依頼の内容
今回も主人公の厨二病炸裂です。
「で、アンタを盗んでほしいってどういう事だよ、王女様?」
ソファに深く腰掛けながら、ヘルズが偉そうに聞いた。
ここは、シェルマンジェ宮殿内の応接室だ。『扉が壊れている状態では、ヘルズ様一行に失礼』と王女の配慮で、場所を移したのだ。
「キルファとお呼びください。―――その前に、そちらのお二人は?」
キルファがヘルズから目を移し、姫香と二ノ宮の方を向いた。
「ああ、こっちが俺達のおもちゃ担当の二ノ宮。で、こっちが最近仲間に加わった花桐だ」
ヘルズが説明すると、キルファが驚いたように口に手を当てた。
「貴方があの・・・」
「どうした?俺の仲間に不満でもあるのか?」
ヘルズが聞くと、キルファは首を振った。
「いえ、何でもありません。では、話を戻しますね」
「さっさと話せ。10時からネトゲのイベントがあるんだ」
ヘルズの豪快不遜な態度にもキルファは顔色一つ変えない。さすが王女と言うべきか。
「分かりました。では要点だけをまとめて、手短に話しますね」
キルファはそう言うと、深呼吸を一つした。呼吸を落ち着け、話し始める。
「実はこの国はここ最近、反国家勢力に『ある物』を狙われているのです」
「ああ、知ってた」
「えっ?」
あっけらかんと答えるヘルズに、キルファは目を丸くする。
「世界情勢を知っとかないと、いざという時に動けないからな。で、反国家勢力が狙ってる物は何だ?」
「私です」
「ふーん」
応接室につかの間の静寂が訪れる。
「は?」
数秒ののち、ようやくキルファの言葉を理解したヘルズが、間抜けな声を出した。
「反国家勢力が狙ってるのは、人間?」
二ノ宮も驚いた顔をしている。反国家勢力が狙っているのは『物』だと思っていたばかりに、その予想が裏切られた時の驚きも大きい。
「そうです。奴らは私を狙っています。つい先日も、王宮内に賊が侵入し私を誘拐しに来ました。幸い、衛兵たちが命がけで捕らえてどうにか事は収まりましたが、これで彼らが私を狙っている事が確定的になりました」
そこまで言うと、キルファはヘルズの手を取った。
「このまま私が彼らに捕まってしまうと、彼らは私を人質に取って国家を裏から操ろうとするでしょう。それだけは絶対に避けなければなりません。
お願いします、ヘルズさん。彼らの魔の手はすぐそこまで来ています。どうか私を盗んで、反国家勢力の攻撃を防いでください」
ヘルズはしばらくその手を見つめると―――
「断る」
その手を乱暴に払いのけた。
「ちょっと、ヘルズ⁉」
まさか断るとは思ってもみなかったのだろう。二ノ宮がソファから立ち上がった。
「断るって言ってんだろ。文句は後で聞くから、一旦座れ」
ヘルズの言葉に二ノ宮は反論しようとしたが、王女の面前である事を思い出したのだろう、しぶしぶソファに着席する。
「悪いな王女様、今回の件は断らせてもらうぜ」
ヘルズが立ち上がり、部屋から出て行こうと応接室の扉を開く――――
「あ、あのッ!」
寸前、姫香の声が応接室中に響き渡った。
三人の視線が、姫香に集中する。無言の視線を浴びた姫香は、一瞬恥ずかしそうに身を縮こまらせ、キルファの方を向いて行った。
「お、王女様の依頼は、保留とさせていただきます! 実行するか、拒否するかは一度帰国してから話し合いますので、もう少し待っていただけますか?」
姫香の言葉に、キルファは微笑んだ。
「分かりました、よい返事を期待していますよ」
「は、はい!」
姫香は大きな声で返事をすると、出口の扉に向かった。扉を押し、応接室の外に出る。続いて二ノ宮が出る。二人が部屋を出た事を確認すると、ヘルズは首だけ振り返ってキルファを見た。王女を見て、最後に一言――――
「じゃあな、自己中王女様」
精一杯の皮肉を込めて言うと、扉を開けて部屋の外に出た。
「ふ、ふふふ。やはり彼にはばれていましたか」
ヘルズ達が退室し、誰も居なくなった応接室で、キルファは一人微笑んでいた。
「さすがは日本を代表する怪盗・・・。見事な洞察力ですわね」
誰ともなしに呟くと、キルファはソファの下から、古びた新聞を取り出した。日付は二週間前の物。一面記事は、『怪盗ヘルズ、花桐邸に侵入⁉』。ヘルズが姫香を救出した時の新聞だ。
「うふふ、花桐姫香さん・・・羨ましい人」
キルファは一面記事を一通り読むと、ソファの下に閉まった。
「でも、今度は私の番・・・。今度こそ・・・」
その時、扉がコン、コンとノックされた。
「キルファ様、紅茶はお召し上がりになられますか?」
メイド長の声だ。キルファは服に付いた埃を払うと、扉を開けた。
「いただきますわ」
「どうして断ったんですか、ヘルズさん⁉」
姫香の悲鳴にも似た叫びが、室内に木霊する。
日本に帰国した三人は、ヘルズの家に直行し、緊急ミーティングを行う事になった。
「だって、気が向かなかったからな」
ヘルズの発言に、姫香の怒りが爆発した。
「ふざけてるんですか⁉ もしあのまま王女様を放っておけば、反国家勢力が王女様を誘拐して、イギリスはお終いですよ! ヘルズさんは、それが分かっていてあの依頼を拒否したんですか⁉」
烈火のごとく怒る姫香を、ヘルズは軽くあしらう。
「今月は働き過ぎた。労働基準法に乗っ取って、俺は今週はもう働かん」
「労働基準法について、分かってます⁉ 一日八時間ですよ、八時間! ヘルズさんは一日にそんなに働いてないでしょ⁉」
「二日に一回のペースで仕事をしてるんだ。たまには休みがあってもいいだろ」
「いつも部屋にこもって休んでるじゃないですか!」
「うるさい奴だな。じゃあ俺は、一週間に一回しか働かない事を要求する。拒否すれば一人でストライキを起こす」
「ただのサボりじゃないですか!」
姫香が叫ぶと、二ノ宮が諦めたように言った。
「その辺にしときな、姫香ちゃん。その男は、一度動かないと決めたらテコでも動かない男だから」
「フッ、安心しろ。俺はそんな自分が結構好きだぜ」
ヘルズがケラケラと笑う。その様子を見て、姫香の頭に血が上った。姫香はヘルズに向かって一歩踏み出し――――
気がつけば、ヘルズの頬を張っていた。
「な、何だ⁉」
突然頬を張られたヘルズは、何が起きたか分からず困惑している。そんなヘルズに向かって、
「最ッ低!」
姫香はありったけの声で叫ぶと、ヘルズの部屋を飛び出した。
残されたヘルズは、しばらくの間呆然としていた。
「な、何だったんだ・・・・」
「相変わらず女心が分かってないね、ヘルズは」
「・・・・ほっとけ」
「ふふ、そんなヘルズも可愛い」
二ノ宮がヘルズの背中に抱き着く。胸のふくらみが背中に当たり、何とも言えない感覚になる。
「ちょっ、二ノ宮、やめろって!」
「えー、嫌だよ。せっかくヘルズと二人っきりなのに」
二ノ宮がからかうような口調で言ってくる。だがいつもに比べて元気がない。
「ねえ、ヘルズ」
「何だよ」
「姫香ちゃんの事、どうするの?」
ヘルズは言葉に詰まった。慰めに行きたいが、自分が行ってはまた怒らせてしまうだけだ。
「仲、取り戻してあげようか?」
「・・・・出来るのか?」
「私にかかれば余裕だよ」
確かに、二ノ宮にかかれば二人の仲を戻す事など簡単だ。だが、普通に頼むのはプライドが許さない。
「好きにしろよ。お前がやりたければやればいい」
「素直に『頼む』って言えないのかな、君は」
二ノ宮は半分呆れた声で言うと、立ち上がった。
「でも、今回はまあいいや。じゃあ、姫香ちゃんを迎えに行ってくるね」
二ノ宮が玄関に向かう。その背中に、ヘルズは声を掛けた。
「あ、そうだ。俺、今この瞬間からストライキを開始するから、呼び出しても応答しないからな」
「了解。――――――頑固だね、君も」
「それから――――――頼む、二ノ宮」
ヘルズが呟くように言った言葉を、二ノ宮は聞き逃さなかった。
「何だ、やればできるじゃない」
銀髪の美少女は微笑むと、孤独の姫を迎えに行った。
何故ヘルズは依頼を断ったのか。そして前回師匠が締め上げると言った弟子はどこに居るのか?(そもそも出て来るのか)。まだまだ謎は多いです。




