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世間を騒がせる天才怪盗は、二次元廃人でした。  作者: 桐原聖
引きこもり怪盗と自由になりたい王女
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勘違いと、盗みの依頼

 さあ、今回は起承転結で言うところの、「起」に当たります。

 楽しく読む事が一番ですが、余裕のある人は伏線を探してみるのも面白いかもしれませんよ。

「ったく、酷い目に遭った」


「先輩が悪いんですよ。学校をサボろうとするから・・・・」


「いや、別に悪くないだろ。実際俺は――――」


「・・・・先輩」


「すいませんでした」


 深々と頭を下げる弐夜に、姫香は溜息を吐く。


「そう言えば、今日の世界情勢はどうなってるかな?」


 弐夜が鞄から新聞を出し、一面記事を見る。今日の一面記事は、


『怪盗ヘルズ、テロ組織に侵入!』


 という物だった。


「えーと、昨夜12時頃、怪盗ヘルズが野村ビルの2階、テロ組織のアジトに侵入して、組織の活動資金2億円を盗み逃走。現場にはヘルズのサインと思われる落書きがされており、警察はヘルズの犯行と断定して捜査をしている・・・と」


 文章を途中まで音読すると、ヘルズは新聞を投げ捨てた。


「読むだけ無駄だ」


 姫香は苦笑した。確かにその通りだ。この事件に関しては、新聞やインターネットを使うよりも、目の前の男に聞いた方が早いし、より確実な情報を得られるだろう。


「昨日もお仕事、お疲れさまでした。ヘルズさん」


 姫香の言葉に、弐夜、もといヘルズ・グラン・モードロッサ・ブラッディ・クリムゾン・ライトニングは、鼻を鳴らした。


「ネトゲの課金代が無かったから、資金調達に行っただけだ」


 そう、ヘルズが怪盗をしているのは、単に金儲けのためだ。


 とは言っても、ただの金儲けではない。ネトゲという高度(?)な物のために、ヘルズは金を稼いでいるのだ。悪の組織がせっせと貯めた資金源を根こそぎ盗み、ネトゲに投資する。聞こえはいいが、やってる事はダサい。


 その時、目の前に学校が見えてきた。古びた校舎がよく目立つ。


 姫香たちの通っている学校は、2057年にしては珍しく旧式の学校だ。ホワイトボードが普及している今でも黒板を使用しており、廊下もスクーターの移動は却下とされている。噂によると、この制度は40年前と全く変わっていないらしい。


「おい、あれ見ろよ・・・・」


「ああ、何でも付き合ってるんだとよ・・・」


「羨ましい・・・でも勝てる気がしない」


 姫香が声に気付いて辺りを見回すと、登校する生徒や校門に立っている生徒会の人が、姫香とヘルズを見て近くの生徒に耳打ちし合っている。


「周りから見れば、俺達付き合ってるみたいだな」


 ヘルズのデリカシーの欠片もない言葉に、姫香の頬が赤くなる。


「そ、それって、えっと・・・」


「およ、姫香じゃん。おはよう」


「ちーす、姫ちゃん。今日も彼氏とイチャついちゃってー」


 後ろから掛けられた声に振り向くと、真理亜と沙織が立っていた。


「あ、おはよう二人とも。って彼氏⁉」


 姫香が驚いて聞き返すと、二人はキョトン、という顔をした。


「あれ、違うの?」


「てっきりそうかと思ってたよ。というか、既に学年の全員知ってることだし」


 どうやら本人が知らない間に、あらぬ噂が立っていたようだ。姫香は顔を赤らめながら、弁明しようと試みた。


「ち、違うよ。大体、私なんかが弐夜先輩と付き合えるわけが―――」


「えー、そうかなー? 私はお似合いだと思うよ?」


「弐夜先輩はどう思いますか?」


 沙織が微笑みながらヘルズに聞いた。半分ほど状況が呑み込めていないヘルズは、沙織に話しかけられると「ん?」と疑問詞を浮かべた。


「先輩は姫ちゃんのことどう思ってるんですか、って事です!」


 沙織の質問に、ヘルズは数秒の間を置いて答えた。


「いいんじゃないか? 料理は美味いし、面倒見はいいし。ただ残念な所を述べるとすれば自分に厳しすぎる所かな。もっと誰かに頼っていいと思うぞ」


「よ、余計なお世話です!」


 姫香は叫ぶと踵を返し、校舎に向かった。教室に入って鞄を置いた頃、真理亜と沙織が教室に入って来た。


「いやー、ごめんごめん。つい先輩と話し込んじゃって」


「でも弐夜先輩格好いいよね。それに優しいし。私、話しててキュンとしちゃった!」


 沙織がウットリとしたように言う。―――――一体沙織は、あの引きこもりで厨二病の何処に優しさを見いだしたというのだろうか。


「でもあの言葉は良かったよね。『もっと俺に頼れ』。カッコいい!」


「あの言葉は痺れたよね。ほら彼女さん、あの言葉に対しての感想は?」


「だから、付き合って無いってば!」


 姫香の叫びが、廊下中に木霊した。




「君、高い所が好きなの?」


 屋上の柵に寄りかかり黄昏ているヘルズを見て、二ノ宮は呆れたように聞いた。


「別に、好きなわけじゃねえよ。気付いたら高い所に居ただけだ」


 ヘルズが二ノ宮と目を合わせようともせずに、ふてくされたように呟く。


「そう言えば、ことわざの中に『怪盗と煙は高い所が好き』っていうのがあったわね」


「おい、それ暗に俺の事馬鹿って言ってるだろ」


 ようやくヘルズが振り返り、二ノ宮の顔を見て反論する。二ノ宮はその反応を見てクスリと笑った。


「何がおかしい?」


「別に。ただ、拗ねてる君も可愛いな、と思っただけ」


「そうかよ」


 ヘルズはぶっきらぼうに言うと、ポケットから携帯電話を取り出した。


「本題に入ろうか。お前、何で今日学校に来た?」


 そう。この二ノ宮という少女、極度の引きこもりなのである。基本的に家にこもっており、特別な時以外は外に出ない。学校などもってのほかだ。


「自分はあくまでも在籍しているだけであり、死んでも出席しない」とまで言う彼女だ。学校に来るのには何か理由があるに違いない。


「あら、自分の在籍している学校に来ちゃいけない?」


「そんな理由でお前が外に出るわけないだろ。いいから本題を話せ」


 二ノ宮の言い訳を一刀両断し、ヘルズは尋ねる。その凍てつくような眼光に、二ノ宮は両手を上げた。


「分かったわ。―――実は昨日、こんなメールが届いたの」


 二ノ宮がスマホを開き、ヘルズに見せる。


『ヘルズ様。貴方に盗んでほしい物があります。明後日の午前九時、シェルマンジェ宮殿にて貴方を待ちます。ぜひお越しください』


 要点だけを伝えた、無駄のない文章。どうやらメールの送り主は、必要以上に自分の事を知られたく無いようだ。


「これなんだけど・・・」


「なるほどな」


 ヘルズは納得したように頷いた。二ノ宮が懸念するのも無理も無い。


「送り主を調べたんだけど、セキュリティが固くて特定不可能だったわ。私が来たのは、君がこれに出席するか調べたかったからよ」


――――罠の可能性がある。


二ノ宮はそう言いたいのだ。


「ふむ、そうだな・・・」


 ヘルズが顎に手を置く。


「何か面白そうだから乗ってみるとするか」


 ヘルズの言葉に、二ノ宮は目を丸くした。


「正気なの? 警察の罠という可能性も十分にあるのよ。それに誰かの悪戯かもしれないし」


「国家のサーバーをハッキングできるお前が特定できない相手が、警察や一般人に見えるか?このメールを送って来た奴は、間違いなく只者じゃない。それに、警察ごときが俺を捕まえられるのなら、俺はとっくに捕まってる」


 もっともな理由に、二ノ宮は「そうだけど・・・」と言いよどむ。


「それに場所も気になる。シェルマンジェ宮殿って言ったら、2040年にイギリスで建てられた王宮の名前だ。そしてイギリスでは今、反国家勢力が暗躍しているらしい」


 ヘルズの言う通り、シェルマンジェ宮殿は2040年、つまり今から17年前に建てられた宮殿だ。近年のイギリス王女の改革に対して不満を持つ民衆が増えたため、王族の権威を見せつけるために建てられたとも言われている、別名『皮肉の宮殿』だ。


 二ノ宮が驚く。


「つまり、依頼人は王の一族の誰か。奪われてはいけない『何か』を持っていたけれど、反国家勢力の魔の手が目前まで迫って来た。危険を察知したその人は、彼らにその『何か』を奪われる前に君に盗んでもらおうと思った。そう言う事?」


「まあ、大体そうなるかな」


「でも、どうして? 君に盗まれても、結局手元からなくなる事に変わらないのに」


 二ノ宮の素朴な疑問に、ヘルズは指を二本立てた。


「じゃあ問題。俺は盗んだ物をどう扱う?」


「・・・・反国家勢力は自分達にとって都合の悪い『何か』を破壊するために動いている。だけど君は盗んだ物は邪険に扱わない。だから王族は大切な『何か』を君に一時的に盗ませて、反国家勢力を追い払った後で君から取り返そうっていう作戦に出たって事?」


 ヘルズは頷いた。つまりヘルズは、一種の金庫という訳だ。預け方と取り出し方は強引だが。


 根拠は昨日の女だ。


『数日後に貴方に盗みの依頼が来るわ。それを断って欲しいの』


 女が言ったあの言葉。何故ヘルズに依頼が来るのかを知っていたのかと疑問に思ったが、反国家勢力の人間なら説明がつく。危険を察知した王族が、『何か』を誰に預けるかぐらいは把握しているのだろう。


「もし今の仮説が正しければ、俺が盗まなければならない『何か』は、イギリスの国家揺るがす威力を秘めている。もしここで俺が協力しなければ・・・」


 そこで一旦言葉を切り、真剣な顔で二ノ宮を見た。


「最悪、イギリスは無くなる。そして俺が協力しない事が分かれば、イギリスに居る俺の元・仲間が黙っていない」


「その仲間、そんなに強いの?」


 二ノ宮の問いに、ヘルズは首を振る。


「元・仲間はそこまで強くない。でもそいつは師匠にあるコネを持っていてな。そいつが倒されると師匠が出て来る。そして俺は師匠に絶対に勝てない」


 いつも飄々としているヘルズにしては珍しく怯えたような言葉に、二ノ宮は背中が寒くなるのを感じた。







「ししょー。今日はどこかに出かけるんですか?」


 弟子の一人の言葉に、師匠と呼ばれた老人は振り返った。


「何故そう思った? 我が弟子よ」


「だって、いつもぐーたらして11時くらいに起きて来る師匠が、こんな朝早くに起きたから、なんとなくそうじゃないかと思いまして」


 現在の時刻は、午前7時。いつもなら師匠は布団に入っていびきをかいている時間だ。


「なかなかいい洞察力をしているな、弟子よ。うむ、今日はイギリスに行ってこようかと思ってな。一人、締め上げたい弟子が居るんだ。もうすぐイギリスで事件が起こる。その際、アレがあると色々と面倒なのでな。排除してくる」


「分かりましたー。では今日の修行は各自でやっておきますー」


「よろしく頼む。・・・そうだ、第六期暗殺者主席は見つかったか?」


「いいえ、まだですー。すみませーん」


「いや、いいのだよ。奴は元々潜伏が得意だったからな。我が輩が戻って来た時に、新しい情報があれば教えてくれ。では、行って来る」


「はい、いってらっしゃいー」


 師匠の身体が、一瞬にして消える。弟子はその姿が見えなくなったのを確認すると、談話室に向かった。


「さて、今日はどんな修行をしましょうかー」


 ヘルズやチャルカが言う「師匠」。一体何者なんでしょうか。

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