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ツッコミ 90 〜ベルーガ学べるーが〜

 ハゴイタ星雲駅から、電車が発車していく。ホームドアのない簡素なホームに巻き起こる風に、アリシアのスカートがはためく。


 ボク達は、あの電車よりも速く次の駅に辿り着かなくてはならない。そのためにはシロイルカに乗っていくのが条件のようなのだけど……。


「こら、真っ直ぐ進んで! 線路に沿って!」


 シロイルカは好奇心旺盛なようで、流れ星が見えれば直ぐにそちらへ向かってしまう。星が瞬けばその方向へ。


 満足すれば元いた駅へ戻ってきてしまい、その時には既に時刻表に変化が起こっている、次の駅に到着時間が記されるのだ。そこで、ボク達は次の駅に電車が到着していたことを知る。


「いったん作戦会議」

「賛成ですわ。……はぁ、簡素な椅子は座り心地が悪いですわね」

「でもお前の太ももは気持ちいぞー」

「勝手に載らないでくださいまし」


 戯れる二人を横目に、ボクは待合所の隣に設置してある、自動販売機を眺めていた。


「完全に日本のものだよなぁ。文字も完全に日本語。使用する通貨も円。でも円がない。買えない」

「こじ開けたりはできないんですの?」

「倫理観が壊れてるの? そんな野蛮なことはしませんー」

「こういう場合、無理に開けようとすると何かが起きたりするんだよな」


 ルートの言う通り。そう頷いて自動販売機から離れる。


「少なくとも、置かれている以上は買う方法があるのだと思う。飲み物だけではなくて、ハンバーガーとか、ラーメンなんかもある。長丁場になるようだったら、これに頼らないとね」

「食べるのですか? ここは宇宙とはいえ空気がある。光合成は充分に出来ている。食事の必要はないのではなくて?」

「え、そういうものなの?」

「そういうものです」


 じゃあ、無事に宇宙へ旅立ったらどうするつもり? マスターピースの中に食料でもあるの? そう問いかけると、マスターピースの中で、種子に戻ると言う。


「任務が終われば、それまで。次に目覚めるのは新たな星。そういうものですわ」

「……任務から解放されて、もっと遊びたいとかないの?」

「娯楽のデータは、一通り閲覧していますもの。今更楽しむものなんて……」


 膝の上で腹を見せるルート。それを撫でる横顔は、なんだかとても楽しそうで。


 ――もしかしたら、この時間は酷なものになるのかもしれない。


 なんだかそう感じてしまって、ボクは少し、しんみりとしてしまった。


「アリシバッ!?」


 シロイルカの体当たり! ボクは無惨にも線路へと投げ出される。幸い電車はまだ到着していないから良かったもの、なんて野蛮なイルカなのだろうか。


「やんのか、てめぇ」


 凄んでみるも、愛らしい表情を向けられるだけに終わる。その視線になんだかいたたまれなくなって、ボクはさっと顔を背ける。


(あんなに可愛らしい顔を向けられているのに、僕はなんだって睨んでしまうんだ)


 ちょっとした後悔。でも、それも仕方がなくない? 仕掛けてきたのは向こうなのだから。でも、小さな子供に、例えば膝カックンという懐かしのおふざけをされたとして、本気で怒鳴ったりする?


 いや、する場合も当然ある。でも、それは大きな非があって、ちゃんと注意しなければならはい時にが限るだろう。限るよね? 小さい子供と接する機会が少ない前世であった。


 まぁ、どちらにせよ、だ。あのシロイルカだってきっと、ほんの少しふざけただけで……。


 ほんの少しのおふざけでホームから落とすのは洒落にならないわ。百パーセントこいつが悪い。


 再びシロイルカを睨みつけると、そっぽを向いてしまう。


「こっちを向きなさい」


 静かな口調で怒ってみても、やっぱり愛らしい表情を向けられるだけ。うーん、やっぱりいたたまれなくなってくる。首を傾げるしぐさとか、本当に可愛らしい。


「あっちを向きなさい」


 指でそう指示をしてみるけれど、シロイルカは首を傾げるだけ。


「あっちだよ、あっち。わかんないのかー?」


 近寄って、頭のプニプニを指で押してからもう一度同じ方向を指さす。すると――。


「お、向けるじゃん」


 指示通りに顔を動かしたシロイルカに、ボクはうんうんと頷いて満足する。


「次はこっち」


 調子に乗って別の方向を指さすけれど、そちらには向いてくれない。


 ちゃんと向きなさいよ、と頭のプニプニをポンポンと叩いて、もう一度方向を示す。すると、今度はきちんと向いてくれた。


「そいつ、頭を叩くと言うことを聞くんじゃねーの?」


 え、叩いて刺激すると動き出すとか、昭和のテレビ?

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