいつらが頑張っているから、僕らは楽できる。
愛寿達は、僕らの楽園を支える礎だった。その事実を思うと、僕の口の端は一層吊り上がった。
僕らは、愛洲達が弱らせた魔物を狩るだけで良い。
安全にレベルを上げることができる。しかも、国王から報奨金まで貰える。それで得たお金を、僕らは存分に使い倒した。
王都には、娯楽施設もそれなりに有った。その中には、僕らの年齢では禁止されているものも含まれている。しかし、ここには僕らを咎める大人達はいない。
僕らは欲望の赴くまま享楽に耽ることができた。それらの行為に対する躊躇いは、今はもう全く無い。
現況に付いて鑑みる度、僕らの口から朗らかな笑い声が上がった。
「ずっと、ここで暮らしたい」
アトリンに来て半年ほど経った。ここに来た当初は、早く元の世界に戻りたくて仕方が無かった。しかし、今は真逆だ。僕らは永住を希求するようになっている。
少しでも長くこの場に残る為、僕らはアダムス砦への出向要請を拒否し続けた。国王も、僕らに無理強いはしない。
僕らは王都というコンフォートゾーンから離れる気は毛頭無い。可能な限りしがみ付く。それが、僕ら王都に住むアトリン学園三年A組生徒の総意だった。




