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世間を騒がせる天才怪盗は、二次元廃人でした。  作者: 桐原聖
厨二病怪盗vs 暗殺組織『血まみれの指』
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姫香にとっての『混沌』

今回は久し振りの『ある人物』が出ます!

「うわ、うるさ」


 低く、呟くような声で青年は呟いた。その頭にはヘッドホンが装着されており、音が聞こえづらくなっている。


 にも関わらず、うるさい。

 とてつもなく、うるさいのだ。


「多分死んだと思うけど・・・一応確認するか。あー面倒くさい。なんで俺がこんな事しなきゃならないんだろう。というか俺、いつまでこんな仕事やってるんだろ。あーダルイ、超ダルイ」


 ぶつぶつと愚痴を零しながら、青年は靴の踵で床を叩いた。コツン、という小さな音が聞こえる。青年は目を閉じると、音に意識を集中させた。


 数秒後、青年は目を開けると、億劫そうにポケットから携帯電話を取り出した。


「こちら『聴覚』。『触覚』が死亡した。繰り返す、『触覚』が死亡した。以上、じゃあね」


 そう言って通信を切ろうとする。そこを、大声が割り込んだ。


『ちょっと待ったあ!』


 青年はうんざりしたような顔で通信を続けた。


「なに、『嗅覚』? 俺色々忙しいんだけど」


『ちょっとアンタ、サラッと言ってるけどね、仲間が死んだのよ! 少しはいたわる気持ちくらい持ちなさい!』


「何でそんな面倒なことしなくちゃならないの? 俺、人の死を悲しむ感情表現とか無理なんですけど」


 無慈悲、と言うよりは暗い感じで、青年は言う。見知らぬ人がこのトーンの声を聞けば、『根暗』と表現するだろう。

 この世の全ての事象が面倒くさいかのような顔をして、青年は続ける。


「それだけ? じゃあ切るよ。俺もう眠いから」


『ちょっと待ちなさい。アンタ、当然敵討ちは行くのよね?』


「・・・・・は?」


『嗅覚』の意味不明な発言に、青年は耳を疑う。

 今、この女はなんて言った?


『だから、敵討ちよ。殺られた『触覚』の敵討ち。当然、アンタが行くのよね?』


「・・・・・なんで俺が」


『だって今の組織内で戦えるのってボスとアンタと『味覚』だけでしょ。で、ボスはヘルズと戦うから温存しといて、『味覚』も女二人を殺さないといけないからそっちに戦力を裂く。とすれば、敵討ちを出来るのってアンタしかいないじゃない』


「いや、俺が聞いたのは『何で俺が敵討ちをしないといけないか』なんだが。というか、俺みたいな一工作員があんな強敵に挑んだ所で、返り討ちに遭うのが関の山だって。という訳で俺みたいな小市民は大人しく――――」


『いいから闘いなさい、「聴覚」。これはボスの命令よ?』


「・・・・・はあ」


『はあ、じゃなくて今すぐ戦いに行きなさいよ。仲間の弔い合戦は24時間以内と相場は決まっているのよ』


「そうですか。じゃあな」


『あっ、こら。まだ話は―――』


 呼吸をすることすら面倒くさい、という顔で青年は通信を切った。・・・この後、『嗅覚』から小言を言われるかと思うと胃が痛い。


「はあー、面倒だな。嫌だな、やりたくないなあ。どうにか逃れる方法とかないかなあ。というか俺みたいな工作員を出すとかもう終わってるよな本当に。はぁ、何で俺この組織に入ったんだろう?」


 小声でブツブツと呟きながら、青年はヘッドホンを外した。途端、聞こえて来る大音量に慌ててヘッドホンを元に戻す。


「面倒だけど、やるしかないか。あと500年後くらいに」


 完璧にやる気のない発言をして、青年は寝床に戻るのであった――――








 長かった夜も明け、2日目の朝が訪れた。このパーティーは7日間続くので、残り5日だ。だが昨日だけでも、既に3日分くらいの体験をした。二ノ宮の病院送りに夜中のトレーニング。もうお腹一杯である。出来ればもう帰りたい。


 二ノ宮が事前に送っておいたアタッシュケースの中から服を取り出しながら、姫香は呟いた。


「さて、と。今日も頑張らないといけませんね」


 私服に着替え、ポケットに武器を仕込む。そして、今日の予定を確認する。


「改めて確認するとこのパーティー、普通と違う所が幾つかあるんですよね」


 そう、このパーティーは普通のパーティーと違うところがいくつもある。

 まず、基本は夜にパーティーが行われる。朝と昼は、パーティーを行いたい者が集まって自由に行う形の物で、夜以外は自由参加らしい。


 にも関わらず何故泊りがけのパーティーなのかと言うと、それは客人が全員貴族やどこかの国の女王だったりするからだ。1日で帰ってほしくないが、わざわざホテルを取らせるのも不甲斐ない。そこで、こうして一人一人の部屋を用意したのである。とんだ大盤振る舞いだ。


「凄いですよね、速水財閥。金銭感覚が違います」


 姫香も半年ほど前から生活費とは別にお小遣いとして100万円ほど貰っているが、それとは桁が5つほど違う。一体どこの世界か、と疑いたくなるレベルだ。


「とりあえず、朝ご飯でも食べましょうか」


 前述した通り、客人が全員貴族や王族である事を前提としたパーティーなので、朝食は外で買わなくても問題ない。姫香は昨日パーティーが遭った会場に向かった。


「今日の朝もバイキングですか」


 どうやら今日もバイキングらしい。昨日のパーティーでもそうだった。まあ主催者としては、嫌いな料理が出て癇癪を起こされるより、自由に取れるバイキングにして客の機嫌を損ねない方が安心なのだろう。


「さて、何にしましょうか」


 とりあえず野菜やパンなどお腹に優しい物を持って、席に座る。すると、前から声を掛けられた。


「相席、よろしいですか?」


 反射的に、「どうぞ」と返事を返す。相手はそれを聞くと「ありがとうございます」とお礼を言い、席に着いた。さすが貴族、礼儀についてよくわきまえているようだ。

 姫香がそんな風に考えていると、相手から声を掛けられた。


「お久しぶりです。―――姫香さん」


「え? どうして私の名前を―――」


 姫香は顔を上げ、「あっ」と声を上げた。


 そこに座っていたのは何を隠そうイギリスの王女、キルファ=ヴァーテルだった。


「お、お久しぶりです! 王女様」


 姫香が慌てて頭を下げると、キルファは苦笑いした。


「王女は止めてください。ここでは3分の1の人が王族です。―――それよりも、パーティーは楽しいですか?」


「はい、とっても」


 姫香の返答に、キルファは微笑んだ。


「それは良かったです。実は、ヘルズに『チケットを偽造したいから原本を貸してくれ』と頼まれましてね。先日のお礼の意味も込めて貸したのですが、まさか貴方も来ているとは」


「あっ・・・・」


 先日の、真理亜と沙織の言葉が頭に蘇る。


『ほら、今の世の中ヘルズみたいな犯罪者が活躍してるような時代じゃない。だから会社が全勢力を投入して、絶対に偽装出来ないチケットを作ったんだよね。多分、ヘルズでも無理なんじゃないかな』


『そうそう。原本があれば話は別だけど、それが配布されるのってどこかの王族か貴族くらいな物だもんね』


 あの時、どうやってヘルズが偽造したのか不思議に思ったが何のことはない、キルファから原本を貸してもらったのだ。原本が間近にある以上、あのヘルズならミスしないだろう。これで謎が一つ解けた。姫香は深々と頭を下げた。


「チケットを貸していただき、ありがとうございました。おかげでこうしてパーティーに無事潜り込めました」


「いえいえ、こちらこそこの間の事はありがとうございました。自由に生きる怪盗に向かって、私事を依

頼してしまって」


 姫香の殊勝な態度に苦笑いしながら、キルファが頭を下げる。その態度には、巻き込んでしまった以外の何かがあるように感じられた。

 何だか深刻な空気になって来たのを感じ取ったのか、キルファが話を変えた。


「そう言えば、ここは何だかにぎやかですね」


 言われて辺りを見渡せば、確かにその通りだ。いつの間にか会場は大きな賑わいを見せていた。社交ダンスを踊る男と女、観客数人にマジックを披露しているマジシャン、ヘッドホンを付けて本を読んでいる青年など、様々だ。


 中でもひときわ目を引いたのは、とあるテーブルだ。テーブルでは黒いマントを羽織った中年くらいの男性とトレンチコートの男が並んで座っている。二人の前には料理が山ほど置かれ、二人はそれを貪るようにして食べている。どうやら食べ比べをしているようだ。トレンチコートの男を、周りに居る警官数人が応援しているのが印象的だった。その隣のテーブルでは老人が浴びるように酒を飲んでおり、その近くで給仕係が困ったように右往左往している。


「ここは、戦場か何かですか?」


 我慢できなくなり、姫香はキルファに聞いた。ヘルズはよく混沌、混沌と言うのだが、まさにこの状況こそ『混沌』だった。


次回は7月28日更新予定です。

現在分かっている詳細

・仁ノ見留薬味・・・二ノ宮来瞳

・ピエロ・・・・・松林尚人

・バイトらしき青年・・・ヘルズ

・赤いランドセルを背負った小学生・・・『味覚

・バーテンダー・・・『触覚』(死亡)

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