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世間を騒がせる天才怪盗は、二次元廃人でした。  作者: 桐原聖
引きこもり怪盗と自由になりたい王女
22/302

ヘルズ、王女と対面(その前に国家反逆罪を被ります)

 今回も、ヘルズの厨二病全開で行きます!

 帰りの学活が終了し、姫香が鞄に教科書などを詰めていると、真理亜と沙織がやって来た、


「ねえ、姫香。美味しいケーキ屋さん見つけたんだけどさ。帰りに寄ってかない?」


「姫ちゃんが自由になったお祝いがまだだったからさ。ね、一緒にどう?」


 特に断る理由も無いので、姫香は頷く。


「うん、いいよ」


 その途端、真理亜と沙織が姫香に背を向けた。


「えっ、どうしたの二人とも?」


「(これで姫香を黒明先輩から引き離すことが出来る!)」


「(姫ちゃんだけをリア充にさせてたまるか!)」


 真理亜と沙織が小声で何かを言っていたが、教室の喧騒のためか聞こえない。


「二人とも、私に内緒でどうしたの?」


「べ、別に何も。ねえ沙織」


「う、うん。別に何もないよ」


 挙動不審な二人を訝しく思いながら、姫香は鞄を持った。


「じゃあ、行こうか」


 その時、教室の外から降谷の声が聞こえてきた。


「おい、花桐はもう帰宅したか? ちょっと花桐に用がある」


「あ、ここに居ます降谷先生」


 姫香が声を掛けると、降谷は急に険しい顔になった。


「花桐、先日の誘拐事件の事で話がある。生徒会室に来い」


「あ、はい」


 慌てて返事をした姫香は真理亜と沙織の方を振り返った。


「ご、ごめんね。今日はそのケーキ屋さん、行けそうにないかも」


 姫香が謝ると、二人は少し残念そうな顔をした。


「うーん、まあ呼び出しじゃしょうがないか」


「じゃあ姫ちゃん、私達5時くらいまで教室で待ってるから、終わったらすぐ来てね」


「ありがとう、二人とも」


 真理亜と沙織に礼を言い、姫香は降谷と共に生徒会室に向かった。




 姫香が生徒会室に入ると、中には一組の男女が居た。


「よう、遅かったな。エロ教師に何かされなかったか?」


 生徒会室の壁に寄りかかって、両手をポケットに突っ込んでいるのはヘルズだ。学校内だと言うのに眼帯を付け、腕には包帯を巻いている。もしここに松林刑事が居れば、生徒会室は一瞬で戦場と化していただろう。


「女子生徒に手を出すほど、オレは女に困ってねえよ」


「あら、その割には私の事をよくそういう目で見てるわよね?」


 もう一つの声は二ノ宮の物だ。余裕そうに腕を組み、ヘルズ同様壁に寄りかかっている。


「二ノ宮先輩、どうしてここに?」


 姫香が聞くと、二ノ宮はフッ、と口の端を歪めた。


「『どうして外に出ているか』って事? 甘いわね、姫香ちゃん」


 二ノ宮が言った直後、彼女の身体が壁に沈み込んだ。驚きで声が出ない。


「これは私が作った『ホログラム作成機』。これがあれば、部屋から一歩も出ずに外部と連絡が取れるわ」


 二ノ宮が自信満々に言う。姫香は試しに二ノ宮に触ってみるも、その手は虚しく空を切る。


「じゃあ、全員そろった事だしそろそろ始めるとしましょう」


 二ノ宮が壁から身を起こし、全員に言う。その瞬間、部屋の空気が少し張り詰めた。


「じゃあ、花桐も居る事だしさっさと終わらせるか」


 ヘルズが相変わらずの、どこか余裕がある表情で言う。だがその声には、いつもの彼とは違う、真剣味がこもっている。


―――おそらく、仕事の話だろう。自分はその一端に足を踏み入れようとしているのだ。

 姫香は気を引き締めた。ヘルズは頭を掻き、口を開き―――







「面倒なので一言で言おう。花桐、明日学校を休め。ネトゲのイベント手伝ってくれ」








 なんか凄い事を告げた。


「・・・はい?」


 姫香は呆気に取られた。この男は一体、何を言っているんだろう。


「いやー、明日のイベントは俺と二ノ宮の二人だけじゃ無理そうなんだよなー。と、いう訳で頼む! 報酬は弾む!」


「ふざけてるんですか――――ッ!」


 真剣な声で言う事がそれかと言う落胆が、姫香の怒りを更に増幅させる。姫香は手元にあるものを片っ端から投げ始めた。


「ちょっ、待てって! いや待って下さい! おい彫刻刀はホント洒落にならないからやめろ! やーめーろー!」


 ヘルズの絶叫が、廊下に木霊した。







 ―――結局、それから十数分後。


 姫香の手元に投げられる物が無くなった事で、ヘルズ殺人事件は未遂に終わった。


「じゃ、じゃあ本題に戻ろうか」


 疲労した様子のヘルズが、全員の顔を見回して話を続ける。


「学校を休んでほしいっていうのは本当だ。明日、朝早くから飛行機に乗ってイギリスに行くぞ」


「は、はい⁉」


 今度は違う意味で驚いた。ヘルズは何故急にそんな所に行くのだろうか。すると姫香の疑問を察したのか、ホログラムの二ノ宮が教えてくれた。


「実は、イギリスの王族からメールが届いたのよ。『盗んでほしい物がある』っていう、奇妙なメールが。それで、まあ何か色々あって、イギリスに行くことになったの」


 姫香は納得した。理解出来ない部分は少々あるが、「それがヘルズ達のやり方なんだ」と思い、無理矢理自分を納得させる。そうでも無ければ、こんな社会生活不適応者達の相手など出来るはずがない。


 だが、そうやってもまだ一つ疑問に思う事がある。


「あの、どうして生徒会室(ここ)で話をしたんですか? 別に帰ってきてからでも構いませんよね」


 すると、ヘルズが不敵な笑みを浮かべた。


「フッ、『生徒会室』『怪盗』『夕暮れ』。これだけヒントがあると言うのに、お前はまだ気付

かないのか?」


「ッ⁉」


 姫香は辺りを見回した。まさか、この生徒会室には何か秘密が隠されているのだろうか。


「そう、俺が生徒会室で話をした理由はただ一つ!」


 ヘルズが不敵な笑みのまま、真剣な面持ちで告げる。







「格好いいからだ!」







 沈黙が、生徒会室内を支配する。


「・・・はい?」


 その沈黙を最初に破ったのは、姫香だった。信じられない者を見たという顔をしている。ヘルズはそんな彼女の様子に気付かず、まるで推理を発表する探偵のように、堂々とのたまった。


「学校の『正義』である生徒会室。そんな敵地に危険を覚悟で忍び込み、仲間と秘密の会合をする『悪』の存在! 見つかれば最後、教師に隠されし奥義『先生の指導(バイオレンスインフェルノ)』をくらうかもしれない状況の中、俺達は仲間に作戦決行を告げる。どうだ、素晴らしいとは思わないか!」


 素晴らしい厨二病っぷりを発揮するヘルズを見て、姫香は溜息を吐いた。


―――――どうして自分は、こんな人に助けられてしまったのだろう。


 この瞬間、姫香は本気でそう思った。







「凄い・・・」


 翌朝、朝早くの飛行機でイギリスまで来た姫香は、感嘆の声を目指した。

 空港で降り、バスに乗る事15分。そこに、あちこちを金で散りばめたその建物はあった。

 件の王宮、シェルマンジェ宮殿である。

 学校の3倍はあるのではないかと思うその宮殿は、見る者を怯ませる威圧感を誇っている。姫香も最初にその建物を見た時圧倒され、しばらく声が出せなかった。


「ったく、建物の外にまで(きん)とか、無駄に税金使ってるな。そんなに金があるんなら、俺に半分よこせよ」


 ブレずに毒を吐くヘルズに、姫香は非難の目を向ける。すると、隣に居る二ノ宮もヘルズに賛同した。


「そうね。ここまでやったのなら、建物の外を全部純金で覆うべきね。そうすれば私以上に注目されて、この鬱陶しい視線も少しは消えるのに」


 確かに、さっきから道行く男達の視線が、二ノ宮に向いている。中には話しかけようとする輩も居たが、ヘルズが殺気を出して全て追い払った。

 ここまでは別にいい。問題なのは―――


「それは分かるんだけどさ、二ノ宮は何で俺の腕に絡んでんだ?」


 そう。二ノ宮はイギリスに着いた時からずっと、ヘルズの腕に自分の腕を絡めていたのだ。


―――まるで恋人のように。


「あら、仕方がないじゃない。男達の視線が痛いんだから、こうして彼氏が居る事をアピールしないと」


「俺、お前の彼氏じゃないんだけど」


「大丈夫、将来二次元に転生した時の彼氏よ」


「嬉しくねえ!」


 そんなこんなでシェルマンジェ宮殿に着いたわけだが、周りに居る男達の視線が痛い。


「クソッ、こうなりゃ無理矢理にでもニセ教師を連れて来るべきだったか?」


 降谷は高校の教師という仮の姿を捨てるわけにもいかないため、仕方なく置いて来たのだ。


「まあいいや。アイツ無しでも何とかなるだろ」


 ヘルズは呑気に言うと、城門に向かった。


「よお、見張りご苦労さん」


 開口一番喧嘩を売るような英語に、番兵達が眉をひそめる。


「何者だ、貴様?」


 番兵が手に持った銃を突きつけながら、ヘルズに聞く。ヘルズは二ノ宮を引き剥がして背中に庇うと、余裕綽々の顔で言った。


「日本の怪盗、ヘルズ・グラン・モードロッサ・ブラッディ・クリムゾン・ライトニングだ!」


「ふざけてるのか!」


 ヘルズの台詞を冗談だと思ったのか、番兵が引き金に指を掛ける。ーー瞬間、ヘルズの体が煙り、番兵二人を蹴り飛ばした。


「ぐはぁ!」


 番兵達は吹き飛び、門に後頭部をぶつけて気絶した。


「あ、あの、ヘルズさん・・・」


「仕方ないだろ、あの二人が通してくれなかったんだし」


 俺は悪くない、と呟きヘルズは堂々と正面から城内に侵入する。その際、衛兵が何人か来たが、ヘルズは事もなげに瞬殺した。


「さて、と。ここが女王様の部屋か」


 衛兵たちを次々に気絶させ、ついにヘルズ一行は女王陛下の部屋の前に到達した。姫香がドアをノックしようとすると、ヘルズがそれを遮った。


「ちょっと待て」


 ヘルズはトン、トンとステップを踏むと、扉に回し蹴りを叩きこんだ。木の扉が蹴り破られ、中の様子があらわになる。


「ちょっと、ヘルズさん⁉ 何やってるんですか、これ重大な国家反逆罪ですよ!」


 姫香がヘルズに詰め寄った。流石に『扉を蹴り破った事による国家反逆罪』で死にたくはない。


「だってムカついたから」


「子供みたいな事言わないでくださいッ!」


 ヘルズの胸倉を掴んだ時、横から声が掛かった。


「突然お呼び立てしてしまい、申し訳ありません。イギリス王女、キルファ=ヴァーテルと申します」


 その声に二人が横を向くと、銀のドレスを着た少女が膝をついて居た。


「アンタが今回の依頼人か。で、何を盗んでほしいんだ? 金か、それとも国家が大切にしてる『何か』か?」


 だがヘルズは相手が王女だと分かっていても言葉遣いを改めない。それどころか、こんな面倒な依頼をした相手が分かり、少し怒っているようだ。


「いえ、私が盗んでほしいのは、もっと別の物です」


 王女の言葉に、ヘルズは首を傾げた。


「結局何なんだよ。さっさと言え」


 ヘルズの問いに、王女は顔を上げた。


「このキルファ=ヴァーテル王女、つまり私を盗んでほしいのです」


「「は・・・?」」


 姫香とヘルズの疑問の声が、見事に一致した。


 王女のあの発言、真相はいかに!

 次回もぜひ読んでください!

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