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世間を騒がせる天才怪盗は、二次元廃人でした。  作者: 桐原聖
引きこもり怪盗と文化祭
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引きこもりの美少女は、問題を起こさなければ気がすまない

今回は新キャラ登場です。

「皆さん、おはようございます。今週も一週間、頑張りましょう」


 月曜日。


 それは一週間の内で最も憂鬱な曜日であり、同時に朝会がある曜日でもある。要するに、とても面倒くさい曜日である。一応優等生として知られている姫香でも、校長の話の途中にうとうとしてしまう事は多々ある。


「今日は、表彰があります」


 またか、と全校生徒の半分が思う。


 素晴らしい功績を称える、朝会の表彰。『いや確かに凄いとは思うけど今やる必要ねえだろさっさと教室戻らせろよ』と全校生徒の半分以上が思うであろう、あの表彰だ。


「また、どこかの部活が賞を取ってきたんですかね・・・」


 姫香も、入学してからしばらくは純粋に称賛していた。賞を取ってきたのは頑張りが結果に結び付いた証、それは素直に誉めるべきだと。


 だが、それも20回目を越えた辺りから『もういいや』と思い始めた。確かに賞を取ったのは凄いが、それに対する校長の話は長いわ、1時間目の授業が潰れるわで、デメリットがメリットを上回っている事に気が付いたのだ。


 

 だから、どこかの部活が賞を取ったと聞いても今は「へー」としか思わない。そもそも、身近にもっと大きなスポットライトを浴びている怪盗が居るので、県大会優勝程度では大して驚かない。



「えー、なんとですね、うちの3年のニノ宮来瞳さんが先日発表した最新の機器が、ノーベル物理学賞を受賞しました!」


 驚いた。物凄く驚いた。


「えーーーーーーーーー!」


 だが、それは皆同じだった。当たり前だ。ノーベル賞といえば、2035年に判定基準が更に厳しくなり、1つの賞に付き1人しか取れなくなった、狭き門で有名だ。一年に一回、地球上で1人しか取れないため、皆死に物狂いで研究に打ち込んでいる。


 それを、うちの学校の生徒が⁉ しかも、自分の知り合いが⁉


 まあ確かに、嘘ではないだろう。ニノ宮はヘルズ勢力の機械担当。物理学に精通していてもおかしくはない。しかし、まさかノーベル賞まで取ってしまうとは。

 

 恐るべし、ニノ宮来瞳。


「ではニノ宮さん、前へ」


 校長に促され、ニノ宮が壇上に上がる。その姿は、姫香が最後に見たときと変わらず、とてつもない美少女だった。まるで二次元から抜け出してきたようなその美貌に、男子達が息を呑む。


「おい、あんな超絶可愛い子、居たか?」


「いや、知らなかった。転校生か何かか⁉」


「そう言えば、うちのクラスに1人、不登校時がーーー」


 男子達がひそひそと会話を交わすなか、朝会は順調に進んでいく。


「ではニノ宮さん、生徒達に何か一言どうぞ」


 校長にはんば強引に促され、ニノ宮がマイクを持つ。いきなり話を振られたせいで、何を言えばいいのか分からないのだろう。


「あーーー、マイクのテスト中」


 かと思ったら、そうでもないようだ。ニノ宮の美声を聞いて、一部の男子陣の瞳に一瞬、天国が映る。


「皆さん、おはようございます。今日はわざわざ私のために時間を取っていただき、ありがとうございます」


 なかなかいい滑り出しだ。ヘルズ同様年中引きこもり、しょっちゅう過激なスキンシップをしてくるあのニノ宮とは、とても思えない。男子の目も、生き生きと輝いている。これは恐らく、教室に戻った瞬間に告白の嵐だろうーー








「ーーーなんて、言うと思った? 烏合の衆」


 そんな事はなかった。



「たかが賞を1つ取ったくらいで朝会に出されるとか、道化もいい所ね。今私の視界には、ポカンとした表情で口を開けている教師達の間抜け面が見えるわ。実に醜い光景ね」


 突然のニノ宮の豹変に、皆呆気に取られる。そんな事はお構いなしとばかりに、ニノ宮は笑顔で毒を吐き続ける。


「そもそも、学校の朝会なんて生徒が寝るためだけに催されているイベントを、どうして生徒が仕切らなくちゃならないのよ。おかしいと思わないのかしら。もう少し一般常識と引きこもりの哲学を身に付けたらどうかしら」



「に、ニノ宮さんありがとうございました。どうぞ、お戻り下さい」


 教頭が慌てて、ニノ宮に指示を出す。だがニノ宮は、そんな教頭を見てニコリと微笑んだ。


 それはこの状況に絶対合っていないであろう、天使の微笑みだった。


「嫌よ。せっかく壇上に立ったんですもの。もう少し喋らせてもらうわ。自由人を舐めた罰、特と味わいなさい」


 自由人は誉め言葉じゃないだろ。


 全校生徒が心の中でツッコミを入れる。


「ふざけるな! 誰でもいい、あいつを壇上から引きずり下ろせ!」


 校長が怒りを露にして、教師陣に指示する。数人の教師が、銀髪の天使を捕まえるべく動き出すーーー


「あ、もし止めようとしたらランダムで先生の秘密、ばらすからね」


 ・・・・が、悪魔のような一言で、教師達の動きが停止した。



「さあ、朝会を続けるわよ」









 爽やかというには少し冷たい風が、屋上に流れる。


「やっぱ寒いな。力を解放しようかどうか悩むぜ」


 パソコンでネトゲをやりながら、ヘルズは身を震わせる。学校に来たはいいが、どうしてもネトゲのイベントをやりたかったため、わざわざここでやっているのだ。


「チッ、また雑魚かよ。運営に隕石落ちないかな」


 そう毒づいた時、


「またネトゲかの? お主も飽きぬのう。下では皆が学業に励んでいると言うのに、お主はなんなのだろうな」


 後ろから声をかけられた。ヘルズは振り返る。


「遅いぞ、何分待たせる気だよ」


 そこには、妙齢の美しい女性が立っていた。美人と言っても、ニノ宮もは別の次元の可愛さだ。身長はスラッと高く、全身黒のフリルワンピース。モデルをやっていてもおかしくないようなルックスと言える。


「遅い? お主にだけは言われたくないのう。つい先日、2時間遅れで来たお主にだけはな」


 女性が不満そうに口を尖らせる。


 藤方綾峰ふじかたあやみね


 この学校の3年古文担当にして、副業でアニメのイラストレーターもやっているという、天才的な美人だ。しかしイラストレーターとしての仕事が多忙な故、学校にはほとんど来ていない。


 ーーー今更なのだが、この教師が新学期早々家にこもってしまった関係で、3年生の古文は毎回自習だった。



 他にも、第四期暗殺者次席という肩書きもあるが、そんな事はどうでもいい。一番大事なのはイラストレーターだ。暗殺者次席が目の前に居ようがヘルズは死なないが、イラストレーターの精度が落ちればそれは自殺ものだからだ。うん、イラストレーター万歳。


「まあいいか。久しぶりだな、藤方。いつ見ても変わらねえな」


「当たり前の事を申すでないぞヘルズよ。妾はまだ26じゃ」


 そう言った綾峰の言葉を、ヘルズは一笑に付す。


「オイオイ、冗談はよせよ婆さん。1022歳の間違いだろ」


「4桁は越えていないと思うがの。どころか3桁も過ぎておらんぞ。せいぜい70歳かそこらじゃ」


 見た目20代前半の美人が、凄まじい発言をした。とはいえ、ヘルズは別に驚かない。


「便利だな、お前の能力」


 『細胞強化プロジェクト』


 人間の体に動物の細胞を加えることで、人間に動物の能力を付与する違法な人体実験だ。そして、ヘルズと綾峰が被験者になった実験でもある。


 その実験により、ヘルズは人外の力『人工吸血鬼コード・ヴァンパイア』を手に入れた。そして綾峰はーーー


「体内で死んだ細胞を何度でも蘇らせ、体の中の細胞を半永久的に同じ状態に保つ、『不老不死』。俺には劣るものの、なかなか強力な力だよな」


 綾峰は苦笑を漏らす。


「複数の動物の細胞を掛け合わせて産み出された、想像上の怪物の細胞をその身に宿している男に言われると、説得力が違うのう」


人工吸血鬼コード・ヴァンパイア』ヘルズ・グラン・モードロッサ・ブラッディ・クリムゾン・ライトニング。


『不老不死』藤方綾峰。


 どちらも『最強の犯罪者』の元で技術を学んだ者であり、違法の実験に手を染めた、人外の存在だ。


「オイオイ、それ1つで俺を表してるんじゃねえよ。人外の細胞? そんな物、俺の武器の1つでしかねえよ。いいか、それを含めて俺なんだ。たかが能力1つで、俺という人間を知ったと思ってんじゃねえよ」


 ヘルズがどこか拗ねたように言う。そんな彼を静かに見て、綾峰は懐から袋を取り出した。


「ほれ、輸血パックじゃ。お主、最近血を飲んでいないのじゃろ? それではいつ回復限界が来るか分からん。一応飲んでおけ」


「いつも悪いな」


 一言謝辞を述べてから、輸血パックを開ける。そして、中身を一気に飲み干した。


 瞬間、体が火照る。全身に力がみなぎり、目の奥が熱くなる。肉の焦げるような音とともに、朝切った人指し指の傷が回復していく。


「指を怪我しておったのか。どうして治さなかった」


 綾峰の咎めるような言葉に、ヘルズは反論する。


「無茶言うなよ。この回復は任意で発動できる物じゃねえ。それに、この能力は致命傷から順番に回復していくから、指の怪我くらいじゃ発動しないんだよ」


 ヘルズの『人工吸血鬼』は、一見すると強いように見えるが、いくつか弱点が存在する。それは今のような『致命傷から回復するため、細かな傷は回復しづらい』というような細かい物から、致命傷に関わる大きな弱点まで様々だ。


 どんなに強い能力にも、弱点があるのだ。



「それはそうとお主、朝会に出なくていいのかえ? 今日は確か、お主の仲間がノーベル賞を取ったとか言うので表彰されているはずだが?」


「ニノ宮が賞を取るなんて日常茶飯事だ。そんな物にいちいち立ち会ってたら、引きこもりの名が泣くぜ」


 堂々と、最悪な事を述べるヘルズ。


「それに、どうせ俺が引きこもっても、北見方が何とかしてくれるしな」


 北見方修吾。


 この学校の生徒会長にして、暗殺組織『血まみれの指』のリーダーだ。


 2週間前、ヘルズは北見方率いる『血まみれの指』と戦った。そして数回の死闘を繰り広げた後、ヘルズ達は勝利した。そしてその際に、ヘルズは北見方をあえて生かした。


 自分の引きこもりを、黙認してもらうために。


 だから、きっと今回も何とかしてくれるだろう。真面目な北見方の事だ。命を救ってもらった恩はきちんと返すはずーーー



「ああ、北見方なら現在休学中じゃぞ?」



 淡い期待が、ガラスのようにくだけ散った。

 




次回は10月28日更新予定です。

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