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世間を騒がせる天才怪盗は、二次元廃人でした。  作者: 桐原聖
引きこもり怪盗と文化祭
124/302

テロリスト掃討戦⑤

 テロリストが来て、何だかんだで6時間が経過。


 現時刻、14時30分。


 校内放送を聞いて、姫香は喜んでいた。


「やりましたね、ニノ宮さん!」


「ええ。降谷先生もさすがね。見直したわ。さすが、金の亡者」


 ニノ宮が誉めているかどうか微妙な発言をし、おもちゃを鞄の中にしまう。これはもう使わないだろう。


「さて、一通り方もついたし、ヘルズの所へ・・・・ん?」


 と、そこで。


 ニノ宮は、女がこちらに向かって歩いてくるのを見た。


 黒の軍服に身を包み、髪はストレート。顔だけ見れば良いのだろうがしかし、その目は不思議と見ている人間に不快感を与えてくる。


 ーーーまともな奴じゃない。


 ニノ宮は直感で見抜くと、ポケットから手榴弾を取り出した。最悪、これで時間を稼ごう。


 女はニノ宮を見ると、立ち止まった。


「可愛い子ね。駄目じゃない、こんな危ないときに出歩いちゃ」


「結果的に大丈夫だったのでお気になさらず」


 間髪入れずニノ宮は言った。その言葉に女の眉がピクリと動く。ニノ宮に話してもいい事はないと気がついたのか、女は姫香に視線を移す。


「貴方も、駄目じゃない。こんな所にいると、恐ろしいテロリストさん達にやられて一たまりもないわよ」


「あ、はい。ありがとうございます」


 姫香はつい反射的にお礼を言ってしまう。優等生の癖だ。


「その言葉、そっくりそのままお返しするわ」


 ニノ宮が腕組みして威嚇するように女を見る。姫香は確かにと頷く。それはこの女にも当てはまることだ。


「ああ、それなら大丈夫よ」


 ニノ宮の質問に、女は顔色1つ変えずに答える。


「どうしてそう言い切れるのかしら? 何か確固たる事実でもあるの?」


「ええ、何故ならーーー」



 女がそう言って腕を振るのと、ニノ宮が姫香を突き飛ばすのは、ほぼ同時だった。


「ッーーーー!」


 ニノ宮の手から、極光が迸る。極光はニノ宮を守るように包み込み、大きな球体を展開する。そこに、ガキンという、日常ではあまり聞くことのない金属音が鳴り響く。


「私が、そのボスだからよ」


「⁉」


 極光が消え、二人の戦いの風景が明らかになる。それを見て、姫香は絶句した。何故ならーーーー



 女の右腕が、鱗で覆われていたからだ。


 姫香が見ている間にも、女の体が鱗でコーティングされていく。左腕、右足、左足・・・露出している部分は全て、鱗になっていた。


 姫香は『爬虫類人間』という言葉を想像した。それも文字通りの。爬虫類が服を着て二本足で立っているようなイメージだ。


「あ、あれは一体・・・」


 間違いなく、人間ではない。ただし、れっきとした動物でない事も確かだ。ではあれは何だろう。


 姫香の頭の中を読んだかのように、ニノ宮が口を開く。


「あれは『細胞強化プロジェクト』によって産み出された、人間兵器よ」


「『細胞強化プロジェクト』?」


 前にニノ宮から『人体機械融合実験』という、非人道的な実験を教えてもらったが、あれのような非人道的な物だろうか。


 正直、『人体機械融合実験』は聞いていて吐き気がした。自分の体を失ってまで強さを手に入れるなど、狂っている。自分ならやらないだろうなと思った実験だ。


「『細胞強化プロジェクト』って言うのは、人間の体に動物の細胞を注入して、人の身でありながら動物の能力を持った人間を作り出す、非人道的な実験の1つよ」


 それを聞いて、姫香は絶句した。


 それはすなわち、人間の限界を突破したことを意味する。


 空を飛びたければ、鳥の細胞を取り入れれば良い。


 海を長い間泳ぎ続けたければ、イルカやマグロの細胞を取り入れれば良い。


 速く走りたければ、チーターの細胞を取り入れれば良い。


 全て、思いのままになる。


 そんな神のごとき実験が、本当にあるのだろうか⁉


「もちろん、今姫香ちゃんが思っていることも可能よ。ただし、これは裏家業の深淵で取引されている類いの物だから、一般人に回ってくることはないけどね」


「そうですか・・・って何でさっきから私の思ってることが分かるんですか?」


 もう図星過ぎて逆に怖い。


「んー、勘かな?」


「凄すぎる!」


 ニノ宮は実はテレパシー使いなのではないだろうか。


「と、そんな事より姫香ちゃん、来るわよ」


 ニノ宮が小型のチェーンソーを構えながら、姫香に言う。見ると、敵は既に鱗のコーティングを終え、こちらを睨み付けていた。


「行くわよ姫香ちゃん。援護よろしく」


 ニノ宮は言うなり女に突っ込んだ。そしてチェーンソーを女に向かって振り下ろす。


「はあああ!」


(これは行けたかもしれない)


 姫香は密かにそう思った。理由は簡単、先程のニノ宮の言葉だ。


『動物の細胞を人間の体に注入して、動物の能力を持った人間を作り出す』


 ということは、あの鱗はどんなに頑張っても所詮、動物の鱗だという事だ。対するこちらは人体をバラバラに引き裂くという、本気でやれば確実にR-18に引っ掛かるような危険極まりない武器。いくら鱗が硬くても、突き破られるはずだ。


 そのはずだった。



 ガキィン! という音と共に、チェーンソーが弾かれる。そしてあろう事か刃が半ばでポッキリと折れ、床に落ちる。


「嘘⁉」


「遅いわよ」


 動揺しているニノ宮の懐に、女は潜り込む。そして、がら空きになったニノ宮の腹めがけて、掌打を打ち込む。


「カハッ・・・」


 ニノ宮が呻き声を上げて、床に倒れる。手からチェーンソーが放れ、床を滑っていく。


「ニノ宮さん!」


「次は貴方の番よ」


 女は冷酷に言うと、宣言通り姫香に襲いかかった。初手の拳を、姫香は咄嗟に手のひらで受け止める。だが、


(重い!)

 

 鱗があるせいか、拳が重い。そのままグリグリと押し込んでくる相手の勢いを受け流して後ろに倒れつつ、姫香はバックステップで距離を取る。


「へえ、貴方なかなかやるわね」


 まずい、策がない。


 姫香は焦りながらも、ひとまず距離を取ろうと、敵の目を見たままじりじりと後ろに下がる。それに合わせて、女も姫香に近づいてくる。


(このままじゃ勝てない・・・せめて敵の攻撃範囲にニノ宮さんが居ないようにしないと)


 ニノ宮は今倒れていて、急な攻撃に対処できない。ここは自分に注意を向けさせておいて、ニノ宮が回復するまで待つのが最善手だ。


(あと数歩・・・それで敵はニノ宮さんにすぐに攻撃できなくなるはず)


「目線でバレバレよ、お嬢ちゃん。何か企んでいるんでしょう。来る前にこっちから行くわよ」


 不意に、女が姫香に突撃してきた。姫香は即座に拳闘の構えを取り、女の攻撃を後ろに捌く。


 一撃目のアッパーを顎を引いてかわし、二撃目の肘打ちを手のひらで受け流し、三撃目の蹴りをわざと受け、吹き飛ばされる。


「けほっ」


 少し痛いが、この位なら問題ない。充分活動可能だ。


(何とか距離を取った。これなら敵もすぐには来られない)


 敵から見れば姫香とニノ宮では、姫香の方が近い位置にいる。これなら心理的にこちらを狙ってくるはずだ。これでニノ宮の安全が保障されるどころか、姫香も数秒は休める。


「貴方、かなりの手練れね。本当に学生?」


「はい。れっきとした学生です」


 つい、はきはきと答えてしまう。優等生の悪い癖だ。


「まあいいわ。面倒くさいし、そろそろ終わらせるとするわね」


 女はそう言うと、無表情でーーーー




 背中から、翼を出した。




「・・・・え?」


 驚きで声も出ない。というか何だ、あれは。


 緑の鱗に、黒い翼。まさにゲームの世界に登場しそうなその情景は、しばし姫香に現実を逃避させた。


「行くわよ」


 女はそう言うと、床を蹴った。そして馴れた動作で、床すれすれを滑空して来る。


「⁉」


 姫香は慌てて両腕を交差させて防御するが、間に合わない。ガードごと吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。


「うっ!」


「ほら、まだ戦いは続いているわよ、お嬢ちゃん」


 追撃様に女の右開脚を受け、姫香の体がさらに宙を舞う。近くの窓ガラスに頭から突っ込み、破砕しながら校舎の外へと叩き出される。


『動物の細胞を人間に注入して、人の身でありながら動物の能力を持った人間を作り出す』?


 ふざけるな、あれのどこが動物だというのか。生まれてきてからこの方、鱗に翼を持った生物など、三次元で見たことがない。


 宙を舞いながら、姫香はそう心の中で毒づいていた。


 女が割れた窓から出てきて、飛んでいる姫香にさらに追い討ちを掛けようと迫る。姫香は反射的に懐からカードを出すが、意味を為さず翼の片翼が直撃する。


「!」


 あまりの痛みにカードを手から離してしまう。体が下に落ちていくのを感じる。まずい。高さは大した事がないが、このスピードで落とされたら大怪我確定だ。


(何とかしなきゃ・・・)


 だが、体が動かない。骨折こそしていないものの、どこも捻挫や打撲などのダメージは負っているようだ。日頃の訓練により、数分で治るが、この状況では動かすのもままならない。


 そうこうしている内に、地面が迫ってくる。


(今度こそ、終わったかもしれない)


 本気でそう思う。先程はニノ宮が助けてくれたが、今度は助けに来てくれそうな人が全員、校舎にいる。これでは間に合わない。姫香は目を閉じた。


(さよなら、皆ーーーー)


 


 だか、いつまで経っても衝撃が訪れない。それに、落下の際の妙な浮遊感も、もう消失している。


「?」

 

 そこで、姫香は誰かに抱き抱えられていることに気がつく。


「おいおい。毎回毎回ギリギリで助けるとか、ブーイング物だぜ馬鹿野郎。たまには普通に助けさせろよ、馬鹿姫」


 まさかーーーー


 姫香は自分を抱き抱えている人の顔を見る。そこに居たのはーーー


「ヘルズさん⁉」


「間一髪だったぜ、馬鹿野郎。つい本気を出しちまった」


 その割りには息を荒げた様子もなく、ヘルズが言う。


「よいしょっと」


 ヘルズは姫香を地面に降ろすと、辺りを見回した。姫香もそれにつられて辺りを見回す。すると、校舎から多くの生徒達がこちらの様子を見ているのが見えた。それも一人二人ではない。クラスのほぼ全員が窓から顔を出し、こちらの様子を見ていた。


 しかも中には、


「ヘルズさん! そんな奴やっつけちゃって下さい」


「ナイスプレーです、ヘルズさん!」


「後でサイン下さい!」


 などと、応援の言葉もあちこちから聞こえてくる。


「スポットライトの準備は整ったか」


 ヘルズは自分を応援する生徒達を見ながら言うと、空を飛んでいる女を見て、嗤う。


「かかっ。ボスご登場でそろそろ閉めか。よし、この際サービスだ。たまには『俺TUEEE』も悪くねえだろ」


 その顔は、不敵に満ちていた。


 


次回は12月9日更新予定です。


 そして、ヘルズの宣言通り『俺TUEEE』回です。是非楽しんでください。

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