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5.職人たちの誓い

それからさらに時が流れた。


長女マルガレーテは十七歳、次女ロッテは十三歳、三女エマは十一歳。

そして、四女ハイディは九歳になっていた。


九歳になったハイディの強欲さは、もはや留まるところを知らなかった。姉たちのギルドが世界中から莫大な富をかき集めている事実を知った彼女は、ギラギラとした目を輝かせて二人の前に立ちはだかった。


「ずるいわお姉さま!世界中のお金を集める素敵な場所を独り占めするなんて。そのギルド、ハイディにちょうだい!」


あまりの暴論に、ロッテは呆れ果てた表情を浮かべた。


「ハイディ、ギルドの経営はとても大変なのよ。あなたにできるの?」

「そうよ、計算や契約書作ったりしなきゃいけないのよ」


エマも眉をひそめるが、ハイディは聞く耳を持たない。


「作れって命令すればいいんでしょ?簡単じゃない!私に譲るのが嫌だからって嘘までついて、ずるいわお姉さま!」


案の定、背後から父王レーモンが現れる。


「姉なら譲ってあげなさい。ハイディは何も持ってないのだから、それくらい当然だろう」

「……わかりましたわ、お父様」


マルガレーテが静かに微笑んでロッテとエマを宥め、ギルドの権利はあっさりとハイディに譲渡されることになった。引き継ぎ期間は半年。

ハイディは「ふふん、これで私は大金持ちね!」と鼻高々だ。


その日の夜、城下の時計ギルドの秘密の地下室に、主要な職人たちが集められていた。


ロッテは集まった親方たちの前で、深々と頭を下げた。


「みんな、本当にごめんなさい。私の力不足のせいで、ギルドの権利が四女のハイディに渡ることになってしまったわ。みんなをあの子の我が儘に巻き込むわけにはいかないから、今後の身の振り方を……」


ロッテの言葉が終わる前に、時計職人の頑固な大親方がドンと机を叩いて立ち上がった。


「冗談じゃねえ! 俺たちのボスは、寝食を忘れて一緒に歯車を磨いてくれたロッテ姫様だけだ! あんな我儘お化けのお猿の命令なんて、誰が聞くかってんだ!」

「そうだそうだ!」

「姫様がいないギルドなんて、ただの箱だ!」


他の職人たちも口々に叫び、ロッテへの揺るぎない忠誠を誓う。

レースギルドの職人たちも同様だった。エマのデザインを愛する彼らは、ハイディの下で働くことなど微塵も考えていなかった。


「みんな……ありがとう」


ロッテの瞳に、熱い涙がにじむ。その背後から、マルガレーテが優雅に姿を現した。


「皆さん、その熱い言葉を待っていましたわ。では、私たちの秘密の計画を話しましょう。この半年間の引き継ぎ期間の間に、前代未聞の『もぬけの殻作戦』を実行します」


マルガレーテの提案により、計画は一気に始動した。


ロッテとエマは、ギルドの重要な機械や特許、精巧な道具の所有権を、すべて信頼できる職人たちの個人名義に変更。さらに、親方をはじめとする熟練の職人たちとその家族全員を、夜逃げを装ってマルガレーテ達の親戚がいる大国アルビオンへ同時に移住させる手配を済ませていった。


建物と「ギルド」という名前だけを残し、実働する人間と技術、そして蓄えてきた莫大な資産を持参金としてすべて海外へ持ち出すのだ。


何も知らず、大金持ちになる夢を見てドレスのカタログを眺めるハイディ。


お姉様たちと職人たちの間に結ばれた、本物の信頼の絆を知る由もないまま、破滅へのカウントダウンが始まっていた。

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