魔法≒科学技術
ニノ宮は肩から提げていた学生鞄から白いボールを出し、敵に投げる。ボールは敵の眼前で破裂すると、そこに大きな蜘蛛の巣を形成し、敵の体を包み込む。
「なっ⁉」
敵が驚く。その隙にニノ宮は床に転がっていた手榴弾を拾うと、ピンを抜いて敵の足元に投げつけた。そして、姫香に言う。
「ちょっと耳塞いでなさい!」
言われた通り、姫香は耳を塞ぐ。次の瞬間、耳を塞いでいても分かる爆撃音が鼓膜を叩く。
「ッ・・・」
だが、予想されていた煙が来ない。どころかこの距離にいるはずなのに、火の粉を一切浴びていない。
(一体、何がーー)
「出来ればそこの通路の角にでも隠れてなさい! ちょっと本気出すわよ!」
ニノ宮が珍しく姫香に大声で指示を出す。そして自分は鞄から
伸縮式の警棒を出すと、斜めに構える。
「やるじゃねえか」
煙が晴れ、中から敵が出てくる。その体に若干の灰は残るものの、特に目立った外傷は見られない。それを見て、姫香は絶句する。
「なっ・・・」
姫香は確かにこの目で見たのだ。敵が蜘蛛の巣で身動きのとれない状態の中、至近距離で手榴弾の爆発を食らうのを。
「だが、あのくらいじゃ死なねえな」
「分かってるわよ」
ニノ宮は返事をするなり、敵に躍りかかる。そして敵がショットガンの引き金を引くよりも早く、警棒を相手の顔面目掛けて振る。
「おっと」
敵がそれを紙一重で躱した瞬間、ニノ宮は警棒に付いていたボタンらしき物を押した。カチッ、という音が、辺りに響き渡る。
「姫香ちゃん! 逃げる準備をしておいて!」
直後、警棒の先から炎が噴射した。突然の出来事に敵は対処出来ず、炎を顔から浴びる。
「アアアアアア!」
「行くわよ、姫香ちゃん!」
ニノ宮が鞄の中から『リカバリー』を取り出し、姫香に投げる。使えば治癒能力を爆発的に上げ、捻挫程度の怪我なら数秒で治癒させる、裏家業御用達の薬だ。
「は、はい!」
姫香はそれを受けとると、何の躊躇いもなくそれを飲む。すると腰の痛みがなくなっていく。全身が麻痺したのだ。
「走って。ここは一旦引くわよ」
ニノ宮が最後の手榴弾のピンを歯で抜き、敵に放る。目が焼けたのか、敵は未だに動けない様子だ。この距離で爆撃をくらったら、普通の人間なら死ぬだろう。
ーーー普通の人間なら。
だが、敵はそれを2度も耐えた。1度目は銃弾、2度目は爆発を。それはもう、普通の人間ではない。
「に、ニノ宮さん、あれは一体ーーー」
廊下を走って逃げながら、姫香はニノ宮に聞く。すると、ニノ宮の焦った声が帰ってきた。
「安心して。あれは普通の人間よ。半分くらいはね」
「は、半分ーーー」
それはつまりーーー
「お、敵さんのお出ましのようね」
見ると、確かにそこに数人のテロリスト達が居た。皆、手にMP5を構えている。それに対して姫香は手ぶら。勝ち目は薄い。
「ニノ宮さん、さっきの武器はーーー」
「ああ、警棒型火炎放射機の事ね。あれは一度しか使えないわよ。当たり前じゃない、あんな細い筒に何発も撃てる分の分量が入る訳ないじゃない」
ニノ宮があっけらかんと答える。そうしている間に、テロリスト達は無言でMP5を構える。どうやら、交渉の間もなく撃ち殺すつもりのようだ。
「ニノ宮さん、他に武器は⁉」
「もちろんあるわよ。私を誰だと思っているのよ」
こんな状況でも落ち着いたまま、ニノ宮が鞄から数枚の鉄の板を取り出す。
「何してるんですかニノ宮さん⁉」
「姫香ちゃん、これを持って前に突き出して」
ニノ宮がポケットから一枚のカードを出し、姫香に渡す。先程と同じカードだ。カードに描かれているのは、トランプでよく見るジョーカー。どうにも演技が悪いことこの上ない。
「ほら、早く突き出さないと死ぬわよ」
ニノ宮に急かされ、姫香は慌ててカードを前に突き出す。それと同時、敵の銃が一斉に火を吹いた。
(もう駄目だーーー)
姫香はそう思い、目を閉じた。たかがカード一枚で敵の攻撃を防げるはずがない。おそらくニノ宮は最後の最後で狂ってしまったのだ。
(終わった。さよなら真理亜、沙織ーーー)
「何を考えているのか知らないけれど、まだ死んでないわよ」
ニノ宮のその声に、姫香は目を開ける。すると確かに、自分は生きていた。そしてーーー
弾丸が、自分の眼前数センチのところで、浮いていた。
「きゃあ!」
驚いて尻餅をつく。すると弾丸は元の動きを取り戻したかのように、姫香の頭上を擦過していった。
「な、何⁉」
「私の発明をなめないでよ」
ニノ宮はふてくされたように言うと、鉄の板の一枚を前に突きだし、呪文のような物を唱える。
「我、汝に命令する。汝血肉の骨とともに輝き、怪奇決して骨と化せ!」
すると、鉄の板から炎の球体が飛び出した。それは一直線上に飛んでいくと、呆気に取られているテロリスト達に着弾する。一瞬で火だるまになったテロリスト達が、悲鳴を上げる。
「ギャアアアアアア!」
だがニノ宮は容赦ない。続いて2枚目の鉄の板を取り出すと、それを突き出しながら再び呪文のような物を唱える。
「我が真名に集結せし雷精の子よ、終焉の名の元に、かの者達に雷の嵐を!」
すると、鉄の板から電撃が迸る。電撃は前方に無差別に飛んでいき、テロリスト達の体を貫く。
「ガアアアアアアアア!」
テロリスト達が悲鳴を上げ、次々に倒れていく。それを見てニノ宮は、フッと微笑む。
「やはりこの技は禁忌のようね。まったく、こんな力を持ってしまった自分が恐ろしいわ」
「に、ニノ宮さん、今何をーーー」
「フッ、聞きたいかしら。そうよね、誰だって一度見ればこの力をーーー」
「あ、別にいいです」
何となく厨二っぽい雰囲気になったので、姫香は辞退する。こうなった時の人間は面倒くさい。根拠はヘルズ。
「わー! せっかく人が格好つけてるんだから聞いてよ!」
案の定、ニノ宮がだだっ子のような事を言い始めた。仕方ない、こういう時はどちらかが大人の対応をするべきだ。そして今回は、どう見ても姫香が大人の対応をしなくてはならないだろう。
「仕方ないですね、聞いてあげますよ」
「本当に⁉」
ニノ宮がパッ、と顔を輝かせる。・・・いつものクールな性格が台無しだ。
「じゃあ仕方ないわね。特別に説明して上げるわ」
その上からの物言いに姫香はイラッとなったが、ここは我慢だ。そう、3歳児。相手を3歳児だと思えばいい。
「これは私が科学技術を総結集して作った化学兵器《魔法の板》よ」
「《魔法の板》?」
「そう、魔法の板。魔法とはあれね、よくRPGとかに出てくるあの魔法の解釈で間違いないわ。私は自分の科学力と厨二力をフルで使って、人工的に魔法を作り出すことに成功したのよ!」
確かに、先程のあれは魔法の様だとも言えた。2つ目の物は分からないが、1つ目のあれは火の玉を撃ち出す魔法で間違いないだろう。
「まあ仕組み自体は簡単ね。ある特定の言葉を言うと中の装置が動き出して、中で化学変化が起こる。それを相手に放っているだけだから、姫香ちゃんでも設計図さえあれば作れるわよ」
「はあ・・・・」
仕組みは分かった。だがどうしてそこまでして、魔法を作りたいのかが分からない。別に呪文など唱えなくても、先程の警棒のように、二段階攻撃のある物を作ったほうが、遥かに効率がいい。
「そんなの、格好いいからに決まってるじゃない!」
うん、馬鹿だ。
完全なる馬鹿だ。大馬鹿だ。
「・・・命がけの戦場に格好よさ重視の武器を持ってくる人間が、どこにいるんですか」
「そうね、少なくともここにはいるわよ」
駄目だ、完全に開き直っている。もう放っておこう。
「さて、と。残るおもちゃは《魔法の板》が6枚に、その他色々か。私のおもちゃも無限じゃないから、早く武器を調達したいところね」
ニノ宮の言葉に、姫香は頷く。一刻も早くクラスメイトを見つけ、安全な場所に移動させなければ。
「じゃあ、行くわよ姫香ちゃん」
ニノ宮の合図で、姫香達は歩き出した。
ソレは、むせ返るような血の中に居た。
そこは、元は教室だったのだろう。黒板があって、机が並べてあって、掲示物が教室の至るところに張られている。
だが、今は違う。全部血まみれだ。黒板も、机も、掲示物も全て。
黒板には血痕が至る所に残され、机は全て後ろに下げられており、床には死体が散乱している。
ソレは、死体のうちの一体の様子を確認する。もう既に息はない。そして、体にいくつもの弾丸が穿たれている。
ーーーおそらく、クラス全員でテロリストに逆らって殺されたのだろう。
ソレは死体を床に置くと、教壇に腰かけた。血が付いているが気にしない。ソレは濡れてもいいようにレインコートを着ている。濡れても問題ない。
その時、教室の扉が開いた。教室の中に、銃を構えた数人のテロリストが入ってくる。
「うわ、なんだここ。臭いな」
「うるさいぞ。いいから生き残っているかもしれない奴を探せ」
内一人が愚痴を漏らし、一人が咎める。それに合わせるかのように、ソレも立ち上がる。
「な、何だ⁉」
驚いたのはテロリスト達だ。まさか本当に生存者がいるとは思わなかったらしい。慌てて引き金を引くーーーー
「・・・・・・・」
時には、既に首と胴が泣き別れていた。
残された首が血を吹き出しながら、引き金を引く。ドドドドド! という音が、ソレの耳を叩く。
「・・・・・・」
ソレはその不思議な光景をしばらく見た後、折り畳み式のナイフを畳んだ。そして、教室を出る。
時間にして1秒、敵の数は6人。
その人数を、ソレは一人で。
折り畳み式の小型ナイフ一本で、屠ったのだ。
次回は11月20日更新予定です。




