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世間を騒がせる天才怪盗は、二次元廃人でした。  作者: 桐原聖
引きこもり怪盗と文化祭
115/302

姫香、出陣

この作品のブックマーク数がついに50になりました。

これも日々の皆様の応援があってこその物だと、十分承知しております。

 今後とも、この作品をどうぞよろしくお願いいたします。

「大変です!」


 1人のテロリストが、慌ただしい様子で校長室の扉を開ける。そこには、一組の男女がいた。


「どうしたY-03。何か非常事態か?」


 男が、Y-03と呼ばれたテロリストに聞く。Y-03は驚きを隠せない様子で、現状を報告する。


「な、仲間が、次々と倒されています」


「何⁉」


 男が眉をひそめる。そんな男に、Y-03は狼狽えた様子でまくし立てる。


「さ、3階は一組の教室を除いて全滅しました。そして2階にいた仲間も全滅、かろうじて生き残ったメンバーは全員、あちこちに潜伏して戦況を伺っている模様です」


「敵の素性は?」


「そ、それはたった今本部から届きました」


 そこでY-03は少し落ち着きを取り戻したのか、懐から資料を取り出すと、机の上に置いた。


「第六期怪盗、チャルカ。3階を壊滅させた人間です。現在、x-08と交戦中の模様です。もう1人は第四期暗殺者次席、藤方綾峰。2階を壊滅した張本人です。現在、x-01が応戦中です」


「『最強の犯罪者』の弟子が2人か、厄介だな。だがx部隊に任せておけば問題ないだろうな。他には?」


「す、数分前にヘルズが現れました」


「何だと⁉」


 男が驚愕する。だがそれも無理もない。あの天下の大怪盗の強さは、事前情報から既に知っている。


「奴が現れました。どうしますか、ボス?」


 男は隣に居る女に聞いた。女はしばらく黙っていると、やがて口を開いた。


「z部隊で迎え撃ちなさい。敵は所詮1人、あの無敵の軍隊で行けばいくらヘルズといえども大変でしょう。他のY部隊は各教室の見張り、x部隊はヘルズ以外の敵の殲滅に加勢しなさい」


「ぎょ、御意!」


 Y-03は大きく敬礼をすると、校長室から出ていった。その姿が見えなくなったのを確認して、男は女ーーボスに声を掛ける。


「・・・ついに、奴が現れましたね」


「・・・そうだな」


 男の言葉に、ボスは静かに肯定する。そして、校長室の隅をチラリと見る。そこには、猿轡を噛まされ、縄で縛られている校長の姿があった。


「最悪コイツを人質にして、奴と交渉を行いますか」


 男が校長のこめかみにMP5を照準しながら、ボスに聞く。しかし、ボスは首を振った。


「いえ、無駄でしょう。奴にとってこの男は価値のない存在。無視して私達の殲滅を優先するでしょう」


「しかし、目の前に人質が入れば、奴も少しはーーー」


「無理よ。奴にとって人間なんて、『思いやりだの何だのと言って自分の私利私欲のために行動する偽善者』としか思っていないのだから」


 だから奴は『小さな社会』である学校に行きたがらないんでしょう、とボスは続ける。


「なるほど。ではこの男は、処刑しますか?」


 男がMP5の安全装置を外す。それを見た校長の目が、恐怖に染まる。


「やめなさい。ヘルズには効かなくても、他の敵には効くかもしれないわ。特に現在x-01と戦っている藤方綾峰や、この校舎のどこかに居るであろう、降谷幸一にはね」


 ボスはそう言うと、机の上の資料を見た。そして、敵の名前を1人1人呼んでいく。


「藤方綾峰、降谷幸一、チャルカーーーーそして、ヘルズ・グラン・モードロッサ・ブラッディ・クリムゾン・ライトニング」


 その表情はーーー恐ろしく冷酷だった。


「待ってなさい。私の計画の邪魔をするなら、全員まとめて地獄に叩き落としてあげるわ」





 あれから、色々大変だった。


 トイレから帰ってくるなり、真理亜が


「せっかくだから、仲間を助けに行こう! 姫香隊出発だよ!」


 と言い、それを止めるのに15分を要した。その間に沙織が教室から脱走し、その後を追おうとした矢先、真理亜も逃げ出した。


 そして人間の性質というか集団心理というか怖いもの見たさというかで賢一も脱走し、他数名の勇気と無謀の意味を履き違えているであろう男子勢も脱走した。


 そして現在ーーー


「ああもう、どうしてこうなるのーーー」


 銃を向けてくるテロリストから逃げながら、姫香は叫ぶ。普段「廊下を走ってはいけません」と言っている姫香だが、今ばかりはそんな事を言っていられない。生きるか死ぬかの瀬戸際なのだ。全速力で、廊下をかける。


「それもこれも、全部沙織のせいなんだから!」


 というかクラスメイト大半のせいだ。大人しく教室に残っていれば、姫香がこんな目に遭うこともなかっただろうに。


「やっぱり助けになんて、行くべきじゃなかった!」


 クラスメイトが死ぬのは耐えられない。そう思って助けに行った矢先、この有り様だ。実についていない。


「こちらY-04。一般生徒を発見。直ちに始末します」


 ーーまずい、連絡を取られてる。


 危険を感じた姫香は靴底でブレーキをかけ、踵を返す。援軍を呼ばれたらたまったものではない。ここは多少危険でも、応戦するしかない。


「チッ、ガキが。どこから沸いてきやがった」


 そのゴキブリの様な扱いに姫香はムッとしたが、我慢する。敵は銃を所持している。下手に動けば蜂の巣だ。


「ガキ一匹で何が出来るって言うんだ? 大人しく諦めろ。今ならおじさんとちょっと遊ぶだけで、許してやるぜ?」


 その言い方に気持ち悪さを感じた姫香は、すぐに決着を着けることにする。


(行きます!)


 姿勢をかがめながら敵に接近する。直後、弾丸が姫香の背中を掠める。だがそれもお構い無しに、敵の足を払う。


「はああっ!」


 足払いは綺麗に相手の足を刈り、床に叩きつける。相手が「うぐっ!」という呻き声を上げるが、それも無視して敵の顔の上に飛び乗る。そのままヘルズ仕込みの三角絞めを掛ける。


「ぐぐぐ!」


 敵が抵抗しようと暴れるが、姫香はグッと力を込めて絞め続ける。やがて敵の抵抗が薄くなっていき、数秒後には完全になくなった。


「ふう」


『一定以上の力と技術があれば、女でも男を気絶させられる』とヘルズが言っていたが、どうやら本当のようだ。現に、床に倒れているテロリストは白目を剥いている。


「後は武器を調達、と」


 敵の荷物から使える物を探し、それを奪う。もはやただの追い剥ぎだ。姫香もそう思って最初は躊躇していたが、もう慣れた。


「武器はMP5が一丁に、手榴弾が3つ、予備弾薬が1セット・・・これだけですか」


 これだけの武器でテロリストと渡り合うのは難しい。せめてあと2,3個武器は欲しいものだ。


「まあ仕方ないですね。次はーーーーー」


「おい、何をしている!」


 後ろからした声に振り替えると、そこには体格の大きなテロリストが姫香にショットガンを向けていた。どうやら追い剥ぎの瞬間を見られていたらしい。


 ショットガンはどう見ても、人一人を余裕で屠れそうな代物だ。あれとドンパチやったら、性能の低いこちらが負けるのは目に見えている。


(仕方ないですね・・・・)


「おい貴様、何をしている! さっさと武器を捨てて、両手を頭の後ろで組め!」


 テロリストが言った瞬間、姫香は手榴弾の1つを後ろに投げた。そしてMP5を持って全力で前に転がる。


「なっ⁉」


 まさか一介の高校生がこんな事をするとは思っていなかったのだろう、敵は動揺している。その隙を突いて、姫香はMP5を乱射する。煙で視界が塞がっているが、関係ない。『下手な鉄砲も数撃てば当たる』の原理だ。一発でも当たれば、それでいい。


(これで、一発でも当たってくれれば・・・・)


 どんなに洗練された人間であろうと、人体である以上怪我は生じる。そして弾丸による怪我は、人の動きを大幅に鈍らせる。


(そして鈍った所を的確に撃ち抜けば、私の勝ち!)


 姫香はこれでも、1日に2時間は射撃訓練をやっている。その精度は日々上がっており、今ではニノ宮よりも上手くなったほどだ。


(次の一撃で、決める!)


 その時、煙がはれる。次の一瞬を逃すまいと、姫香は目を凝らす。そこに映った光景はーーー


「なっーー」


 弾丸は、全て敵の前で止まっていた。まるで時間が停止したかのように、空中で静止状態を保っている。


「そんな、どうしてーーー」


「なかなか面白かったぜ。だが、相手が悪かったな」


 姫香が打つ手なしなのを表情で察したのか、敵がニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべる。そこに本能的に危機を感じた姫香は、後ろに飛び退く。


「おっと、逃がさねえぜ」


 敵がショットガンを構え、引き金を引く。ズバン! という音が廊下に響き渡り、姫香の腰を銃弾が掠める。


「あああ!」


 実際に当たった訳でもないのに、腰に焼きごてを当てられたかのような熱と痛みが走る。あまりの痛さにMP5を捨て、床を転がる。


(痛い!)


「痛いか? まあそりゃ痛いだろうな。何せ50ミリ口径対戦車ライフル弾なんだからな」


 敵が再びショットガンを構えるのが見える。だがこちらに武器を取る余力は残されていない。腰が裂けたのか、血が溢れ出してくる。


「じゃあな。全てはこんな無謀な行動をした、自分自身を恨みな」


 ショットガンの引き金が引かれるのを見ながら、姫香は思う。


(ああ、私ーー)


 ここで思うのは、ただ1つ。




(また、仲間に救われてしまいますね)


 



 瞬間、目の前を何かがよぎった。それは長い銀髪をなびかせて姫香の前に立つと、一枚のカードを取り出した。刹那、ショットガンが火を噴く。対戦車何とか弾がその人物を撃ち抜くーーーーーかと思いきや、弾丸は先程の敵同様、その人物に当たる寸前で停止した。


「待たせたわね、姫香ちゃん」


 弾丸が停止した事に大して驚いた様子もなく、その人物が振り返る。その顔を見て、姫香は安心する。


「遅かったですよ・・・ニノ宮さん」


「あら、気付いてたの?」


「ヘルズさんが・・・『仲間が死ぬ寸前に助けに入るのは王道パターン、つまりはロマンだ』と言っていたので、この状況なら誰かが来てくれるかなと」


「随分な憶測ね。次からは助けないわよ」


 そう言ってニノ宮はウインクすると、敵に向き直った。敵は未だに停止した弾丸に驚いている。


「さて、と。私の可愛い姫香ちゃんをいじめておいて、生きて帰れると思わないことね」


 そう言ったニノ宮の目には、敵意が浮かんでいた。


次回は11月18日更新予定です。

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