襲撃の始まり
更新丸一日遅れてしまい、申し訳ありませんでした。
「次に文化祭実行委員やりたい人は居ますか?」
教壇の上に立って、姫香は皆を見回す。しかし、誰も手を上げるものはいない。
時はロングホームルーム。姫香達のクラス1年2組では今、文化祭についての話し合いを、学級委員を中心に行っていた。
ちなみに姫香は学級委員だ。親に暴力を受けていた時代、学校に一秒でも長く止まりたかったために、立候補したのだ。幸い、姫香にはかなりの人望があったため、あっさり通った。
「うーん、やりたいのは山々なんだけどさー」
「私達も色々忙しいんだよねー」
姫香の親友である、真理亜と沙織がダルそうに言う。他の人も面倒くさいという理由からか、積極的に手を上げようとはしない。
「というか姫香でいいんじゃない? だって学級委員もやってるし、それにこのクラスをまとめてるのってほとんど姫香だし」
「でも嫌なら無理にやらなくてもいいからね。学級委員と兼任は大変だろうし」
沙織の言葉に、何人かが頷く。どうやらその数人は押し付け根性ではなく、純粋に姫香の功績から判断してくれているようだ。
「わ、私は大丈夫。でも、他にやりたい人が居るかもしれないしーーー」
「こんな面倒くさい物を進んでやりたがる人はあんまりいないと思うよ。それに姫香以外の誰かがなったとしても上手くまとめられなそうだし」
真理亜の言葉に、今度はクラスの3分の2が頷く。どうやら、姫香以外の人間のカリスマを信じていないようである。
「じゃあ、私が実行委員でいい?」
姫香が聞くと、クラスの大半が頷いた。男子の学級委員が黒板に姫香の名前を書くと、前に向き直る。
「それじゃあ、あと一人だね。誰かやってくれる人は居るかな?」
「じゃ、じゃあ僕がやるよ」
手の上がった方を見ると、そこには赤面して手を上げている賢一の姿があった。
「とか言って賢一、本当は姫香と一緒に居たいだけでしょー」
「恋する男子は難儀だねー」
真理亜と沙織のからかいに、賢一はさらに赤くなる。姫香はフォローしようとしたが、その前に男子の学級委員が割り込む。
「それじゃあ、もう一人の実行委員は賢一くんでいいかな」
少し怒ったような口調。先程遠回しに『上手くまとめられない』と称されたのが悔しいらしい。
「オッケー。じゃあそれで決定で」
「姫ちゃん、困ったらすぐ相談してね。姫ちゃん一人に背負わせるわけにはいかないから」
「うん。ありがと沙織」
その時、授業終了のチャイムが鳴った。続きはまた後でだ。
「じゃあ、一旦終わりにするね」
姫香はそう言うと、号令をかけて終了した。
文化祭実行委員としての仕事を終え、姫香は家に帰宅する。そして風呂に入って夕食を食べ、勉強を始める。
どこかの怪盗とは違い、実に健康的な生活だ。
その時、携帯電話がバイブ音を立てる。番号は非通知。姫香は電話を取った。
「もしもし」
『もしもし姫香ちゃん。私よ』
電話の主はニノ宮だ。彼女が電話をしてくるなんて珍しい。
「どうしたんですか? こんな時間に」
『貴方、【奴ら】の手先になったそうね』
「【奴ら】?」
『文化祭実行委員の事よ』
「ああ・・・・」
てっきり自分が知らないうちに怪しい組織に入ったのかと思ったが、文化祭実行委員なら納得がいく。
『あれは危険な組織よ。表向きには文化祭を成功させようと動いているように見せかけて、裏では国家反逆を目論んでいるような連中の集まりなのよ』
「そんな訳ないでしょ!」
スケールがでかすぎる。
『まあとにかく、【奴ら】に懐柔されないようにね。【奴ら】は洗脳術に拷問術、建築術を使ってくるわ。間違っても、【奴ら】の味方になっては駄目よ』
「最後変なの混ざってますけど!」
建築術でどうやって相手を丸め込もうというのだろうか。
「ニノ宮さん、まさかこんな厨二病の話に付き合わせるために、夜遅くに電話してきたんですか?」
『貴方が気にすることではないわ』
「気にしますよ!」
ここまでボケられると、疲れてくる。
そう思った姫香は、話題を変えることにした。
「そういえば、ニノ宮さん達のクラスの文化祭の出し物は決まりましたか? 私達のクラスは、喫茶店になりました」
満場一致で、逆に怖かったのをよく覚えている。
『私達のクラスは、メイド喫茶になったわ。とはいっても、男子が女子の反対を押し切って勝手に決めただけなんだけどね』
「メイド喫茶ですか」
『授業が終わった後、クラスの男子全員が私に土下座してきたわ。どうか文化祭の当日は休まないでくださいって』
「な、なるほど。だからメイド喫茶なんですか」
男子、プライドはないのか。
確かに素材がいいため、ニノ宮がメイド服を着たら爆発的な破壊力を誇るだろう。土下座してでも見たいというその意見には、姫香も共感できる。
『まあ断ってやったんだけどね』
「酷すぎません⁉」
クラスの男子が全員土下座しているというのに、ニノ宮は相変わらず自由奔放だ。姫香だったら『相手に悪い』と思って絶対に行く。
『だって仕方がないでしょ。その日はヘルズと通信プレイをする約束があるんだから』
「学校に行ってください!」
というか、ヘルズも文化祭に行かないのか。
これは粛清が必要である。
『まあそんなわけで、そっちも大変だろうけど頑張ってね。それじゃあ』
「あ、ちょっとーーー」
姫香の返事を待たずして、電話が切れた。姫香はため息を吐く。
「・・・・・はあ」
自由奔放、自分勝手のニノ宮来瞳。
同じく自由奔放、自分勝手かつ唯我独尊な黒明弐夜。
この高校が誇る問題児達の顔を思い浮かべ、姫香は暗澹たる気持ちになった。
・・・なんでこんな人たちが、自分の恩人なんだろう。
それからはしばらくは、特に何事もなく進んだ。
姫香は毎日文化祭のために身を粉にして働き、クラスの皆も精一杯頑張った。ヘルズは毎日『生きる』事を目標に頑張り、ニノ宮は毎日『部屋から出ない』事を目標にして頑張った。
そして、文化祭を迎えた日の朝ーーー
事件は起きた。
2049年10月30日、午前8時30分。
1年2組の教室には、クラスメイトが全員集合していた。
「いよいよだね」
真理亜の言葉に、姫香は頷く。後30分もすれば文化祭が始まる。そこからが本番だ。
「ねえねえ、まだ時間あるんだし、皆で写真でも撮らない?」
沙織がそう提案する。いいアイデアだ。
「じゃあ皆並んでね。最初は私が撮ってあげるから」
沙織が率先してカメラを持ち、構える。皆はフレームに収まるように教壇の中心に移動していく。
「姫香は一番頑張ったんだから真ん中でしょ。ほら早く」
真理亜に手を引かれ、姫香は教壇の中心に立たされる。
「それじゃあ撮るよ、はいチーズ」
沙織の言葉とともに、シャッター音がする。撮った写真を見て、沙織がニコリと笑う。
「オッケー、ちゃんと撮れてるよ」
「じゃあ今度は私が撮るから、沙織は写りなよ」
真理亜が沙織に呼び掛ける。やっばり真理亜は優しいなと思いながら姫香が真理亜の顔を見ると、真理亜の目の下に色濃い隈が浮かんでいるのに気がついた。
「ま、真理亜大丈夫⁉」
「んー、何が?」
真理亜が姫香の方に顔を向ける。やはり、隈の色が濃い。化粧である程度は誤魔化しているようだが、それでも完全には消えていない。
「そ、その、目の下の隈・・・」
「ん、ああこれか。全然大丈夫、ちゃんと4時間は寝てるから。というかこれ10月の始めくらいからあったけど、姫香気がつかなかった?」
「あ、ごめん、全然気がつかなかった」
10月の始めといえば、ちょうど『血まみれの指』との戦いが終わった頃だ。そういえばヘルズと北見方の戦いの最中、2人を見なかったが、どこで何をしていたのだろう。
姫香が考えていると、沙織から声が掛かった。
「ねえ真理亜、早く撮ろうよー」
「あ、ごめん沙織。すぐ撮るからね」
真理亜が沙織からカメラを受け取り、構える。と、そこで不思議な事でもあったのか首をかしげる。
「どうしたの、真理亜」
「ねえ姫香、この学校の校庭って駐車禁止だよね?」
真理亜が突然、不思議な事を聞いてくる。
「うん、禁止だけど。それがどうしたの?」
この学校では、校内全域駐車禁止だ。そもそも、校庭に車を停める非常識な人間はいないはず。
「校庭に、変な車が停まってるんだけど」
窓から校庭を見下ろす。すると真理亜の言った通り、黒塗りの車が数台、校内に停まっていた。
「なんだろう、あれ・・・・」
嫌な予感がする。数週間前、『血まみれの指』の組員の一人、『嗅覚』と戦ったときと同じ、気が抜けない感覚だ。
「キャアアアアアア!」
突如、絹を裂くような甲高い声と銃声が鳴り響き、姫香は身構える。だが当然訓練を積んでいない生徒達は皆驚愕と困惑の表情になっている。姫香が皆に注意を呼び掛けようとしたその時、天井のスピーカーから声が聞こえてくる。
『あ、あ、あ・・・・皆さん、聞こえますか?』
変声機を通して話しているのか、男か女かの区別もつかないような機械的な声だ。姫香が油断なく構えていると、声が続ける。
『ただいまより、この学校は我々テロリストが占拠しました。妙な真似をしたら即殺しますので、ご注意ください』
2049年、午前8時35分。
学校が、テロリストに占拠された。
次回は11月1日更新予定です。
遅れてしまったお詫びとして、二日続けての投稿となります。




