シュラナはその頃……。 その一
「戻ってきてない?」
ワンキタの街へ戻ってきたシュラナとカナネは、馬車を預けていた宿屋を訪れた。仲のいい二人が顔を見せない状況に寂しさを表すヤージンとキータンを撫でるカナネが驚きの声を上げる。
「はい。ご一緒ではなかったのですか?」
宿屋の主人に曖昧に微笑んでみせると、何があったのだろうかと心の中で思案する。
「何かの罠でもあったかな?」
「それか、あのタイミングを逃してはいけない、なにかがあったのか。ですね」
豪華客船の旅で知り合った、サーカス団兼船会社を営むフロロに頼み、船を出してもらう方法もある。けれど……。
「追いかけようにも、コンパスがないと正確な場所は分からないか。カナネはこの二頭のご機嫌取りを頼むよ」
「任せてください。かつてバイトで磨き上げたブラッシングを、この子たちに見せつけちゃいますよー」
つまり、戻ってくるのを待つしかない。
シュラナは諦めたようにため息をついて、ティアマトの魔法陣を調べるために、この街へ向かっているであろう調査団の同行を調べるためにギルドへ向かった。
「ここに来れないかもしれない?」
ギルドの建物に向かい、受付に話を通してもらって面会をしたこの支部の責任者から告げられた言葉だ。
そんなことばかりだな、と内心でまた、ため息をつきたくなった。
「はい。なんでも北の大山でトラブルがあったようでして」
「どんなトラブルか、聞いた?」
「いえ、機密事項だと」
確かに、ティアマトの魔法陣については公にはされていないはずだ。その対応も仕方ないか。とシュラナは諦め、宿に戻った。
「カナネ、北の大山へ行ってみよう。そこでトラブルがあったらしい」
「トラブル、ですか? まさか、キアさんが言っていたティアマトが現れたとか」
「分からない。だから、確かめに行ってみようと思うんだ。どうせ合流しなければならないんだしね」
「でも、もしキアさんと入れ違いになってしまったら……」
「フロロに伝言を頼んでおけばいいさ。どうせ、彼らも此処から動けないわけだし」
それもそうか、とカナネも頷き。思い切り走ることができず、フラストレーションが溜まっていたらしい二頭を馬車に繋げて街を出た。
二頭の張り切り具合は凄まじく、二日はかかるところを一日ほどで走りきった。それにはまた別の要因もあり、多くいるはずの観光目的の人々が、街道にほとんど見られなかったことも関係しているだろう。
「変な空気だな」
「ですね。こんなにも閑散としているのは、めったにないと思います」
いつもは人がごった返す五合目の観光施設も、ほとんど人が見られない。
見かけるのは大抵騎士であったり、冒険者らしき武装した人物。
「すみません」
シュラナは手が空いていそうな騎士に当たりをつけ、腕に装着したブレスレットを見せる。
「あ、これは勇者様でしたか。調査団の件ですね」
「ああ。トラブルがあったと聞いているけど」
「ええ。そのこともあって、今、この山と周囲は封鎖されています。何処に逃げ込んだのか分かりませんから」
逃げ込んだ? 二人の頭上に疑問符が浮かぶ。
「調査団を襲う魔物が現れたことで、彼らは不審に思ったのでしょう、調べてみれば、報告にあった隠し部屋の資料の類ですか。全て消失していたらしいのです」
「なんだって!?」
「待ってください。あの部屋は特殊な方法でしか入ることができないはずです」
「盲点だったそうですよ。あの部屋は、地表付近にあったそうです。上から掘れば……」
洞窟の入口を見張る騎士にも気が付かれることなく、部屋に侵入できる。魔物の襲撃も、そのカモフラージュの意味があったのではないか。
「山の反対側の五合目が、臨時本部となっています。そこで詳しく聞いてください」
あの地下空間、とりわけティアマトの魔法陣が置かれていた部屋は、ティアマトの花弁がなければ立ち入ることができないのではないかと予想していた。
だから、なくなることがあるとすればティアマトの襲撃が予想されるのだが……。
「部屋に忍び込んだのは、ティアマトではないのかでしょうか」
「分からない。単に目撃されたくなかっただけかもしれないしね」
そうして、馬車を操り山の反対側へと回る。辿り着いた二人を待ち受けていたものは――。
「なんとしても持ちこたえろ! 重要な機器の守りは徹底的にな!」
調査団と、凶暴化したモンスターとの戦いであった。




