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世間を騒がせる天才怪盗は、二次元廃人でした。  作者: 桐原聖
引きこもり怪盗と文化祭
126/302

壊れた姫香①

「や、やった・・・」


 ヘルズと女の戦いを遠くから見ていた姫香は、歓喜の声を漏らした。


 ヘルズが、テロリストのボスに勝利した。


「これで、一件落着ですか」


 よかった。凄く良かった。


「おお、どうやら一番楽しそうな場面を見逃してしまったようじゃの。のう、チャルカ」


「大丈夫。私はきっと主席は勝つと信じてた」


 振り返ると、そこには3年古文の担当教師、藤方綾峰とチャルカがいた。綾峰は手にビーカーとパンを持っており、まるで家で野球観戦をしているおじさんのようだ。


「藤方先生。どうしてここに?」


 姫香が聞くと、綾峰は不思議そうな顔をした。


「お主、この学校の生徒か。なぜ妾の名前を知っている? 妾、いつも学校に行っていない、不登校教師じゃぞ?」


 それ、堂々と言うか普通。


 姫香はそう思ったが、それを堪えて答える。


「ほら、入学式の時に名前と顔が上がってたじゃないですか。それを覚えていたんです」


 というか、姫香はこの学校の教員の名前を全て覚えている。


 ーーーと言うのも皮肉な話で、家での虐待を忘れたいと願うあまり、余計な物まで覚えてしまっただけだ。今ではそんな事はないが、昔は動物の性質から六法全書まで、幅広く暗記しようとしていた。


「よく覚えておったのう。そう、妾が藤方綾峰じゃ。よろしく」


 綾峰がパンを飲み込み、空いた手を差し出す。姫香はその手を握る。暖かい人の手だった。


「で、どうしてここに居るか、かの。答えは簡単じゃ。ヘルズの戦いを見たかった。それだけじゃ」


 綾峰はそこまで言うと、ビーカーの中の液体を一口飲んだ。


「綾峰先生、それは?」


「ん? ああ、これかの。これは食塩水じゃ。理科室から持ってきた。飲むかえ?」


 走ったせいで汗を多少かいており、水を飲む余裕もなかったので、喉もカラカラだ。姫香はありがたく受け取ることにする。


「あ、じゃあありがたくいただきますーーーーってあれ?」


 伸ばしかけた手が止まる。そう言えばーーー


「うちの学校の理科室に、塩なんて置いてありましたっけ?」


 姫香達の学校では、塩を使う実験は行われない筈だ。というか仮に使うとしても、そこまで量は多くないだろう。


「ああ、これは調合したんじゃ」


「調合?」


 どうしよう、嫌な予感しかしない。


「そうじゃ。理科室にあった塩酸と水酸化ナトリウムを加えて中和反応を起こしてーーーー」


「普通に危ない液体じゃないですか⁉」


 少しでも中和しきれなければ、塩酸と水酸化ナトリウムが残り毒物と化す代物だ。そんな物、誰が飲むか。


「警戒してるようじゃがな、なかなかいいぞ、これ。特に時々口の中にピリッと来る感覚がたまらんのう」


「完全に駄目なやつじゃないですか⁉ 順応しちゃダメですよ絶対!」


 普通に危ない液体だった。


「お、こんな所に皆集まって何やってるんだ? 忘年会の幹事決めか?」


 姫香達が話していると、降谷もやって来た。その後ろには、ユルも居る。


「降谷先生、今までどこに?」


「体育倉庫だ。捕まえたテロリストを放り込んでおいた。大事な現金に逃げられると困るからな」


「現金?」


 姫香が首をかしげると同時、綾峰が口を開いた。


「しかし、やはり妾達は優秀じゃのう。来たテロリストに各自迅速に対処し、ボス同士の戦いに追い込ませて勝利を掴む。まさに計画通りじゃ。いやー、どこかのメイド服を来たオバサンとは大違いじゃな」


 綾峰のその言葉に、ユルの眉がピクリと動く。


「ワタシはまだ20代ですよ、綾峰。喋り方だけではなく、ついに脳の中までおかしくなってしまったのですか。可哀想に。今度、大型病院を予約しておいてあげますね」


「いやなに、肝心な時に現れないくせに、最後の集合の時だけ集まるような図々しいオバサンにだけは言われたくないのう」


「ワタシは日本のメイド喫茶を見に行っていて遅れただけです。理由も聞かずに勝手に図々しいオバサンに分類するのはいかがな物かと思いますが。先・生?」


「あ、あの、お二人とも⁉」


 やけに仲の悪そうな二人に、姫香は驚く。それを見て、降谷は頭を掻いた。


「あー、やっぱ駄目だったか。コイツら仲悪すぎるだろ」


「どういう事ですか?」


 姫香が聞くと、降谷は2人を指差した。


「アイツらはあれでも第三期と四期の暗殺者次席だ。つまり時期が違うだけで同じ位に立つもの同士、ってわけだ。そうしたら、『自分が強い』と自惚れてる奴は必然的に自分と同じ位のソイツを毛嫌いするだろう?」


「な、成る程・・・・って綾峰先生が第四期暗殺者次席⁉」


「今気づいたのかよ。てか、じゃなきゃ何で一介の教師が暗殺者兼メイドと知り合いなんだよ」


 全くもってその通りだ。ユルのような人間と繋がりを持つのは、多分ヘルズと繋がりを持つよりも難しい。


「フン。たかが一介の暗殺者が偉そうに。お主など妾のオーラに一瞬で引き裂かれるがいいの」


「未だにオーラなどという古臭い異能を使って事を納めようとしているババアに言われたくはありませんね」


 両者の目にも炎が灯っている。ーーーーああ、これ完全に駄目な奴だ。止められない奴だ。


「ババアじゃと? フン、舐めるでないわ。妾はこれでもまだ若い。お主こそ、そのような戯言を吐くようになったからには、ついに盲目したかのう」


「そちらこそ、ワタシの実力を見下している辺り、ただのクソ雑魚ですね。まあオーラなんていう使えない覇気を見に纏って居るのですから、仕方ないでしょうね」


 この時姫香は初めてメイドの口から『クソ雑魚』というワードを聞いた。


「ほう、ならば試してみるかえ? 妾のオーラとお主の小手先弱小技術、どちらが強いか」


「いい考えですね。実はワタシも同じことを考えていました。今ここで、雌雄を決しましょう」


 ユルがメイド服の袖から拳銃を出し、綾峰の体からオーラが吹き出る。


「「それじゃあ、いざ尋常にーーーー」」


「やめとけ」


 二人の頭に、降谷の拳骨が振り下ろされる。ゴッ、という嫌な音が響き、二人が同時に頭を押さえてうずくまる。


「い、痛いのう」


「痛いです幸一。何をするんですか」


 二人が降谷に不満そうな声を出すと、降谷は溜め息を吐いた。


「馬鹿かお前らは。こんな所で戦って何になるっていうんだよ。お前らは二次災害を起こすためにここに来たのか?」


 最もだ。二人が戦えばどうなるか分かった物ではない。降谷の言うことが正しいと思ったのか、ユルと綾峰は互いに頭を下げる。


「う、うむ。それもそうじゃな。すまないの、ユル」


「こちらこそ、些細な事で怒ってしまい申し訳ありません」


 姫香はホッと溜め息を吐いた。降谷が居なかったら本当に危なかった。


「と、そう言えばヘルズさんはーーーー」


 ふと、今日一番活躍した男の事を思いだし、姫香は辺りを見回す。するとヘルズはまだテロリストを倒して格好つけたポーズのまま佇んでいた。


「ヘルズさーん!」

 

 姫香が叫ぶと、ヘルズは振り返った。そして、不敵に笑う。そのいつもと変わらないヘルズの態度に、姫香は安堵に包まれた。


(いつも誰かを救うために戦って、傷ついて、それでも私たちに不安を与えないようにいつも通り笑って、私たちの日常を守ってくれる。そんなヘルズさんを、私は尊敬しています)


 それは姫香を助けてくれた時も、王女を救い出した時も、今回もそうだ。


 ーーー黒明弐夜ことヘルズ・グラン・モードロッサ・ブラッディ・クリムゾン・ライトニングに、花桐姫香は救われた。


 それも何度も。姫香の『日常』を守るために。


 それをヘルズに伝えたい。少しでもいい、分かってほしい。姫香の気持ちを。


 ーーー姫香の、思いを。


「今回は、本当にありがとうございましーーー」


 


 瞬間、ヘルズの頭が破裂した。



「え・・・・」 


 正確には、どこからか現れた弾丸がヘルズの頭に直撃し、ヘルズの首から上を吹き飛ばした。ヘルズの首から血が噴水のように噴き出し、その体が地面に倒れる。


「嘘・・・・」


「どうしたんですか、姫香?」


 姫香の声に、ユルが怪訝そうな顔をする。そしてユルは姫香の視線の先を追いーーー絶句した。


「そんなーーー」


「どうしたユル。何かあったか?」


 続けて降谷、チャルカ、綾峰が一泊遅れてその光景を目にしーーー絶句した。


「お、おい、ヘルズがーーーー」


「何ということでしょう。いったい何が⁉」


「主席、どうしたの⁉」


 降谷、ユル、チャルカが騒ぎ始める。だが姫香にはもうその言葉は届かない、聞こえない。












 ーーーヘルズが、死んだ。











 それもあっさりと。どこからか飛んできた銃弾にやられて。




 死んだ。




「あ、あ、あ、あーーー」


 呼吸が出来ない。しているのだろうが、それが分からない。意識が混濁する。視界が揺れる。聞こえてくる音が全て理解不能な言語に聞こえる。胸が痛い。もう駄目だ。



 ーーー意識が、途切れる。



『私が、力を貸してあげる』



 意識が途切れる寸前、聞き覚えのある声がどこからか聞こえた。








「花桐!」


 急に地面に倒れた姫香を見て、降谷は思わず叫んだ。慌てて地面に倒れた姫香を介抱しようと近づく。


 だがその前に、姫香は立ち上がった。降谷はホッと胸を撫で下ろす。


「なんだ、急に倒れたからビックリしたぞ。おいおい、オレはもう年なんだからあまり心臓に悪いことはーーーッ⁉」


 突然、繰り出された姫香の拳に、降谷は驚きの声を上げる。拳は降谷の心臓に叩き込まれ、降谷の体がよろめく。


「ガッ⁉」


 たたらを踏んだ降谷に、姫香の追撃が走る。上靴の底が顔面に打ち込まれ、降谷の体が数十メートル吹き飛ぶ。


「幸一⁉」


 ユルが驚愕し、降谷を助け出そうと走り出す。そこを姫香は襲撃する。拳ほどの大きさの石を手に持つと、ユルに向かって投擲する。それは放っておけば必ず当たる、正確無慈悲な一撃。


「これはいかん!」


 綾峰は咄嗟にオーラを展開すると、オーラを操作してユルの体を包み込む。石がオーラに激突し、ガキン、と音を鳴らす。


「花桐と言ったな。どうしたのじゃ、急に⁉」


 オーラで身を守りながら、綾峰が姫香に聞く。その言葉に姫香は、綾峰の方を向く。その目を見た綾峰はーー


「⁉ それはーーー」




 その顔は、狂気に染まっていた。


 まるで闇の中で過ごしてきたかのような目、口裂け女のような三日月型の口、そしてその体から発せられる負の気配。


 別人になったかのような豹変ぶりだ。


(まるで違う人間のようじゃ・・・しかし、本体はあくまでも花桐張本人。じゃが、降霊術の類いではないはず。もしそうならその手のオーラが出ているはずじゃからな。となるとーーー)


 標的を変えたのか、姫香がこちらに向かってくる。おそらくオーラを厄介と感じて、綾峰を狙いに来たのだろう。綾峰はオーラを全力で噴出しながら、背後のチャルカに命じる。


「チャルカ、奴の狙いは妾じゃ! お主は離れておけ! おそらくこの戦い、守りながら戦えるほど楽ではない!」


「分かった」


 チャルカが返事をして離れた直後、姫香の五爪がオーラの壁に突き刺さる。だが綾峰が全力で張ったオーラの壁、そう簡単には砕けない。姫香はオーラの壁を破れないと判断した瞬間、もう片方の拳でオーラの壁を連打する。


「重い!」


 感想が、思わず口をついて出る。重い。おそらく、降谷の本気の拳と同等だ。少なくとも、一般人が出せるパワーではない。


「間違いない、この力と言い、その狂った目といい、お主ーーーー」


 姫香の圧倒的パワーに必死で耐えながら、声を絞り出す。


「さては、二重人格じゃな?」


次回は12月13日更新予定です。

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