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世間を騒がせる天才怪盗は、二次元廃人でした。  作者: 桐原聖
引きこもり怪盗と自由になりたい王女
29/302

ヘルズ陣営のスパイと謎の女が戦うようです。

 今回は久し振りに降谷を登場させます。

 そして久し振りのバトルシーン!

「さて、どうするかね」


 降谷は、シェルマンジェ宮殿の屋根の上に居た。


 足元にはラジオが置いてあり、盗聴器で入手した内容をひっきりなしに流している。降谷はその内容を聞きながら、これからの計画を思索していた。


 と、殺気を感じて一歩跳び退く。降谷が跳び退くと同時、闇に紛れて放たれたワイヤーが先ほどまで降谷が居た場所を通過し、ラジオを破壊した。


「あら、残念。簡単に仕留められると思ったのに」


 暗闇の中から、女の残念そうな声が聞こえる。


「何者だ?」


 降谷がラジオの残骸を拾い上げながら訊ねる。すると、闇の中から女の頭が現れた。闇に目が慣れ、女が黒い服を着ている事が分かった。女は降谷を見ると、ニタリと気持ち悪く笑った。


「あら、あの頭のおかしい怪盗じゃないのね。貴方、こんな所で何をしているの?」


「こっちの台詞だ、レディ」


 突然襲い掛かって来る人間がまともな奴なわけがない。そう思い降谷は身構えた。


「あら、私はこの宮殿に住んでいる王女様を誘拐するために下調べに来ただけよ。そう言う貴方は何をしているの?」


 女があっけらかんと言い放つ。降谷は自分の目的を頭の隅から呼び起こす。


「オレはある馬鹿から頼まれて絶賛盗聴中だ。そして悪いな」


 お前の目的はこっちにとって都合が悪い、と降谷は呟き、女に肉薄した。5メートル近く

あった距離を一瞬で詰め、女の顔面に拳を叩きこんだ。


「ッ!」


 女がすれすれで拳を躱し、後ろに跳躍する。降谷は懐から拳銃を抜くと、女に向かって連射した。


『人を殺してはいけない』という絶対不変の盟約の元に戦っているヘルズとは違い、降谷はスパイだ。情報を持ち帰るためには平気で人を殺す。故に、常に本気が出せる。


「くっ!」


 女が弾丸をかがんで躱し、ワイヤーを振るう。ワイヤーが鞭のようにしなり、降谷の拳銃を狙う。


「その程度か、随分とお粗末だな!」


 降谷はそれを鼻で笑うと、ワイヤーを片手で受け止めた。女はワイヤーを掴まれた事に気が付くと、ワイヤーを手から離し、どこからか拳銃を取り出し降谷に向けた。


「死ね!」


 女が引き金を絞った瞬間、降谷は動いていた。手の中に握りこんでいたラジオの破片を投げつけ、持っていたワイヤーを、女に向かって振るう。目くらましと、敵の動きをけん制する動き。直接打撃を与えるわけではないが、これで敵の動きが少しは鈍るはず―――


「ふっ!」


 だが女はワイヤーを避けると、左手を伸ばした。その腕から射出される銀色の線を見て、降谷は驚愕した。


「ワイヤーは一本だけじゃないのか!」


 女が放ったワイヤーは塔の先端に絡まり、女の身体を引っ張り上げる。女は塔の先端まで飛び上がると、降谷に右手を向けた。空中に光る複数のワイヤーを見て、降谷は愕然とする。


「ワイヤーアクションでもしたいのかよ⁉」


 毒づきながら空中に跳び、複数のワイヤーを避ける。それでも全ては避けきれず、ワイヤーの一本が頬をかすめる。濡れた感触が頬を伝わり、降谷は舌打ちした。


「クソッタレ! だから今回の仕事は引き受けたくなかったんだ!」


 胸ポケットから予備の弾倉を出し、弾倉を交換する。直後複数のワイヤーが降谷を襲うが、紙一重の所で物陰に隠れ回避した。


 血に濡れた頬を拭いながら、降谷は頭上に居る女を睨む。


「あのワイヤー、あれは厄介だな。オレならとにかく、ヘルズなら耐えきれない」


 今ではなくても将来的に脅威になると感じた降谷は、女をここで始末する事を決め、懐から何かの部品を取り出し始めた。部品を全て取り出し、組み立てる事30秒。降谷は歓声した武器の取っ手を握り、塔の先端にいる女に向けた。


「出て来いよ、このテロリストが!」


「・・・・」


 降谷が挑発すると同時、人型の影が塔の先端から飛び出した。降谷はそれを見た瞬間、武器―――ロケットランチャーの引き金を引いた。


 カチッ、という音が鳴り、射出された手榴弾が狙い外さず人型の影に当たる。ドォォォォォォォォォォン! という音が鼓膜を叩き、手榴弾が空中で爆発する。


「やったか?」


 念のためいつでも撃てる準備をしておこうと降谷が手榴弾を詰めた時、爆発の中から人型の影が飛び出した。


「嘘だろ?」


 あの爆発の中から逃げられる人間を、降谷は一人しか知らない。そしてその一人も、物理限界を余裕で突破している化け物だった。あの女は物理限界を突破していない。つまり――


「どうやって、避けたんだ?」


 降谷が首を傾げた時、足元に数本のワイヤーが突き刺さる。降谷はバックステップで距離を取りつつ、ロケットランチャーを捨て格闘の構えを取る。この距離でロケットランチャーを撃てば降谷もただでは済まないからだ。降谷が跳び退いた直後、屋根の上に女が降り立った。


「ロケットランチャーを持ってるとは思わなかったわ。でも迂闊ね。音を聞いた衛兵がもうすぐ来るわ。もう少し、遊びたかったけど、もう終わりね」


 女はあえて軽々しく言うが、その割に疲弊した声を出している。どうやらあの状況からワイヤーを駆使して爆発を逃れたようだ。大した身体能力だが、そんなスリリングなアクションを行って身体が持つはずが無い。もう今の彼女に肉弾戦を行うだけの体力は残っていない。降谷はその事を即座に看破すると、女に突進した。


「くっ!」


 女が苦痛の表情になり、後ろに引こうと片足に力を込める。その足を降谷は踏みつけ回避行動を封じつつ、女の顔に強烈な右フックを見舞う。


「くはっ!」


 右フックは綺麗に女の左頬にヒットし、女が苦悶の声を上げる。降谷はその隙を逃さず、ポケットからナイフを出し、女の心臓を狙う。


――――と、そこで何かに気が付き、後ろに跳び退く。


 一秒前まで降谷の居た所に、何かが落ちて来た。顔に包帯を巻いており、何故か学ランを着ている。しかし、そのふざけた格好にも関わらず、凄まじい闘気を放っているのを降谷は感じた。


「あら、よく躱したわね。その反射神経、流石だわ」


 女が歪んだように笑う。その後、でも、と付け足す。


「そろそろ本当に、衛兵が来るわよ?」


 女の言う通り、眼下から衛兵たちがやって来る音が聞こえる。降谷は舌打ちすると、女の方に向き直った。


「随分と妙な護衛を雇ってるんだな。包帯に学ランとか、オレの仲間でもやらないぞ」


 降谷の言動に、女はクスリと笑った。


「残念だけど、今回はここで終わりね。また今度戦いましょう」


 その言葉と共に、女の身体が消える。謎の人間も、気がつけばいなくなっている。


「ようやく去ったか・・・」


 降谷は安堵の息を吐くと、衛兵たちに見つかる前にその場から立ち去った。







「あ、あ、あ・・・」


 降谷と謎の女の戦いを終始見ていたメイド長は、身体を震わせていた。


 だがそれも当然だろう、寝付けなくて煙突掃除をしていたら屋根から物音がしたので煙突から顔を出して見てみると、なんと怪しげな二人が戦っているのだ。一介のメイドである彼女が驚くのも無理もない。


「い、今のは・・・」


 足をガタガタと震わせながら、彼女は呟く。震える足で煙突から降りると、彼女は王女の部屋に向かった。


「早く、王女に報告しないと・・・許可を得なくては・・・」


 久し振りのバトルシーンでした。

 これからどんどんバトルは増えていきます。ぜひ読んでください。

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