一章番外編 花桐姫香の歓迎会
今回は一章の番外編 姫香の歓迎会です。
どうぞお楽しみください。
「では、姫香ちゃんの組織入団を祝って、乾杯!」
二ノ宮の声に続いて、全員がグラスを持ちあげる。
ここは、ヘルズの家だ。二ノ宮がどうしても姫香の歓迎会をヘルズの家でやると言って聞かなかったため、仕方なくここでやる事になったのだ。
「乾杯!」
グラスがカチン、と音を立てる。ヘルズはグラスを鳴らすと、中の液体を一気に飲み干した。途端、口から噴き出す。液体が水鉄砲のように噴出され、床の一部を濡らした。
「な、何だこれ⁉」
「ああ、純度100%の唐辛子入りのジュース」
下品にも液体を口から噴き出したヘルズに顔色一つ変えず、二ノ宮は言い放つ。ヘルズは唐辛子入りのジュースが入ったグラスを突き出しながら、二ノ宮に詰め寄った。
「なんで俺だけそんな危ない液体なんだよ⁉てかもうそれジュースですらないだろ⁉」
「あら、君の業界ではご褒美じゃなかったっけ?」
「ねえよ!どんなご褒美だよ⁉」
ヘルズが二ノ宮に舌を突き出した。唐辛子のせいか、腫れたせいかヘルズの舌は真っ赤になっていた。
「あら、それは大変。私が慰めてあげるね」
それを見た二ノ宮は悪戯っ子のように笑って舌を突き出した。そのままヘルズの舌に自分のそれを絡めようとする。ヘルズは慌てて舌を引っ込めた。
「わ、分かったから!大丈夫、大丈夫だから!」
「そう、残念」
二ノ宮の顔は口調ほど残念そうには見えない。その時、ヘルズの携帯電話が鳴った。ヘルズは画面を一瞥すると、苦い顔をした。
「悪い、ニセ教師からだ。大事な用かもしれないから、一旦席を外す」
ヘルズが電話に出ながら立ち上がり、リビングを出た。ヘルズの姿が見えなくなると、二ノ宮は姫香に顔を近づけてきた。
「ねえねえ、姫香ちゃーん」
「ど、どうしたんですか二ノ宮先輩⁉」
二ノ宮の顔の近さに狼狽しながら、姫香は聞く。すると、二ノ宮が不機嫌そうな顔をした。
「『先輩』って呼ばれるの、好きじゃないからやめて。呼ぶなら、『お姉ちゃん』か『お姉さま』って呼んで」
「え、えっと、じゃあ二ノ宮さん、で」
さすがに姉でもない人間に『お姉ちゃん』は抵抗がある。二ノ宮は少し不機嫌そうな顔をすると、顔を引っ込めた。
「まあ、それでいいや。『先輩』よりはマシでしょ」
姫香は安堵の息を吐いた。もし返答を間違えていたら百合の世界に引きずり込まれていたような気がする。
「そうだ、姫香ちゃん。せっかく今ヘルズが居ないんだし、恋バナでもしない?」
二ノ宮が思いついたように言った。姫香は断ろうとしたが、絶大的な美少女である二ノ宮の好みのタイプが聞けるかもしれないと思い、頷いた。
「決まりね。じゃあまず、姫香ちゃんからお願い」
「そ、そんな事言われても、私に好きな人は・・・」
「じゃあ私が質問するから、それに答えてね」
二ノ宮は缶ジュースを一口煽ると、姫香の目を見て聞いた。
「じゃあ一つ目の質問。姫香ちゃん、ヘルズの事はどう思ってる?」
「な、何でそこでヘルズさんの名前が出て来るんですか⁉」
姫香が驚いたように言うと、二ノ宮はキョトンとした顔をした。
「ヘルズは顔だけはいいし、女子からも結構人気あるんだよ。だから聞いたんだけど、聞かれちゃいけない理由でもあった?」
「そ、それは・・・」
「ああ、そういう事か」
二ノ宮はニヤリと笑うと、姫香に肉薄し、その首を舐め始めた。冷たいようで、温かい液体が姫香の首に付着し、姫香は声にならない悲鳴を上げた。
「ちょっと、二ノ宮さん、何してるんですか⁉」
姫香が抵抗するも、二ノ宮は動こうとしない。それどころか、余計力が強くなっている。
「ホント、姫香ちゃんは気持ちいいなあ・・・」
二ノ宮のうっとりしたような声が聞こえ、顔を前に向けさせられる。二ノ宮の濡れた瞳が姫香の双眸を捉え、淫靡な光景を醸し出している。
「ねえ姫香ちゃん。キス、しよっか」
二ノ宮が顔を近づけてくる。彼女の熱い吐息がかかり、姫香は思わず目を瞑った。と、その時、姫香はある事に気が付いた。
「あの、二ノ宮さん、もしかして・・・・」
「悪いな、電話長引いちまって。降谷の奴が―――――って何やってんだお前ら?」
百合の光景を目の当たりにして、ヘルズが素っ頓狂な声を上げた。ヘルズが戻って来た事を理解したのか、二ノ宮が顔を上げた。
「あ、ヘルズお帰りー。ヘルズが居なくて寂しかったんだよー」
間延びした声でヘルズに言うと、その体に抱き着いた。突然のダイビングハグをくらった
ヘルズは、二ノ宮に押し倒される形で倒れこんだ。傍から見れば美少女に押し倒されているという、奇跡的体験のはずなのだが――――――
「って酒くさっ!おい二ノ宮、お前まさか降谷が置いておいたアルコール入りのジュースを飲んだな!」
「覚えてないよー。それよりヘルズ、頭がくらくらするんだけど、何かあったー?」
「お前が酔ってるだけだろ!」
何とか二ノ宮から脱出すると、ヘルズはその首に手刀を当てた。二ノ宮の身体から力が抜け、床に横たわる。
「ったく、何で酒なんか飲んだんだよ・・・」
ヘルズは困ったように頭を掻きながら、二ノ宮の身体をベッドまで運んだ。二ノ宮をベッドに寝かせると、ヘルズは非難するような目で姫香を見た。
「まさか、お前が誘ったんじゃないだろうな?」
「ち、違いますよ!大体、私達未成年だからお酒なんて飲めませんよ!」
「ま、だろうな。お前じゃ無い事は分かってた。というか、真面目なお前が飲むはずないもんな」
ヘルズは溜息を吐くと、床に落ちていた缶を拾い上げた。
「これか。まだ半分以上も残ってるじゃねえか」
世話の焼ける奴だな、と文句を言いながらヘルズはその缶を口につけ、中の液体を一気に飲み干した。姫香の目が丸くなる。
「あ、あの、ヘルズさん・・・」
「どうした?仕方ないだろ、ニセ教師はまだ来ないし、お前に酒を飲ませるわけにはいかないんだから」
「い、いえ、そうじゃなくて・・・ヘルズさん今、二ノ宮さんと・・・」
「俺が二ノ宮と何だって?」
「か、間接、キ―――」
そこでようやく、ヘルズは自分が二ノ宮と間接キスをした事に気が付いたようだ。
「何だ、そんな事か。別にいいよ、今さら」
だがヘルズは大して驚いた様子もなく、平然としている。
「今までにも何回か、二ノ宮さんとしたことあるんですか?か、間接・・・」
何故か緊張して声がつっかえる。そんな姫香をヘルズは不思議そうな目で見た。
「二ノ宮とはよくあるぜ。アイツよく家に泊まりに来るから。――――お前ひょっとして、した事無かったのか?」
「い、いえ、同性とはありますけど、異性としたことは無いです」
姫香もよく真理亜や沙織とするのだが、間接キスだと自覚した事は無かったし、男子とは一度もしたことが無い。
「そうか。まあ、俺と二ノ宮の間じゃ大したことじゃないさ。もっとヤバい事も色々やってるしな」
ヤバい事、という言葉を聞いた瞬間、姫香の心臓が高鳴った。心臓がバクバクとなり、同時に二ノ宮に対して嫌悪感とは違う嫌な感情が湧き出す。この感情はなんだろう。姫香自身ですら分からない。
「あ、あの!」
「どうした?」
「へ、ヘルズさんは、に、二ノ宮さんと、キ、キ、」
その時、玄関が開く音がした。降谷が来たのだ。
「学校の先生ってのも大変だな。この時間まで残って仕事するんだからよ」
降谷がぼやきながらリビングに入って来る。その目がベッドで寝ている二ノ宮を捉える。
「おいヘルズ、ついにやっちまったか。上級生に手を出した後は下級生とは感心しないぞ」
「襲ってねえよ!」
ヘルズが叫ぶ。手をシッシッ、と払い降谷に言う。
「二ノ宮の奴がアルコール入りのジュースを飲んで酔っ払って寝ちまった。だから今日の歓迎会はこれにてお開きだ。来て早々悪いが、二ノ宮を連れてさっさと帰れ、駄教師」
「文句を言いたい所だが、文句は全部二ノ宮に言っておくとしよう」
降谷は不満げに言うと、ベッドで寝ている二ノ宮の身体を担いだ。
「じゃあな、ヘルズ」
「ああ、またな駄教師。今度のパーティーは仕事が休みの時にしてやるよ」
「それはありがたいな」
玄関の閉まる音が聞こえる。降谷が帰ったのだ。ヘルズは降谷が居なくなった事を確認すると、床に散乱した缶やお菓子の袋を片付け始めた。
「あ、私も手伝います」
姫香も手伝おうと手を伸ばすと、ヘルズがそれを遮った。
「今日はお前の歓迎会という名目だ。後片づけは俺一人でやる。お前は少し休んでおけ」
「分かりました」
確かに二ノ宮のせいで少し疲れていたので、少し休む事にする。
「あ、そう言えば」
スナック菓子の袋を拾いながら、ヘルズが振り返った。
「降谷の奴が来る前、お前なんか言ってなかったか?俺と二ノ宮がどうとか」
顔が沸騰するのが分かる。姫香はつい反射的に叫んだ。
「な、何でもないです!」
―――少女は、まだ恋愛という感情を理解していなかった。
次からいよいよ第二章に入ります。一日空けて、明後日から二章開始です。二章もどうぞお楽しみください。
※この作品のタイトルが変更することになりました。「怪盗≒二次元廃人」→「世間を騒がせる天才怪盗は、二次元廃人でした」に変更となります。ご了承下さい。




