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世間を騒がせる天才怪盗は、二次元廃人でした。  作者: 桐原聖
引きこもり怪盗と文化祭
116/302

魔法≒科学技術

 ニノ宮は肩から提げていた学生鞄から白いボールを出し、敵に投げる。ボールは敵の眼前で破裂すると、そこに大きな蜘蛛の巣を形成し、敵の体を包み込む。


「なっ⁉」


 敵が驚く。その隙にニノ宮は床に転がっていた手榴弾を拾うと、ピンを抜いて敵の足元に投げつけた。そして、姫香に言う。


「ちょっと耳塞いでなさい!」


 言われた通り、姫香は耳を塞ぐ。次の瞬間、耳を塞いでいても分かる爆撃音が鼓膜を叩く。


「ッ・・・」


 だが、予想されていた煙が来ない。どころかこの距離にいるはずなのに、火の粉を一切浴びていない。


(一体、何がーー)


「出来ればそこの通路の角にでも隠れてなさい! ちょっと本気出すわよ!」


 ニノ宮が珍しく姫香に大声で指示を出す。そして自分は鞄から

伸縮式の警棒を出すと、斜めに構える。


「やるじゃねえか」


 煙が晴れ、中から敵が出てくる。その体に若干の灰は残るものの、特に目立った外傷は見られない。それを見て、姫香は絶句する。


「なっ・・・」


 姫香は確かにこの目で見たのだ。敵が蜘蛛の巣で身動きのとれない状態の中、至近距離で手榴弾の爆発を食らうのを。


「だが、あのくらいじゃ死なねえな」


「分かってるわよ」


 ニノ宮は返事をするなり、敵に躍りかかる。そして敵がショットガンの引き金を引くよりも早く、警棒を相手の顔面目掛けて振る。


「おっと」


 敵がそれを紙一重で躱した瞬間、ニノ宮は警棒に付いていたボタンらしき物を押した。カチッ、という音が、辺りに響き渡る。


「姫香ちゃん! 逃げる準備をしておいて!」


 直後、警棒の先から炎が噴射した。突然の出来事に敵は対処出来ず、炎を顔から浴びる。


「アアアアアア!」


「行くわよ、姫香ちゃん!」


 ニノ宮が鞄の中から『リカバリー』を取り出し、姫香に投げる。使えば治癒能力を爆発的に上げ、捻挫程度の怪我なら数秒で治癒させる、裏家業御用達の薬だ。


「は、はい!」


 姫香はそれを受けとると、何の躊躇いもなくそれを飲む。すると腰の痛みがなくなっていく。全身が麻痺したのだ。


「走って。ここは一旦引くわよ」


 ニノ宮が最後の手榴弾のピンを歯で抜き、敵に放る。目が焼けたのか、敵は未だに動けない様子だ。この距離で爆撃をくらったら、普通の人間なら死ぬだろう。


 ーーー普通の人間なら。


 だが、敵はそれを2度も耐えた。1度目は銃弾、2度目は爆発を。それはもう、普通の人間ではない。


「に、ニノ宮さん、あれは一体ーーー」


 廊下を走って逃げながら、姫香はニノ宮に聞く。すると、ニノ宮の焦った声が帰ってきた。


「安心して。あれは普通の人間よ。半分くらいはね」


「は、半分ーーー」


 それはつまりーーー


「お、敵さんのお出ましのようね」


 見ると、確かにそこに数人のテロリスト達が居た。皆、手にMP5を構えている。それに対して姫香は手ぶら。勝ち目は薄い。


「ニノ宮さん、さっきの武器はーーー」


「ああ、警棒型火炎放射機の事ね。あれは一度しか使えないわよ。当たり前じゃない、あんな細い筒に何発も撃てる分の分量が入る訳ないじゃない」


 ニノ宮があっけらかんと答える。そうしている間に、テロリスト達は無言でMP5を構える。どうやら、交渉の間もなく撃ち殺すつもりのようだ。


「ニノ宮さん、他に武器は⁉」


「もちろんあるわよ。私を誰だと思っているのよ」


 こんな状況でも落ち着いたまま、ニノ宮が鞄から数枚の鉄の板を取り出す。


「何してるんですかニノ宮さん⁉」


「姫香ちゃん、これを持って前に突き出して」


 ニノ宮がポケットから一枚のカードを出し、姫香に渡す。先程と同じカードだ。カードに描かれているのは、トランプでよく見るジョーカー。どうにも演技が悪いことこの上ない。


「ほら、早く突き出さないと死ぬわよ」


 ニノ宮に急かされ、姫香は慌ててカードを前に突き出す。それと同時、敵の銃が一斉に火を吹いた。


(もう駄目だーーー)


 姫香はそう思い、目を閉じた。たかがカード一枚で敵の攻撃を防げるはずがない。おそらくニノ宮は最後の最後で狂ってしまったのだ。


(終わった。さよなら真理亜、沙織ーーー)


「何を考えているのか知らないけれど、まだ死んでないわよ」


 ニノ宮のその声に、姫香は目を開ける。すると確かに、自分は生きていた。そしてーーー


 弾丸が、自分の眼前数センチのところで、浮いていた。


「きゃあ!」


 驚いて尻餅をつく。すると弾丸は元の動きを取り戻したかのように、姫香の頭上を擦過していった。


「な、何⁉」


「私の発明をなめないでよ」


 ニノ宮はふてくされたように言うと、鉄の板の一枚を前に突きだし、呪文のような物を唱える。


「我、汝に命令する。汝血肉の骨とともに輝き、怪奇決して骨と化せ!」


 すると、鉄の板から炎の球体が飛び出した。それは一直線上に飛んでいくと、呆気に取られているテロリスト達に着弾する。一瞬で火だるまになったテロリスト達が、悲鳴を上げる。


「ギャアアアアアア!」


 だがニノ宮は容赦ない。続いて2枚目の鉄の板を取り出すと、それを突き出しながら再び呪文のような物を唱える。


「我が真名に集結せし雷精の子よ、終焉の名の元に、かの者達に雷の嵐を!」


 すると、鉄の板から電撃が迸る。電撃は前方に無差別に飛んでいき、テロリスト達の体を貫く。


「ガアアアアアアアア!」


 テロリスト達が悲鳴を上げ、次々に倒れていく。それを見てニノ宮は、フッと微笑む。


「やはりこの技は禁忌(タブー)のようね。まったく、こんな力を持ってしまった自分が恐ろしいわ」


「に、ニノ宮さん、今何をーーー」


「フッ、聞きたいかしら。そうよね、誰だって一度見ればこの力をーーー」


「あ、別にいいです」


 何となく厨二っぽい雰囲気になったので、姫香は辞退する。こうなった時の人間は面倒くさい。根拠はヘルズ。


「わー! せっかく人が格好つけてるんだから聞いてよ!」


 案の定、ニノ宮がだだっ子のような事を言い始めた。仕方ない、こういう時はどちらかが大人の対応をするべきだ。そして今回は、どう見ても姫香が大人の対応をしなくてはならないだろう。


「仕方ないですね、聞いてあげますよ」


「本当に⁉」


 ニノ宮がパッ、と顔を輝かせる。・・・いつものクールな性格が台無しだ。


「じゃあ仕方ないわね。特別に説明して上げるわ」


 その上からの物言いに姫香はイラッとなったが、ここは我慢だ。そう、3歳児。相手を3歳児だと思えばいい。


「これは私が科学技術を総結集して作った化学兵器《魔法の板》よ」


「《魔法の板》?」


「そう、魔法の板。魔法とはあれね、よくRPGとかに出てくるあの魔法の解釈で間違いないわ。私は自分の科学力と厨二力をフルで使って、人工的に魔法を作り出すことに成功したのよ!」


 確かに、先程のあれは魔法の様だとも言えた。2つ目の物は分からないが、1つ目のあれは火の玉を撃ち出す魔法ファイアーボールで間違いないだろう。


「まあ仕組み自体は簡単ね。ある特定の言葉を言うと中の装置が動き出して、中で化学変化が起こる。それを相手に放っているだけだから、姫香ちゃんでも設計図さえあれば作れるわよ」


「はあ・・・・」


 仕組みは分かった。だがどうしてそこまでして、魔法を作りたいのかが分からない。別に呪文など唱えなくても、先程の警棒のように、二段階攻撃のある物を作ったほうが、遥かに効率がいい。


「そんなの、格好いいからに決まってるじゃない!」



 うん、馬鹿だ。


 完全なる馬鹿だ。大馬鹿だ。



「・・・命がけの戦場に格好よさ重視の武器を持ってくる人間が、どこにいるんですか」


「そうね、少なくともここにはいるわよ」


 駄目だ、完全に開き直っている。もう放っておこう。


「さて、と。残るおもちゃは《魔法の板》が6枚に、その他色々か。私のおもちゃも無限じゃないから、早く武器を調達したいところね」


 ニノ宮の言葉に、姫香は頷く。一刻も早くクラスメイトを見つけ、安全な場所に移動させなければ。


「じゃあ、行くわよ姫香ちゃん」


 ニノ宮の合図で、姫香達は歩き出した。













 ソレは、むせ返るような血の中に居た。


 そこは、元は教室だったのだろう。黒板があって、机が並べてあって、掲示物が教室の至るところに張られている。


 だが、今は違う。全部血まみれだ。黒板も、机も、掲示物も全て。


 黒板には血痕が至る所に残され、机は全て後ろに下げられており、床には死体が散乱している。


 ソレは、死体のうちの一体の様子を確認する。もう既に息はない。そして、体にいくつもの弾丸が穿たれている。


 ーーーおそらく、クラス全員でテロリストに逆らって殺されたのだろう。


 ソレは死体を床に置くと、教壇に腰かけた。血が付いているが気にしない。ソレは濡れてもいいようにレインコートを着ている。濡れても問題ない。


 その時、教室の扉が開いた。教室の中に、銃を構えた数人のテロリストが入ってくる。


「うわ、なんだここ。臭いな」


「うるさいぞ。いいから生き残っているかもしれない奴を探せ」


 内一人が愚痴を漏らし、一人が咎める。それに合わせるかのように、ソレも立ち上がる。


「な、何だ⁉」


 驚いたのはテロリスト達だ。まさか本当に生存者がいるとは思わなかったらしい。慌てて引き金を引くーーーー


「・・・・・・・」







 時には、既に首と胴が泣き別れていた。



 残された首が血を吹き出しながら、引き金を引く。ドドドドド! という音が、ソレの耳を叩く。


「・・・・・・」


 ソレはその不思議な光景をしばらく見た後、折り畳み式のナイフを畳んだ。そして、教室を出る。


 時間にして1秒、敵の数は6人。


 その人数を、ソレは一人で。


 折り畳み式の小型ナイフ一本で、屠ったのだ。




次回は11月20日更新予定です。

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