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世間を騒がせる天才怪盗は、二次元廃人でした。  作者: 桐原聖
引きこもり怪盗と文化祭
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壊れた姫香②

最近、pvが減り気味な気がします・・・(泣)


これからも頑張りますので、応援よろしくお願いします。

 その頃、屋上にて。


「何だ、あれ・・・」


 姫香の豹変ぶりに、『聴覚』こと倉根は驚愕を露わにしていた。肩には愛用の狙撃銃『SKBマーク2』が掛けられている。その銃口からは、煙。



 ーーーそう、ヘルズを撃ったのは彼だ。



 何の前触れも、脈絡もなく。


 容赦なく、撃ったのだ。


 とはいえ、これは『名も無き調査団』の指示ではない。倉根の独断だ。


「花桐姫香について、面白いことが分かったからちょっと焚き付けてみようと思ったんだがーーーやり過ぎたな」


 校庭の音をヘッドホン越しに聞き取りながら、倉根は呟く。その声には、若干の反省があった。


 そう、ただそれだけで、それだけの理由で、この男はヘルズの頭を吹き飛ばしたのだ。


「しかし、花桐姫香も凄いが、戦ってる方も凄いな。あの攻撃を耐えるとは、ただ者じゃない。俺みたいなゴミ工作員とは大違いだな」


 オーラを見ながら、倉根はボソリと言う。あの速度の攻撃を耐えるなど、まともではない。おそらく裏社会の人間だろう。


「じゃあ見たいものも見れたしそろそろ、俺も帰るとするかーーー」


 そう呟いた瞬間、姫香がこちらの方を向いた。爛々と光る相貌が、倉根を睨む。その目はまるで、肉食獣が獲物に遭遇したときに似ている。


「あ、ヤバイかも」


 そう言った時には、時すでに遅し。


 ビィン、という空気が弾かれたような音がして、姫香の姿がかき消える。直後、背後に殺気。


「・・・・マジかよ」


 信じられないことだが。


 この女、花桐姫香は、3階建ての校舎を一瞬で駆け上ったのだ。


「嘘だろ。いったいどんなとんでもスペックの持ち主なんだよ」


 こんな物、裏家業の人間でも出来るか定かではない。倉根はそう思いながら、ヘッドホンを外した。ーーー瞬間、耳に来る激しい耳なり。


「やむを得ないな。ここは《空間断裂(くうかんだんれつ)》を使うしかないか」

 

 音の反響で空間を切断し、相互不可侵の壁を形成して自分の身を守る、100%の防御結界。


 それを、倉根は形成した。切断された空間なため音は聞こえず、静かな音が流れる。


「これなら大丈夫ーーーー」


 いくら敵が強くても、切断した空気の壁を破ることは出来ないはずだ。いくら姫香が超人であろうと無理がある。






 ーーーそんな希望的観測は、2秒で覆された。





 ピキッ、という音がして《空間断裂》の壁にヒビが入る。それを見て、倉根は死ぬほど驚いた。


「⁉」


 断裂した壁を、破るだと⁉


 そんな倉根の心配もよそに、姫香の拳が《空間断裂》を打ち破る。パリン、というガラスが割れるような音がした。


「まずい!」


 咄嗟に転がって難を逃れる。ーーー直後、先程まで倉根の居た場所を、姫香の腕が貫く。


「危なかった。次から気を付けよう。まあ俺に次があればの話だけど」


 倉根はいつも通り、ダルそうな口調で呟くと、再び地面を転がった。そしてまたも姫香の攻撃を逃れる。


「何なんだよ、アイツ⁉」


 珍しく焦った声を出しながら、屋上内を無様に逃げ続ける。そこを、超人・花桐姫香が急襲する。そのせいか屋上の至るところに穴が空き、学校の破壊が少しずつ早まっていく。正直、もう戦いたくない。


「こうなったらやむを得ないな」


 倉根は諦めたように言うと、姫香に指を突き付けた。しかし何も起こらない。姫香は一瞬キョトンとすると、倉根に襲いかかって来た。その動きを読みながら、倉根はボソリと言う。


「・・・やっぱり、恨みのない人間じゃ無理か」


 指差した事に何の変化も起こらないことに多少の残念感を感じて、倉根は溜め息を吐いた。


「仕方ない。ここは過去の記憶を思い起こすとするか」


 その中の登場人物の誰かを、姫香に例えればいいだけだ。


「悪いな、姫香」


 倉根はそう一声掛けると、過去の記憶に思いを馳せたーーーー。









 ーーーー君、天才かい? 


 ーーーーこれだけの事が出来るなんて、普通じゃない。君は選ばれた子供だ!


 ーーーー素晴らしい。君は凄い!


 倉根がその『力』を振るうと、大人達は皆喜んだ。賛辞の言葉を述べ、飴やキャンディをくれ、皆いい人たちだった。


 だが、どんなに優しかった人も、どんなに笑顔を絶やさなかった人も。



 皆揃って、最後にこう言うのだ。



 ーーーーさあ、是非我々の研究対象になってくれ!



 そう、結局大人など皆、倉根を人ではなく『実験動物』としか見ていなかったのだ。


 

 それ以外は価値のない、ただの道具。




「俺は、人だ」


 倉根が呟いた直後、倉根に向かって来ていた姫香の体が吹き飛んだ。見えない腹蹴りでもくらったのか、体をくの時に折り曲げ、校庭へと自由落下していく。それを見ながら、倉根は一言呟く。


「あ、やり過ぎた」


 流石に少し反省しながら、倉根は校庭を見下ろす。すると、花桐姫香は足の筋肉を使って落下時の勢いを相殺し、近くにいた敵に襲いかかっていた。


「嘘だろ・・・ここ屋上だぞ」


 花桐姫香の『力』に、倉根はドン引きした。


 






 じわり、と。


 ヘルズの泣き別れた首から、不思議な音が鳴る。そして首から、少しずつ皮膚のような物ができ始める。そしてーーー


 数秒後には、その頭を完全に修復していた。


「・・・・ふう」


   

 ヘルズは新しい頭を手で触りながら確認すると、億劫そうに立ち上がった。


「ったく、いきなり頭を吹き飛ばすとかふざけてるぜ。おかげてこっちはア○パンマンみたいな復活方法になっちまったじゃねえか」


 《人工吸血鬼(コード・ヴァンパイア)》の回復力は、尋常ではない。今のように、頭が吹き飛ばされても条件さえ整っていれば、何回でも回復できる。ヘルズは懐から輸血パックを出すと、袋を破って中の血を飲み干す。鉄分の味がして、ヘルズの体から煙が上がる。


「これが最後の輸血パックか。まずいな、早く病院とかに行ってもらわないとな」


 地面に落ちた自分の古い顔を見て、ヘルズは顔をしかめる。そして血まみれの古い顔から眼帯を外すと、新しい顔に装着する。


「お、マフラーは無事じゃん。危ねえな。もしこれに血が一滴でも付いてたら、俺は人類を滅ぼす所だったぜ」


 自分の首に巻かれているマフラーを見て、ヘルズは安堵の息を吐く。眼帯とは違い、このマフラーは替えの効かない大切な一品だ。ヘルズのような外道の血で汚して良いものではない。


「って、そんな事言ってる場合じゃなかった」


 そこで、ヘルズは我に返る。そうだ、まだ問題は山積みだ。ヘルズを殺した奴は誰なのか、またテロリスト達がその後どうなったかを確認しなければならない。ヘルズは目を皿のようにして、校庭を見回す。


「ん?」


 と、ヘルズは不思議な物を見た。綾峰が必死の形相でオーラを解放し、敵と戦っているのだ。舞うオーラの残滓で、綾峰と戦っている者の顔は見えない。ヘルズは首をかしげた。


「おかしいな。綾峰はああ見えてもオーラ一発でミサイルと張り合える程の実力者だ。そんな奴が競り負けるような奴が、今回の戦闘の中に居たか?」


 降谷でも暴走したのかね、と呟く。敵の速度はもう音速に近く、少なくともまともな人生ではなかったことが見てとれる。


「あれは君が一番よく知ってるんじゃないかしら、ヘルズ」


 後ろから聞こえた声に、ヘルズは振り返る。するとそこには、全身傷だらけで不敵に笑っているニノ宮が居た。


「そんな傷だらけでどうしたんだ、ニノ宮? てか、俺が一番よく知ってるってどういう事だ?」


「そのままの意味だよ」


 今度は、隣から声が聞こえた。見ると、そこには右肩から血を流し、顔をしかめている降谷が居た。


「まさかアイツがあんな力を隠し持っていたとはな。オレも驚いたよ」


「どういう意味だ」


 先程とは打って変わって、真剣な表情でヘルズは聞いた。ヘルズはこう見えて、降谷や綾峰を正当に評価している。彼らが二人揃ってやられるなど、余程の敵でもない限りあり得ない。


「お前が死んだ瞬間、アイツの様子がおかしくなった。多分その瞬間、乗っ取られたんだろうな。・・・・もう一つの人格に」


「もう一つの人格? どういう意味だ?」


 ヘルズが聞くと、降谷は力なく笑った。


「おいおい、お前なら分かるだろ。『もう一つの人格』と言えば、それは二重人格を指す。そしてオレ達のメンバーの中で唯一、二重人格がある奴はーーー」


 降谷の言葉を、ニノ宮が引き継ぐ。





「今暴れてるのは、姫香ちゃんよ」



 オーラの残滓が消え、敵の顔が露わになる。





 ーーーそこには、狂ったように笑って綾峰を攻撃する、姫香の顔があった。










 二重人格。


 またの名を、解離性同一性障害。


 自分の中に複数の人格を持つと言う、一種の病気である。


 これは、心(・)の(・)ダ(・)メ(・)ー(・)ジ(・)によって、自分の中の人格が『人格』を切り離すことにより、自分への心のダメージを回避しようとする物だ。


 つまり、心に大きなダメージを受けたことのある人間が、起こりやすい現象である。



「姫香ちゃんは昔、両親から酷い虐待を受けていた。その際二重人格となり、もう一つの人格が生まれた。

 しかし人格を解放しなかったのは、自分で抑えていたから。そしてヘルズに助け出され、両親が逮捕されたことで受けたストレスは行き場を失い、姫香ちゃんの中にとどまった。でも今回、ヘルズが目の前で殺されるという精神的ダメージを受けて、ついに人格が解き放たれた。ーーーこう言う事?」

 

「ああ、多分な」


 悔しそうに眼帯を外しながら、ヘルズは返事をする。今のニノ宮の説明は正しい。そしてそれが正しいという事はつまり、この事を証明している。




 花桐姫香の人格解放の引き金を引いたのは、ヘルズだ。



 それは否定のしようがない、明確な事実だ。例えもともと蓄積されていたストレスがヘルズのせいでなかったとしても、最後の引き金を引いたのはヘルズなのだ。


 黒ひげ危機一髪のような物だ。最後にハズレを引いたものの負け。これだってそうだ、過程がどうであれ、姫香の人格解放を促してしまったのはヘルズだ。


「降谷、ニノ宮、悪いが下がっててくれ。自分がやった事のケジメは自分でつける」


 ヘルズは軽く目を閉じると、ゆっくりと開く。


 ーーー邪眼、解放。



「もう、あの時の二の舞は御免だ。俺は今度こそ、救って見せる」


 そんなヘルズの言葉に、降谷は頷く。


「ああ、そうだな。過去は変えられないが、過去の精算は出来るからな。行ってこい、ヘルズ」


「ああ、行ってくるぜニセ教師」


 降谷の声援を受け、ヘルズは走り出す。そして、何気なく降谷が言った名言を繰り返す。



「『過去は変えられないが、過去の精算は出来る』か」


 全くだ。


「さあ、過去の精算も兼ねて、お姫様を助けに行こうか!」



次回は12月16日更新予定です。

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