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世間を騒がせる天才怪盗は、二次元廃人でした。  作者: 桐原聖
引きこもり怪盗と文化祭
113/302

抵抗開始 2

 テロリストが学校に来てから、2時間が経過した。


「暇じゃのう・・・」


 あれからテロリスト達は、何の動きも見せていない。野生のポケモンのごとくたまに現れて綾峰に瞬殺されるのがオチだ。


「さっさと動かんかのう、奴ら。このままでは退屈すぎて、妾がテロリストになってしまうぞえ」


 オーラを使って校舎でも破壊しようかのう、と物騒な事を考えていると、背後から殺気も感じた。


「・・・・・おお」


 しかも先程の比ではない。先程の生ぬるい殺気とは違う、明確な殺気。綾峰はオーラを噴出し、振り返る。


「ようやく、面白そうな奴に巡り会えたようじゃのう。とても嬉しいのじゃ」


 そこには、黒ずくめの男が立っていた。ーーー全身黒と言うより、あの小さな名探偵に敵対する組織の方の黒ずくめだ。表情は帽子でよく見えない。


「せっかくこれだけ待ったんじゃ。その見返り分の興奮は与えてくれるのじゃろうな?」


「・・・・藤方、綾峰だな」


 黒ずくめがかろうじて聞き取れる辺りの大きさで、綾峰に話しかけてくる


「そうじゃが、それが?」


「・・・・」


 黒ずくめは無言だ。綾峰は肩をすくめる。このままでは、コイツもさっきのテロリスト達と同じだ。


「仕方ないのう」


 そう呟くと、オーラを操作。綾峰の体から噴出されたオーラが形を変えていく。


「来い、《八岐大蛇(やまたのおろち)》」


 綾峰の頭上に、オーラで作られた八頭の巨大な蛇が現れる。


「妾はオーラマスター。こんな事も容易いぞえ?」


 綾峰の言葉と同時に、八頭の蛇が思い思いに黒ずくめに襲いかかる。それに対して、黒ずくめは立ったままだ。


「勝負、あったかのう」


 綾峰が少し退屈そうに呟く。この敵は少し期待していたのだが、残念だ。


「・・・・・!」


 その時、黒ずくめの右腕が動いた。オーラの蛇を掴もうとしているようだ。だがそれはあまりにも遅い。


「無駄じゃ。その速度では間に合わん。ーーーッ⁉」


 オーラの蛇が握りつぶされたのを見て、綾峰は驚愕する。


「面白い技だな。まあ、その程度で勝てると思われては困るがな」


 手に付いたオーラの残滓を払うようにしながら、黒ずくめが退屈そうに嘯く。そして、残りの蛇を目にも止まらぬ速さで握り潰す。

 

 それも右手のみで。


「なかなか面白い敵じゃのう。手加減したとはいえ、妾の《八岐大蛇(やまたのおろち)》を破るとは」


「成程、あれは手加減していたか。ならよかった。もしあれが本気ならどうしようかと思っていたよ」


「何、ほんの手慰みじゃ。あれが本気なら第四期暗殺者の名が無くわい」


 あっさりと。


 綾峰は、自分の正体を明かした。


「・・・・ほう」


 それに対して、黒ずくめはかすかに驚いただけだった。


「随分と驚きが薄いのう。もしや知っていたか?」


 裏社会の人間なら、『最強の犯罪者』の弟子と聞けば少なからず驚く。かつて全世界を相手に渡り合った『最強の犯罪者』の雄姿は、今でも畏怖と尊敬の対象として語り継がれているからだ。


「いや。ただ、あんな老いぼれた老人の威光を借りるほど、裏社会の人間は落ちぶれていたのかと驚いただけだ」


「なっ・・・」


 黒ずくめの発言に、綾峰は狼狽する。ただしそれは、黒ずくめの言った言葉が図星だからではない。


「老いぼれた老人とは・・・・お主、『最強の犯罪者』を敵に回すつもりか⁉」


 かつて『最強の犯罪者』が全世界を敵に回したとされる戦争『各国共同全面戦争』。


 あの戦争の始まりは、1人の青年が『最強の犯罪者』に吐いた悪口だった。


「たかが悪口1つで世界大戦まで引き起こす男に悪口など、正気の沙汰ではないのじゃ」


 すると、黒ずくめはフンと鼻を鳴らした。


「どんなに強かろうと、所詮は人間。ならば、勝てない道理はない」


「そう思っている内は、まだあのお方には勝てんのう」


「フン。自分が勝てないからといって、八つ当たりは良くないぞ。大体ーーー」


 ボッ! 


 黒ずくめの言葉を遮るように、綾峰の体から凄まじいオーラが迸る。


「御託はもう結構じゃ。我が師匠を侮辱されて妾少々虫の居所が悪い。そろそろ、戦いといかんかのう?」


「それもそうだな」


 綾峰の意見に、黒ずくめはあっさりと肯定する。そして帽子を再び被り直し、綾峰に告げる。


「ではこちらも名乗ろうか。x-01、いざ参る」


「では、戦いの開始と行くかのう」


 次の瞬間、オーラと金属がぶつかり合うような音が響き渡った。


「あら」


 学校の校門をくぐった所で、ニノ宮は足を止めた。


「何かしら、この空気」


 なんだか淀んだ感じの空気だ。とても文化祭といった空気ではない。


「それに・・・・」


 辺りには、誰もいない。模擬店が出ているだけで、生徒も、来場者も1人もいない。まるで、文化祭の振り替え休日に学校に来てしまったかのようだ。


「おかしいわね。もうとっくに始まっているはずだけれど」


 当初、ニノ宮は文化祭に行かないつもりだった。だが、クラスの男子からの電話がひっきりなしに掛かってきたため、「じゃあ3時間後に来てあげる」と言って電話を切ったのだ。それでも行くかどうか渋っていたが、ヘルズから


「異性とした約束は、必ず守れ」


 と言われたので、渋々来たところだ。


「ヘルズもなかなか男らしい事言うわね。早く三次元を二次元に転送させる装置を作ってヘルズと結婚しなくちゃ」


 ニノ宮が二次元しか愛せない宣言をしたその時ーーー


 銃撃音が鳴り響いた。


「ッ⁉」


 反射的に制服のポケットに手を入れ、中からカードを取り出す。そして何も起こらない事を確認すると、カードをポケットに戻す。


「何かしら、今の」


 少なくとも、文化祭の演出ではない。あんなリアルな銃撃音、一介の高校生が出せる訳がない。


「でもチャルカなら・・・ああ、駄目か」


 ヘルズ曰く、チャルカは銃を打撃系の武器としか使えないらしい。


『引き金を引くなんて高度な事、アイツが出来ると思ってるのか?』


 と、笑いながら言っていたのをよく覚えている。


「降谷先生は銃なんか使わなくても充分強いから、降谷先生でもない。じゃあ誰がーーー」


 演出ではない、チャルカでもない、ましてや降谷でもないとすると、可能性は限られてくる。


「と言う事は外部の可能性がある・・・まさかテロリスト? でもまさかこんなご時世にしかも文化祭当日なんてご都合主義あるわけないか」


 せっかく核心にまで至った発想を、自らの手で切り捨ててしまう。シャーロック・ホームズも大号泣だろう。


「とりあえず、ヘルズに電話しておこうかしら」


 ヘルズはニノ宮の知る限り、最強の戦闘能力を誇る人間だ。彼には連絡をしておくべきだろう。


 携帯を出し、ヘルズに電話を掛ける。途中で妨害電波の干渉を受けたようだが、その電波を逆に操作して、ヘルズに繋ぐ。


『はいもしもし。こちら御意三兄弟の長男の黒明です。趣味は『致しません』と言う事、特技はインオペです。何かご用のある方は110までご連絡下さい』


 相変わらずふざけ度MAXのヘルズ。だが今は一刻を争う。


「ちょっとヘルズ、私よ。ニノ宮。貴方の彼女にして愛人、さらに御意三姉妹の長女よ」


『おいちょっと待て。最初から最後まで全部違うぞ』


 ヘルズが的確なツッコミを入れる。話の流れが途切れたと判断したニノ宮は、焦らないように息を整えながらヘルズに言う。


「学校がおかしいの。悪いんだけれど、5分以内に来てもらえないかしら」


『嫌だ。俺は今敵対組織「そろそろ・遊ぶ・おじさん達」略してSAOを潰した時に手に入れたゲーム【ネバー・ファンタスティック・ストーリー】をやってるんだ。という訳で無理だ』


 それには流石のニノ宮も呆れた。


「・・・そんな三丁目の八百屋のおじさんがラスボスなゲームなんてやめて、早く来てよ」


『ゲッ、マジか⁉ 何で知ってるんだよ⁉』


「そのゲームを作ったのが私だからよ」


『開発者お前か!』


 作ったはいいものの、売り物にならないレベルでクソゲーだったので、粗大ごみの日に出したソフトだ。ちなみに、この世に1つしかない。


「いいから早く来なさいよ。どうせまだオープニングの所でしょう?」


『ああ、そうだが・・・なんで分かったんだ?』


「そのゲームのオープニングが24時間掛かるからよ」


『丸一日もこのクソつまらねえオープニング見せられるのかよ⁉』


 ちなみに、スキップ機能はない。代わりにリセットボタンならある。


「ああ、あとチュートリアルはその2倍よ。しかも途中で死んだら最初から」


『何なんだよこのガチのクソゲー⁉』


「さあ、そんなクソゲーやってないで早く来なさい。『御意』はどうしたの?」


 向こうが冗談で『御意三兄弟の長男』と言っていたのを思いだし、煽ってみる。すると、『致しません』という声と共に、電話が切れた。


「あーあ」


『通話終了』の文字を見ながら、ニノ宮は残念そうに溜め息を吐いた。


「どこまで『御意』って言うか、試して見たかったのに」


 




 



次回は11月13日更新予定です。

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