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世間を騒がせる天才怪盗は、二次元廃人でした。  作者: 桐原聖
引きこもり怪盗と文化祭
112/302

抵抗開始

 鉄塊を振り、強度を確認。


「うん、オッケー」


 満足そうに言うと、チャルカは鉄塊を右手に持ち、左手に無線機を持った。これで準備完了だ。


 ちなみにチャルカのクラスメイト達は皆、チャルカの手腕にドン引きしている。彼らにとってはテロリストだろうが、それを倒したチャルカだろうが、恐怖の対象である事に変わりはないのだ。


「たくさんの人、助けに行く。私1人でも」


 片言の日本語で言い、教室を飛び出す。ーー瞬間、耳元を弾丸が掠める。


「貴様、いったいどうやって⁉」


 見ると、覆面を着けたテロリストが数人、こちらに銃を向けている。チャルカはとっさに左手に持っていた無線機を投げつけると、柱の陰に身を隠した。機械が壊れるような音と床に弾丸が跳ねる音が、横から響いてくる。


「無線機、無駄になったけど、まあいい」


 鉄塊を握り直すと、チャルカは柱の陰から飛び出す。迫り来る弾丸を鉄塊で防御し、敵の懐に滑り込む。


「なっ⁉」


 驚いたのはテロリスト達だ。慌てて銃を真下に向けるが、時すでに遅し。


「はああっ!」


 掛け声と共に真下から放たれた掌打に、テロリストの体が吹っ飛ぶ。続けざまにチャルカは鉄塊を振り回し、残る2人を昏倒させた。


「ふう」


 敵を無力化し終えたチャルカは、安堵の息を吐く。これで5人倒した。あと何人倒せばいいかは分からないが、この調子でいけばチャルカ1人でどうにかなるだろう。


「私だけでもどうにかなるってところ、主席に見せつける」


 昔も今も、ヘルズには負けてばかりだ。そのせいか、ヘルズにはどこか舐められた態度を取られている。チャルカには、それが許せない。


「私だって役に立つ」


 その時、絹を裂くような声がチャルカの耳に届いた。チャルカは辺りを見回す。方角は北東。距離は不明だが、音の響き具合からして3階だろう。


「私が助ける!」


 威勢よく言い切り、階段を上がる。この晴れ舞台で、自分が有能だと証明してやる。


「うおおおおおおおおお!」


 その姿はまるで、鬼神の如しだった。


 階段の踊り場で呑気に話していた見張りの頭を鉄塊でフルスイングし、教室の前で構えていた覆面の頭を180度横回転させ、義手で扉を突き破って飛び込む。


「な、なんだお前は⁉」


 突然のチャルカの殴り込みに、覆面を付けた男が驚きの声を上げる。・・・・皆同じ覆面を付けているせいで、分かりにくい事この上ない。


「悲鳴が来たから助けに来た。私、ヒーロー」


「なに意味の分からねえこと言ってんだ! 死ねクソガキ!」


 ショットガンを構えてくる覆面の股間を、チャルカは蹴り上げる。覆面が股間を押さえて悶絶した直後、その脳天に鉄塊を振り下ろした。


「えい」


「⁉」


 グシャリ、という人体から出てはいけない音がして、覆面が昏倒する。チャルカはそれに対して何も思わず、教室内を見回した。すると、覆面を付けた男に腕一本で壁に押し付けられている少女を見つけた。


「さっき叫んだの、貴方?」


 苦しそうな様子の少女に、チャルカは聞く。少女は苦しそうにしながら、頷いた。


「た・・す・・け・・て・・・」


 その声は、かすれていて弱々しい。だが、言葉は確かに聞こえた。


「任せて」


 言うが早いか、チャルカは覆面男に飛びかかる。鉄塊を敵の頭目掛けてフルスイング。


 一撃昏倒の技を、敵は頭を傾ける事で回避する。そして、少女を掴んでいた手を放す。


「かはっ!」


 少女が咳き込み、床に崩れ落ちる。その様子をチラリと見て、チャルカは鉄塊を構える。


「あんな小さい子をいじめるなんて、許せない。貴方は私が倒す」


「やれるものならやってみろ。この俺、x-08に勝てると言うのならな」


 目の前の覆面男ーーーx-08が、拳を構える。それを見て、チャルカも気を引き締める。


「行くぞ」


 x-08が、滑るように間合いを詰め、軽快なジャブを放つ。チャルカはそれを最小限の動きで避け、鉄塊を振り回した。x-08はこれを裏拳で弾く。


「⁉」


「機械の手か。なかなか面白い物を持っているな」


 x-08の興味深そうな口調が聞こえてきた時には、すでに拳が目の前に迫ってきていた。


「危ない」


 鉄塊すら弾く拳に当たれば機械の手はともかく、顔面はただでは済まないだろう。チャルカは頭を大きくのけ反らせ、拳を避ける。


「ほらどうした? さっさと来いよ、機械人間!」


「分かった。行く」


 x-08の挑発に、チャルカは乗る。鉄塊を構え、目の前の敵を排除するべく動き出す。


 金属同士がぶつかり合う音が、廊下に響き渡った。





「やれやれ、チャルカもやるのう。これでは妾の手柄が取られてしまうぞえ」


 微かに鳴り響く金属音に眉をひそめながら、綾峰は廊下を歩いていく。その周りには、テロリストが折り重なって倒れていた。


「奴らが攻めてきてからもう1時間になるかの。そろそろ何かアクションを起こしてくれんと、妾退屈じゃ」


 作者さっさと仕事せんかのう、と愚痴り、綾峰は廊下を歩く。その時、後ろから奴らの声が聞こえた。


「両手を上げて頭の後ろで組め! 妙な真似をすると撃つ」


 綾峰は溜め息を吐いた。またこれか。


 綾峰が乗り込んでから45分、テロリストが現れる→ワンパンの繰り返しだ。その迷惑さを例えるなら、LV100のポケモンで最初の草むらに出てくる野生のポケモンと戦うようなものだ。もはや戦いではない、ただの作業だ。


「・・・何が悲しくて、妾はこんな雑魚キャラと戦わないといかんのじゃ。この戦いが終わったら作者を殺そう」


 もう飽き飽きしてきたので、死亡フラグを吐くことに決めた綾峰。そんな彼女に、テロリストは怒る。


「おいテメエ! なに無視してやがるんだ! 後ろ見ろ、テメエこの銃が見えねえのか⁉」


「ばっちり見えとるぞ。だからどうした?」


「死にたくなければ口を慎め! そして両手を上げて頭の後ろで組め!」


「死にたいもなにも、お主に妾は殺せんぞ。一応、死亡フラグを立てているが、それも回収される様子がないしのう」


 呑気な綾峰に、ついにテロリストは激昂した。


「テメエ、後悔しても知らねえからな!」


 後方で銃撃音。どうやら本当に撃ったらしい。綾峰は溜め息を吐く。


 散々格好つけておいてなんだが、このまま何もしなければ綾峰は撃たれて死ぬ。『不老不死』はあくまでも寿命による死を防ぐ能力であり、外傷による死は避けられない。


「・・・じゃがな、この能力は技の鍛練にとても向いているぞえ」


 瞬間、綾峰の体から青色のオーラが迸る。オーラは綾峰の全身を包み込み、弾丸から綾峰を守る。


「な、なんだ⁉」


 明後日の方向に飛ばされた弾丸を見て、テロリストが驚愕する。そんなテロリストに、綾峰は当たり前のように答える。


「なに、ただオーラを具現化しただけじゃ」


「お、オーラだと⁉」


「そうじゃ。人は皆、オーラを放っている。ただ、目に見えないのと弱すぎるのとで、上手く使いこなせていないだけじゃ。妾は3年間、鍛練に鍛練を重ねた事で、ようやくこのオーラを自由自在に操ることが出来るようになった。例えばこんな具合じゃの」


 綾峰が言うと同時、綾峰の肩甲骨の辺りから2匹、オーラの龍が出現する。テロリストが驚いて再び引き金を引くよりも早く、2匹の龍がテロリストに襲いかかる。


「うあああっ!」


 驚きの声を上げたテロリストの両肩に、龍が噛みつく。オーラの歯がテロリストの肩に食い込み、テロリストは声にならない悲鳴を上げて気絶した。


 敵が気絶した事を確認すると、綾峰はオーラを解除した。そして、溜め息を吐く。


「直接触れるまでもなく倒れるほど弱いとは・・・・つまらんのう」






 上の階から、金属音と銃撃音が聞こえる。


(誰か、戦っているんでしょうか)


 まああり得なくはない。何故ならこの学校には降谷とチャルカともう1人の仲間(ヘルズ曰く、協力者)が居る。彼らなら、テロリストを圧倒できるだろう。


 人手不足だろうか、姫香達のクラスを見張っているテロリストが、無線機で仲間と会話している。


「3階、1組を除いて突破されただと⁉ そしてx-08が現在交戦中⁉ 馬鹿な、あいつはあれでも『被験者』だぞ⁉ ・・・いや、それは駄目だ。こっちにもまだ仕事が残ってる」


 無線機で会話しながら、テロリストが姫香達に背を向ける。そして、MP5を床に置く。


 ーーー今だ!


 この好機を逃すほど、姫香は甘く鍛えられていない。手首のスナップを利かせ縄から高速で抜けると、2歩ほど助走をつけて跳躍。敵の後頭部に飛び膝蹴りを叩き込む。


「ぶぎゃ⁉」


 飛び膝蹴りはかなりの高威力だった模様で、テロリストが前に倒れる。敵の意識が無くなった事を確認すると、姫香はその手に掴んでいた無線機を手に取った。突然通話が途切れた事で、敵は少し困惑している模様だ。


『おい、どうした? なにか非常事態発生か?』


「問題ない。少しガキに奇襲をくらっただけだ」


 そのままの声色で、姫香は言う。案の定、敵のいぶかしむような声が聞こえる。


『お前、誰だ? Y-02じゃないな。Y-02はどうした』


 だが、これにも姫香は冷静に対処する。


「さっきガキに奇襲をくらった時に、声帯をやられた。おかげで声が出ない。仕方がないから代わりに奇襲をしてきたガキに喋らせてる。嘘じゃない。その証拠に、今から1人殺す」


 姫香は倒れたテロリストの手からMP5を抜くと、銃口を天井に向けて引き金を引いた。銃撃音が、鼓膜を叩く。


「きゃああああ!」


 しばらく銃撃音を聞かせた後で、姫香は悲鳴を上げる。これで音声しか伝わっていない向こうには、テロリストがまだ健在で、1人撃ち殺したように思うだろう。


「1人殺した。悲鳴を上げてる奴が居るが、コイツも殺したほうがいいか」


『いや、いい。お前が無事なのはよく分かった。だが念のため、そちらに1人送る。では引き続き見張りを頼んだぞ』


 そして、無線機がブツッと切られる。その瞬間、姫香の中で張り詰めていた緊張の糸が切れる。


「はあ・・・・」


 ヘルズに言われた事が、頭をよぎる。


『いいか、もし学校にテロリストが侵入して運よく見張りを倒せた時、一番注意しなければいけないのは無線機だ。応答が無いことで見張りが倒された事を感づかれたらその時点でゲームオーバーとなる。だからもし誰かから通信が来たら、何としてでも誤魔化せ。一応お前に、オレオレ詐欺に使われてる話術を一通り教えておくから、もし困ったらそれを使え』


 その時姫香は、そもそも学校にテロリストが侵入して来る事があるのか、そもそも運よく倒せるほどテロリストは弱いのか、というか高校生にオレオレ詐欺のやり方教えるなよと思ったが、どうやら上手く言ったようだ。



「まあでも、これで一時危機は去った訳ですしーーー」


「ね、ねえ姫香」


 突然後ろから声を掛けられ、姫香は反射的に振り向く。そこには、表情に畏怖を浮かべた真理亜が立っていた。


 ーーー否、真理亜だけではない。クラスメイトは皆、困惑と畏怖を浮かべている。無理もない。たかが一高校生が、テロリストを倒せるはずもないのだから。


『人間は、自分達と違うものを避ける生き物だ』


 ヘルズの言葉が、脳裏に浮かび上がる。最初聞いたときにはその意味が分からなかったが、今ではその意味が分かるような気がする。


 無理にでしゃばらずに、皆と同じくキャーキャー騒いでいれば、それで良かったのだ。


 失敗した。よかれと思ってやった事が、完全に裏目に出ていた。


「あ、えっと、これは」


 言葉が続かない。呂律が回らなくなり、脳がゲシュタルト崩壊を起こし、何が言いたかったのか、自分でも分からなくなる。


「えーと、とりあえず」


 慌てている姫香に、真理亜は声を掛ける。その言葉は心なしか、落ち着いているように聞こえた。


「ありがと、姫香」


「え?」


 自分は今確かに、皆とは違う行動をしたはずじゃーーー


「いや、実はさ、私今結構漏れそうだったんだよね」


 驚いている姫香に、真理亜は頬を掻きながら、照れ臭そうに言う。


「でもそんな事言ってもトイレに行かせてもらえるわけないし、高校生にもなってお漏らしかなって思ってたーーーそんな時、姫香がテロリストを倒してくれた。まああんな大人を倒すなんて姫香もヤバイと思ったけど、結局は私たちを助けてくれたんだしーーーだから、ありがと姫香」


 その言葉に、何人かの女子が頷く。どうやら彼女達も、漏れそうだったようだ。


「皆・・・」


 目頭が熱くなる。涙が流れるかと思ったその時、真理亜が「まあとりあえず」と言った。


「ちょっとトイレ行ってくるね!」


 真理亜が教室を出たのを合図に、数人の男女が教室を出てトイレに向かった。その姿を見ながら、沙織が近づいてくる。


「まあとにかく姫ちゃん、助けてくれてありがとう」


 その言葉に、姫香は救われたような気持ちになった。








いつもこの作品を読んでくださっている皆様、こんにちは。


 予定があって、次回の更新は一週間後、11月11日となります。申し訳ございません。

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