ヘルズ、王女と対面(その前に国家反逆罪を被ります)
今回も、ヘルズの厨二病全開で行きます!
帰りの学活が終了し、姫香が鞄に教科書などを詰めていると、真理亜と沙織がやって来た、
「ねえ、姫香。美味しいケーキ屋さん見つけたんだけどさ。帰りに寄ってかない?」
「姫ちゃんが自由になったお祝いがまだだったからさ。ね、一緒にどう?」
特に断る理由も無いので、姫香は頷く。
「うん、いいよ」
その途端、真理亜と沙織が姫香に背を向けた。
「えっ、どうしたの二人とも?」
「(これで姫香を黒明先輩から引き離すことが出来る!)」
「(姫ちゃんだけをリア充にさせてたまるか!)」
真理亜と沙織が小声で何かを言っていたが、教室の喧騒のためか聞こえない。
「二人とも、私に内緒でどうしたの?」
「べ、別に何も。ねえ沙織」
「う、うん。別に何もないよ」
挙動不審な二人を訝しく思いながら、姫香は鞄を持った。
「じゃあ、行こうか」
その時、教室の外から降谷の声が聞こえてきた。
「おい、花桐はもう帰宅したか? ちょっと花桐に用がある」
「あ、ここに居ます降谷先生」
姫香が声を掛けると、降谷は急に険しい顔になった。
「花桐、先日の誘拐事件の事で話がある。生徒会室に来い」
「あ、はい」
慌てて返事をした姫香は真理亜と沙織の方を振り返った。
「ご、ごめんね。今日はそのケーキ屋さん、行けそうにないかも」
姫香が謝ると、二人は少し残念そうな顔をした。
「うーん、まあ呼び出しじゃしょうがないか」
「じゃあ姫ちゃん、私達5時くらいまで教室で待ってるから、終わったらすぐ来てね」
「ありがとう、二人とも」
真理亜と沙織に礼を言い、姫香は降谷と共に生徒会室に向かった。
姫香が生徒会室に入ると、中には一組の男女が居た。
「よう、遅かったな。エロ教師に何かされなかったか?」
生徒会室の壁に寄りかかって、両手をポケットに突っ込んでいるのはヘルズだ。学校内だと言うのに眼帯を付け、腕には包帯を巻いている。もしここに松林刑事が居れば、生徒会室は一瞬で戦場と化していただろう。
「女子生徒に手を出すほど、オレは女に困ってねえよ」
「あら、その割には私の事をよくそういう目で見てるわよね?」
もう一つの声は二ノ宮の物だ。余裕そうに腕を組み、ヘルズ同様壁に寄りかかっている。
「二ノ宮先輩、どうしてここに?」
姫香が聞くと、二ノ宮はフッ、と口の端を歪めた。
「『どうして外に出ているか』って事? 甘いわね、姫香ちゃん」
二ノ宮が言った直後、彼女の身体が壁に沈み込んだ。驚きで声が出ない。
「これは私が作った『ホログラム作成機』。これがあれば、部屋から一歩も出ずに外部と連絡が取れるわ」
二ノ宮が自信満々に言う。姫香は試しに二ノ宮に触ってみるも、その手は虚しく空を切る。
「じゃあ、全員そろった事だしそろそろ始めるとしましょう」
二ノ宮が壁から身を起こし、全員に言う。その瞬間、部屋の空気が少し張り詰めた。
「じゃあ、花桐も居る事だしさっさと終わらせるか」
ヘルズが相変わらずの、どこか余裕がある表情で言う。だがその声には、いつもの彼とは違う、真剣味がこもっている。
―――おそらく、仕事の話だろう。自分はその一端に足を踏み入れようとしているのだ。
姫香は気を引き締めた。ヘルズは頭を掻き、口を開き―――
「面倒なので一言で言おう。花桐、明日学校を休め。ネトゲのイベント手伝ってくれ」
なんか凄い事を告げた。
「・・・はい?」
姫香は呆気に取られた。この男は一体、何を言っているんだろう。
「いやー、明日のイベントは俺と二ノ宮の二人だけじゃ無理そうなんだよなー。と、いう訳で頼む! 報酬は弾む!」
「ふざけてるんですか――――ッ!」
真剣な声で言う事がそれかと言う落胆が、姫香の怒りを更に増幅させる。姫香は手元にあるものを片っ端から投げ始めた。
「ちょっ、待てって! いや待って下さい! おい彫刻刀はホント洒落にならないからやめろ! やーめーろー!」
ヘルズの絶叫が、廊下に木霊した。
―――結局、それから十数分後。
姫香の手元に投げられる物が無くなった事で、ヘルズ殺人事件は未遂に終わった。
「じゃ、じゃあ本題に戻ろうか」
疲労した様子のヘルズが、全員の顔を見回して話を続ける。
「学校を休んでほしいっていうのは本当だ。明日、朝早くから飛行機に乗ってイギリスに行くぞ」
「は、はい⁉」
今度は違う意味で驚いた。ヘルズは何故急にそんな所に行くのだろうか。すると姫香の疑問を察したのか、ホログラムの二ノ宮が教えてくれた。
「実は、イギリスの王族からメールが届いたのよ。『盗んでほしい物がある』っていう、奇妙なメールが。それで、まあ何か色々あって、イギリスに行くことになったの」
姫香は納得した。理解出来ない部分は少々あるが、「それがヘルズ達のやり方なんだ」と思い、無理矢理自分を納得させる。そうでも無ければ、こんな社会生活不適応者達の相手など出来るはずがない。
だが、そうやってもまだ一つ疑問に思う事がある。
「あの、どうして生徒会室で話をしたんですか? 別に帰ってきてからでも構いませんよね」
すると、ヘルズが不敵な笑みを浮かべた。
「フッ、『生徒会室』『怪盗』『夕暮れ』。これだけヒントがあると言うのに、お前はまだ気付
かないのか?」
「ッ⁉」
姫香は辺りを見回した。まさか、この生徒会室には何か秘密が隠されているのだろうか。
「そう、俺が生徒会室で話をした理由はただ一つ!」
ヘルズが不敵な笑みのまま、真剣な面持ちで告げる。
「格好いいからだ!」
沈黙が、生徒会室内を支配する。
「・・・はい?」
その沈黙を最初に破ったのは、姫香だった。信じられない者を見たという顔をしている。ヘルズはそんな彼女の様子に気付かず、まるで推理を発表する探偵のように、堂々とのたまった。
「学校の『正義』である生徒会室。そんな敵地に危険を覚悟で忍び込み、仲間と秘密の会合をする『悪』の存在! 見つかれば最後、教師に隠されし奥義『先生の指導』をくらうかもしれない状況の中、俺達は仲間に作戦決行を告げる。どうだ、素晴らしいとは思わないか!」
素晴らしい厨二病っぷりを発揮するヘルズを見て、姫香は溜息を吐いた。
―――――どうして自分は、こんな人に助けられてしまったのだろう。
この瞬間、姫香は本気でそう思った。
「凄い・・・」
翌朝、朝早くの飛行機でイギリスまで来た姫香は、感嘆の声を目指した。
空港で降り、バスに乗る事15分。そこに、あちこちを金で散りばめたその建物はあった。
件の王宮、シェルマンジェ宮殿である。
学校の3倍はあるのではないかと思うその宮殿は、見る者を怯ませる威圧感を誇っている。姫香も最初にその建物を見た時圧倒され、しばらく声が出せなかった。
「ったく、建物の外にまで金とか、無駄に税金使ってるな。そんなに金があるんなら、俺に半分よこせよ」
ブレずに毒を吐くヘルズに、姫香は非難の目を向ける。すると、隣に居る二ノ宮もヘルズに賛同した。
「そうね。ここまでやったのなら、建物の外を全部純金で覆うべきね。そうすれば私以上に注目されて、この鬱陶しい視線も少しは消えるのに」
確かに、さっきから道行く男達の視線が、二ノ宮に向いている。中には話しかけようとする輩も居たが、ヘルズが殺気を出して全て追い払った。
ここまでは別にいい。問題なのは―――
「それは分かるんだけどさ、二ノ宮は何で俺の腕に絡んでんだ?」
そう。二ノ宮はイギリスに着いた時からずっと、ヘルズの腕に自分の腕を絡めていたのだ。
―――まるで恋人のように。
「あら、仕方がないじゃない。男達の視線が痛いんだから、こうして彼氏が居る事をアピールしないと」
「俺、お前の彼氏じゃないんだけど」
「大丈夫、将来二次元に転生した時の彼氏よ」
「嬉しくねえ!」
そんなこんなでシェルマンジェ宮殿に着いたわけだが、周りに居る男達の視線が痛い。
「クソッ、こうなりゃ無理矢理にでもニセ教師を連れて来るべきだったか?」
降谷は高校の教師という仮の姿を捨てるわけにもいかないため、仕方なく置いて来たのだ。
「まあいいや。アイツ無しでも何とかなるだろ」
ヘルズは呑気に言うと、城門に向かった。
「よお、見張りご苦労さん」
開口一番喧嘩を売るような英語に、番兵達が眉をひそめる。
「何者だ、貴様?」
番兵が手に持った銃を突きつけながら、ヘルズに聞く。ヘルズは二ノ宮を引き剥がして背中に庇うと、余裕綽々の顔で言った。
「日本の怪盗、ヘルズ・グラン・モードロッサ・ブラッディ・クリムゾン・ライトニングだ!」
「ふざけてるのか!」
ヘルズの台詞を冗談だと思ったのか、番兵が引き金に指を掛ける。ーー瞬間、ヘルズの体が煙り、番兵二人を蹴り飛ばした。
「ぐはぁ!」
番兵達は吹き飛び、門に後頭部をぶつけて気絶した。
「あ、あの、ヘルズさん・・・」
「仕方ないだろ、あの二人が通してくれなかったんだし」
俺は悪くない、と呟きヘルズは堂々と正面から城内に侵入する。その際、衛兵が何人か来たが、ヘルズは事もなげに瞬殺した。
「さて、と。ここが女王様の部屋か」
衛兵たちを次々に気絶させ、ついにヘルズ一行は女王陛下の部屋の前に到達した。姫香がドアをノックしようとすると、ヘルズがそれを遮った。
「ちょっと待て」
ヘルズはトン、トンとステップを踏むと、扉に回し蹴りを叩きこんだ。木の扉が蹴り破られ、中の様子があらわになる。
「ちょっと、ヘルズさん⁉ 何やってるんですか、これ重大な国家反逆罪ですよ!」
姫香がヘルズに詰め寄った。流石に『扉を蹴り破った事による国家反逆罪』で死にたくはない。
「だってムカついたから」
「子供みたいな事言わないでくださいッ!」
ヘルズの胸倉を掴んだ時、横から声が掛かった。
「突然お呼び立てしてしまい、申し訳ありません。イギリス王女、キルファ=ヴァーテルと申します」
その声に二人が横を向くと、銀のドレスを着た少女が膝をついて居た。
「アンタが今回の依頼人か。で、何を盗んでほしいんだ? 金か、それとも国家が大切にしてる『何か』か?」
だがヘルズは相手が王女だと分かっていても言葉遣いを改めない。それどころか、こんな面倒な依頼をした相手が分かり、少し怒っているようだ。
「いえ、私が盗んでほしいのは、もっと別の物です」
王女の言葉に、ヘルズは首を傾げた。
「結局何なんだよ。さっさと言え」
ヘルズの問いに、王女は顔を上げた。
「このキルファ=ヴァーテル王女、つまり私を盗んでほしいのです」
「「は・・・?」」
姫香とヘルズの疑問の声が、見事に一致した。
王女のあの発言、真相はいかに!
次回もぜひ読んでください!




