それぞれの対応
「ぶ、文化祭の演出かな・・・・」
「た、多分そうでしょ・・・だってここ日本だぜ? そんな事あるわけないだろ」
クラスメイトは皆、現実を受け入れられないようだ。だが無理もない。彼らは姫香やヘルズとは違い、『裏』の社会に踏み込んだことがないのだ。
「どうしましょう・・・」
姫香は焦りながらも、ポケットの中を探る。携帯電話とシャーペンが2本。それとヘルズから『なにかあった時に使え』と言われて渡された、シャーペン型の折り畳みナイフが1本だ。
「まずいな・・・・」
思わず、不安が口をついて出る。敵の人数は分からないが、この武器で戦うのには無理がある。
それに、こう言ってはなんだが、生徒が荷物になる。
まだまだ未熟なものの、姫香はヘルズから戦いにおける様々な技術を教わっている。それを全力で駆使して戦えば、数によってはテロリストを全員倒せるかもしれない。
だが、生徒を人質に取られたら終わりだ。その時点で投降をやむなくされる。
(テロリストがどこに居るか分からない以上、下手に動くのは危険ですね)
だとすれば、ここでの得策はやはり援軍だろう。電話でヘルズかニノ宮を呼べば、きっと何とかしてくれる。
姫香が携帯電話を出すのを見て、皆の顔に輝きが灯る。どうやら、極度の緊張で思考が止まり、誰も気が付かなかったようだ。
(ヘルズさん、出てください!)
祈りながら、姫香はアドレス帳を開く。『弐夜先輩』と書かれたアドレスを押し、電話をかける。数回の着信音の後、ヘルズらしき男のダルそうな声が聞こえてくる。
『はいこちら黒明さんちの弐夜君です。間違い電話、もといいたずら電話だった場合、天から降り注ぎし魔剣で細切れにするのでご注意ください』
「弐夜先輩、私です! あのーーー」
ブツッ。
電話が切れる。驚いてディスプレイを見ると、画面には『圏外』という文字があった。
「えーーー」
『ああそう、1つ言い忘れていました。外部に連絡されると困るので、この学校全域に電波妨害をさせてもらいました。よって皆さん、これから外部との連絡は出来ませんよ』
テロリストの声に、姫香は心の中で舌打ちした。あともう数秒早ければ、超強力な助っ人が呼べたというのに。
(でも、悔やんでも仕方ない)
今は前を向いて考えなくては。
『それでは今から各教室に見張りを配置します。少しでも妙な真似をしたら容赦なく殺しますので、お気をつけて』
テロリストの抑揚のない声と同時、教室の扉が強引に開かれる。覆面を被った二人組だ。2人は手に持った銃ーーーMP5を、姫香達に突き付ける。
「全員、両手を頭の後ろで組んで壁によれ!」
「従わなければ撃つ。早くしろ」
クラスメイト達は皆その指示に従う。姫香は自分だけでも抵抗して戦おうかと思ったが、流れ弾がクラスメイトに当たっても困る。よって、仕方なく従った。
「よし、それでいい。おい、そこのお前。このロープでクラスの連中を縛っていけ」
テロリストの1人が、賢一にロープを投げる。突然指名された賢一は困惑の表情を浮かべていたが、「早くしねえと撃つぞ!」という脅しに怯み、いそいそとロープを手に取り、クラスメイト達を後ろ手に縛り上げていく。ヘルズになるために縄の結び方を練習しているのだろう、そのペースはとても早い。
「お前上手いな。どこで習った?」
テロリストにまで驚かれる始末だ。そしてものの数分で、クラスメイト全員が動けなくなる。テロリスト達が、1人1人の縄の強度を確認していく。
「よし、これで大丈夫だな。おいお前、ご苦労だったな」
テロリストにそう言われ、賢一は「は、はい!」と返した。・・・真面目か。
「じゃあ、俺は一旦戻るから、お前はこいつらの見張り頼むぜ」
テロリストの1人がもう片方に言い、教室を出ていく。もう1人はそれを見送ると、油断なく姫香達の顔を見回した。
「妙な真似はするなよ。自分の命が惜しくばな」
姫香は自分の縄の状態を確認する。大丈夫、充分縄抜けが可能だ。10秒あれば抜けられる。そして不意を突いて、敵の無力化が可能だ。
ただし、それにはクラスメイトが邪魔だ。
(どうしましょう・・・)
自分の軽率な行動のせいで、クラスメイトを危険な目に遭わせる訳にはいかない。だが、このままではまずい。何とかしなくては。
「何でよ、どうしてよ・・・」
「俺達、ただ文化祭を楽しみたいだけなのに・・・」
周りから、切ない声が聞こえてくる。それに眉をひそめたテロリストが、MP5を向ける。
「おい、うるさいぞお前ら。人質なんだから静かにしてろ」
怒気のこもった声色。それ1つで、教室内が静まり返る。
「ったく、何で俺がこんなガキのお守りなんかしなくちゃならないんだよ」
まったくだ。早くこの場から去ってほしい。そうすれば姫香はクラスメイトを危険に晒すことなく、存分に戦えるというのに。
(ここからどうなるか、確認のしようがありませんね)
ここは我慢の一手だ。
「何だか大変な事になっているようじゃのう」
「ま、学校にテロリストが来たんだ。無理もねえだろ」
綾峰と降谷は、屋上に居た。
なんの事はない、ただ休憩がてら屋上に出向いていたらテロリストが来て、たまたま屋上に居た2人は狙われなかっただけだ。
「奴らの狙いはなんじゃろうな? 幸一よ」
「さあな。さっぱりだ」
降谷は諦めたように言うと、タバコに火をつけた。そして、平然と一服する。
「余裕そうじゃの、お主」
「まあな。まだ奴らは何もしてないし、それにチャルカが居る。一応ユルにも招待状を送ってるから来るだろうし、まだ落ち着いていられるさ」
ただテロリストの殲滅だけなら、ヘルズ陣営の1人でも居れば事足りる。生徒の救出にしても、ヘルズかユルが居れば充分だ。
彼らの速度なら、テロリストが人質を殺すよりも速く救出できる。
「それで、ヘルズとは連絡が取れたのかえ?」
「無理だ。どうやら電波妨害されてるらしい。携帯がずっと圏外のままだ」
降谷が溜め息とともにタバコの煙を吐き出す。目の前をよぎる白い煙を不快そうに見ながら、綾峰は口を開く。
「で、いつ妾達は動くかの? 妾は準備万端であるぞ?」
綾峰が指の関節をパキパキと鳴らす。降谷はポケットから違う種類のタバコの箱を出すと、綾峰に差し出す。
「オレは落ちこぼれなんでな。ヘマするのもまずいしヘルズが来てから一緒に突っ込む。お前は先に行って生徒の救出を頼む。あとこれは餞別だ。受けとれ」
綾峰が、露骨に嫌そうな顔をした。
「妾、そんな体に害しか及ぼさないような物は吸わない主義なのだが」
「馬鹿か。そんな事は分かってるよ。これはタバコじゃない」
降谷は言うと、手に持ったタバコの箱からタバコを1本だし、火を着けた。そして数秒間待つ。するとタバコの先端がわずかに燃え尽き、中から銀色の刃が出現した。
「かの名探偵、明智小五郎も使っていたと言われる一品、タバコ式仕込み刃だ。形状こそ小さいが、縄くらいなら簡単に切断できる。持っておいて損はないぜ」
「そうか。ではもらっておこうかの」
降谷からタバコの箱を受けとり、ポケットにしまう。そして綾峰は踵を返す。
「では行くぞ。手柄が全て妾の物になっても、恨むなよ」
「問題ないな。むしろ万々歳だ」
綾峰が敵地へと向かっていくのを、降谷は静かに見守っていた。
ダダダダダダダッ!
銃声が、激しく響き渡る。
その中心に居るのは、複数のテロリスト達とーーーーーー
「遅い。もっと速く。これじゃあ遅すぎてあくびが出る」
チャルカが、弾丸を右手で弾きながら、淡々と言う。
「じゃあ、そろそろ飽きてきたし、終わらせるね」
言うが早いか、チャルカは床を蹴る。そしてMP5を掴み、グニャリとねじ曲げる。
「な、何だ⁉」
テロリストが驚くのを無視して、チャルカは鉄塊と化したMP5を振り下ろした。鉄塊はテロリストの脳天に炸裂し、テロリストの意識を的確に刈り取る。
「1人倒した」
「こ、この!」
もう片方のテロリストがサブマシンガンを出し、チャルカに向かって連射する。だがチャルカはそれらを全て片手で掴みとる。
「なーーー」
「貴方達、弱すぎる」
チャルカはいつも通りの無感情な声で言うと、鉄塊を投げつけた。鉄塊はテロリストの顔面にぶち当たり、顔面を作画崩壊状態にする。
「ぐぎゃああああ!」
「弱すぎる。もっと強くなってから、また来て」
チャルカの退屈そうな声とともに、二人目のテロリストが倒された。
次回は11月4日更新予定です。




