ヘルズの戦闘スタイル
「《絶滅迅雷》!」
必殺技名を叫び、回し蹴りで敵の頬を蹴り飛ばす。敵の頬骨が砕けるような感覚とともに、敵が床に崩れ落ちる。
「ったく、手間取らせやがって」
そのまま腰を捻って続けざまに3連続を周りの敵にヒットさせながら、ヘルズは愚痴る。
ゲームをやりながら。
「というか、何でこんなに人数が多いんだよ。このままじゃあ、両手を使わなくちゃならねえな」
愚痴りながらもヘルズは迫り来る敵に対して、蹴りのみで対処していく。そしてゲームの操作もミスがない。
「よし、拳銃ゲット。これで選択肢が一個増えるな」
喜んだのもつかの間、リアルの敵がナイフを持って突っ込んできた。ナイフと敵の顎を二段蹴りで破壊しつつ、ヘルズは頭を掻いた。
「あ、ヤバイな。選択肢ミスした。これじゃあ駄目かな」
MP5による同時射出を、ゲームに没頭しながら回避する。そして絶妙なフットワークで敵に接近し、的確に急所を蹴り抜いていく。
「遅いんだよ。このゲームのロード時間もお前も」
ロード画面を嫌そうな目で眺めながら、ヘルズは吐き捨てるように言う。仕方ないとは分かっていても、やはりロード時間が長いとイライラする。
それにさっきから我先にと出てくる敵も厄介だ。休む暇がない。まるでゾンビゲームをやっているかのようだ。
「ったく、こんな日に敵キャラのエンカウント率が高いとか、俺も運が悪いな」
三角絞めで相手を落とし、ヘルズは溜め息を吐く。敵は弱いが、それでも数がある。いずれヘルズも疲れ、両手を使わざるを得なくなるだろう。
「こんな時に限って、あの駄目教師は居ないんだよな・・・チッ、使えねえ」
こういう時しかアイツの出番ないだろマジで、と割と最低な事を言いながら、ヘルズは最後の敵を倒す。そしてゲーム内でも、ステージをクリアする。
「よし、クリアだ」
嬉しそうに画面を見るヘルズ。もはやテロリストを倒した事など覚えていない。今はゲームの方が大事だ。
「リアルの敵よりゲームの方が大事なんて、俺たちも舐められた物だな」
ふと後ろから声がしたので振り向くと、そこにはヘルズの2倍はあるのではないかと思う男達が4,5人立っていた。
「俺たちはz部隊。そこに倒れている貧弱なY部隊とは違い、全てエリートなーー」
「はいはいうるさいうるさい」
敵が言い終わる間もなく、ヘルズが腹蹴りをくらわせる。もう次のステージが始まる。開始早々出遅れるのは御免だ。
「ぐぼぁ!」
敵が吹っ飛ぶが、そんな事を気にしていられない。このままではまずい。ヘルズは必死で戦う。
ゲーム内で。
「クソッ、やべえ! このままじゃ負ける!」
ヘルズの顔に、焦りが浮かぶ。そうしている間にもリアルでは、迫り来る敵を回し蹴りで倒し続ける。
「ヤバイ! このヒロインが死んだら戦えなくなる! コイツはこのパーティーの精神治癒役なんだ! 見てるだけで癒されるんだよ!」
口では馬鹿な事を言っていても、体はきちんと動く。
「き、貴様・・まだゲーム機を手放さないのか・・・・」
ヘルズの奇行に、敵は呆れている。それもそうだ。戦場で呑気にゲームをやっている人間が、いるわけがない。
ーーーこの男を除いては。
「ふははははははは! どうだ見たか! これが俺の鉄壁の布陣『ハーレム』だ! この布陣に囲まれたが最後、生きて帰れると思うなよ!」
ゲーム機に向かって話しかける男、現る。
もはやテロリスト達は置いてけぼりだ。というかこうも完璧に無視されては、逆に反応に困る。
「お、おどれ!」
やがて業を煮やしたのかテロリストの一人が懐から銃を取り出すと、ヘルズに撃った。ヘルズはそれを蹴りで撃ち落とす。
「な、何⁉」
「かつて『撃墜王』と呼ばれた俺を舐めるなよ。この俺に落とせない奴はいねえ!」
・・・何だろう、この根本的に噛み合っていない状況は。
テロリスト達も唖然としている。何だ、コイツ。
「な、舐めとんのか、ワレエ!」
再び引き金を引くテロリスト。だがヘルズはまたもそれを蹴り落として見せる。
「なっ⁉」
「ほら見ろ、また一人落ちた。フッ、やはり俺は天才のようだな」
ヘルズが、ゲーム機に向かって高笑いをする。その時、倒れているテロリストの一人が立ち上がった。
「おい」
そこに殺気を感じたヘルズは、ゲーム機から顔を上げる。
「何だ、まだ居たのか。というかまだ生きてたのか。早く成仏しろよ。そうすれば楽になるぜ、きっと」
人の事を死者呼ばわりするヘルズ。もう、度を越えて最低だ。
「お前、そんなにゲームが好きか」
「ああ。ゲームは俺の生きる道」
堂々と最低な事を述べるヘルズ。姫香の予想通り、この男から『怪盗』という肩書きを取ったら、後に残るのはただの駄目人間という称号だけだ。
「そうか」
ヘルズの最低最悪な返答に対して、男は頷いた。そしてーーー
「ならばそのゲーム機を壊せば、お前も少しは本気で戦うんだな」
筋肉を凝縮させた。
ーー否、それは凝縮させたというレベルではない。まるで筋肉が今出来たかのように、ボコボコと膨らんでいく。漫画やアニメよろしく服が裂け、腕の全貌が露わになる。
数秒後には、男の腕は筋肉粒々と化していた。
「ふん!」
男は筋肉粒々と化したその腕を、ヘルズのゲーム機目掛けて振る。ヘルズはすんでの所で回避するが、風圧で髪が揺れる。
「・・・・マジかよ」
ヘルズが呟くと同時、男が拳を振りかぶる。そして、渾身のストレートをくらわせて来る。
「危ねえ!」
今度は本気で避ける。頭上を男の拳が擦過し、思わず身をすくめる。
「これはまずいな。コイツは両足だけじゃーーー」
「いいから早くゲーム機をしまえ」
「うおっ⁉」
男の拳がヘルズの肩を捉え、的確な一撃を与えてくる。ズシン、と重い衝撃とともに、ヘルズの肩に鈍い痛みが走る。
「グッ!」
「もう一発いくぞ」
男の追撃が迫る。ヘルズはやむなく屈んでそれを避けると、男の脛にローキックを放った。男の脛から嫌な音が響く。
「ぐおお!」
痛みにうめいている男に、続けざまにもう一度。今度はもう片方の脛にもローキックを放ち、さらに連続して浴びせ蹴りを放つ。相手の額が裂け、血がダラダラと流れる。鼻も折れたのか、鼻血が垂れている。端正な顔とかブサイクとかそういう問題ではないくらいの出血量だ。見ていて気の毒になってくる。
「ぐおお!」
「『ぐおお』って、お前は熊かよ」
ヘルズは呆れたように言うと、数歩離れてからのドロップキックをくらわせる。ドロップキックは敵の折れている鼻に綺麗に突き刺さり、男の体を紙屑のように吹き飛ばす。
「がはっ!」
「まずは一人か。よし次来い」
ヘルズは言うと、ゲームに没頭する。このゲームではいつでもセーブが可能だが、時々セーブポイントがある。出来れば次のセーブポイントで終わりたい。その方がすっきりする。
「はああ!」
威勢よく来た敵に旋風脚をくらわせ吹き飛ばし、続いて来た敵には近くにあった瓦礫を蹴り上げて応戦する。
「ぐぼぁ!」
敵がついに膝を着く。それを無視してヘルズはゲームを続ける。その態度に、ついにテロリスト達の堪忍袋の緒が切れる。
「お、おどれ! 往生せい!」
テロリスト達が全員、懐からマシンガンを抜き、ヘルズに乱射する。だがヘルズはそれ所ではない。今ヒロインが超ピンチなのだ。弾丸も見ずに、技名を叫ぶ。
「《七連撃・倍速刺突》!」
荒れ狂うような弾丸を、一本の足が撃ち落としていく。その様子に、テロリスト達はおののく。
「なんだ、こんな物か」
そう言って目の前の現状を見ようとヘルズが顔を上げると、既に自分に迫り来る弾丸は無くなっていた。全て、ヘルズが撃ち落としたのだ。
「何だ、これなら安心ーーーーーッ⁉」
突如、視界内に弾丸が現れる。しかもそれはーーー
「ゲーム機を狙ってる!」
おそらく、あれは撃ち落とし損ねた物だろう。しかし、ゲーム機を狙っていた物に限って撃ち落とされないだなんて、運が悪い。
(もし狙いが俺ならどうにでもなったのに!)
ヘルズなら、弾の一発や二発くらいなんの事はない。その程度の傷、立ちどころに回復できる。だがゲーム機は違う。一度壊れれば再生はしない。
(クソッ、どうすれば!)
《七連撃・倍速刺突》による急激な疲労で、ヘルズの片足は今使い物にならない。だがもう片足だとバランスが取れなくなるし、かといって手を使おうとするとゲーム機を落としかねない。
(まずい、本気でまずい!)
ヘルズの顔に、本日二回目の焦りが浮かぶ。万事休すだ、打つ手なし。こうしている間にも、弾丸は刻一刻と迫ってきている。
(クソッ、こうなったら中のSDカードだけでも抜くしかないか)
本体が壊れてしまうが、仕方ない。この状況を打破するには、これしかない。ヘルズの指がカード挿入口に伸びる。
「間に合えーーーーー」
と、その時。
カツン、という音が鳴り響き、ゲーム機を狙っていた弾丸を、手裏剣が撃ち落とす。
「な、何だ⁉」
テロリスト達も驚いている。今のがヘルズではないと、流石に気がついたのだろう。
「旅は道連れ、世は情け。だが金の切れ目が縁の切れ目」
と、そこに見知った声が聞こえてきた。
「こっちはお前の登場を待ってて活躍の場が今回一回もないんだ。オレにもさっさと活躍させろ」
廊下の角から、タバコを加えた男が歩いてくる。その姿を見て、ヘルズは叫ぶ。
「ニセ教師!」
「馬鹿野郎、ニセ教師じゃねえ」
そこで降谷はタバコを離すと、白い煙を吐いた。・・・格好つけている事この上ない。
「ただのしがない金の亡者さ」
だが、言っている言葉の雰囲気は格好よかった。
次回は11月22日更新予定です。




