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4.二つのギルド

四女ハイディが王子たちの前で浅ましい色仕掛けに失敗(本人は色香に溺れさせたと思いこんでいる)している間、姉たちの快進撃は止まらなかった。


次女のロッテは十二歳。理系の才能を遺憾なく発揮していた彼女は、趣味の機械いじりが高じて、大国アルビオンから時計の専門家を招請していた。


「なるほど、この歯車の噛み合わせを少し変えるだけで、これほど時間が狂わなくなるのですね!」


ロッテは専門家から貪欲に構造や知識を学び、城下の職人たちに最新技術を伝授。そうして、独自の「時計ギルド」を設立したのだ。


彼女の凄さは、単に正確な時計を作るだけに留まらなかった。

三女のエマがデザインした、美しい宝石や細工を施した装飾時計へと価値を引き上げたのだ。


「ロッテお姉様の時計に、この金の透かし彫りを合わせたら、とっても素敵よ!」


十歳になったエマは、おしゃれが大好きな美少女へと成長しており、独自の色彩感覚を持っていた。


この美しい装飾時計は、持つことが諸外国の高位貴族や王族のステイタスとなり、生産数は少ないものの、莫大な利益を叩き出した。ロッテは若くして、国家予算並みの富を持つ大金持ちになったのだ。

職人たちとの信頼関係も非常に厚く、難しい注文でも「ロッテ姫様のためなら!」を合言葉に、皆が寝食を忘れて頑張ってくれるほどだった。


一方、三女のエマも負けてはいない。


刺繍の趣味が高じた彼女は、今度は繊細な「レース」に興味を持っていた。ファッション大国プラーハトから一流のレース職人を招き、今までにない極細の糸を使った幻想的なレースを発案。こちらも「レースギルド」を設立して職人を育成した。


「見て、マルガレーテお姉様。夜会用のドレスの試作品よ」


エマは、自分の衣装にそのレースをふんだんにあしらった。まだデビュタント前にもかかわらず、高位貴族女性たちの間で「エマ姫のドレスが素晴らしく美しい」と大評判になり、社交界の流行を裏から支配しつつあった。


ある日、姉たち三人はマナーレッスンを兼ねて、近況報告のお茶会を開いていた。ちなみに、ハイディは今日もレッスンをサボっている。


「サロンの皆さんも、ロッテの時計を喉から手が出るほど欲しがっていたわ」


マルガレーテが微笑むと、ロッテが嬉そうに新作の置き時計をテーブルに置いた。


「ふふ、こっちはエマのレースドレスの試作品よ。とっても綺麗でしょう?」


三人が和やかに笑い合っていると、

バタン!


やはり、あの不躾な足音が響き、ハイディがトコトコとやってきた。八歳になった彼女の目は、テーブルの上の時計とドレスの試作品に釘付けだ。


「ずるいわお姉さま!そんなに綺麗なドレスと時計を隠し持ってるなんて!ちょうだい!」

「ハイディ、これは次の取引に必要な試作品なの。あげるわけにはいかないわ」


ロッテが毅然と断ると、ハイディはすぐに踵を返した。


「お父さまぁー!お姉さまたちがまたハイディをいじめるのー!」


お決まりの告げ口により、父王の命令で最新の時計とドレスの試作品はハイディに奪われた。

「ふふん、また私の勝ちね!」と鼻を高くして去っていくハイディの後ろ姿を見送りながら、ロッテとエマはそっと視線を交わした。


(よし、引っかかった!)


ハイディが奪っていったのは、ロッテがわざと『半日でネジが噛み合わなくなって止まるように作った欠陥時計』であり、エマが『一度洗濯しただけで裂けてしまう安物の糸で編んだレースドレス』だ。本物の完成品とデザインの特許、そして莫大な利益を生む海外との契約書は、すでに時計ギルドの秘密の金庫室に保管されている。


さらにハイディの欲深さは加速する。マルガレーテのサロンに参加している優秀で裕福で綺麗な貴族令息たちに目をつけたのだ。


「ずるいお姉さま、私を仲間外れにして綺麗なお兄様たちと遊んでる!ずるいずるい!」

「可哀想なハイディを仲間に入れてあげなさい」


父王に無理やりサロンへねじ込まれたハイディは、令息たちの前でポロポロと涙を流した。自由自在。


「実は私、お姉さまたちにいつもお部屋に閉じ込められて、いじめられてるの……。本当は、お兄様たちと仲良くお話ししたかったのにお姉さまがダメだって……」


しかし、令息たちは誰一人として騙されていなかった。

なぜなら、彼らは事前にマルガレーテから「近々、我が家の可愛いお猿さんが乱入してご迷惑をおかけしますわ。適当に可哀想なフリをして、泳がせてあげてくださいね」と笑顔で根回しされていたからだ。


「ははは……それは可哀想に、ハイディ様(マルガレーテ殿下の言った通り、本当に泣いたぞこの猿……)」

「さぞやお辛いでしょうね、ハイディ様(演技が安っぽすぎて笑いを堪えるのが辛いです)」


令息たちは引きつった笑顔で、マルガレーテとの約束通り、ハイディを「中身のないお姫様」として全力でおだて、持て囃してあげた。

ハイディは彼らの内心の冷ややかさに気づくこともなく、「ふふん、全員私の虜ね!」と、見当違いの全能感にどっぷりと浸っていく。


姉たちの手のひらの上で転がされているとも知らず、ハイディの強欲さは、ついに自滅への最終ステップへと加速していくのだった。

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