テロリスト掃討戦④
音は、後ろから聞こえた。
「ガッ!」
敵の腹から血が吹き出し、床に落ちる。その直後、ヘルズが敵に間合いを詰める。
「せい!」
気合いの一撃を叩き込み、敵を昏倒させる。そして床に降り立つと、振り返る。
「はあ、はあ・・・」
そこには、拳銃を構えた真理亜と、腰を抜かしている沙織の姿があった。拳銃からはまだ煙が出ており、真理亜が撃ったことは明白だった。真理亜は煙の出ている銃口に目を向けると、一瞬安堵のような物を浮かべて、床に倒れた。
「おい! 真理亜!」
ヘルズは慌てて真理亜に駆け寄る。大丈夫だ、脈はある。ただ過度の緊張が掛かったせいで気絶してしまったようだ。
「ったく、ヒヤヒヤさせやがって」
憎まれ口を叩きながら、ヘルズは立ち上がる。そして、未だ尻餅を突いている沙織に手を差し出す。
「ほら、さっさと立て。いつ次の敵が来るか分からないぞ。真理亜が奇跡を起こしてまで作ってくれた時間を無駄にするのか」
先程、真理亜が拳銃を発砲してテロリストを足止めした件。
あれはただの、偶然だ。
普通、銃と言うものは一朝一夕で扱える代物ではない。日々努力し、それなりの修行を行わなければ、扱える物ではない。
(真理亜がそういう訓練を受けていたとは考えにくい。間違いなくまぐれだな)
そう、一般人が拳銃の手ほどきを受けるはずがないのだ。
「す、すみません」
沙織がヘルズの手を取り、立ち上がる。その顔は少し赤い。
「凄いですよね、真理亜。ヘルズさんに貢献できて・・・私なんか全然駄目ですよね」
残念そうに、沙織が溜め息を吐く。そして、ヘルズの手を取る。
「お願いします、ヘルズさん。私、貴方の役に立ちたいんです。もし機会があれば、どんどん私を使って構いませんから」
「お、おう」
急に迫られ、ついドギマギしてしまうヘルズ。いくら怪盗だと言えども、やはり男性である事を思い知らされる。
「お、俺も俺も!」
何か賢一がしゃしゃり出てくるが、お前は論外だ。ちっとも胸がときめかない(当たり前だが)。とりあえず『テロリストに突っ込んでこい』とでも命令してやろうかとヘルズが模索していると、
「ヘルズ、覚悟!」
テロリストが現れた。
いつもの如く銃を構え、ヘルズに向かって引き金を引くーーー前にヘルズが動く。懐に手を入れ、小型のM134、すなわちミニガンを取り出す。
「うるせぇえ!」
「ぐはぁ!」
弾丸五百発が、敵を蹂躙する。敵の体に穴が空き、おそらく気絶しただろうが、ヘルズは構わず続ける。
「ずっとワンパターンでもうテロリスト襲撃は飽きたんだよ! 読者様からもだんだん飽きられてるっぽいしさ! これになんの需要があるんだコノヤロー!」
弾丸が敵の体を抉る。その体から所々鋼色の物が見えるが、ヘルズはお構い無しに撃ち続ける。
「もういいから早くボス出して終わりにしようぜ、この回! つーかせっかく女子が俺に抱きついてきて青春ラブコメっぽくなった所で現れるとかテメエどういう神経してんだよ⁉ 一辺死んで出直せテロリスト!」
約千五百近い排莢が床に落ち、乾いた音を立てて転がっていく。体中穴だらけで若干血を流しているテロリストを見ながら、ヘルズはフッと息を吐く。
「機械人間か。ならきっと死んでないな。危ねえ危ねえ、つい師匠の制約を破っちまう所だったぜ」
ヘルズやチャルカのような『怪盗』は、その強さ故に制約がある。
『怪盗は、人を殺してはいけない』
この制約を破った事が『最強の犯罪者』に知られれば、ソイツは消される。その位、この制約は重いものだ。先程、降谷とヘルズが戦った際、降谷が全て殺したと言ったのにも、この制約を意識しての事だ。
「ったく、面倒な事させやがって」
そんなヘルズを、沙織は怯えた目で見ていた。
ここは、校長室。
本来校長が居るべき場所であり、現在はテロリストの本拠地となっている場所だ。
「z部隊が全滅したそうです。どうしますか、ボス?」
男が、ボスに聞く。ボスはしばらく無言だったが、やがて重々しくその口を開いた。
「そうね。最近『いい加減ストーリー進展しろテロリストども』という読者からの正当な怒りを買ってるみたいだし、そろそろ私も動こうかしら」
「しかし、今ボスが出れば組織は崩壊します。ここは俺が行きます。もし俺が倒されたら、ボスが出てください」
「分かったわ。じゃあ、頼んだわよ。必ず奴らを地獄に叩き落としてきなさい」
「はい!」
ボスの指示に元気に返事をして、男は部屋を出ていった。
「32億円」
唐突に、降谷はそう言った。
その足元には大量の数のテロリストが転がっており、どれも虫の息だ。その中の一人を壁に押し付け、降谷は狂ったように喋っている。
「人間1人辺りの値段だ。なあ、知ってるか? 肝臓やら心臓、角膜・・・人間1人の臓器を全て売れば、31億円になるんだぜ?」
すごい儲けだろ、と降谷はテロリストの目を見ながら言う。
「さらにソイツの情報を『戸籍屋』に売れば、少なく見積もっても1億円が手に入る。裏金融に金を借りてない奴なら尚更だ。これで合わせて32億円。どうだ、凄いと思わないか?」
『戸籍屋』とは、その名の通り人間の『戸籍』を売買している裏会社だ。戸籍が存在してかつ裏社会によって始末されている人物の情報を買い、それを競売に掛ける。既にその人物は死んでいる上、身分証明証の顔は全て購入者の顔に書き変えられるため、バレる恐れはない。つまり簡単に『成り済まし』が行えるわけだ。
かくいう降谷の『降谷幸一』という名も、『戸籍屋』から買ったものだ。他にも2,3個ほど降谷は戸籍を買っている。本名は別にあるが、覚えていない。まあ、あまり関係のないことだ。
「ここに居るテロリストだけでも8人はいる。つまり256億円。さらに改造人間はテクノロジーの塊だから一人辺り2億円で売れる。全部で18人らしいな? だから全員売れば『戸籍屋』込みで54億円。さらに都合のいいことに『細胞強化プロジェクト』の被験者には馬鹿みたいな数字が付く。一人辺り3億円だ。さっき4人殺しちまったけど残り4人を生け捕りにして研究者に売れば、これもまた『戸籍屋』込みで16億円」
降谷はそこで、ニヤリと笑った。
「合計326億円。それが、今回の事件でオレが儲けられる額だ」
その凄惨な笑みに、テロリストはゾクリとする。
(こ、こいつら、俺たちの事を人間だと思ってねえ!)
「健康な人間は皆、金の成る木だ。文字通り体を売れば馬鹿みたいな金が手に入る。だからオレは人類が結構好きだぜ、金になるからな」
それはーーーー狂気だった。
降谷の体からどす黒い物が噴き出しているかのようだ。まるで背中から悪魔のような羽が生えているようにも思える。それだけ、それは残酷な笑みだった。
「あ、あ、あ・・・」
もはや声も出ない。自分の体がこれから切り刻まれる運命にあると言う事実が頭の中に鮮明に写し出され、テロリストは戦慄する。
(あああ!)
あまりのショックで失禁しながら気絶したテロリストを見ながら、降谷は息を吐く。
「ヘルズも本気を出せばこれだけ、いやこれ以上稼げるだろうに、何でやらないんだろうな。別にやってる事は今の日本社会と変わらないだろ。誰かを蹴落として自分が上へ上がる。そんなの表でも裏でも当たり前のルールだろうが」
「そうだな」
声は後ろから聞こえた。降谷はテロリストから手を離すと、振り返る。そこには、軍服に身を包んだ男が立っていた。
「現金が向こうから歩いてきてくれた。これは嬉しいな」
「誰が現金だ。俺はそこにいる雑魚どもとは違う」
男の体から闘気が噴き出す。それを見て、降谷も構える。
「降谷幸一と言うのはお前か。何でも年に1000億円以上稼いでいるそうだな」
「ヘルズみたいな甘ちゃんとは違って、こちとらズブズブの裏家業だ。金さえ積まれれば何でもやるさ」
そうでなければ、スパイは生き残れない。
「もちろん金さえ出せばアンタ側についてもいいぜ。ただし、本来儲けるはずだった326億+アンタの分の料金32億+人件費800万、計358億800万円払うならな」
「生憎だがそんな金はない。それにお前についてもらわずとも、俺達は勝てる。何故なら俺達にはまだボスがいるのだからな」
ボス。その言葉に、降谷は息を呑む。
もしボスを捕らえることが出来れば、テロリスト達をまとめて捕らえることができると考えていいだろう。そうすると単純な話、200人近いテロリストが降谷の物となるのだ。それら全てに最低でも3億の価値が付くのでーーーー
合計600億円!
テロリストが一回来た位で600億円だ。これは凄すぎる。毎日でも来てほしいくらいだ。降谷は嬉しそうに腰を落とす。
「じゃあ、ちょっと金稼ぎと行きますか」
この戦い、負けられないーーーー
ガチャ、という音がして、突如校内に放送が入る。
『えー、こちらコードネーム【金の亡者】。ただいまを持ちましてこの校内のテロリストはほぼ一掃されました。あとはボスと校外に逃げた数十名のみです。我々はこれ以上貴重な資金源を無駄にしたくはありません。速やかに投降をお願いします』
「資金源・・・」
校長室にまで聞こえてきた謎の放送に、ボスは首を傾げる。
「まあいいわ。どういう事だか知らないけど、結局この放送が言いたいのはーーーー」
副長の撃破。
「うふふ」
そこでボスは、楽しそうに笑う。
「いいわ。腑抜けた時間はもう終わり。ここからは、大人の遊びを楽しみましょうか」
次回は12月6日更新予定です。




