表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世間を騒がせる天才怪盗は、二次元廃人でした。  作者: 桐原聖
厨二病怪盗vs 暗殺組織『血まみれの指』
72/302

金の使い道

 

「仕方ありませんよ、パーティーなんですし。あそこまでしろとは言いませんけど、やっぱり楽しんだ方が得ですよ」


 姫香の問いに、キルファは優しい笑みで返した。純真な笑顔が目に痛い。姫香はたまらず目をそらした。


「ところで姫香、ヘルズさんについて少しお尋ねしたいのですが」


「はい、何でしょう?」


 私に知っている事なら何でも、と姫香は言い、キルファの方に向き直る。


「実はあれから、ずっと気になっていた事なのです。事が事ですので来瞳にも相談できず、とても困っていたところなのです。聞いていただけますか?」


「はい。どうぞ」


 何でも、と言った手前、聞かないわけにはいかない。姫香は続きを促した。


「ヘルズさんには、お付き合いしている女性は居ますか?」


「え?」


 キルファの予想外の質問に、姫香が返答に戸惑う。


 そんな姫香の反応に気が付かず、キルファは続ける。


「あの事件以来、ヘルズの事が頭から離れないのです。あの時の彼の温もりが、今でも肌に残っているようなのです」


 キルファが頬を赤く染めながら、姫香に言う。その表情は、恋をしている少女そのものだった。やはり、王女と言えども年頃の少女なのだ。


「え、えっと・・・」


「こればかりは親友の来瞳に言う訳にもいきません。彼女もヘルズに片思いをしている身。そんな彼女に

向かって『同じ人を好きになった』なんて言えません」


「そ、そうですか。って親友?」


 キルファの言葉に引っかかる部分を感じ、姫香は聞き返した。


 キルファはキョトン、とした顔で返す。


「ええ、親友ですよ。あれ、姫香には言ってませんでしたっけ? 来瞳と私は旧知の仲ですよ」


「ええっ⁉」


 その衝撃の事実に、姫香は驚きの声を上げた。初耳だ、少なくとも姫香は。


「ですから尚の事、来瞳に言う訳にはいかないのです。来瞳には幸せになってもらいたい。それなのに私などの発言が、彼女の心を揺らしてはいけません。ですからこの心は、私の中に閉まっておかなくてはな

らないのです」


「そ、そうですか・・・・」


 気が付くと、ホッとしている自分が居た。

 何故だろうか。ライバルが一人減ったから? いやそもそもライバルってなんだ? というか自分は一体誰と戦うというのだ?


「どうしたんですか、姫香?」


 混乱している姫香に、キルファは心配そうに声を掛けてきた。その顔には、不安の色がありありと浮かんでいる。そんなに自分の顔は異常だろうか?


「い、いえ、何でもないです・・・」


 椅子を引き、立ち上がる。まだ料理は残っているが、それどころではない。少し考える時間が欲しい。この混乱を止める時間が欲しい。


「すみません、少し休ませてください・・・・」


 キルファに一言声を掛け、パーティー会場を後にする。そして、自分の部屋に戻ろうと歩き出した。すると廊下で、バイトらしき青年と目が合った。


「へ、ヘルズさん⁉」


「よお姫香。どうした?」


 青年――――ヘルズは姫香を見ると、右手を上げた。その手には布巾があり、左手には拭いている途中のグラスがある。―――見事な変装能力だ。バイトとして、違和感なく溶け込んでいる。


「ヘルズさんこそ、何をしているんですか?」


「何って、見りゃ分かるだろ。バイトだよバイト。最近金欠だからな、ちょっとでも多く稼がねえと」


 ヘルズはグラスを持った左手を掲げて見せる。どうやら変装しながら、本当に金を稼ぐようだ。


「本当にお金に困ってるんですね・・・同情します」


「おい待て、そんな憐れむような目で俺を見るな。マジで泣きたくなってくるから」


 ヘルズがグラスを拭きながら溜息を吐く。この姿を見て、かの有名な天才怪盗、ヘルズだと思う人間は誰も居ないだろう。


「でもそんな事をしてお金を稼がなくてもいいんじゃないですか? この仕事が完了すれば10億円が入るんですから。いくらヘルズさんでも、10億円全部ネットゲームに費やす事はありませんよね?」


「まあそうなんだがな。最近課金アイテムの値段が上がって来てるから、何とも言えないんだよな、これ

が」


 ヘルズがまた溜息を吐く。その時、姫香は自分の失言に気が付いた。


「あ、すみません。確か10億円は皆に分配するんですよね。全部ヘルズさんの取り分になる訳じゃないんでしたね」


「あ、ああ。そうだったな」


 ヘルズの歯切れが悪い。姫香はそこでおやっと思った。


「まさかヘルズさん、盗んだお金を全部一人占めする訳じゃありませんよね⁉」


「さすがにそれはしねえよ!」


 ヘルズは珍しくツッコミに回ると、目頭を揉んだ。


「ったく、いくら俺が金に執着を見せてても、そんな事はしねえよ。というか、10億円ネトゲに使うとかどんな神経してんだよ」


「でも使ってしまうのがヘルズさんですよね」


「ぐぐっ、反論できん・・・・じゃなくて! いくら俺でもそれはねえよ」


「じゃあ何に使うんですか?」


 姫香の問いに、ヘルズは言葉に詰まる。


「え、えっと・・・・貯金?」


「無いですね。あり得ません」


「じゃ、じゃあ本でも買うか! そう言えば買いたいラノベが40冊くらいあったから、それに使うか!」


 その、今思いついたであろう発言に、姫香は溜息を吐いた。


「お金の使い道は自由ですけど、ちゃんと山分けして下さいよ? もし報酬の事で皆が怒ったら、手が付けられませんからね」


「ああ、流石に俺一人じゃ無理があるな」


 ヘルズにしては珍しい事を言う。


「珍しく謙虚ですね。てっきりヘルズさんの事だから、『俺が本気を出せばあんな烏合の衆、一撃の元に葬ってくれるわ』とか言うのかと思いました」


 姫香の指摘に、ヘルズは目をそらした。


「ま、まあな。たまにそんな事も言うかな」


「たまにじゃなくて、いつも言ってますよ。・・・変装に入れ込むのは仕事熱心でいいんですけど、元の性格を忘れないでくださいね。調子が狂いますから」


「ああ、すまねえ」


 ヘルズは申し訳なさそうに言うと、踵を返した。


「時間だ。そろそろ戻らないと、ボスに怒られる」


「ボス、ですか?」


 ヘルズは慎重な面持ちで頷いた。


「ああ、ボスだ。コードネーム〝店主(スティング)〟。奴に目を付けられたが最後、『減給』という地獄の攻撃をくらい続ける。あれはもう最強クラスの攻撃力を誇る。という訳で俺は去る。じゃあな」


 そこまで言うとヘルズは早歩きでその場を去った。なぜいつものように走らないのかと姫香は不思議に思ったが、ヘルズの手にグラスがあった事を思い出した。割ったら更に減給をくらうのだろう。大変な事だ。


「気分も良くなりましたし、そろそろ戻りましょうか・・・ってあれ?」


 その時、姫香はある事に気が付いた。


「何で私、気分がよくなって・・・・」


 昔少女漫画で読んだ事がある。好きな人について考えている時にその人に遭遇すると、心臓の鼓動が凄い事になるそうだ。それこそ、好きな人に気が付かれるのではないかと思うくらいのドキドキらしい。

 なのに、今の姫香にはそれが無かった。それどころか、むしろいつものヘルズだとホッとしたくらいだ。


「・・・って、それじゃ私がヘルズさんの事を好きって事じゃないですか!」


 思わず声が大きくなってしまう。その頬は心なしか赤くなっている。


「私なんかが、ヘルズさんの事を好きだなんて、そんなのただの迷惑・・・」


「何が迷惑なんですか?」


「うひゃ⁉」


 突然後ろから声を掛けられ、姫香は飛び上がる。声の主――――キルファは、悪戯っ子のような笑みを浮かべていた。・・・・どう見ても王女がしていい笑みではない。


「キ、キルファさん・・・・どこから聞いてたんですか?」


「それはもう、姫香さんが自分との戦いを始めた辺りからですよ」


 キルファはニヤニヤと笑いながら姫香の頬をつつく。


「で? 何が迷惑なんですか?」


 やはり、恋に身分の差など関係ない。


 姫香は素直にそう思った。

 王女だろうが平民だろうが気になる男性に恋はするし、誰かが恋をしていれば自分の色恋沙汰など棚に上げてからかいまくる。恋は皆平等だ。


 それを、実際に思い知った瞬間だった。


「で、何が迷惑なんですか? ここには私達しか居ませんよ。さあ、話してみなさい。これは王女命令です。もし話さないならイギリスの全勢力を用いて貴方を拷問に掛けますよ」


「キ、キルファさん、ちょっと怖いです・・・あとちょっとウザいです」


 からかう気満々のキルファに若干引く姫香。これがイギリスの次期女王なのかと思うと、イギリスの未来が心配だ。


「ほらほら、話してみなさい、つんつん」


「ちょっ、やめてください。そ、そこは、だ、駄目っ!」


 キルファが服の内側に手を入れ、姫香の身体を弄って来る。――――二ノ宮の時もそうだが、何故ヘルズの周りには百合属性が付いた女性しか寄って来ないのだろう。


「ほら、早く話さないともっと凄い事をしますよ~」


「ちょっと、そこは、や、やめて・・・」


 姫香の目がトロン、と溶けかけたその時、


「コホン!」


 という声が後ろから聞こえた。二人ともバッ! と振り向く。


 そこには、トレンチコートを着た男が立っていた。さっき中くらい年の男と食べ比べをしていた男だ。――――というかこの服と顔は見た事がある。松林刑事だ。いつも通り、後ろに数人の部下を従えている。


「君達、仲がいいのはいいが、そういう行為をここでやってはいけないな。補導させていただこう」


 警察手帳を取り出して格好良く言い切る松林に、部下が止めに入る。


「ちょっと、何言ってるんですか! こんな場所で補導はないでしょう⁉ というか、たかがこんな事でいちいち補導してたらキリがありませんよ! 松林さん、警察のマニュアル読んでないでしょ!」


「そんな物知らん。『悪は裁く』『一番怪しそうな奴が悪』! 警察なんてこの2つだけで何とかなる!」


 松林の堂々とした発言に、部下が絶叫する。


「駄目だあああぁぁぁぁ! 俺達なんでこの人の下についてるんだよ本当に! あ、お嬢ちゃん達はもう行っていいよ、後はこっちの問題だから」


「は、はい。ありがとうございます」


 姫香はお礼を言うと、キルファを促して来た道を引き返す。後ろで松林達が『そんなんだからお前らは

犯人検挙率が低いんだ!』『そのやり方でやったら、半分以上が誤認逮捕ですよ!』と叫んでいるが、気にしない。気にしたら負けの事もあるのだ。


(警察は、いろんな意味で警戒しよう)


 姫香は密かにそう思った。


次回は7月30日更新予定です。

現在分かっている詳細

・仁ノ見留薬味・・・二ノ宮来瞳

・ピエロ・・・・松林尚人(現在はトレンチコート)

・バイトらしき青年・・・ヘルズ

・赤いランドセルを背負った小学生・・・『味覚』

・バーテンダー・・・『触覚』(死亡)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ