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世間を騒がせる天才怪盗は、二次元廃人でした。  作者: 桐原聖
根暗な少年の怠惰な青春黙示録
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自分の力の幾つかは本来隠しておくべき物であり、敵にも味方にもその存在を教えない事こそが正しい判断だ。

 職員室を出ると、俺はすぐにイーデアリスのクラスへと向かった。俺が職員室に行ってから15分が経っている。いくら長いホームルームでも、流石に終わっているだろう。


「おいイーデアリス、そろそろ帰るぞ・・・・」


 と、そこで。


 俺は異様な光景を目にした。


 イーデアリスが一人の女子に顔を掴まれ、中に吊られている。その様子を他の女子がハラハラした表情で見ていた。


「ねえ、そろそろ辞めたほうが・・・」


「鞄の中全部探してもなかったんだし、やっぱりこいつじゃないんじゃーーー」


 そんな取り巻きの及び腰な言葉を、ボスの女子が一喝する。


「うるさい! 修学旅行費を盗んだ犯人、こいつに決まってんだろ! 偉そうだし、いつも一人だし! 悪い奴を絞めて何が悪いんだよ!」


 ただの八つ当たりだった。

 

 その時、ボスの女子が振り返った。


「おい、彼氏のご登場だぜ、お姫様」


 ボスの女子が、俺を見てせせら笑う。


「でもお似合い同士だよな、お前ら。陰キャラとお嬢様、マジでお似合いじゃん!」


 ボスの女子の言葉に、俺は特になにも感じない。お似合いかどうかは別として、事実だからだ。俺は陰キャラの自覚がある。ならば、そう呼ばれても仕方がない。


「ほら、お前もそう思うだろ、え⁉」


 ボスの女子が、イーデアリスの顔を掴む手に力を込める。メリメリ、という嫌な音が立ち、聞いているこちらまで不安になる。取り巻きの奴らも、今の音を聞いて若干引いている。


「痛いか⁉ 痛いかおい⁉ 何か言ったらどうなんだよ⁉」


 これは完全にいじめだ。もし俺が善人なら、止めるべきなのだろう。だがあいにく俺は事なかれ主義の、善良な一般市民だ。これを止める力もなければ勇気もない。よって、俺はこのいじめを止めることはない。


「そうだ、お前援交やれよ。テメエが盗んだ修学旅行費、全額返すまで帰さねえからな」


 ここまで来ても、俺に止める気は更々ない。悪いが俺はどこぞの厨二病怪盗とは違い、自分から進んで厄介事に飛び込んでいく趣味はない。


「ほら、彼氏の前でご自慢の顔を潰されてる気分はどうだ? ほら彼氏、何か感想言ってやれよ!」


 ・・・彼氏、彼氏ってうるさいな、こいつ。







 ウザいな。


 





 瞬間、イーデアリスの顔を掴んでいたボスの女子がぶっ飛んだ。比喩はない。ただ真っ直ぐ、飛んでいったのだ。そいつは壁までぶっ飛ぶと、読んで字のごとく壁にめり込んだ。


 驚いたのは周りの女子達だ。


「な、何よ今の・・・・」


「天罰⁉ 神の呪い⁉」


「ヤバくない、これ⁉」


 ・・・やっちまった。


 まあいい。取り巻き達は天罰だの神の呪いだのと思っている。ならば、そう思わせておけばいい。


「ねえ、これヤバくない? 先生呼んだ方がいいんじゃ・・・・」


「馬鹿、どう説明するのよ。良子ちゃんがレイチェルをいじめてたら急に壁に吹き飛びましたなんて言って先生が信じると思う⁉」


 無理だろう。というか、あのボスの女子の名前は良子だったらしい。名前と性格は一致していないといういい例だった。


「もう用は済んだかしら。連れが来たから私はもう帰るわね」


 おろおろする取り巻きを尻目に、イーデアリスは鞄を持つと教室を出た。そして、俺に言う。


「行くわよ、倉根くん。ここに居ても犠牲者が増えるだけだわ」


「そうだな」


 その通りだ。ここに居ると、俺まで気分が悪くなる。


 俺達は教室を後にした。







「今日は来るのが遅かったわね。何をしていたの?」


「ちょっとな。テストについて怒られてた」


 すると、イーデアリスは不思議そうな顔をした。


「貴方って確か全教科70点のはずでしょう? 怒られる要素なんてあったかしら?」


「もっと取れるだろって怒られた」


 これだけ聞くと凄い会話だが、事実である。


「それは凄いわね。まあでも、全教科を70点で揃えたら疑われるのも無理もないわね」


 そう言う物か?


「そんな事より」


 イーデアリスが唐突に言う。それと同時に、俺達の間にわずかに流れていた穏やかな雰囲気が消える。


「貴方、さっき何をしたの?」


「・・・・なんの話だ?」


 俺はあえてすっとぼける。


「とぼけても無駄よ。さっきクラスの女子が壁に激突したの、貴方がやったんでしょ」


「クラスの女子の名前くらい、覚えたらどうなんだ?」


「話をそらさないで。それより、あれをやったのは貴方なの?」


 俺は頭を掻いた。こいつ面倒くさいな。


「一介の音使いの俺に、そんな事出来るわけないだろ。お前がやったんじゃないのか?」


 すると、イーデアリスは首を振る。


「私の能力の欠点、知ってるでしょ。私の能力は人間を操れない。だからあんな芸当は無理。となれば、貴方しかいないでしょう。いったい何をしたの?」


 イーデアリスの目が『陰キャラを見る目』から『相手を見定める目』に変わっている。・・・見定めるほどの実力なんてないのに。


「さあな。俺もよく分からないな」


 瞬間、俺の真横を弾丸が掠める。どうやら脅しのつもりのようだ。


「それ以上とぼけたら、命の保証はないわよ」


 相変わらず女王様のような口調のイーデアリス。だが、俺はあえて無視する。放っておいても問題ない。それに、さっきのアレについてイーデアリスに話した所で、俺にメリットはない。


「ちょっと倉根くん」


 イーデアリスが俺を呼ぶが、俺はもう答えない。そのまま無視して、足早に歩いていく。イーデアリスは追いかけようとして途中で辞めたのか、途中で足音が途絶える。


 ・・・・やれやれ。


 面倒な事になった。






「おい倉根。ちょっといいか」


 次の日の放課後、俺はまた学年主任に呼ばれた。逆らっても無駄だと言うことはよく知っているので、素直に頷いて職員室へと連行される。


「で、今日は何の用でしょうか?」


 俺は出来るだけ丁寧に聞く。学年主任は頭を掻くと、躊躇いがちに俺の顔を見た。


「昨日隣のクラスの女子から聞いたんだが、お前昨日、笹原を壁に叩きつけたって本当か?」


 良子の名字は笹原だったらしい。笹原良子。うん、一見すると悪い奴には見えない名前だ。


 ・・・で、何だっけ?


 ああそうだ、俺が隣のクラスの女子に暴力を振るった(という噂)事についてだった。


「壁に叩きつけた? 事実無根ですね。そんな噂、どこから流れたんですか?」


 ・・・正確には、壁に叩きつけたのではなく、壁にめり込ませたので、一応事実ではない。


「だが、レイチェルもそう言っているくらいだしな・・・」


 イーデアリス、どんだけ教師からの評価高いんだよ。

 というか普通に俺を売ったな。


「レイチェルさんがどんな人物かは知りませんが、嘘を平然と付けるという事は、ろくな奴じゃありませんね。きっと影で教師を騙してほくそ笑んでいるのでしょう」


 よって俺は、イーデアリスの評価を下げることにした。俺を売った恨み、きっちり晴らさせてもらう。


「いや、でもレイチェルはそんな奴じゃない・・・」


「とにかく、俺がやったという証拠がないなら、俺を犯人扱いするのを辞めてください。はっきり言って迷惑です。では」


 俺はそう言うと、職員室を出た。それと同時に、携帯が振動する。 


「もしもし」


『こちら嵯峨村。まずいことになった。すぐに本部に戻ってきてくれ』


 受話器から嵯峨村の焦った声が聞こえる。どうやら厨二病の奴から見てもヤバい内容らしい。面倒くさい限りだ。


「・・・面倒くさ」


 俺は一言呟くと、まず教室に向かった。ロッカーの中にしまっておかなくてはならない物がある。











「で、何が大変なんだ?」


 俺は本部に着くなり、嵯峨村に聞いた。すると、嵯峨村は無言で前を指差した。それを見て、俺も納得する。


「ああ、なるほどな」


 そこには明らかに敵意のオーラをむき出しにして向かい合っている、イーデアリスと向井原の姿があった。


「リットンが情報収集のために出掛けた途端これだ。倉根、なんとかしてくれ」


 嵯峨村が焦る理由もわかる。イーデアリスと向井原は、『名も無き調査団』の中でもトップクラスの戦闘力を持つ2人だ。もし両者がぶつかれば、俺達の身も危ないだろう。


「まあいいか。俺は《空間断裂》で生き残れるし」


「俺は⁉」


 嵯峨村が叫ぶが、無視。自分の身くらい自分で守れ。


「今日という今日は許さないぞ、イーデアリス」


「あら。猿が何かほざいているわね。倉根くん、翻訳できるかしら」


 イーデアリスが俺の方を向いて聞く。それを見て、向井原がぶちギレる。


「テメエ、ふざけんじゃねえぞ!」


「あら、ふざけてなどいないわ、事実よ」


 こうして、戦いの火蓋は切って落とされた。

次回は10月14日更新予定です。

次回イーデアリスvs向井原!

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