テロリスト掃討戦③
ニノ宮達が、懸命に逃げ回っていた頃ーーー
ヘルズ達は、的確に敵を倒しまくっていた。
「ヤベッ、仲間死んだ!」
「ぐはぁ!」
ーーーまあ、ゲームをやりながらと言うのが的確にというかは不明だが。
「あ、あの、ヘルズさん、ゲームはちょっと・・・」
「だが今ここでやるのを止めたら俺はゲームオーバーだ。それは流石にちょっと困る」
止めにはいる真理亜に対して適当な言い訳をして、ヘルズは次の敵に襲いかかる。回し蹴り、三角絞め、飛び蹴り、小内刈り・・・様々な技を駆使して、ヘルズは敵を倒していく。
足だけで。
十二分の力を、発揮している。
「そんな事より、敵の攻撃をちゃんと見てくれよ。俺は今、目が使えないんだから」
「あ、はい。ーーーあ、来ました。正面から敵が一人!」
「おう!」
殴りかかってくる敵の拳を軽く避けながら、ヘルズは側頭横蹴りをくらわせる。そしてその間も、ヘルズはゲームを続けている。
これこそが、真理亜や沙織がヘルズに出来る『協力』だ。
ヘルズがまず銃器を破壊して遠距離からの危険を排除し、ゲームを進める。そしてゲームに集中して目が離せなくなったヘルズの代わりに真理亜達が敵の位置を伝え、ヘルズは言われた通りに動けばいいだけの話だ。
「右に一歩、前に三歩歩いた先に敵一名!」
「了解!」
ヘルズの蹴りが、敵の体に突き刺さる。百発百中、クリーンヒットだ。
「これ本当に便利だな。やっぱ俺天才だわ」
ゲームクリアのBGMがゲーム機から聞こえてくる。その時、沙織が叫ぶ。
「ヘルズさん、前!」
反射的に前を向くと、そこには青色の巨大な龍が顎を開いてヘルズに迫っていた。これはゲームをしながらでは対処出来ない。ヘルズは咄嗟にゲーム機を上に投げた。そして、腰を落とす。
「《甲破星囃》!」
ねじり出すようなヘルズの拳が、龍の喉元に突き刺さる。龍の体が霧散し、残滓が宙を舞う。
それを見て、ヘルズは頭を掻いた。
「やっぱりオーラかよ。とすれば犯人は綾峰だな」
なんでこんな事するのかね、と呆れたように呟きながら、落ちてくるゲーム機をキャッチする。すると、オーラの残滓に混ざって一枚の紙が落ちてきた。
「ん?」
拾い上げてみると、それは綾峰からの手紙だった。恐らくオーラの龍に乗せて運ばせたのだろう。本当、人間離れしていると思う。
『ヘルズへ
お主がこの手紙を読んでいる頃、妾はきっとこの階にはいないじゃろう。妾は今チャルカと一緒に購買に行っておる。この状況でも購買にはパンが売っているという噂を聞いたのでな。どうやら購買のおばちゃんがフランスパン一本で敵からパンを守り抜いたらしくての。ちょっと買いに行ってくる』
この状況で購買行くな。お前はあれか、作品に一人はいる腹ペコキャラか。そしておばちゃん最強過ぎるだろ。なにフランスパン一本って。こっちは足二本使ってようやく倒してるのに、フランスパンだけで倒すとか強すぎるだろ。
ヘルズの脳内を、様々なツッコミがよぎる。そしておばちゃんの強さに驚愕しながら、続きを読む。
『追伸 一応、パンはあるだけ買っておくから、パンが欲しくなったら理科室まで来るがよい。宴会をして待っておるぞ』
「こんな事のためだけに手紙を寄越すな!」
今は絶賛学校乗っ取られ中だ。そんな中、呑気に宴会をしている馬鹿がいる。しかも片方は教師だ。
驚き以外の何者でもない。
「ったく、アイツ確か頭はよかったよな。何をどうしたらこの非常事態にパンの手紙を送るアホになったんだ?」
何となくムカつくので破ろうか、とヘルズが手紙を破ろうとした時、手紙に青いオーラが走り、新たな文字が書き込まれた。
「・・・マジかよ」
突然ですが、藤方綾峰のここまで出てきた能力のまとめ。
・オーラを発現出来る。
・そのオーラを駆使して、様々な物体を作り出せる。
・オーラで作った生物を使って、物を届けられる。
・さらに、オーラを使って手紙のあぶり出しみたいな事が出来る。
もうこれは人ではない。化け物だ。
「アイツ、その内化身とか作ってアームドとか出来るんじゃないかな・・・」
綾峰の人外の技に、流石のヘルズも若干ドン引く。
閑話休題。
ともかく、引いている暇はない。ヘルズは文章の続きを読む。
『さらに追伸 これはさっきから妾が敵を倒していて気づいた事じゃ。
まず今回のテロリストはx部隊、Y部隊、z部隊の3つの部隊に振り分けられており、それぞれ持っているものが違う。まず、x部隊じゃが、奴等は皆改造人間じゃ。さっき妾も戦ったから間違いない。しかも下手をすれば負けるかもしれないくらい強いのう。次にY部隊。これは無能力者、すなわちただの雑魚じゃ。ただ数が多いだけの量産兵器。これに関しては問題なかろう。じゃが問題が、z部隊なのじゃ。
奴等は皆『細胞強化プロジェクト』の産物。しかも全員、己の力の使い方がよく分かっておる。気を付けんと死ぬかもしれん。
さらに、さっき敵を拷問して吐かせた情報じゃが、どうやら敵はかなりの数らしい。何でも、
x部隊 18人
Y部隊 213人
z部隊 8人だそうだ。
Y部隊はともかく、残りの二部隊は死体を確認すれば分かるから、敵の残りと倒した数を比べて現状を把握するとよいかもしれん。ではそろそろ購買に着くので、ここで終わる。達者でな、ヘルズ』
「追伸の方が有意義だし、文章長くないか・・・」
ヘルズは疑問を抱いたが、考えても仕方ない。とにかく倒すのみだ。頭の中で、倒した人数を計算していく。
(x部隊には遭遇してないから何とも言えないが、Y部隊が68人、降谷と一緒に倒したアイツらが確かz部隊らしいから、z部隊は4人。となれば単純な引き算をして、残りはx部隊18人、Y部隊145人、z部隊4人と言ったところか)
無論、ニノ宮に姫香、降谷や綾峰、チャルカなどが倒してくれているのでもっと数は少ないのだろうが、警戒はしておいて損はない。
「日常、およびギャグパート終了かな、こりゃ」
どうやらここから先はシリアスパートらしい。面倒な事だ。
「よし、行くか」
そう言って、ヘルズがゲーム機を懐にしまった瞬間ーーー
「はっ!」
遭遇早々ヘルズにやられ、気絶していた少年が目を覚ました。
「皆、無事か! ごめん、テロリストはやっつけられなかったけど・・・・ってあれ?」
辺りを見回し、キョトン、と首を傾げる少年。それに気づいた真理亜が声を掛ける。
「賢一! 起きたのね」
「あ、真理亜。それに沙織。二人とも無事だったんだ」
そこで賢一と呼ばれた少年は少し申し訳なさそうな顔をする。
「そ、その、ごめん。俺、頑張ってテロリストに挑んだんだけど、勝てなかった」
「おい、俺はテロリストじゃないぞ」
ヘルズは即座に否定する。怪盗とテロリストを間違われるのはかなりの屈辱だ。
「あ、そうなんですか。すみません。って、え?」
賢一がヘルズに謝罪しようと顔を上げた瞬間、その表情が固まった。
「か、片目に眼帯、腕に巻かれた包帯、黒のニット帽に赤い眼、貴方はもしやーーーー」
今度は震え始めた。大丈夫だろうか。
一応解説を入れておくと、ヘルズの目は片方が《人工吸血鬼》による血眼であり、もう片方がカラコンだ。尚、能力を解放していない時はヘルズの目は普通の黒色なため、別に常時眼帯を着けている訳ではない。
閑話休題。
賢一の震えがさらに大きくなる。武者震い、いやこの域になると『土砂震い』とでも言うべきだろうか。
「て、天下の大怪盗、ヘルズ・グラン・モードロッサ・ブラッディ・クリムゾン・ライトニングさんですか⁉」
ーーー何⁉
ヘルズは戦慄した。まさか、嘘だろ⁉
ーーー俺の真名を、すべて暗記しているだと⁉
前述通り、ヘルズの真名を知っている者は少ない。また自分から名乗っても先程の真理亜のように驚くか、「え、何だって?」と聞き返されるのがオチだ。
(まだ俺はコイツに真名を名乗っていない。なのに知っていると言うことはコイツ、さては同族か⁉)
ここで、ヘルズが一方的に忘れている昔の知り合いかと疑わないのがヘルズらしい。
ヘルズは咳払いをすると、右手を前に差し出した。
「いかにも。俺こそがかの有名な《常闇の帝王》、《狂宴に笑う宴の王》、《百鬼夜行の戦乱》と数々の異名を持ち、かつてダンブルドアとヴォルデモートを相手に一歩も引かなかった伝説の怪盗、ヘルズ・グラン・モードロッサ・ブラッディ・クリムゾン・ライトニングだ」
ヘルズの厨二力の高い挨拶に、賢一は眼を輝かせる。
「すごいですね! さすが天下のヘルズさんです。あ、僕は長瀬賢一と言います。貴方のファンです!」
賢一が嬉しそうに、ヘルズの手を握ってくる。それを見てヘルズは、ファンが居ても悪い気しないな、ヘルズの公式ファンクラブ作ろうかな、と割りと真剣に思った。
「お、そうか。それは嬉しいな。まさか犯罪者にファンが居るなんて思っても見なかったぜ」
「【怪盗ヘルズ伝説 ~あの大怪盗が、全てを語る~】も全巻読みました! あれって、ヘルズさん直伝なんですよね⁉ 凄く格好よかったです! 特にかの有名な『峰岸事件』を起こした峰岸さんとの決戦なんか特に!」
おいちょっと待て。
俺そんなの知らないよ。
ヘルズの背中を、嫌な汗が伝う。
大体、ヘルズは本を出版した覚えもなければ、峰岸さんと戦った覚えもない。というか峰岸さんと戦うのは無茶だ。あの『峰岸事件』を忘れたか。
「特にあの名シーン! 戦車に乗って迫り来る峰岸さんに一言。『俺はただ、惚れた女にゃ幸せになって欲しいだけだ』。痺れます!」
(言ってねえよ!)
ヘルズは心の中で絶叫する。
(大体それ『銀魂』の土方のセリフじゃねえか⁉ いや確かに格好いいけどさ! 感動したけどさ! 迫り来る戦車に言う言葉じゃないよね⁉ 絶対違うよね、どう見ても場違いだよね⁉)
確かにあの時の土方には感動した。けれども、だからと言ってセリフを丸パクリするほどヘルズの厨二力は低くない。
「その後のセリフも感動しました。『俺は、あの天使のような女を幸せにして見せる。機械ばっか弄ってる三次元だが、俺はそれでもアイツが好きなんだ』。あの愛の告白、素敵でした!」
「あ、ああ・・・」
犯人発覚。
ヘルズを語って本を出版社に売り込み、ある事ない事書き込んだ事件の犯人が、この瞬間発覚した。
(アイツの番号着信拒否にしておこう)
とりあえず、今後のニノ宮の全面無視を決め込むヘルズ。
「あと、熊を睨むだけで殺したとか、アメリカの特殊部隊をドローン一台で壊滅させたとかもありました。さすがヘルズさんですね!」
「あ、ああ・・・」
(どんだけ無理難題押し付けてるんだよアイツ! どう考えても無理だろ!)
熊を睨み殺すならともかく、ドローン一台でアメリカの特殊部隊を潰すのは『最強の犯罪者』ですら至難の業だろう。
「あとはーーー」
「な、なあ、その話はまた今度にして、別の話をしないか?」
流石にもう耐えきれなくなって、ヘルズは提案する。これ以上話されても、同じツッコミしか出来ない。
「分かりました。じゃあヘルズさんがその次に出した【怪盗の道 ~ともに歩いてきた仲間との思い出】について話しましょう!」
(アイツどんだけ書いてんだよ⁉ 暇人か? 暇人だろ絶対に! いつも家で何してるかと思ったら、こんな事してたのかアイツ!)
もはや怒りを通り越して、呆れしかない。
「い、いや、実は俺それずっと前になくしたみたいでな。内容をあまり覚えてないからちょっと無理だな」
「そうですか・・・」
ヘルズの答えに、残念そうな顔をする賢一。だが一番残念なのはヘルズだ。せっかく出会ったファンを、悲しませてしまったのだから。
その時、沙織の一喝が飛ぶ。
「ヘルズさん、前!」
慌てて前を向くと、そこにはこちらにMP5を向けているテロリストの姿があった。おそらくx部隊。光学迷彩で隠れ、射程距離まで近づいたのだろう。その指は、既に引き金にかかっている。
「クソッ、間に合えーーー」
ヘルズの反撃を恐れたのか、敵はヘルズが一瞬では移動できない距離にいる。二秒あれば余裕だろうが、それでは敵が引き金を引き切ってしまう。
(このままじゃまずい!)
ここは攻めを捨て、真理亜達を守るのが当たり前だ。だが鍛え上げた反射神経は、迷わず敵の方に向かってしまう。
「しまった!」
強すぎる故の弊害だ。今まで『守りながら戦う』という事をあまりしてこなかったため、体に染み込んでいる『敵を倒す』方で動いてしまったのだ。
(クソッ、これじゃアイツらが助からない!)
敵に向かって跳びながら、ヘルズは歯噛みする。失敗した。これではーーー
そんなヘルズの心配もよそに。
パァン! という音が鳴り響いた。
次回は12月4日更新予定です。




