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世間を騒がせる天才怪盗は、二次元廃人でした。  作者: 桐原聖
引きこもり怪盗と文化祭
111/302

それぞれの対応

「ぶ、文化祭の演出かな・・・・」


「た、多分そうでしょ・・・だってここ日本だぜ? そんな事あるわけないだろ」


 クラスメイトは皆、現実を受け入れられないようだ。だが無理もない。彼らは姫香やヘルズとは違い、『裏』の社会に踏み込んだことがないのだ。


「どうしましょう・・・」


 姫香は焦りながらも、ポケットの中を探る。携帯電話とシャーペンが2本。それとヘルズから『なにかあった時に使え』と言われて渡された、シャーペン型の折り畳みナイフが1本だ。


「まずいな・・・・」


 思わず、不安が口をついて出る。敵の人数は分からないが、この武器で戦うのには無理がある。


 それに、こう言ってはなんだが、生徒が荷物になる。


 まだまだ未熟なものの、姫香はヘルズから戦いにおける様々な技術を教わっている。それを全力で駆使して戦えば、数によってはテロリストを全員倒せるかもしれない。


 だが、生徒を人質に取られたら終わりだ。その時点で投降をやむなくされる。


(テロリストがどこに居るか分からない以上、下手に動くのは危険ですね)


 だとすれば、ここでの得策はやはり援軍だろう。電話でヘルズかニノ宮を呼べば、きっと何とかしてくれる。


 姫香が携帯電話を出すのを見て、皆の顔に輝きが灯る。どうやら、極度の緊張で思考が止まり、誰も気が付かなかったようだ。


(ヘルズさん、出てください!)


 祈りながら、姫香はアドレス帳を開く。『弐夜先輩』と書かれたアドレスを押し、電話をかける。数回の着信音の後、ヘルズらしき男のダルそうな声が聞こえてくる。


『はいこちら黒明さんちの弐夜君です。間違い電話、もといいたずら電話だった場合、天から降り注ぎし魔剣で細切れにするのでご注意ください』


「弐夜先輩、私です! あのーーー」


 ブツッ。


 電話が切れる。驚いてディスプレイを見ると、画面には『圏外』という文字があった。


「えーーー」


『ああそう、1つ言い忘れていました。外部に連絡されると困るので、この学校全域に電波妨害をさせてもらいました。よって皆さん、これから外部との連絡は出来ませんよ』


 テロリストの声に、姫香は心の中で舌打ちした。あともう数秒早ければ、超強力な助っ人が呼べたというのに。


(でも、悔やんでも仕方ない)


 今は前を向いて考えなくては。


『それでは今から各教室に見張りを配置します。少しでも妙な真似をしたら容赦なく殺しますので、お気をつけて』


 テロリストの抑揚のない声と同時、教室の扉が強引に開かれる。覆面を被った二人組だ。2人は手に持った銃ーーーMP5を、姫香達に突き付ける。


「全員、両手を頭の後ろで組んで壁によれ!」


「従わなければ撃つ。早くしろ」


 クラスメイト達は皆その指示に従う。姫香は自分だけでも抵抗して戦おうかと思ったが、流れ弾がクラスメイトに当たっても困る。よって、仕方なく従った。


「よし、それでいい。おい、そこのお前。このロープでクラスの連中を縛っていけ」


 テロリストの1人が、賢一にロープを投げる。突然指名された賢一は困惑の表情を浮かべていたが、「早くしねえと撃つぞ!」という脅しに怯み、いそいそとロープを手に取り、クラスメイト達を後ろ手に縛り上げていく。ヘルズになるために縄の結び方を練習しているのだろう、そのペースはとても早い。


「お前上手いな。どこで習った?」


 テロリストにまで驚かれる始末だ。そしてものの数分で、クラスメイト全員が動けなくなる。テロリスト達が、1人1人の縄の強度を確認していく。


「よし、これで大丈夫だな。おいお前、ご苦労だったな」


 テロリストにそう言われ、賢一は「は、はい!」と返した。・・・真面目か。


「じゃあ、俺は一旦戻るから、お前はこいつらの見張り頼むぜ」


 テロリストの1人がもう片方に言い、教室を出ていく。もう1人はそれを見送ると、油断なく姫香達の顔を見回した。


「妙な真似はするなよ。自分の命が惜しくばな」


 姫香は自分の縄の状態を確認する。大丈夫、充分縄抜けが可能だ。10秒あれば抜けられる。そして不意を突いて、敵の無力化が可能だ。


 ただし、それにはクラスメイトが邪魔だ。


(どうしましょう・・・)


 自分の軽率な行動のせいで、クラスメイトを危険な目に遭わせる訳にはいかない。だが、このままではまずい。何とかしなくては。


「何でよ、どうしてよ・・・」


「俺達、ただ文化祭を楽しみたいだけなのに・・・」


 周りから、切ない声が聞こえてくる。それに眉をひそめたテロリストが、MP5を向ける。


「おい、うるさいぞお前ら。人質なんだから静かにしてろ」


 怒気のこもった声色。それ1つで、教室内が静まり返る。


「ったく、何で俺がこんなガキのお守りなんかしなくちゃならないんだよ」


 まったくだ。早くこの場から去ってほしい。そうすれば姫香はクラスメイトを危険に晒すことなく、存分に戦えるというのに。


(ここからどうなるか、確認のしようがありませんね)


 ここは我慢の一手だ。







「何だか大変な事になっているようじゃのう」


「ま、学校にテロリストが来たんだ。無理もねえだろ」


 綾峰と降谷は、屋上に居た。


 なんの事はない、ただ休憩がてら屋上に出向いていたらテロリストが来て、たまたま屋上に居た2人は狙われなかっただけだ。


「奴らの狙いはなんじゃろうな? 幸一よ」


「さあな。さっぱりだ」


 降谷は諦めたように言うと、タバコに火をつけた。そして、平然と一服する。


「余裕そうじゃの、お主」


「まあな。まだ奴らは何もしてないし、それにチャルカが居る。一応ユルにも招待状を送ってるから来るだろうし、まだ落ち着いていられるさ」


 ただテロリストの殲滅だけなら、ヘルズ陣営の1人でも居れば事足りる。生徒の救出にしても、ヘルズかユルが居れば充分だ。

彼らの速度なら、テロリストが人質を殺すよりも速く救出できる。


「それで、ヘルズとは連絡が取れたのかえ?」


「無理だ。どうやら電波妨害されてるらしい。携帯がずっと圏外のままだ」


 降谷が溜め息とともにタバコの煙を吐き出す。目の前をよぎる白い煙を不快そうに見ながら、綾峰は口を開く。


「で、いつ妾達は動くかの? 妾は準備万端であるぞ?」


 綾峰が指の関節をパキパキと鳴らす。降谷はポケットから違う種類のタバコの箱を出すと、綾峰に差し出す。


「オレは落ちこぼれなんでな。ヘマするのもまずいしヘルズが来てから一緒に突っ込む。お前は先に行って生徒の救出を頼む。あとこれは餞別だ。受けとれ」


 綾峰が、露骨に嫌そうな顔をした。


「妾、そんな体に害しか及ぼさないような物は吸わない主義なのだが」


「馬鹿か。そんな事は分かってるよ。これはタバコじゃない」


 降谷は言うと、手に持ったタバコの箱からタバコを1本だし、火を着けた。そして数秒間待つ。するとタバコの先端がわずかに燃え尽き、中から銀色の刃が出現した。


「かの名探偵、明智小五郎も使っていたと言われる一品、タバコ式仕込み刃だ。形状こそ小さいが、縄くらいなら簡単に切断できる。持っておいて損はないぜ」

 

「そうか。ではもらっておこうかの」


 降谷からタバコの箱を受けとり、ポケットにしまう。そして綾峰は踵を返す。


「では行くぞ。手柄が全て妾の物になっても、恨むなよ」


「問題ないな。むしろ万々歳だ」


 綾峰が敵地へと向かっていくのを、降谷は静かに見守っていた。


















 ダダダダダダダッ!


 銃声が、激しく響き渡る。


 その中心に居るのは、複数のテロリスト達とーーーーーー


「遅い。もっと速く。これじゃあ遅すぎてあくびが出る」


 チャルカが、弾丸を右手で弾きながら、淡々と言う。


「じゃあ、そろそろ飽きてきたし、終わらせるね」


 言うが早いか、チャルカは床を蹴る。そしてMP5を掴み、グニャリとねじ曲げる。


「な、何だ⁉」


 テロリストが驚くのを無視して、チャルカは鉄塊と化したMP5を振り下ろした。鉄塊はテロリストの脳天に炸裂し、テロリストの意識を的確に刈り取る。


「1人倒した」


「こ、この!」


 もう片方のテロリストがサブマシンガンを出し、チャルカに向かって連射する。だがチャルカはそれらを全て片手で掴みとる。


「なーーー」


「貴方達、弱すぎる」


 チャルカはいつも通りの無感情な声で言うと、鉄塊を投げつけた。鉄塊はテロリストの顔面にぶち当たり、顔面を作画崩壊状態にする。


「ぐぎゃああああ!」


「弱すぎる。もっと強くなってから、また来て」


 チャルカの退屈そうな声とともに、二人目のテロリストが倒された。


 




 

 








次回は11月4日更新予定です。

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