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世間を騒がせる天才怪盗は、二次元廃人でした。  作者: 桐原聖
厨二病怪盗vs 暗殺組織『血まみれの指』
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ついに全面戦争①

さあ、ついに全面戦争開始です!

「ふああ・・・・」


割り当てられた自室のベットで、『聴覚』は目を覚ました。起き上がり様に隣にあったヘッドホンを取り、装着する。すると、雑音が半減された。


「今日も頑張るか・・・」


 いかにもダルそうな声で言った時、机の上にある携帯電話が鳴った。手を伸ばして携帯を手に取り、ヘッドホンを付けたまま電話に出る。


「はいもしもし、こちら『聴覚』―――」


『ちょっと「聴覚」! アンタ昨日あれから何をしてたのよ⁉』


 あれとはおそらく『触覚』の死亡報告の事だろう。嘘をつくと後々面倒くさいので、『聴覚』は正直に答える。


「寝ていたが?」


『敵討ちはどこ行ったのよ⁉』


『嗅覚』の一喝が入り、思わず受話器から頭を離す。朝っぱらから『嗅覚』の金切り声はうるさすぎる。


『アンタ、やる気あるの⁉ いつもいつもダルそうな返事ばっかりして! 仕事が嫌ならヘルズ軍にでも寝返ったら?』


「いや、性格や声のトーンなんて人それぞれじゃ・・・・」


『男の癖にゴチャゴチャ言うな!』


『嗅覚』の理不尽な発言に、『聴覚』は肩をすくめた。―――男の中にも理論的な人間は居ると思うのだが。あきらかな人種差別だ。


『いいからさっさと敵討ちに行ってきなさいな! 「味覚」は昨日のメイドとガキを倒すためにもう出陣してるわよ!』


「他所は他所、うちはうちだろ」


『屁理屈ばっかり言ってないで、早く行け!』


『嗅覚』の大声が携帯越しに伝わって来る。―――これ以上聞いていると鼓膜的にも精神的にもあまりよろしくないので、早々に通話を切る事にする。


「そもそも俺みたいな根暗を誘ったのが間違いだろ。文句ならボスにでも言うんだな。以上、じゃあな」


 一方的にまくしたてると、『聴覚』は通話を切った。ついでに、携帯の電源も切っておく。


「さて、と。どうするかね」


『聴覚』は暗いトーンで言うと、ベッドの下から金属製の箱を取り出した。箱は長方形をしており、銀色の表面が光に反射して怪しげに光っている。箱を開けば、長い筒が顔を出す。銃口には二重に消音器が付けられており、音が極力出ないようになっている。


 無音式長距離狙撃銃『SKB(サイレント・キル・ボウガン)マーク2』。


これが『聴覚』の武器だ。


「腕が鈍るとボスに叱られるからな。ちょっと練習してくるか」

『聴覚』は狙撃銃を両手に抱えると、部屋を出た。



 その後2日目は何事も起こらずにすぎ、3日目、4日目と日にちが流れた。しかし『血まみれの指』はおろか、何のトラブルも起こらない。初日の夜に組織のナンバー2、『触覚』が死んだにも関わらず何一つアクションを起こさない事を考えると、不気味な事この上ない。


 そして、5日目。

 ついに『血まみれの指』が動き始めた。







「皆、ちょっといいかな」


『血まみれの指』のボス、『視覚』がカウンター席から立ち上がり、全員に言う。


 現在彼らが居る場所は、降谷と『触覚』の戦いで半壊したバーだ。やっていないバーなど行っても無駄なだけなので、ここ数日客は近づいていない。つまり、安心して話が出来るという訳だ。


「この数日、僕達は戦いに適した地形を探すために、一時攻めないでいた。けれどそれも昨日までだ。このパーティーは残り3日。それまでにヘルズ勢力を全滅させて、『触覚』への弔い合戦としよう」


ボスの演説に、『聴覚』を除く全員が拍手をする。『聴覚』は相変わらず気怠そうな顔のまま、ソファに横たわった『触覚』を見ていた。


「本当は僕だって戦いたくはない。けれど、自分の仲間が殺されたんだ。このまま泣き寝入りしている訳にも行かないんだ。―――戦おう、死力を尽くして! 命を懸けて、彼らに一矢報いよう!」


「「おー!」」


 ・・・・ヘルズのネトゲの資金集めという、傍から見ればどうでもいい事の為に、両者が全勢力を導入して戦うというこの状況。何というか、とてもシュールである。


「じゃあまず作戦確認だ。『味覚』、君はメイドとチャルカをお願いするよ。『嗅覚』は何か策があるみたいだから、独断で動いてくれ。最後に『聴覚』だけど、君には降谷をお願いするよ。皆、頼めるかい?」


 てきぱきと指示を出すボスに、3人は頷いた。


「「「了解」」」


「よし、じゃあ決行は今から3時間後。―――危なくなったら、すぐに撤退するんだよ。もう、1人も欠けて欲しくはないんだ」


 ボスの真剣な声色に、『嗅覚』と『味覚』がごくりと唾を飲む。『聴覚』はそんな2人を横目で流すと、椅子から立ち上がった。


「じゃあ俺は必要な時まで待機で。降谷をいきなり狙うのは難易度が高いから、とりあえず誰かの援護射撃でもしとくわ」


 そして勝手にバーを出て行った。『嗅覚』はその様子を見て舌打ちした。


「アイツ、また独断行動しやがって。ボス、あんな奴クビにしましょうよ!」


「まあまあ」


 今すぐにでも殺しにかかりそうな『嗅覚』をなだめつつ、ボスは苦笑する。


「彼にだって色々あるんだよ。それに、彼のおかげで僕達の仕事がやりやすくなっているのも事実だ。怒りたくなる気持ちは分かるけど、ここは堪えてくれないか?」


「チッ・・・・ボスがそう言うなら」


『嗅覚』が舌打ちして、席に腰かける。それを見て、ボスは微笑んだ。


「ありがとう。そう、今僕達がやらなければならないのは仲間割れじゃない。皆で一致団結して、あのヘルズ達を倒す事が大切なんだ」


 そこまで言うとボスは、ソファに横たわっている『触覚』を見た。『触覚』は血まみれでぐったりしている。一見するとかろうじて生きていそうだが、もうその目は2度と開かない。


「僕達が『血まみれの指』を結成したばかりの頃、覚えているかい?」


 突然のボスの質問に、二人は一瞬戸惑った。だがすぐに、「「もちろん」」と肯定を返した。


「あの頃は凄かったよね。死に物狂いで仕事を受けて受けて受け続けて、わずか2週間で80件もの仕事をこなした。その事で知名度が上がり、さらに依頼の量が増えた。今では関東最強の暗殺組織だと言われているレベルだ」


 ボスがしみじみと呟く。その言葉に、頷く二人。


「僕はまだ、皆で仕事がしたい。そのためにも、二人には死んでほしくない。もちろん『聴覚』にも。そ

して・・・『触覚』にも」


 その顔に、一瞬悔しそうな表情が浮かぶ。


「僕は仲間を守るためなら、どんな手段もいとわない。仮にそれが、日本最強の怪盗と恐れられている、あのヘルズでも」


 ボスの目に、執念の火が宿る。


「一人も欠けずに生き残ろう、この戦いを!」


 ボスの叫びに、二人が強く返事をする。


「応!」


 ・・・・こんなに真剣に仕事を行っている組織が、ヘルズのネトゲ資金稼ぎのために狙われたのかと思うと、可哀想でたまらない。






 5日目の朝、午前9時。


「ほら、これが良いのではありませんか、チャルカ」


「これ、動きづらい。もっと動きやすい服装がいい」


 ユルとチャルカは、衣装室に居た。


 あれからユルはチャルカを衣装室に連れていこうとしたのだが、どこかの大馬鹿野郎がバーの店内で大立ち回りをやらかしてくれたせいで店が半壊、その処理に駆り出されて寝る間も惜しまず働いたせいで、時間が無かったのだ。


「メイドの仕事もほどほどにしないと、身体が持ちませんね・・・・」


 色濃くなった隈を指でこすりながら、ユルは呟く。正直、眠すぎで倒れそうだ。いくら『最強の犯罪者』の弟子だったとしても、人間の三大欲求を抑えられる訳ではない。その事を、身をもって実感した。


「ユル。私これがいい。これでいい?」


「ああもう、好きにしてください。ワタシはもう眠くてたまりません」


 輝いた目で衣装を持ってくるチャルカに、ユルは適当に答える。もう眠くてたまらない。ちなみに『味覚』に食べられたチャルカの義肢は治っている。何でも、二ノ宮が病院での暇つぶしで作ったらしい。暇つぶしで改造人間の部品作るとかどんな化け物だ、と思ったが、ヘルズの仲間なら仕方がない。ヘルズの一味は、2つの意味で頭のネジがぶっ飛んでいるのだ。


「さて、と。では部屋に戻りましょうか」


 チャルカが来た服を確認すると、ユルはあくびをしながら言った。正直眠すぎる。今だって、チャルカの来ている服の色は認識できても、それ以上の事は脳が理解を示してくれない。


「じゃあ、ワタシは先に部屋に戻って――――」


 その時だった。


 壁の一部が破壊され、何者かが侵入して来た。その姿を見て、ユルは息を呑んだ。


「貴方は、あの時の―――」


「あはっ、久しぶりだね、お姉さん」


 その少年―――『味覚』はユルの姿を見ると、ニヤリと笑った。


「さあ、続きをしようか」


次回は8月1日更新予定です。

現在分かっている詳細

・仁ノ見留薬味・・・二ノ宮来瞳

・ピエロ・・・・松林尚人(現在はトレンチコート)

・バイトらしき青年・・・ヘルズ

・赤いランドセルを背負った小学生・・・『味覚』

・バーテンダー・・・『触覚』(死亡)

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