怪盗一味(−降谷)は、外食に行くそうです。
今回は怪盗一味(-降谷)が、外食に行きます。
最近降谷出番少ないですね・・・
「いやー、やっぱここは混んでるな」
カウンター席に腰かけながら、ヘルズは嬉しそうに言った。
「そうね。この喧騒は嫌だけど、そこを除けばいい所ね」
二ノ宮も満足そうな顔をしている。
「あ、あの、二人とも・・・」
姫香は気まずそうな顔で、二人を見た。
「どうした? ここの料理は絶品だから、お前の口にも合うと思うぞ」
「いえ、そうではなくて・・・」
姫香は辺りを見回して、ヘルズに尋ねる。
「どうして私達、居酒屋に居るんですか?」
そう、三人が居るのは居酒屋である。しかもこの居酒屋、上に宿が付いており、料金を払うと泊まる事が出来るという、今では珍しい居酒屋なのである。
「フッ」
数秒の間を置いて、ヘルズが鼻を鳴らす。
「お前は何も分かっていないようだな、居酒屋の素晴らしさという物を!」
そして両手を広げると、声を張り上げた。
「この決して話し相手に困らない喧騒、安い単価で上手い料理、そして情報の売買、どれを取っても最高ではないかッ!」
ヘルズが声高に叫ぶと、たちまち同意の声が上がった。
「兄ちゃん、分かってるじゃねえか!」
「兄ちゃん、後でこっち来いよ! 一杯おごるぜ?」
「最後がよく分からねえが、その通りだ! やっぱ夜は居酒屋だよな!」
どうやら、ここの客は皆ノリがいいようだ。かなりの盛り上がりを見せている。
「じゃあ、もう一つ質問いいですか?」
客たちの話し声に掻き消されないようにしながらも、質問の内容が周りに聞かれないように配慮しながら、姫香がヘルズに聞く。
「何で、私達は変装してるんですか?」
三人とも、路地裏に居た時の服装とは、違う服装をしていた。
ヘルズは眼帯を取り外し、髪を逆立てている。耳にピアスを付け、いかにもそこら辺に居るチンピラと言った感じだ。二ノ宮は黒のサングラスを掛けたままで水色のジャケットを羽織り、足元にギターケースを置いている。そして姫香は指に付け爪を装着し、ぶかぶかのトレンチコートを着ていた。トレンチコートはハードボイルドな男が着る感じの物で、女子高生である姫香が着るとどうしてもちぐはぐ感が否めない。
姫香が聞くと、ヘルズはキョトンとした顔をした。
「分からないのか? 居酒屋と言ったら酒だろ。でも未成年は酒を飲めないから、こうして変装してるわけだ。そのくらい分かるだろ」
「いや、理解したくないです。それに、こんな目立つ格好をしていたら、怪しまれてしまいます」
少し堅苦しいな、と自分でも思いながらも、姫香は返答する。その答えに呆れたのか、ヘルズが嘆息した。
「馬鹿だなお前は。人生ってのはな、楽しんだ奴が勝ちなんだよ。それと、怪しい格好とか言ったな。残念だがそれは間違いだ」
「今の私達は、バンドのグループ。ヘルズがボーカルで、私がギター。で、姫香ちゃんが楽器っていう設定になってるから、誰かに聞かれたらそう答えてね」
ヘルズの言葉につなげるように、二ノ宮が姫香に告げる。姫香が頷くと、ヘルズが姫香の耳元で囁くように言った。
「それに最初に言ったろ? ここは普通の店とは違う。情報屋が集まる、いわば情報のセール場所だ。だが情報屋の奴に顔を覚えられると、色々と面倒だ。だからこうして変装してるんだよ」
姫香は驚嘆した。まさかそこまで考えた上での行動だったとは。てっきり酒を飲むためだけだと思っていたのに。
「それじゃあ、俺はあのオッサンから情報を貰って来るわ。ついでに酒もおごってもらうとするわ」
ヘルズが席を立ち、先ほどヘルズに同意した中年男のテーブルに行ってしまった。何やら真剣な顔で話し込んでいる。
「そんなに緊張しなくてもいいんだよ、姫香ちゃん」
「うわっ!」
二ノ宮が姫香の肩に寄りかかって来る。姫香は驚いたが、今回は来ると分かっていたためか、前回の二の舞になる事はなかった。
「ヘルズさんと話しているあの男の人も、情報屋なんですか?」
姫香が疑問に思った事を聞くと、二ノ宮は難しい顔をした。
「情報屋と言っても、主に二つに分かれるわよ。一つ目が、降谷先生みたいに直接情報を手に入れるのを主とする人。二つ目は、どこかから情報を買って、それを違う誰かに高値で売りつける事を主とする人。まあ要するに転売ね。ここに集まってる人は、大抵後者よ」
「そうなんですか」
つまり、この中の情報の大半は中古品だという事か。その時、頼まれた料理が運ばれてきた。同時に、ヘルズも戻って来た。
「いやー、あのオッサン世間話が長かった割に、大した情報を持ってなかったぜ。残念残念」
大して悲しくも無さそうに言うと、運ばれて来たから揚げを食べ始めた。
その時、ヘルズの隣の席に、老人が立った。
「失礼。隣、よろしいかな」
「ああ、構わないぜ」
ヘルズが老人の方に見向きもせずにから揚げと戦いながら言うと、老人は薄く笑って、カウンターの席に腰かけた。
「爺さん、何か有力な情報持ってたりするか?」
から揚げと戦いながら、ヘルズが老人に聞いた。老人は無言でそれを流すと、ヘルズの前に日本酒の一升瓶を差し出した。
「何だ、爺さん? まさか俺と飲み比べで勝負して、負けた方が一方的に情報を提供するとか、そう言う事か?」
「話が早くて助かる。で、乗るか、降りるか?」
老人の挑発的な物言いに、ヘルズは右手を上げて答えた。
「いいぜ、乗ってやろうじゃねえか!」
そう言って一升瓶を飲み始めたヘルズを、姫香は冷めた目で見つめていた。
「チッ、せっかく勝ったのにあの爺さん、ろくな情報持ってないじゃねえか。うげっ」
「全く、どうしてそうなってまで頑張るのかしらね。馬鹿なのかしら」
吐きそうな顔のヘルズを介抱しながら、二ノ宮は階段を昇っていた。ヘルズが酔い過ぎて帰る事が困難となったため、上の宿屋に泊まる事になったのだ。
ちなみに姫香は部屋を借りると早々に部屋に逃げ込んだ。「だんだん皆が酒臭くなってきた」からだそうだ。
「はい、着いたわよヘルズ」
「悪いな二ノ宮。マジ御免」
「いつも迷惑かけてるくせに、今さら謝られても遅いわよ」
「それもそうだな。うえっ」
ヘルズが二ノ宮から離れ、ベッドに倒れこんだ。ヘルズがベッドに潜り込むと同時、寝息が聞こえてきた。よほど飲んだらしい、ヘルズにしては珍しく、時々いびきが聞こえて来る。
「さて、私も寝よう」
二ノ宮は大きくあくびをして自分の部屋に戻ろうとしたが―――
その時、ある悪戯を思い付いた。
「せっかくヘルズをここまで運んだのだもの、この位の役得があってもいいわよね」
誰ともなしに言うと、二ノ宮はジャケットを脱ぎ、豪快に床に投げ捨てた。このままでは皺になってしまうかもしれないが別に変装用の服装である上にそこまで似合っているわけではないため特に気にする事はない。続けざまに身に付けていた物を素早く脱ぎ、ニッコリと微笑んだ。
「ヘルズ、どんな顔するかしら。フフッ」
そろそろ降谷を出したいと思います。
いい加減可哀想になって来た・・・




