プロローグ
今回から第二章開始です!ぜひ楽しんで読んでください!
※タイトル名変わりました「怪盗≒二次元廃人」➡「世間を騒がせる天才怪盗は、二次元廃人でした」
ご了承下さい。
ビルの二階に、ヘルズは立っていた。
「今日も楽勝だったな。ったく、ネトゲに金を全部つぎ込んだから金が足りなかったんだよな」
現金が大量に入ったビニール袋を手にぶら下げながら、ヘルズは満足そうにつぶやく。
『自分にとって、本当に価値のあるものしか盗まない』と豪語する彼だが、盗みに入るためには色々と資金が必要になる(主に二ノ宮のおもちゃ代や、ネトゲの課金代やネトゲの課金代)。そのため、時々こうして現金を盗んでいるのだ。
「さてと。さっさと帰るか。早くしないとネトゲのイベントが始まっちまう」
見たいアニメもあるしな、と言い飛び降りようとした時、ヘルズは前方に女が居る事に気が付いた。5メートル程離れた位置に、黒いボディスーツを着た女がいる。何故か、ヘルズを見て微笑んでいる。
とはいえ、ヘルズが気付かなかったわけではない。まるで、瞬間移動して来たかのように、女は突然現れたのだ。
(何だ、コイツ⁉)
突然の状況に驚きながらも、ヘルズは仮説を立てる。
(まさか、超能力者⁉)
――――『透明マント』とも呼ばれる光学迷彩が流通している裏家業で、こんな発想が出て来るヘルズは、ある意味天才だと言えよう。
「あ、あの、まさか貴方、超能力者だったりします・・・」
恐る恐る女に向かって聞く。女は首を傾げると、ヘルズに向かって聞いた。
「貴方が、怪盗ヘルズで合っている?」
「正確には、〝ヘルズ・グラン・モードロッサ・ブラッディ・クリムゾン・ライトニングだけどな」
間髪入れずに訂正したヘルズを、女は冷めた目で見つめる。
「貴方、厨二病の自覚はある?」
「何だいそれは全然聞き覚えがないな!」
またもや即答する。自分を厨二病だと思ってはいけない思ったら負けだそうだカッコいい名前を付けて何が悪い―――――
「で、本題に入りたいんだけど」
必死に自分を守ろうと独りよがりになるヘルズを、女の言葉が現実に引き戻す。
「あ、はい、何でございましょうか超能力者様」
「何その超能力者って―――まあいいわ。貴方に頼みたい事があるの」
女の言葉に、ヘルズは眉をひそめた。
「怪盗っていうのは誰からも縛られる事なく生きる、一種の生命体だ。そんな人種に頼み事
なんて、頭は大丈夫か?」
「大丈夫よ。頼みたい事は簡単だから」
女は髪をかき上げると、悠然と微笑んだ。
「数日後に貴方に盗みの依頼が来るわ。それを断って欲しいの。お願いできる?もし出来ないなら――――」
「断る!」
女の言葉を遮るようにして出されたヘルズの言葉に、女は目を丸くした。
「もしそいつが盗んでほしい物が新作のゲームソフトだったら?二次元クラスの超絶美少女だったら?俺の妄想を具現化する機械だったら?その可能性がある以上、俺は来た依頼を断る事は出来ない!」
一周回って素晴らしく思えるくらいの堂々とした顔で言うヘルズを見て、女の目が更に冷たくなる。
「貴方こそ、頭は大丈夫かしら?」
「フッ、視力は両目2.0だから安心しろ」
会話が噛み合っていない。
「まあいいわ。私が言いたい事はそれだけだから。じゃあ、これ以上貴方と話していると頭がおかしくなりそうだから帰るわ。私のお願い、考えておいてね」
女が言い終わると同時、女の身体が消える。ヘルズが目を輝かせた瞬間、誰かがセキュリティに引っかかったのだろう、アラーム音が盛大に鳴り響いた。遠くから足音が聞こえて来る。
「マジかよ⁉」
ヘルズは叫ぶと、窓から飛び降りた。
アラームの音で、姫香は目を覚ました。
昨日の痛みを感じないように、慎重に頭を起こす――――が、何も感じない。当然だ、痣などもうないのだから。
(そっか、もう痛くないんだっけ)
花桐邸から救い出されて一週間近くになるが、昔からの癖はなかなか抜けない。いつも両親から暴行を受けていたため、朝はいつも鈍痛がしたものだ。だからだろう、この癖が染みついてしまった。
「今日も時間通りに起床。快調ね」
時計を見ると、午前七時を指していた。まだ登校時間まで一時間以上ある。
姫香は制服に着替えると、キッチンに立ち朝食を作り始めた。鍋で味噌汁を作り、野菜を細かく切る。本当は目玉焼きやベーコンエッグなども作りたいのだが、両親にフライパンで殴られたトラウマがあり、未だにフライパンを持つのは怖い。というより、包丁以外の器具全般が怖い。
「いただきます」
ご飯と味噌汁と野菜のお浸しの三品をテーブルに並べ、姫香は手を合わせる。焦げたパンとは違い、温かい、味の整った朝食を食べ、姫香は手を合わせる。
「ごちそうさま」
朝食に使った食器を洗い終わると、姫香は鞄を持った。持ち物は全て前日に用意しているため、心配はいらない。戸締りを確認し、姫香は家を出発した。
「さて、と」
姫香が向かったのは、姫香の家から少し離れたアパートだ。そこに住む珍獣の世話をするために、姫香は朝早くに起床している。合鍵でアパートのドアを開け、中に入る。
「弐夜先輩、生きてますか?」
皮肉のように言いながらリビングに入ると、案の定、珍獣『黒明弐夜』が寝転がっていた。パソコンの電源が点いたままだ。昨日もネトゲの最中に寝落ちしたのだろう。
「起きてください、先輩」
つま先で珍獣をつつくも、なかなか起きない。業を煮やした姫香は近くにあった現金入りのビニール袋を拾い上げると―――――
珍獣の頭に、振り下ろした。
「ぐぎゃああああああ!」
断末魔のような声を上げて、珍獣こと黒明弐夜が起床する。
「おはようございます、先輩」
笑顔で挨拶した姫香を見て、弐夜はぼやく。
「チッ、もう朝か・・・起こさなくていいのに」
その言い方がなんとなくイラッと来たので、姫香は窓際まで駆け寄り、カーテンを開けた。日光が部屋の中に注ぎ込み、部屋を明るくする。そして――――
「ぎゃああああああああ! 目が! 目があああああ!やめろ、やめるんだ太陽マン! 悪事はもうやめろーー!」
ヘルズの体力を、たやすく削り取った。
「先輩、目は覚めましたか?」
目を抑えて悶絶する弐夜に、姫香は笑顔で聞く。弐夜は目を瞑りながら、両手を上げた。
「分かった、俺の負けだ!許してくれ!」
弐夜が悶絶から立ち治った頃には、既に朝食が出来上がっていた。弐夜はそれを食べながら、姫香に愚痴る。
「一緒に住んでれば一回朝食作るだけでいいのに、何でお前は別居したんだ?」
「誤解を招くような発言はやめてください」
姫香は溜息を吐いた。確かに誘拐されてから最初の数日間は、弐夜の家に住んでいた。他に行く当てもないし、そっちの方が効率的だからだ。
だが、高校生の男女が同じ屋根の下だというのは色々とまずい。なので、降谷に頼んで家を一つ、借りてもらったのだ。両親が逮捕されたので元の家でも良かったのだが、両親に関わる物にはあまり関わりたくなかったので、やめておいたのだ。
―――ちなみに姫香の両親が捕まった際に警察に押収されたはずの、姫香の部屋にあったガラスのテーブルや椅子などは、何故か引っ越し先に置いてあった。降谷曰く『銀行強盗より簡単だ』と言っていたが、どうやって警察から回収したのだろうか。
「ごちそうさま」
弐夜が手を合わせ、食器を片づける。壁の時計を見ると、8時5分だ。登校時間まで、まだ30分近くある。弐夜が食器を洗い終わったのを確認すると、姫香は弐夜に言った。
「じゃあ先輩、行きましょうか」
すると、弐夜は嫌そうな顔をした。
「先行っててくれ。俺は五時間目から行くから」
そう言って床に寝転がると、パソコンをいじり始めた。姫香はそれを見て呆然とし、直後――――鈍器を振りかぶった。
「ちょっ、待て!分かった、分かったから!学校に行くから!ぐぎゃああああ!」
弐夜の絶叫が、アパートに響き渡った。
次回は降谷と二ノ宮が出てきます。




