プロローグ
今回から5章開始!
今回は少し短いです。
8歳の時、初めて両親から暴力を受けた。
ほんの僅かな意見の対立だった。今ではなんだったか覚えていないほどに、些細な話題だ。
なのに殴られた。
うるさいと言われ殴られ、黙って言うことを聞けと蹴られた。
痛かった。だがその日の夜に両親が謝ってきたので、一時の気の迷いだと思い許した。
その後、数年は何もなかった。次に親から暴力を受けたのは、最初に暴力を受けてから7年後だった。
突然、父親に殴られた。何でも社長から長々と説教を聞かされてイライラしていたようだ。母親に助けを求めようとするも、母親はそんな彼女を見て、冷酷な笑みを浮かべていた。今度は謝罪の言葉は、一切無かった。
『お前の顔など見たくない』
そう言われ、部屋に閉じ込められた。世間体を気にしてか学校には行かせてくれたが、それ以外の外出は基本駄目。トイレにも行かせてもらえなかった。
ただ、2日に1回ほどのペースで扉が開き、親が入ってきた。もちろん暴力を振るうためだ。親は散々暴力を振るった後、満足そうな笑みで部屋を後にした。
そんな生活が、ずっと続いた。
「どうして、私がこんな目に・・・」
部屋に閉じ込められてから、もう何日経ったか分からない。食事として焦げたパンとミネラルウォーターが置かれているため餓死する事はないが、焦げたパンは苦くて食べられた物ではない。
「どうして、私がーーー」
果たして、自分が何かしたのだろうか。こんなに痛い思いをしなければならないほど、自分は彼らにとって何か不利益を被るような事をしたのだろうか。
「・・・痛い」
体のあちこちには擦り傷、打撲、ミミズ腫れ・・・・etc. 数えきれない程の傷が刻まれていた。だが服を着れば見えない場所に集中しているため、他の人に見つかる可能性は低い。
「もう、嫌だ」
部屋の隅にうずくまり、呟く。友達や先生には頼れない。父親はあれでも、大手企業の副社長だ。父親が圧力を掛ければ、ある程度はどうにでもなる。自分が頼ったばかりに友達に被害が行くのは、避けねばならない。
「もうこんなの、嫌だ」
今度は叫ぶように言う。涙が流れ、頬を伝うのを感じる。だがそれを拭う気力も沸かない。
「もうこうなったら、死ぬしか・・・」
手に持っていたカッターの刃を、自分の喉に当てる。後はこれを引けば完了だ。もし仮にすぐに死ななくても、出血多量でいずれ死ぬだろう。
「さよなら・・・皆」
『まあ、待ちなよ』
突如、どこからか声が聞こえ、飛び上がる。心臓が止まるかと思った。
「だ、誰⁉」
その質問に『声』は、何が面白いのかケタケタと笑った。
『「誰」ねえ。面白いことを聞くんだね。私は貴女よ』
「・・・・・」
驚きで声が出ない。すると視界に一瞬ノイズのような物が走った。それと連動するように、声が聞こえてくる。
『ねえ、どうして抵抗しようとしないの? どうして戦おうとしないの?』
「何の、事?」
『貴女が一番よく分かっているでしょう? その体の傷を見て。それは、どうして付いたの?』
先程よりも若干鮮明な『声』が、頭の中に聞こえてくる。
『ねえ、どうして抵抗しようとしないの? どうして戦おうとしないの?』
『声』が、再び同じ質問を繰り返してくる。だが答えは分かりきっている。
「駄目だよ、そんなの。大体あの人たちはあれでも私を養ってくれてるんだしーーー」
『これが「養っている」なの? 私にはそうは見えないけど』
『声』が不思議そうに聞いてくる。
『そもそも、父親だから何? イライラして子供に八つ当たりをするような人間を、貴女は父親だなんて呼んで愛せるの?』
『声』が少し苛ついた口調で聞いてくる。どんどん感情的になっている。何だろう、これは。
「でも、無理よ。あっちは大人、こっちは子供。それにお父さんは昔空手をやっていたから、力では絶対に勝てない」
自分の左腕に目を落とす。そこには、つい3日前に父親からくらった正拳突きの痣が、くっきりと残っている。今でも、さわると痛いくらいだ。
『力で勝てないから諦めるの? 貴女はそれでいいの? いつまでも、親から暴力を受け続けてていいの?』
「でもーーー」
『いいから質問に答えてよ。貴女はこのままでいいの? それとも嫌なの?』
『声』が催促してくる。そこには、純粋な疑問があった。
ーーーこの人になら、悩みをぶつけられるかもしれない。
どうせただの『声』なのだ。ならば迷惑はかからないだろう。下の階に居る両親に聞こえないように細心の注意を払いつつ、叫ぶ。
「もうこれ以上、痛いのは嫌!」
すると、『声』から刺々しいオーラが消え、柔らかいオーラに変わったのを肌で感じた。
『そう、分かった。貴女はもう暴力を振るわれるのは嫌だ。けれども父親には勝てないからその願いは叶わない』
『声』が、確認するように言ってくる。自然と、首を縦に振っていた。すると、『声』が優しい声色で続ける。
『でもね、もう大丈夫』
瞬間、虚空から人型の何かが現れた。暗い部屋だからか、それとも元々黒いのか、それは全身真っ黒で、かろうじて輪郭が把握できる程度だった。
「⁉」
驚いて叫ぼうとした口を、影のような手で塞がれる。その手は人肌の感触はないものの、わずかな温もりがあった。
『私が、力を貸してあげる』
黒い何かにそう言われ、何故か不思議と安心感を感じていた。
それから、1年。
『声』は、一度も現れなかった。
そして、虐待を受けていた少女を救ったのは『声』でも『黒い人』でもなく、
自らを『堕天使』と称した、1人の怪盗だった。
『こちらX-01.武器の準備が出来た。どうぞ』
『こちらX-02.了解。こちらも移動手段が用意出来次第そちらに合流する。どうぞ』
『点呼は取ったか? どうぞ』
『既に取った。全員居ることが確認済みだ。後は仲間がアシを持ってくるのを待つだけとなっている。どうぞ』
『懸念されていた「最強の犯罪者」の妨害は? どうぞ』
『ない模様だ。それどころか、その懐刀の組織「名も無き調査団」も、この件に関してはノータッチらしい。随分と無用心だが、何にせよ我々は任務を遂行するのみ。どうぞ』
『そうか。それは何よりだ。どうぞ』
『今回の作戦は大変だ。くれぐれも失敗しないように。どうぞ』
『分かっている。では15分後にこちらに来い。ああ、研究所から奪った例の薬も持って来いよ。相手はかなりの凄腕だ。あの薬を使わなければならない恐れは充分にある。どうぞ』
『了解。では検討を祈る』
そこで、無線は途切れた。
次回は10月23日更新予定です。




